32 / 82
四度目の世界
31.
しおりを挟むアルバイトの応募をした店があるのは、桜華が住む場所から二駅ほど離れた場所にあるところだ。駅前もそんなに賑わっておらず店などは少なかった。
駅から少し歩いた場所にある路地裏に、ひっそりとその店は営業していた。
昔懐かしい、今流行りのレトロな純喫茶のようだ。
立て看板に『AngelCafe』と書かれており、その下には今日のおすすめケーキなどのメニューが手書きで書いてある。
「素敵な店だね」
『妙な気配がするのでお気を付けて』
「妙な気配…?」
なんだろうと首を傾げて桜華も様子を見てみるけれど何も感じない。
カランとドアについているベルが鳴り、ドアの方を見たら隙間から店員らしき女の子が覗いている。
「お姉さん、バイトの面接しに来た方でしょ?店長は今スーパーに買い物に行ってるから、中で少し待ちませんか?」
桜華よりも身長が低く、童顔なため正確な歳がわからない店員。にっこりと笑うと桜華の返事も待たずに、桜華の手を取り店の中へと案内される。
「早く着いてしまってすみません」
カウンター席に座らせられ桜華は謝った。
店員は笑顔で首を振り、お冷お持ちしますねとカウンターの中の部屋へと入っていった。
アンティーク調デザインの家具と観葉植物が沢山ある落ち着いた雰囲気。
『彼女から魔力を感じます』
「え、」
そうなの?と言ってしまいそうになり口を閉じる。
カウンター席には、もう一人、三十くらいの無精髭を生やした男の人が珈琲を飲みながら新聞を読んでいる。他の席にも数人ほど客がいて話し声が聞こえるので、こんな所で天津と会話をするのはいけないだろう。
「もうすぐ戻ってくると思うのでお待ちください」
女の子が戻ってきて、前に水が置かれた。
桜華は「はい」と返事をしてスマホを取り出した。
天津にメッセージを送ろうとアプリを立ち上げていたら女の子は、変わらず笑顔で話しかけてくる。
「お姉さんも僕と同じなんですね」
話しかけられ、同じとは?と思い、スマホをいじる手を止めて女の子の顔を見た。
「死の気配」
何のことかわからず、これが本当の厨二病ってやつか?と一瞬思ってしまった。
「死んでも死ねない呪われた魂」
「!!」
手にしていたスマホが手から滑り落ちて、ガタンと大きな音を立ててテーブルに落ちた。
「おい、透。客がビックリしてるだろ」
「お客さんじゃないよ。バイトの面接に来た方だもん」
無精髭の男の人が女の子に注意をすると、口を尖らせながら男の人に話しかけている。
「お、同じって…どういう意味ですか?」
「そのままの意味ですよ。僕もお姉さんと同じ呪われた魂」
「え?本当に…?」
「五回目の生命です」
ま、まさかの二人目?しかも五度目の世界?この子は一体なにを言っているのだろう…?
「透!」
それ以上は喋るなと言うように男の人が低い声で止めてくる。そんな男の人に「うるさいな!」と怒鳴って睨む女の子。
「十夜は黙ってて。お姉さんと話してるのは僕でしょ!」
「おっ…まえなあ!初対面のやつにベラベラとしゃべんじゃねえよ!戸惑ってるだろ!!」
「はい、そこまでー。他にお客さんもいるんだよ?二人とも黙ろうか」
いつの間にか、桜華の背後に背の高い龍鵬と同じくらいの歳のお兄さんが立っていて、喧嘩をしはじめた二人を笑顔で止めに入ってきた。
手にしていた袋をカウンターの上に置くと、驚いて固まったままだった桜華を見た。
「君が鏡さんだね?待たせてごめんね。店長の暁と言います。上の部屋で話をしようか」
「え、なんで?ここでいいじゃん!僕もお姉さんと話がしたい!」
「透は店番よろしくね?桜丘は透のこと見てて」
無精髭の男の人はチッと舌打ちをして、こっち側に来ようとしていたカウンター内にいた女の子の肩を掴んだ。ぎゃあぎゃあ騒いでいる女の子の事が気になるが、店長が上へと続く階段へ歩いて行くと、桜華へこちらへ来るようにと手招きをしているので向かった。
「なにか飲みますか?」
「だ、大丈夫です」
「ふふ、緊張しなくていいですよ。準備をしてくるので座ってお待ちください」
「はい」
上の階は住居スペースなのか、ベッドとソファー、デスクの上には瓶が沢山、壁一面本棚になっておりギッシリと色んな本が並べてある。桜華はソファーに腰掛けて、本棚を見つめた。
「すごい量…」
『桜華、あの店長からも魔力を感じます。気を付けてくださいね』
「ええ?店長さんも…?」
天津が店の前で妙な気配がすると言ったのは、魔法が使えそうな人が二人もいる場所だからだろうか?
いや、この部屋からも不思議な感じがする。
「お待たせしました」
冷えた麦茶が前に置かれた。ありがとうごさいますとお礼を言うと微笑まれ、桜華が座っている向かい側に店長も座った。
「改めて、店長の暁 聖夜です」
「鏡 桜華です」
「ごめんなさい、従業員が騒がしくて驚かせてしまったようで」
「い、いえ…」
カバンから履歴書を取り出してテーブルの上へと置いた。それを聖夜は受け取ると、取り出して書類に目を通す。
「週4日ほど出られたりしますか?」
「何日でも大丈夫です」
「親御さんや学校には許可取ってありますか?」
「この間、両親は事故で亡くなりました。学校の方は…通っていないので心配ありません」
「そうですか」
顎に手をやって、なにやら考えている様子の聖夜。
桜華はドキドキしていた。いくら前の世界で経験があるといっても、こういった面接などは緊張する。
「では、来週からお願いしてもよろしいですか?」
「はい!え……?い、いいのですか?」
もっとこうなんか色々聞かれると思ったのだけど。
「10時から開店するので、鏡さんは15分前に来てください。18時まででも大丈夫ですか?」
「はい」
「親戚の家でお世話になっていたりとか?」
「いえ、一人暮らしをはじめたばかりで…」
聖夜は立ち上がると、クローゼットを開き、ダンボールの中をゴソゴソと漁り出す。
「一人暮らしは慣れるまでは大変でしょう?ああ、そうでもないのかな」
「え?」
「君も回帰者でしょうから」
違う?と桜華の前まで戻ってくると、赤いエプロンを差し出してきた。桜華はそれを受け取ろうとせず、驚いた表情で聖夜を見ていて、聖夜は苦笑してエプロンを桜華の横に置いた。
「私も下にいた二人も、同じ回帰者ですので働きやすいはずですよ」
よろしくお願いしますね。
そう言って聖夜は頭をさげたので、桜華も慌ててお願いしますと頭をさげた。
10
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。

三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる