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四度目の世界
35.
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目覚めたら龍鵬の腕の中だった。
抱きしめられていて身動きが取れず、ぼんやりと天井を見つめる。
そして昨日の帰宅してからの出来事を思い出して顔を覆いながら悶えた。
『私も今度アナタを洗ってもいいですか?』
(いいわけないじゃん!!)
『なるほど。こうすればいいのですね』
(お願いだから黙ってて!!)
途中、天津が羨ましそうに話しかけてくるので、よけいに恥ずかしかった。今度、現れた時には、ぐっちゃぐちゃのぎったんぎったんにしてやるんだから!と桜華は龍鵬の胸に顔を埋める。
昨日あれから龍鵬は泊まったらしい。
らしいというのも、風呂から出てテレビをつけたら映画がやっており、龍鵬に抱きしめられながら一緒に観ていたら、いつものように眠ってしまったようだ。
ふと視線を下に向ければ、やはりキャミソールと下着。龍鵬も上半身裸なので、鍛えられた筋肉が目の前で輝いていて、桜華は思わず目を逸らした。
整った顔が目覚めたら目の前にあるのも心臓に悪いが、このムキムキボディに触れているという今の状況もまた心臓が止まりそうだ。
龍鵬は桜華を抱きしめると落ち着くというけれど、桜華も同じだった。抱きしめられるのもそうだが、この大きな手に撫でられるのも好きだ。
桜華はモゾモゾと反対に身体を向けて龍鵬の手に自分の手を重ねた。ぎゅっと握って手の甲にキスをして満足そうに微笑む。
「口にはしてくれないのか?」
龍鵬は起きたのか、桜華の耳元に拗ねたような声で囁き、ビクッと身体を跳ねさせる。
「び、びっくりした…おはようございます…」
「おはようさん」
ベッド横のサイドボードに紙が置かれてるのを見つける。寝る前に店でメモしていた書類を見ていたのだろうか。
モゾモゾ動くけど、龍鵬の腕が外れないので手を伸ばして書類を手にした。読んでもいいか龍鵬を見上げてみたら頭を撫でられたので読む。
「これは…?」
日時と場所、そして魔法の属性だろうか。ズラッと二ヶ月分くらい書かれていて、風と書かれている部分がマーカーで線が引かれていた。
「能力使いの目撃情報。魔法使いっぽいのを探して、その場所を調べてるんだ」
「探偵みたい」
「この間、駅のところで能力使い絡みの殺人もあったしな。あの店に来てる刑事も動いてるから、俺もそっちを手伝いながら協力してもらってるんだ」
「え……」
そういえば店にいた無精髭のおじさんが刑事だと言っていた。あの駅前の事件のこと、魔法が使われたというのを気付かれているのか。桃は大丈夫だろうかと心配になる。
「手伝いで怪我したんですか?」
「これか?能力使えるやつ全員いいヤツだとは限らねえからな。捕まえるときに暴れられて俺がヘマしただけ」
「……」
日が経ってるのに治っていない。
打撲と言っていたのに治りが遅いのは、魔法の怪我だからだろうか?
「龍さん怪我したところ見せて?」
「ああ?傷なんて見ても、」
「いいから見せてください」
仕方ねえなと起き上がると、雑に巻かれていた包帯を取り、貼り薬のガーゼを外すと右腹部が赤紫色に変色しているのが見えた。
内出血するほどの衝撃を食らったということは、結構ひどい状態だったのでは?と顔を顰めた。
この状態で動いていたの?やばすぎない??
「ねえ、あーくん。私でも治せるかな?」
『光魔法を使えば可能です』
「どんな風に?」
『アナタでもわかる言い方で言えば、いたいのいたいのとんでいけーって子供にやるやつですかね』
なにそれ。そんな軽い感じ?
