57 / 82
四度目の世界
56.
しおりを挟む熱い。
重たいキスだった。
獣に喰われるというのはまさにこのことなのだろう。強引に唇をこじ開けられ、舌を絡め取られる。
逃げようと思ってもできない。彼の舌は執拗にセレスティナのそれを追い回し、捕らえ、押し付けられ、嬲られる。
貪るように腔内を弄られ、互いの唾液が混ざりあった。
結婚式の日、交わされなかった口づけが、このような形で実現するとは。
夢に見るような触れるだけの優しいものとは全然違う。激しくて、重たくて、鈍い。
セレスティナはただただ翻弄された。息継ぎすら許されず、そのままぐいっと押し倒される。
気がつけばベッドの上で組み敷かれていて、身動きが取れなくなっている。
「っ、ぁ! リカルド、様……っ」
ようやくわずかに唇が離され、彼の名を呼ぶ。しかし彼は止まることなく、再び強く唇を喰まれた。
くちゅくちゅと、あえて音を出すようにかき混ぜられ、その淫靡な響きにセレスティナの瞳が潤む。
(どうして、いきなり。リカルド様……っ)
先ほどまで、拒絶の言葉を投げかけられていたから余計に、わけが分からない。
彼の優しいところは見つけたつもりでいたけれど、好かれている自覚もなかった。なのにどうして、突然こんなキスをされるのか。
長い口づけのあと、ようやく唇が離される。
酸素が欲しくてはくはくと息をするも、まだまともに頭は働かない。
「どう、して……」
「〈糸の神〉にわざわざ囚われに来て、その言い様ですか? あなたは神話を学んだ方がいい」
「え…………」
「俺が。俺がどれほど、あなたを渇望していたかも知らずに……っ」
「あ、待って……!」
「待てるか!」
ブチブチブチッ、と胸元のボタンが引きちぎられる音がした。乱暴に襟ぐりを開かれると、日光を知らぬ白い肌が現れる。
一年かけて、ようやく一般的なサイズに戻った双丘がまろび出た。それを睨め付けながら、リカルドはほの暗い笑みを浮かべる。
「無防備にのこのこやってくるなんて、あまりにおめでたすぎませんか? 聡明だと聞いていましたが、男に関してあなたは無知すぎる。〈処女神〉セレスの加護を受けただけある」
「あ、あ……」
「俺が〈糸の神〉の加護を受けていたことを忘れていませんか?」
ぞくりとした。
渇望、と彼は言ったが、彼の瞳に宿る色彩はもっと深く、暗い。
底冷えするような黒。そして、はらりとこぼれ落ちた前髪の隙間から、隠れていた左眼が現れる。
深淵の黒の奥に、赤い閃光が灯った摩訶不思議な瞳に、セレスティナは目を奪われた。
「この血がね。呪いのような、この加護が。あなたを喰えとずっと言ってるんですよ。わかっていますか、俺の女神?」
「リカルド、様……?」
「俺は、一度捕らえたら離さない。そう言ってるんです……!」
がぶりと、今度は胸元を喰まれた。
ちくっとした痛みが走り、彼が強く胸元に吸いついたのだと理解する。
ひとつやふたつでは足りない。まるで、自身が所有者であることを刻みつけるようにいくつも印を落としていく。
さらに、圧倒的な力で彼はセレスティナのドレスを引き裂いていき、セレスティナの真っ白い肢体が露わになる。
それを見下ろしながら、リカルドはギラギラした目でセレスティナの双丘を嬲っていった。
柔らかな肉が形を変えるほどにぐにぐにと揉み拉き、その先端をつまみ上げる。
あっという間に、先端はぷくりと硬くなり、彼はあえてそれをころころと転がした。
「ぁ、ぁぁんっ! 待って、それは……っ」
「待つわけないでしょう」
強く揉み拉かれながら、乳首を甘噛みされる。ビリビリとした甘い刺激が走り、セレスティナの身体は跳ねた。
「清楚な方だと思っていたのですがね。こんなに淫らでしたか」
「ぁ、ぁ……だって」
今の刺激は何だったのだろう。
一瞬頭が真っ白になって、何も考えられなくなった。
でも、彼が淫らだというのは、あながち間違っていないのかもしれない。
身体の芯が熱い。疼くような鈍い感覚が満たされなくて、もっと、もっとと欲が膨らむこの感覚。彼に強引に嬲られ、喜んでいる自分を自覚したから。
戸惑って何も言い返せないでいると、リカルドは自嘲するように吐き出した。
「我慢したのに。あなたを不幸にしないと、決めたのに」
「え?」
「あなたのせいですよ」
ハッキリと言い切られ、セレスティナは目を見張った。
セレスティナを見下ろしながら、リカルドは己のコートを脱ぎ捨てる。
黒騎士と呼ばれる由縁の、真っ黒なコート。中のシャツの襟元も軽く緩め、やがてガチャガチャとベルトを外した。
彼がズボンの前側をくつろげると、ギンギンに反り返った怒張が顔を出す。血管がボコボコと浮いたその凶器。
禍々しいと呼べるほどのソレの姿に、セレスティナは言葉を失う。
だって、否が応でも、彼が何をしようとしているのか理解させられた。
待って、と止めようとするも、リカルドはすでにボロボロになっているセレスティナのドレスを捲り上げ、さらに下着を取り払う。
そのままセレスティナの股の間に身体を割り入れ、強引に彼女の膝を持ち上げた。
「可哀相に。〈糸の神〉に魅入られたばっかりに――」
今まで、誰にも暴かれることのなかったセレスティナの秘部が空気にさらされる。ヒヤッとしたその感覚にセレスティナは呻いた。
それを拒否だと思ったのか、リカルドは自嘲するように笑い、それでも強引に己の鋒をあてがった。
「――現実でも、こうして好きでもない男に一生囚われることになる」
「――――っ!?」
次の瞬間。
ドスン! という重い衝撃が全身を駆け抜けた。
10
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

あなたが残した世界で
天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。
八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。


三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる