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四度目の世界
48.
しおりを挟む結局、明け方まで寝かせてもらえず、正午近くに目が覚めたが、起き上がることが出来なかった。
「大丈夫か…?」
「たぶん」
そうは言ってみたものの、身体中がギシギシする。頭もなんだかぼんやりしたまま。
そんな様子の桜華に龍鵬は顔を青くさせながら土下座するんじゃないかという勢いで謝ってきて、桜華を風呂に入れて髪を乾かし、料理まで作ってくれた。龍鵬が作ってくれた料理は美味しかった。
「お前が大人になるまではと思ってたのに…」
「言ったじゃないですか。龍さんより私の方が年上なんですけど?」
「どこからどうみても子供だろ」
ずっとこんな感じで、溜息をついた。
食べ終わり、食器まで片付けようとしていた龍鵬を、さすがにとめて、桜華が食器を片付けた。
その間、龍鵬はベランダで煙草を吸いながらどこかに電話をしているようだった。長引いてるのか桜華が片付け終わっても戻ってこないので、ソファに座りながらその後ろ姿を見つめる。
「あの刑事さんかな」
険しい顔をしている。
相手が桜丘だと思うと、桃のこともあり、駅前の事件のことがバレるのではないかと心配になる。
喫茶店のアルバイトも明日からはじまるので、桜丘は常連だと言っていたし、顔をあわせることも多くなるのだろう。気をつけなければと桜華はスマホを握りしめた。
「メニュー」
目の前に透明な画面が表示された。
久しぶりに開くメニュー画面。
「私のスキル画面開ける?」
『可能です』
天津の声が聞こえてきて、表示されている画面が切り替わった。
基本スキル
魔力コントロール
体力&魔力回復上昇
魔法:水魔法、火魔法、光魔法
遠見、聞き耳、嗅覚、調合、魅了
何かが追加されたわけでもなく、特に前と変わらないようだ。
「あーくん。体力と魔力の回復上昇ってなに?」
『簡単に説明すれば他の人よりも回復が早いんです』
「じゃあ、魔法が沢山使えるってこと?」
『アナタの魔力量でいえば、負担の大きな魔法じゃない限りは魔力を気にせずに使えるかと』
なにそれすごい。
こういうチートっぽいのを待ってたんだよ!
「魔法教えてくれるって言ってたけど、練習場所とかあるの?」
前は森や草原などで練習した。今は建物だらけの場所なので、下手したらこの前のように部屋中が水浸しになってしまう恐れがある。屋内での練習は避けた方が良いだろう。
『座学と実技、どちらをお望みでしょうか?』
「座学かなあ。実技やる場所ないし」
『それでしたら暁聖夜が適任かと』
「え?店長さん?」
まさか聖夜の名前が出てくるとは思ってもなかったので、ぽかんとしながら聞き返してしまった。
『面接時、あの部屋の本棚には魔法書のようなものもありましたので頼むのがよろしいかと思われます』
「そっか、わかった。聞いてみるよ」
そういえばあの部屋の壁いっぱいに本が沢山あったことを思い出し桜華は素直に頷いた。
どうせ明日は店に行くのだから、情報が集まる場所でもあるし、自分にも情報や本を見せてもらうことができないか聖夜に聞いてみることにした。
桜華は立ち上がると窓の方へ行き、静かに窓を開けてベランダに出た。
龍鵬はまだ電話中のようで、イライラしながら三本目の煙草に火をつけようとしていたので、桜華は手を伸ばして龍鵬が口にしていた煙草をスポッと口から奪い取った。
「!?」
驚いた龍鵬は桜華を見るが、これ以上吸うなと睨んでいる桜華に苦笑をしながら煙草とライターをポケットにいれる。
『勝手な行動は起こすなよ』
「わかってるって言ってるだろ」
小言を言われているようだ。邪魔そうに前髪をかきあげながら面倒そうな返事をしている。
桜華は聞くつもりはないのに、天津が使用したのか聞き耳のスキルで電話の相手の声の音まで拾ってしまっている。心の中で天津に余計なことをするなと思った。
盗み聞きをしているようで落ち着かず、桜華は龍鵬に抱き着いた。龍鵬は一瞬固まりはしたが、嫌がらずに桜華の背中をぽんぽんと優しく叩きながら会話を続ける。
