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四度目の世界
45.
しおりを挟む鉄板焼き屋に向かえば、買ったものを食べられるようにテントの中にテーブル席がいくつかあった。テントの奥の方にみんなは座って食べていたので桜華は近付いた。
「桃ちゃんは先に帰ったよ」
龍鵬が隣の席が空いてるから座れと手で合図してきたのでイスに腰掛けて伝える。
「大丈夫かな?」
「あとでまた連絡してみようよ」
「そうだね」
テーブルには焼き鳥や焼きそば、お好み焼きなどが置かれていた。
ちらりとみんなを見てみれば、花トリオはジュースを飲みながら東を囲んで話をしているようで、侑斗は龍鵬の向かい側に座り、焼きそばを食べながら話しかけている。
(あんだけ食べたのにまだ食べれるんだ…)
見ているだけで胸焼けしそうだ…。
何か飲み物を買って来ようと立ち上がろうとしたら、桜華の前のテーブルにボトルのジュースが置かれた。
「これ飲むだろ?」
横を見ると龍鵬が優しく微笑んで「買っておいた」と言った。久しぶりの笑顔を間近で見てしまった。なんでこんなに格好良いんだろう。抱き着きたい。
「ありがとうございます」
「腹は減ってないのか?」
「さっき色々食べたからそんなには…」
桜華は抱き着きたい衝動を我慢してお礼を言った。
昨日の天津のことも話したいし、鍵のことも聞きたいけど、みんながいるから聞けないし。我慢だ。
「桜華は痩せすぎだし、もっと食べないと」
「侑斗くんは食べすぎだよ」
「まだ食べれるけど?」
「太るぞ」
「太らない体質なんでー」
食べても太らないなんて羨ましい。ドヤ顔で焼き鳥を差し出されたのでムカッとしたが、桜華は渋々焼き鳥を受け取った。一口食べたら甘辛いタレが口に広がり美味しかった。
「ねえ、みてみて。あの人たち格好良くない?」
「わあ、本当だ。あの男の子も可愛い」
周りに座っている女の人のヒソヒソと話してるのが聞こえてくる。前もこんな事あったな…。
龍鵬をチラリと見てみると、今日は珍しく服装がカジュアルだ。髪をまとめており、デニムジャケットも似合ってる。
東の方は来る前に打ち合わせがあったと言っていたから、ピシッとしたカジュアルスーツで素敵だ。
見ていたのに気付かれたのか、桜華の方を見て不思議そうに尋ねられた。
「なんだ?」
「うーん、龍さんはいつものスーツじゃないなと思って」
「しのぶに止められた」
やはりスーツを着てこようとしてたのかと、桜華はくすくすと笑った。
「スーツの西条さんも良いけど、そういうのもいいっすね」
「お前の方が似合いそうだけどな」
龍鵬に言われて侑斗は「今度買います!」と嬉しそうにしていて、龍鵬は困ったように「おう」と頷いていた。どんだけ龍鵬推しなんだろうかと、そんな二人を見て桜華は苦笑した。
「東さん、肌すべすべ!」
「なにか使ってるんですか!?」
「特に何も使ってないんですが」
東がすみれと桔梗に囲まれて困った様子だ。
そんな三人を見て椿が龍鵬の腕をつんつんと突いて呼ぶと指を差して知らせる。
「助けなくて良いんですか?」
「あ?いつものことだ。放っておけばいい」
「うわ、あれがいつもとか…」
椿が憐れみの眼差しで東を見た。
前にすみれが話していたのを思い出した。椿も男子にも女子にも人気なようで、付きまとわれることが多いらしい。東の気持ちがわかるのだろう。
モテる人は大変だな…と、桜華は最後の一口をぱくりと食べて、指でくるくると串をまわした。
「ほら、それよこせ」
危ないだろうと龍鵬が言いながら回していた串を奪われた。子供扱いされ頬を膨らますと侑斗に笑われたので、桜華の斜め前辺りに侑斗の足があったので軽く蹴っ飛ばしてやる。
「西条さんでしたっけ?西条さんもモテそうですね」
見た目はあれだけど。こういうところは女子からすればポイント高いんではないだろうか。
椿がそう思いながら質問した。
「しのぶほどではないけどな。悪いが知らねえやつからの好意ほど鬱陶しいもんはない」
「わかる!」
ベシッと食べ終わった串を皿に置いて、力強く同意する侑斗。うんうんと椿も頷いている。
同じようなことを侑斗が言っていた。桜華は、モテない人からすればイラッとする発言ではあるんだけどなぁと思ってしまう。
(それにしても…美男美女だらけ…)