『冗談ですよ』と天津が言うので桜華は龍鵬がいるというのに舌打ちしそうになった。ホント、この変態神様め、次現れた時は覚えてなさいよと心の中で悪態をついた。
龍鵬は、そっと傷に触れながら、ひとりで喋りはじめた桜華を訝しげに見つめた。
『ゆっくりとです。アイスの時と同じように、傷を治すイメージをしっかりと。そして魔力を流し込みます』
言われた通りに、ゆっくりしっかり魔力を流す。
龍鵬に触れている部分が、じんわりと温かい。天津が治してくれた時と同じだ。
「こんな感じで……よし、できた!」
パッと手を離したら、赤紫色の打撲痕がキレイに消えてなくなっている。
「お前、回復使えるのか?」
「初めて使った」
「は、初めて…?すごいな…。回復能力使えるやつはレアだぞ」
ペタペタと怪我があった部分に触れたり、身体を動かしたりして驚いている龍鵬。
「ありがとうな」
「ううん。あーくんも、ありがとう」
頭を撫でられる。桜華は天津にお礼を言って、頭を撫でる手に擦り寄り笑顔で龍鵬を見た。
「お前、今の…」
「龍さんが魔法の痣の秘密があるように、私は『あーくん』という秘密があるってことですかね」
「そのあーくんってどんなのだ?」
「声が聞こえます。補助してくれる機能とかだとずっと思ってたけど」
神様です!なんて言えるはずもなく。
回帰者なら全員使える機能だと思っていたが、聖夜は聞こえないと言っていた。龍鵬にも聞いてみたら、そんなのは聞こえないと言われた。
メニューって言ったら情報とか出てくるんだよと教えると、マジでゲームみてえだな!と少し興奮気味に話を聞いていた。
「龍さんに声が聞こえるようには出来ないの?」
『可能です。ですが、それは私が嫌なのでやりません』
「!?」
拒否されたのは初めてのことで驚いた。
神様だとバレたからといって、この神様、明け透けにものを言うようになってきてないか?
「龍さんってどんな魔法が使えるの?」
「俺?魔法っていうより…なんていえばいいんだ?RPGでよくあるだろ、属性剣みたいなやつ」
「剣が出せるの?」
「あぁ。光と闇、あとは火と地属性」
「4つ!?」
2つ持っている人でも少ないと聞いたが4つも?
「知ってるのは、しのぶとお前だけだ」
「その痣のおかげ?」
「かもな」
「さすが勇者様」
頭を叩かれた。
どうやら勇者と呼ばれるのは嫌なようだ。
『光と闇の両方を持つことは不可能のはずなのに何故…この者は…』
天津がなにかブツブツ言っている。
「私も火と光属性あるよ。一緒ですね」
「お前、2つあるのか?」
「3つです。水もあるから」
「あまり他のやつに言うなよ。光と闇は貴重だ。利用しようとするヤツらもいるから狙われるぜ」
そういう人たちもいるのか…。どこの世界も物騒なんだなあと桜華は頷いた。
「大丈夫です。知らない人には着いて行かないもん」
「ははっ、そうだったな」
胡座をかいて座る龍鵬の足の上に腰を下ろした。
ねだるように龍鵬を見つめたら、ふっと笑われ、背後から抱きしめられる。
「これで満足か?」
龍鵬に寄りかかると、抱きしめられてる腕を桜華もぎゅっと掴んだ。
「危なくなったら龍さんのこと守るよ。だからあんな怪我しちゃダメですよ?」
「普通は逆だろ。俺がお前を守るんじゃねえの?」
「守られるよりは守りたい」
抱きしめられている腕の力が強くなり、龍鵬は額に口付けして笑った。
「かっけぇな。これ以上、惚れさせんなよ」
「誰かさんが格好良すぎてモテモテだから、他のきれいなお姉さんに行っちゃわないように必死なんです」
「フラフラするやつに見えるか?」
「言ったじゃないですか、女たらし…うぐっ」
両頬を抓られて最後まで言うことが出来なかった。
「ふーん?へぇー?そうか、そういう事が言えちまうくらい、まだわからねえようだな?」
座っていた桜華の背を押してベッドに押し倒す。いきなり押し倒されて、上半身を起こし後ろにいる龍鵬を見たが言葉を失った。笑顔だけど眉だけをピクピクさせている。
「り、龍さん…?」
まずい。怒らせてしまっただろうか?
「どれだけお前を想ってるか、わからせないとな?」
「……え?」
「覚悟しろよ、お嬢さん」
「ちょ、ちょっとまっ…!っぶふ!」
耳元で囁かれた言葉に、桜華は龍鵬の下から這って逃げ出そうとするが、両脛を捕まれズルズルと元の位置に戻され、龍鵬は桜華の上に馬乗りになると両足で挟んで逃げれなくした。ベッドの上だからといって引きずられたら痛い。
(あ、あ、あーくんの時もこんな感じだった気が…)
あの魔法を使おうか迷っていたら、身体をひっくり返されて、目を開くと至近距離に龍鵬の顔があり息を飲む。
「抱きしめんのも、こうするのも、お前だけって言ってるだろ」
信じろよ、バカ。
名前を呼ぼうとした桜華に、龍鵬は喋るのを許さなかった。自分の唇を桜華の唇に押し付けて黙らせる。
(ど、どうしてこの人は可愛いことするかなあ…!)
桜華は、こんなのキュン死してしまうよ!と強く目を瞑って、龍鵬のされるがままに深く口付けをしながら、背中に手を回して抱きついた。
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