「そいつ使って居場所を調べて教えろよ」
『兄の方も調べるか?』
「しのぶの知り合いらしいが…一応、調べた方がいいだろう」
『知ったら怒るんじゃないか?』
「グレーのままよりはマシだろ。しのぶには話すなよ」
話の流れで北野の話をしているんだとわかった。
もしかしたら葵と連絡を取り合ってるかもしれないし、調べる方がいいんだろうなとは思うけど、自分の知ってる限りでは葵は兄弟仲良しという関係ではなかった。
そもそも、一度目と二度目で葵と兄弟だったからといって、今回も自分が知っている葵の兄とは限らない。数回見かけただけだし、違う人ということも考えられる。
『わかったら聖夜に渡しておく』
「あぁ。よろしくな」
電話を切ると、思い切り桜華を抱きしめてきた。
とても苦しい。
「どうした?」
「煙草ばっかり吸ってたから没収しにきただけです」
「まだ三本目だろ」
「もう、の間違いじゃ…?」
普段どれだけ吸っているのだろう。
抱きついた時も煙草の臭いはしないから吸っているとは思わなかった。
龍鵬は桜華を抱き上げた。
サンダルをぬぐよう視線で指示されたので、ポトっとサンダルを下へ落としてぬいだ。
部屋の中に戻り、桜華は抱き上げられたまま窓を閉めると、龍鵬はソファへと座って桜華を離さずにそのまま自分の膝の間に座らせた。
「行かなくてもいいんですか?」
「呼び出されたわけじゃないからな。お前は?」
「明日からバイトなので、今日は買い物くらいですかね」
もう昼を過ぎているし、今から何処かに出かける元気もない。あとは冷蔵庫の中身がなくなってきたので色々と買い足さなければならない。
「俺が行ってこようか?」
「ううん」
昨日のことで気を遣いすぎだ。大丈夫だというのにご飯まで作ってもらってしまった。おつかいまで頼むのは気が引けた。
「なら一緒に行ってやる」
荷物を持つくらいはしてやるからと、ぎゅうぎゅうと抱きついてくる。大型犬にじゃれつかれているようだ。こんなに自分より大きな男の人なのに可愛いと思ってしまうのだから不思議なものだ。
「ありがとうございます」
にっこり笑いながらお礼を言って、桜華も首に腕を回して龍鵬に抱きついた。
好きと言われたことが嬉しいのだけども、あの夢のせいで喜びが半減している。あのサイコパス野郎のせいだ。
桜華は夢のことを思い出してしまい、腹が立って目の前の龍鵬の首筋にがぶりと大きな口をひらいて噛み付いた。
「お前は犬か」
「ふがうにがううんい」
「なんて言ってるかわかんねぇよ」
「龍さんに言われたくない」
大型犬みたいなくせに。
それにしても、なんであの夢がこんなに気になるんだろう…?あんな事を言われたからだろうか。
「ねえ。龍さんは葵を見つけたら、どうするんですか?」
「なんだ突然」
「あの刑事さんと協力して探してるんでしょう?」
「そうだな。刑事にも目ぇつけられてるくらいだから捕まえなきゃだろ」
前に書類を見た時に問題をいろいろと起こしてるようなことが書かれていた気がする。
「まあ、その前に俺がぶん殴るけどな」
龍鵬らしいなと桜華は笑った。
「俺の手で、とは思うが…犯罪者にはなりたくないからな」
「犯罪者?」
「捕まっちまったら、お前に会えなくなるし」
「よ…よく平気でそういう恥ずかしいこと言えますね!」
「本当だな。これ以上、らしくねぇこと言う前に買い物行くか」
立ち上がる時に、ちらりと見た龍鵬は耳まで真っ赤だった。やっぱり可愛らしい人だ。
葵に会いたいとは思わない。だけど龍鵬が探している人だ。リヒトの街をめちゃくちゃにしたやつだ。許せない。
(私も…葵なんか、ぐっちゃぐちゃのぎったんぎったんにしてやるんだから!)
この人を守らなければいけない。龍鵬の戦い方なんて見たことがないから知らないけど、東を庇い、あんな大怪我をする人だ。無茶な戦い方なんだろうなあ。その為には自分も強くならないといけない。
(頑張らなきゃ…!)
気合いをいれて、玄関にいる龍鵬のもとへ駆け足で近寄っていく。
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