椿だけではなく、桔梗もすみれも可愛いので、桜華はイケメンだけではなく美少女に囲まれていて落ち着かない。本当に魅了のスキルが範囲なのではないだろうかと思えてくる。自分ではなく周囲の魅了とか何それ。悲しすぎない?どうせなら自分で魅了してみたいのに。スパイ映画のようなハニートラップとか。まあ、この世界での自分はまだ子供だ。子供がやるものでもないだろうけど。
「羨ましすぎ…」
思った事が口に出たらしく、三人同時に桜華を見つめてきたので咄嗟に口を手で塞いだ。
「桜華もモテたいの?」
「桜華ちゃんは可愛いから告白とかいっぱいされてそうなのに」
「え?告白とかされたことなんてない…」
「桜華の場合、好かれてても気付かない鈍感だからね」
「自分で傷エグってんの?」
「小倉、お前…怒るぞ?」
「あらやだ、コワイコワイ。こんなんがモテるとか信じられないな」
「ちょ、」
何故か二人の会話の雲行きが怪しくなってきて桜華はとめさせようと話しかけようとした。その時…
「お前…」
龍鵬が桜華の肩を掴み、耳元に口を寄せるとボソリと呟いた。
「俺がいんのに他の男に好かれたいのか?」
「は!?」
びっくりして少し遠ざかり、何を突然言い出すんだと龍鵬に文句を言おうとしたけれど、龍鵬の視線がやけに真面目にこちらをじっと見つめていて、うまく言葉が出てこなくなる。
まるでその視線が『昨日は他の男と抱き合ってただろう?』と、そう言っているようだった。
もしかして、龍鵬は誤解しているのだろうか。
「違うのか?」
「ち、違うもん!」
首をぶんぶんと振りながら力いっぱい言う。
天津は補助機能だと説明したはずなのに。わかってくれていると思ってたのに違ったのだろうか?
「み、みんな可愛くて格好良いから…羨ましいなって…」
恥ずかしくてボソボソと言ったら、侑斗と椿が大きな溜息をついた。
「桜華ちゃんも可愛いじゃない」
「こんなゴリラ女より可愛いよ」
「まさか私のことじゃないでしょうね」
「も、もお!ケンカだめ!」
すぐにこうなる。仲が良いのか悪いのかわからない二人だ。今日もずっとこんな感じになってしまっていた。
「気にしないほうがいいよぉ。椿も南くんも学校で顔合わせたらすぐこうなるからー」
すみれが桜華に言った。その向こう側で桔梗も頷いている。
「楽しそうだね」
そう桜華が笑ったら、どうしてか皆の表情が硬くなる。龍鵬と東まで同じ感じになっている。
(私、変なこと言った?)
皆の様子がおかしくて焦っている桜華の頭を龍鵬が撫でた。
「ほら、それ食ったら帰るぞ。もう子供は寝る時間だ」
龍鵬の一声で皆は息を吹き返したように動き出し、残っているものを食べて片付けた。
桜華はスマホの画面を見てみると九時を過ぎていた。もうそんなに時間が経ってたんだな。周りの屋台も片付けはじめているのが見えた。
初めて出来た友達と遊びにきた祭は楽しかった。桃が帰ってしまったのは残念だけど。秋にも大きな祭があるらしいから、その時もまた一緒に行けたらいいなと桜華は思った。
「じゃあ、またね!」
「また遊ぼうね」
「うん」
「もう遅いですし、駅まで送っていきますね」
「やったー!イケメンお兄さんと一緒!」
「もう!すみれったら迷惑かけないの!」
すみれが東の腕に飛びついて喜んでいる。それを見て桔梗は怒った。天津みたいにお母さんみたいだ。
同じ方向のすみれと桔梗は東が駅まで送ることになった。
「じゃあ、私はこいつを連れていくわ」
「は!?なんで…」
「女子ひとりで帰らせようとしてんの?」
「そこら辺のヤツらより小倉のが強いだろ」
椿が侑斗を連れて帰ろうとしていて、侑斗は桜華と龍鵬と帰る気満々だったのか、ぎゃあぎゃあと騒いでいる。
すると思い出したかのように椿が桜華に近付いてきて、耳元でこっそりと囁いた。
「桜華ちゃんが言ってた好きな人ってあの人でしょ?邪魔者は退散するから一緒に帰ればいいよ」
「なっ!?」
「ほら、南くん行くよ」
「行くとは言ってな…おい!ちょっと!離せよ!」
引きずられるように連れて行かれる侑斗に苦笑しながら手を振る。
あとでメッセージで皆に来てくれたお礼を送っておこう。
「行くか」
「あ、はい」
龍鵬はそう言って桜華の手を掴んで歩き出した。急に手を繋がれたことに驚いたけれど、帰宅する人達で混雑しているから、はぐれないようにするためだろうと考え、桜華はドキドキしながらも、ぎゅっと握り返した。
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