平和に生き残りたいだけなんです

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四度目の世界

51.

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 龍鵬の発言でドキドキしっぱなしで気まずい空気が流れる中、控えめにドアがノックされた。すぐに少し扉が開いて、その隙間からひょっこりと透が顔を覗かせる。

「…透さん?」

 よし!と何かを確認したのか勢いよくドアが開かれ中に入ってくる。その後ろには桜丘もいた。

「やっほー、桜華ちゃん。中でイチャイチャしてたらどうしようかなって」
「イチャイチャって…」

 桜華は苦笑しながら龍鵬から少し遠ざかって座り直した。それにニヤニヤしながら透が向かい側のソファに座り、桜丘も透の隣に乱暴に座ると長い足を組んだ。

「で?なんだ?」

 ぶっきらぼうに桜丘は言うと、透がものすごいフルスイングで桜丘の腕を叩いた。

「っ…!?痛いだろ、なにすんだ!」
「ただでさえ怖ーいおっさんなんだから言い方には気をつけなよ!」
「歳考えねえでガキっぽい格好してるお前に言われたくねぇよ!」
「好きでしてるわけじゃないもん!」

 いきなりケンカを始める二人にオロオロしつつ、どういうことなのかと龍鵬を見つめると、面倒臭そうに龍鵬は大きな溜息をついた。

「ケンカじゃなく、桜華をみてほしくて呼んだんだが?」

 龍鵬が言うと、ぎゃあぎゃあ騒いでた二人がピタリと止まり、透が大きく頷いた。

「え?私?み…みるって何をです?」

 何がなんだかわかっていない桜華は不安そうに龍鵬の服の裾を少し掴んで聞いたが、龍鵬は困ったように眉間に皺を寄せて桜華を見つめるだけで何も答えてくれない。

「お前が過去に戻ったと聞いたんだ」

 桜丘が龍鵬のかわりに喋りはじめた。

「普通ならありえないんだよ。死んで生き返り、そしてまた死ぬまで。永遠に女神の力によって呪われているものだ」

 転移は時々起こる報告は聞いたことがあるが過去に戻る話は聞いたことがないとのことだった。

「あーくんの影響だったりしないの」
『その可能性はあるでしょうが…わかりません…』

 ぼそりと二人に聞こえないくらいの声で天津にも聞いてみたけど、煮え切らない返事が返ってきただけだった。

「桜華ちゃん、最近、夢を見るんでしょ?」
「はい」
「どんな夢か、教えてくれる?」
「え?あ…はい。葵が…あ、昔の幼馴染みなんですけど出てきたりするんです。他にもこの世界に来てから昔のことを色々…」

 透が唸りながら何かを考えている。

「それだけじゃなんとも言えないよね…。あ、そうだ!いいこと思いついた!」

 透がいきなり立ち上がったと思ったら、ゴソゴソとズボンや上着のポケットに手を突っ込んで何かを探し始めた。
 やがて目的のものを見つけたのだろう。透は手にしていたものを桜華の座る前のテーブルの上に小瓶を置いた。

「ねえ、桜華ちゃん」
「はい?」
「これ飲んでお昼寝しようか?」
「………はい?」

 何を言い出すんだという目で透を見たら、にっこにこの笑顔全開で小瓶を再び手にすると、キュポッといういい音がした。
 その動作を見つめていたら、いきなりガシッと顎を掴まれて上を向かせられる。

「ちょっ、」

 その手を払いのけようとしたら、いつの間にか桜丘が隣に移動してきて、龍鵬と二人で肩と腕を押さえられて身動きがとれなくて桜華は焦った。

「な、なに…ふがっ!…っごほっ!げほっ!」

 文句を言おうと口を開けた瞬間、小瓶の液体を流し込まれて盛大にむせた。
 涙目で咳をしながらも、桜華は三人を睨みつけた。

「飲み込めたかな!?」
「…っ!ごほっっ!」

 甘ったるい子供用の薬品みたいな味が口の中に広がっていて不快だ。
 これ絶対に原液で飲み込むものではないだろう。
 龍鵬が心配そうに咳き込む桜華の背中を優しく撫でる。

(あんたら…あとで覚えておきなさいよ…!!)

 喉が焼けるように熱く、急に頭と瞼が重くなったところで完全に桜華の意識が遠のいた。
 涙目で倒れてきた桜華を支えて、ソファーから落ちないようにと抱きかかえて龍鵬の膝の上に座らせた。

「おい、これ…大丈夫なのか…?」
「たぶん?」
「たぶんってお前!」
「今はそれより…」

 透は龍鵬の肩に手を置いて、もう片方の手は桜丘の肩にやる。

「桜華ちゃんの夢を覗きに行こう」

 透は笑顔でそう言うと、なにやら呪文のようなものを唱え始めた。
 言いたかったことが山ほどあるがグッと堪えて、龍鵬は桜華を抱きしめると、きつく目を閉じた。

 
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