平和に生き残りたいだけなんです

🐶

文字の大きさ
上 下
22 / 82
四度目の世界

21.

しおりを挟む
 結局、心咲は一日中男子たちの注目の的だった。もう放課後なのに、まだ話しかけられている。私は少しだけ羨ましいと思ってしまっていた。
「おまたせ、帰ろっか」
 心咲は男子たちを振りきったようだ。後ろの方で、未練がましく睨みつけてくる視線が突き刺さる。
「......うん」
 私はそう言うと、歩き始める。心咲が悪くない事は分かってはいるけれど、嫉妬していないといえば嘘になる。

「それで、卓也くんには告白するの?」
 帰り道、心咲は突然そう聞いてきた。
 私は慌てて周りを見る。うちの生徒がいたら大変だ。幸い、制服姿の学生は見当たらなかった。
「告白なんてしないよ........」
 口許を押さえながらニヤニヤしている心咲を睨みつける。結構からかわれるんだよね。私。
「......心咲はどうなの? 好きな人とかいないの?」
 私は、仕返とばかりに聞いてみた。
「私? 私は好きな人いるよ?」
 心咲は当たり前のような顔をして、衝撃の真実を告げてきた。私は今まで、そんな人がいる事なんて全然知らなかった。ポカンと口を開け、心咲を凝視する。
「......希美、すごいバカっぽいよ」
 私は慌てて開けていた口を閉じる。しかし、相手は誰なんだろう。気になる。
「誰? 誰なの?」
 興味津々で聞いてみたけど、心咲は笑うだけで教えてはくれない。こうなった心咲は絶対口を割らないのだ。
 私は、もしかしてと思い、恐る恐る聞いてみた。
「......卓也の事好きなの?」
 私がそう言った瞬間、心咲が吹き出した。
「あははは! 違う違う! 卓也くんじゃないよ」
 そう聞いた私はほっと胸を撫で下ろした。良かった......心咲相手じゃ絶対勝てない......
「そんなに好きなのに、何で告白しないの?」
 急に心咲は真剣な表情で聞いてくる。
「......だって、卓也って私の事女の子として見てないもん」
 自分で言ってて、悲しくなってくる。思わずうつ向いてしまった。
「でも、好きって言ったら変わるかもよ?」
 心咲は優しく、諭すように覗き込んできた。
「......そうかなぁ...検討してみる」
 私はそう言うと、ほんの少しだけ溜まっていた涙を袖で払った。

 次の日の放課後、帰ろうとしていた私を卓也が呼び止めてきた。
「希美! 今日一緒に帰らね?」
 周りにいた何人かの男子がヒューヒューと冷やかしてきた。卓也は、
「そんなんじゃねえよ!」
 と追い払う。遠くから、心咲がニヤニヤとこちらを見ていた。私は一緒に帰る事を考えると、自然と顔が赤くなっていくのを感じる。
「もう行くぞ!」
 卓也は突然私の手を掴み、引っ張るように下駄箱へ連れていかれた。

「しかし、希美と帰るのも久しぶりだな」
 卓也は嬉しそうに笑ってくる。もしかして、私にもチャンスがあるんじゃないか。そう思えるほどの眩しい笑顔だった。
「うん。そうだね」
 私は慌てて卓也から目をそらした。今顔を見られたら、死んでしまう。
「うん? どうしたんだ?」
 そんな私の思いなど知らない卓也は、肩に手を置き覗き込もうとしてくる。
「何でもないから!」
 私は顔を見られないように、走り始めた。これで万が一見られても、赤くなっているのは走ったからだと誤魔化せる。
「待ってって!」
 女の私が卓也の足に勝てるはずもなく、敢えなく捕まってしまった。
「......ここで休んでいこうぜ」
 卓也が指差した方向には、小さい頃よく一緒に遊んでいた公園があった。

 私と卓也は公園のブランコに無言で座る。小さい頃は余裕のあったブランコも、今は結構キツキツだ。横を見ると、何を考えているのか、真剣な卓也の表情に見とれてしまう。
 .....もし、今告白したら、どうなるのかな。私は、心咲の言っていた言葉を思い出す。
『でも、好きって言ったら変わるかもよ?』
 ......そうだ。駄目で元々、言ってみるだけ。駄目だったらドッキリとか、嘘とかで誤魔化せばいい。
 私が決心し、告白ようとした一瞬前、卓也が思い詰めた顔で話しかけてきた。
「......あのさ、心咲って付き合ってる奴とかいるのかな」
 卓也は真剣な表情で私を見つめてくる。
「......なんで?」
 私は薄々分かっていながらも、聞き返した。違っていて欲しい。何かの間違いであって欲しい。そう期待した。
「俺さ、小学生の時からずっと好きなんだよね。高校生になって、心咲、ますます綺麗になったじゃん? 早く告白しときたくてさ。協力してくんね?」
 卓也は私を拝むように手のひらを合わせている。
 まさか卓也が心咲の事好きだったなんて、全然知らなかった。そっか......
 私は、卓也が心咲の事を『好き』とか『綺麗』とか言う度に、心が壊れそうに痛む。そうだよね。私じゃ、やっぱり駄目だよね......
「......卓也はさ、私が協力したら嬉しい?」
 泣かないように必死にこらえ、聞いてみる。少し声が震えたかもしれない。
「うん! お願い!」
 卓也は、本当に心咲の事が好きなんだろう。今まで見たこともないぐらいに必死にお願いしてくる。
「......分かった。いいよ」
 私は笑顔を作り、卓也を見つめる。その顔は、今まで見た事も無いぐらいに輝いていた。でも、その笑顔を引き出したのは私じゃなくて、心咲なんだ......
「ありがとう! 俺頑張るから!」
 卓也はそう言うと、ブランコから飛び降り、こちらを向いた。
「あっ! 今日バイトの面接だった! ごめん、俺行くね」
 卓也は慌てて時計を見ると走り始める。しかし突然、、ピタッと止まり顔だけこちらを向いた。
「希美が彼氏作るときは手伝ってやるからな!」
 そう言うと、走って公園を出ていった。
「私は卓也と恋人になりたかったんだけどな......」
 誰もいない公園で一人で呟いてみた。我慢していた涙がこらえきれず、あふれでてきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

竜王の花嫁は番じゃない。

豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」 シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。 ──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。

【完】お義母様そんなに嫁がお嫌いですか?でも安心してください、もう会う事はありませんから

咲貴
恋愛
見初められ伯爵夫人となった元子爵令嬢のアニカは、夫のフィリベルトの義母に嫌われており、嫌がらせを受ける日々。 そんな中、義父の誕生日を祝うため、とびきりのプレゼントを用意する。 しかし、義母と二人きりになった時、事件は起こった……。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

処理中です...