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序章 在る村の出来事 (『テンセイ』編)

二話 頑張れ

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(…………もう夕方だ。)

 お父さんに魔法を教えてもらうようになって1週間が経ち、今日は教えてもらった風の魔法の練習を近くの森でやっていた。

「ラナは楽しんでるかなぁ………」

 ちなみにラナは家族で出かけることになったらしく、昨日から3日間かけて少し大きい町に行った。
 僕たちの小さな村とは違って、広い町なのだろう。別に今の村が嫌なわけじゃないけれど……やっぱりそういうのには憧れちゃうものだ。

(……ちょっと寂しいな…………)

 ラナとは毎日一緒に遊んでいたので少し寂しいけど……行っちゃったのだから仕方ない。また帰ってきたときにたくさん遊べばいいだけだ。

「……『青嵐あおあらし』」


 寂しさを紛らわすように僕は初級魔法・青嵐を発動し、小さな風を起こして草木を揺らした。

 お父さんにはこの魔法の他に風の魔法や火と水の魔法を1つずつ、そして相手のステータスを遠くから調べれる魔法を教えてもらった。
 それらの魔法は簡単なもので、すぐに完成することができたが……………

「うーん………どうすればいいのかな…………」

 1つだけ、全くできない魔法があった。
 それは以前お父さんが言っていた特別な魔法で、イメージ自体はそこそこ出来ていたが肝心のコントロールやタイミングなどが全く噛み合わず、まだ一度も上手くいった試しがなかった。

 お父さんの魔法は魔法のレベルに関係なく使えるらしいけど……どうして使えないんだろう。

「………今日はこれくらいにしとこう。」

 あまり魔法を使い過ぎると疲れたり倒れたりすると言っていた。日も暮れてきたし、そろそろお母さんとお父さんに心配されそうだ。

 そう思い村の方へ向き歩き出そうとする。




(……………? なんか、寒気が………??)






 だが…………その時。







「……っ!? ば、爆発……!!?」


 瞬間、村があるところから大きな爆発音が響き……それと同時にそこらから煙が上がり始めた。



 
(………何か嫌な予感がする、急いで戻らないと!!)













ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
















「な、なんだ……これ……!!?」

 急いで戻ってみるとそこは………村は、炎に包まれていた。

「……!? 何の声……?」

 遠くから声が聞こえる、村の人では無い気味の悪い声が聞こえるけど…………まさかっ!

「やっちまえゴブリンども、村を潰すんだっ!!」
「ゴ、ゴブリン……!?」

 聞こえてくる声の主の方へ向くと、その嫌な予感は的中してしまった。

「ギ、ギィアァガッ!!!」
「ひっ……!?」

 そんな不快な笑い声と共に、遠くにはゴブリンが何やら松明のような物を持って辺り一体に火を放ったり、物を破壊し回っていた。

(な、なんで村に魔物が……ここら辺に魔物なんて居ないはずなのに……!!?)

 ゴブリンの存在、そして何故かそのゴブリンたちを従える声。それらの状況に一切頭はついて来れず、僕は恐怖で思考が停止してしまった。

「ど、どうすれば……!?」
「グヒィ?」


 迷いを口にした瞬間…………奴らの目はこちらに向いた。


「ギ、ウギギィッ!!!」
「うっ……こ、こっちに………!??」

 ゴブリンたちは僕を見るとまるで新しいおもちゃを見つけたかのように卑しく笑い、一斉にこちらに走り出してきた。

(……やばい…取り敢えず逃げないと……でも、村の人たちが………!!)

 混乱した頭であれこれと躊躇していると……いつの間にかゴブリンたちがもう目の前にまで来ていた。

「ギャガァ!!」
「う、うわぁっ……来るなっ!!」

 ゴブリンは腰に付けていた剣を引き抜き、僕へと振りかざそうとしてくる。堪らず僕は逃げようと考えるが体がついて来ず、その場に尻餅をついてしまう。
 
「あ、あぁ……!!」


(や、やられっ……………!!)








「おらぁっ!!!!」
「ギャハァッ!!?」

 その時、不意に現れた影がゴブリンたちを薙ぎ払った。その影は……………


「お………お父さん……!!」
「大丈夫か、ウルス!!」

 その正体は、体のあちこちに返り血を浴びていたお父さんだった。そんな姿を見て僕は心配をかける。

「だっ……大丈夫なのお父さん!?」
「ああ…………この剣を使ってなんとか。」

 そう言って、お父さんは手に持っている剣をチラつかせる。その剣はゴブリンたちを斬ってきたからなのか、が真っ赤に染まってしまっていた。
 僕は村に何が起こったのかお父さんに聞き出す。

「ど、どうなってるの……これ……なんで村が……?」
「………どうやら『盗賊』魔物を引き連れて襲って来たんだ……ウルス、お前は逃げてくれ。」
「え……でもお父さん、体が血だらけだよ! そんな体じゃ……!!」

 見た通り、お父さんの体は血に傷だらけだった。息も切れていて相当無理をしているのだろう。



 しかし………お父さんは、僕の背中を無理矢理押した。


「いいから早く逃げろ! 俺は強い……それは知ってるだろ!!」
「で、でも………!!」
「大丈夫だ、俺は母さんも連れて必ず生き残る…………行けっ!!!」
「っ…………!!!」

 その強い言葉に、僕は全てを飲み込み………走り出した。



(………お父さんは大丈夫だ。も使えるんだし、負けるはずない……!!)


 希望的観測と分かりながらも必死に足を動かして、僕は村を出た。













「………ウルス、頑張れよ。」













 最に、そう聞こえた気がした。






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