平和に生き残りたいだけなんです

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四度目の世界

31.

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 アルバイトの応募をした店があるのは、桜華が住む場所から二駅ほど離れた場所にあるところだ。駅前もそんなに賑わっておらず店などは少なかった。
 駅から少し歩いた場所にある路地裏に、ひっそりとその店は営業していた。
 昔懐かしい、今流行りのレトロな純喫茶のようだ。
 立て看板に『AngelCafe』と書かれており、その下には今日のおすすめケーキなどのメニューが手書きで書いてある。

「素敵な店だね」
『妙な気配がするのでお気を付けて』
「妙な気配…?」

 なんだろうと首を傾げて桜華も様子を見てみるけれど何も感じない。
 カランとドアについているベルが鳴り、ドアの方を見たら隙間から店員らしき女の子が覗いている。

「お姉さん、バイトの面接しに来た方でしょ?店長は今スーパーに買い物に行ってるから、中で少し待ちませんか?」

 桜華よりも身長が低く、童顔なため正確な歳がわからない店員。にっこりと笑うと桜華の返事も待たずに、桜華の手を取り店の中へと案内される。

「早く着いてしまってすみません」

 カウンター席に座らせられ桜華は謝った。
 店員は笑顔で首を振り、お冷お持ちしますねとカウンターの中の部屋へと入っていった。
 アンティーク調デザインの家具と観葉植物が沢山ある落ち着いた雰囲気。

『彼女から魔力を感じます』
「え、」

 そうなの?と言ってしまいそうになり口を閉じる。
 カウンター席には、もう一人、三十くらいの無精髭を生やした男の人が珈琲を飲みながら新聞を読んでいる。他の席にも数人ほど客がいて話し声が聞こえるので、こんな所で天津と会話をするのはいけないだろう。

「もうすぐ戻ってくると思うのでお待ちください」

 女の子が戻ってきて、前に水が置かれた。
 桜華は「はい」と返事をしてスマホを取り出した。
 天津にメッセージを送ろうとアプリを立ち上げていたら女の子は、変わらず笑顔で話しかけてくる。

「お姉さんも僕と同じなんですね」

 話しかけられ、同じとは?と思い、スマホをいじる手を止めて女の子の顔を見た。

「死の気配」

 何のことかわからず、これが本当の厨二病ってやつか?と一瞬思ってしまった。

「死んでも死ねない呪われた魂」
「!!」

 手にしていたスマホが手から滑り落ちて、ガタンと大きな音を立ててテーブルに落ちた。

「おい、透。客がビックリしてるだろ」
「お客さんじゃないよ。バイトの面接に来た方だもん」

 無精髭の男の人が女の子に注意をすると、口を尖らせながら男の人に話しかけている。

「お、同じって…どういう意味ですか?」
「そのままの意味ですよ。僕もお姉さんと同じ呪われた魂」
「え?本当に…?」
「五回目の生命です」

 ま、まさかの二人目?しかも五度目の世界?この子は一体なにを言っているのだろう…?

「透!」

 それ以上は喋るなと言うように男の人が低い声で止めてくる。そんな男の人に「うるさいな!」と怒鳴って睨む女の子。

「十夜は黙ってて。お姉さんと話してるのは僕でしょ!」
「おっ…まえなあ!初対面のやつにベラベラとしゃべんじゃねえよ!戸惑ってるだろ!!」
「はい、そこまでー。他にお客さんもいるんだよ?二人とも黙ろうか」

 いつの間にか、桜華の背後に背の高い龍鵬と同じくらいの歳のお兄さんが立っていて、喧嘩をしはじめた二人を笑顔で止めに入ってきた。
 手にしていた袋をカウンターの上に置くと、驚いて固まったままだった桜華を見た。

「君が鏡さんだね?待たせてごめんね。店長の暁と言います。上の部屋で話をしようか」
「え、なんで?ここでいいじゃん!僕もお姉さんと話がしたい!」
「透は店番よろしくね?桜丘は透のこと見てて」

 無精髭の男の人はチッと舌打ちをして、こっち側に来ようとしていたカウンター内にいた女の子の肩を掴んだ。ぎゃあぎゃあ騒いでいる女の子の事が気になるが、店長が上へと続く階段へ歩いて行くと、桜華へこちらへ来るようにと手招きをしているので向かった。

「なにか飲みますか?」
「だ、大丈夫です」
「ふふ、緊張しなくていいですよ。準備をしてくるので座ってお待ちください」
「はい」

 上の階は住居スペースなのか、ベッドとソファー、デスクの上には瓶が沢山、壁一面本棚になっておりギッシリと色んな本が並べてある。桜華はソファーに腰掛けて、本棚を見つめた。

「すごい量…」
『桜華、あの店長からも魔力を感じます。気を付けてくださいね』
「ええ?店長さんも…?」

 天津が店の前で妙な気配がすると言ったのは、魔法が使えそうな人が二人もいる場所だからだろうか?
 いや、この部屋からも不思議な感じがする。

「お待たせしました」

 冷えた麦茶が前に置かれた。ありがとうごさいますとお礼を言うと微笑まれ、桜華が座っている向かい側に店長も座った。

「改めて、店長の暁 聖夜です」
「鏡 桜華です」
「ごめんなさい、従業員が騒がしくて驚かせてしまったようで」
「い、いえ…」

 カバンから履歴書を取り出してテーブルの上へと置いた。それを聖夜は受け取ると、取り出して書類に目を通す。

「週4日ほど出られたりしますか?」
「何日でも大丈夫です」
「親御さんや学校には許可取ってありますか?」
「この間、両親は事故で亡くなりました。学校の方は…通っていないので心配ありません」
「そうですか」

 顎に手をやって、なにやら考えている様子の聖夜。
 桜華はドキドキしていた。いくら前の世界で経験があるといっても、こういった面接などは緊張する。

「では、来週からお願いしてもよろしいですか?」
「はい!え……?い、いいのですか?」

 もっとこうなんか色々聞かれると思ったのだけど。

「10時から開店するので、鏡さんは15分前に来てください。18時まででも大丈夫ですか?」
「はい」
「親戚の家でお世話になっていたりとか?」
「いえ、一人暮らしをはじめたばかりで…」

 聖夜は立ち上がると、クローゼットを開き、ダンボールの中をゴソゴソと漁り出す。

「一人暮らしは慣れるまでは大変でしょう?ああ、そうでもないのかな」
「え?」
「君も回帰者でしょうから」

 違う?と桜華の前まで戻ってくると、赤いエプロンを差し出してきた。桜華はそれを受け取ろうとせず、驚いた表情で聖夜を見ていて、聖夜は苦笑してエプロンを桜華の横に置いた。

「私も下にいた二人も、同じ回帰者ですので働きやすいはずですよ」

 よろしくお願いしますね。
 そう言って聖夜は頭をさげたので、桜華も慌ててお願いしますと頭をさげた。


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