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序章 在る村の出来事 (『テンセイ』編)

『失った』

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「…………ん、あ……」

 目が覚めると……森の中で僕は倒れていた。


 太陽が出てないので夜なのか……? というか何でここで倒れているんだ…………


(思い出せ………)


「……! そうか……僕は、ゴブリンに………」

 ……確か村が襲われ、お父さんに『逃げろ』と言われて逃げて、追いかけてきたゴブリンを魔法で撃退したんだ。

「……ぐっ……でも、動ける……」

 ゴブリンに受けた脇腹の傷から流れていた血も、今は固まって止まっているようだ。魔力もだいぶ回復して、疲れは残っていて頭もクラクラするが………足は動く。


(村の火も消えているようだし、早く戻らないと………)




「お母さん、お父さん…………!」













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「そ、そん、な………!」

 僕が村に着いた時、目に映ったのは………最悪だった。

 村はボロボロで家は焼き焦げ、畑は何も残っていない。そして…………村には誰もいなかった。

 



 死体も、何も。


「だ、誰か…………!!」


 村の中を走り回りながら僕は叫ぶが、何も返ってこない。僕は半ば放心状態で自分の家の中に入った。


(い……家、が…………)

 家は焦げた後などで半壊しており、中に入るとテーブルやイスが転がり…………灰となっていた。



 吹いてくる隙間風を受けながら2階へと上がっていき、部屋を覗いていく………覗くと呼べるほどの隙間じゃないけど。

「……………」

 ……やはり、2階の部屋にも2人はいない。

「いや………だ………」

 胸が痛いほど締め付けられるが、構わず僕はお父さんの部屋に入った。お父さんの部屋はとそこまで焼けておらず、ある程度の物は残っていたが………


「……い、ない…………」

 混乱と疲れ、悲観…………色んな物が溢れそうになりながらも、無理やり身体を働かせて漁っていると………


「……ホ、ん…………?」

 お父さんの机……その上に、何やら本と紙が置いてあった。
 僕はまず、上に乗ってあった紙を確認する。



(……『ウルスへ』……? いや、これは……この文字は………!!)



「お父さん………お父さんの字だぁ……!!」



 空回りしている自覚を持ちながらも、僕は紙に書いてある文字を読んでみた。





『ウルスへ

 ウルス、すまない。村のみんなもハルカも俺もここまでみたいだ。ウルスにはまだまだ教えることがあったんだがな。

 この本を置いておく。これは俺の魔法、龍神流の魔法が書いてある。これを使って強くなれよ。
 ゴブリンたちもここまできている。ここら辺で示させてもらうよ。



 ウルス。



 俺が死んでも強く、逞しく成長してくれ。
                                            
  お前の父、ハルラルスより』



 





「………嘘、だ……」


 涙が、紙を濡らす。


「……お父さんが……お母さん、が………死ぬ、なんて……嘘……うそ…………ウソ………!!」



 ……なんで。




 なんで、こんなことに。





(僕は、僕、ハ…………!!!!)









「あ、頭が、痛い………痛、イィ……!!?」



 刹那、頭が焼き切れような感覚に陥る。


(なにカ、何かガ入って、くる……いや、思イ、出す、記憶が、な、ン、だ……………)


 何、だ…………!?
















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 【俺は友達がいなかった。




 学校でも一人でいた。いじめをうけていたわけでもなかったが、それはそれで少し寂しかったりもした。




 でも、不満はなかった。




 母さんと父さんがいたから。

 



 
勉強しかやることがなかったが、それでもお母さんと父さんと過ごす日々は楽しかった。




 けどある日、俺はいつものように学校から家に帰った時、不自然にドアが開いていた。
 中に入ると、倒れている母さん父さんがおり、そして…見知らぬ男がいた。


『に……げ…………ろ……………』
『…………………ェ?』


 お父さんの、そんな事切こときれそうな声と血だらけの玄関に体は動かせず…………ただ、棒立ちしていた。




『だ……だれ………??』

 



 そう口にした時には…………既に、俺の腹には包丁が深く刺さっていた。



『グ……がァっ!!???』


 現状の理解が全く追いつかないまま、俺は痛みに流されるようにその場へと倒れ込んだ。


(な……ん…………で…………)



 倒れた訳も、血に濡れた体の理由も…………これから死ぬ意味も解ろうとせず、俺は必死に顔を上げた。





『…………っ………!?』











 その男は、笑っていた。】














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 記憶は、そこで終わった。





「この、記憶は………」

 

 ……これは、夢……?

 

(…………いや違う、知っている、なんだ、なんなんだ、だれなんだ、ぼくは……!?)

 途切れとぎれに、頭の中にきおくが入ってくる。


(これは……かこの記憶? ぜんせ?……なら、ぼくは………?)



 頭はじょうはつしそうなほどに熱くなっており、僕はまたたおれてしまった。




「………そうか、また、失ったのか……」







 でも、もうぼくには……













 …………、なにもできない。





(……………)




 俺はまた、意識を失った。





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