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四度目の世界
17.
しおりを挟む桜華は考える。
何故みんな出会って間もない小娘に、こんなにも良くしてくれるのだろうかと何度も考えてしまう。
普通に考えて、あれほどのリフォームや家具家電を揃えて金額が無料になるわけがない。
まして出会って数日しか経たない出会いすら最悪な小娘なんかに大金を使うだろうか?
(平和に生き残りたいなんて願ったからかな?)
天津のこともそうだ。今まで使えなかった機能が使えるようになっているし、なんだそのチートって感じのものもいくつかある。
今までは転生したらそれまでの記憶も、それ以上の記憶も残っているはずなのに、今回はそれがなかったのが気になるけど…恵まれすぎていることが逆に不安になる。
「ねえ、あーくん。わかる…?」
『わかりません』
「ですよねー…」
三人がドリンクバーに飲み物を取りに行っている時に、ぼんやりとストロー咥えながら天津に話しかける。思った通りの返答。
『行儀が悪いです』
「うるさい。ほんとお母さんみたい」
『お母さん…』
「みんな優しいし、何事も無ければいいんだけどな」
ストローに息を吹き込み、ぶくぶく音を立てながら、わいわいと何やら揉めている三人を見ながらそう呟く。
『知っていますか?フラグが立つと言う言葉を』
「あーくん、マジでうるさい」
ストローから口を離すとテーブルに突っ伏した。
『ではこれも理解しておりますか?』
ピロンという音がなり、顔を上げたら自分のステータス画面が目の前に開かれる。
桜華は一瞬、ここを何処だと思ってるんだ!と慌てて画面を閉じようとしたけども、スキルの文字を見て固まる。
「これ…」
『詳しい状態は確認できませんが、その可能性はじゅうぶんにあるかと』
桜華の目に止まったスキルは、今回新しく追加されていたスキルであるひとつの『魅了』というものだった。
効果も使い方もわからず、この世界で魔法やスキルなど使わないからと放置していたものだ。
桜華は混乱した。
「え…?えっ?待って。使った覚えもないし。いや、うん、違うと思う。あーくん、これは違くない?」
『わかりません』
「そこはわかっといてよ」
言うだけ言って不安にさせておいて、わからないとかひどくない?と桜華は再びテーブルに突っ伏した。
「こんな所で寝ちゃダメだよ?」
戻ってきたのか、南が飲み物をテーブルに置いて横に座ると顔を覗き込んできた。
「寝てないよ」
向かい側には龍鵬と東が座っており、やはりここでも周囲の女の人の視線が痛かった。
自分でなく、むしろこの人たちが魅了スキル持ちなんではないかと桜華は思った。
(範囲スキルとか?まっさかぁー)
考えてもわからない。後で考えることにした。
注文した食事が運ばれてきて、いただきますと手を合わせてから食べる。桜華はハンバーグ定食を頼んだ。
出会って間もない四人が、こうやって一緒に食事をしているなんて、なんとも不思議だ。
「ブロッコリー嫌いなの、まだ直ってないんだ?」
「食感嫌い」
「仕方ないな。じゃがいもと交換ね」
「南くんも、じゃがいも嫌い直ってないんじゃん。かぼちゃもまだダメなの?」
「だって、もさもさ、ねちゃねちゃしてるじゃ……ん……?え?」
口に運ぼうとしていたブロッコリーをピタリと止めて、驚いた表情で桜華を見てくる。言った桜華自身も、口に手を当てて驚いていた。
「…ん?どした?お前ら」
「い、いや、なんでもないっす」
「好き嫌いしたらダメですよ」
「えー?無理っすね!」
「ちょっとは頑張って食おうとか思えよ…」
あの言葉は自然と出た言葉だ。
南のことを思い出した?と考えてみるが、他のことは全然わからないまま。
チラリと南の様子を窺うと、どことなく嬉しそうに食べている。そんな様子に、また胸がちくりと痛んだ。
南を見ていると、南が知っている鏡桜華という少女ではない自分が中にいることが申し訳ないと感じるのだ。
「支払いしとくから先出てろ」
「え、払いますよ」
「これも使っちゃってください」
南は勝ち取ったというドリンクバーの券を出そうとカバンを漁ろうとした手を龍鵬が止めた。
「奢られとけ、ガキども」
「ッッ…!」
そう言われて、南が嬉しそうに目を輝かせた。
東は何か言いたげな桜華の背を押しながら店の外へと出す。
「出世払いでいいと言ったはずですよ?気にしなくていいんです。先輩が奢るということなんて滅多にないんだから奢らせとけばいい」
「いつもは、違うんですか…?」
「俺と二人で食べに行く時なんて、だいたいは、あとはよろしくって先に煙草吸いに出ていってしまうんだから」
「うわぁ…」
困ったもんですと東は首を横に振った。でも嫌そうではない。腐れ縁と言っていたくらいだから、きっと仲良しなんだろうな。
「ずっと仲良し?」
「まあ…そうですね。すごく長い間、俺は護られてばかり。頼りないかもしれないけど、たまには俺にも頼ってほしいですが…」
「まもる?」
どことなく悲しい声で、桜華は東の顔をじっと見つめて首を傾げた。
「鏡さんの言う俺は…王子らしいからね?先輩は護衛の騎士ってところかな」
東は桜華の頬にかかっていた髪を優しく払うとクスクス笑った。
「王子様も騎士様も二人にピッタリです」
「そんなことないよ。じゃあ、鏡さんはお姫様かな」
「魔法使いがいいかなあ。護られるより護りたいもん」
「素敵だね」
本当は魔法使えるし。そう言いたかったけれど本当のことは言えないため、桜華はぐっと我慢した。
「何の話?」
「俺が王子で、先輩は騎士かなって」
「私は魔法使いがいい」
「かっけー!そのメンツなら俺は盗賊がいいかな!」
「パーティーの出来上がりだね」
「僧侶いないと回復ないから全滅する」
店から出てきた二人にご馳走様とお礼を言って、そんな話をしながら駅の方に戻った。
「俺は店に戻るのでココで」
「東さん、ありがとうございました」
「また何かあったら遠慮なく」
「はい」
東と南もメッセージアプリの交換をしていたので、桜華も一緒に交換したてもらう。
「俺もまた呼び出されたから顔出してくる」
「はい。龍さんもお世話になりました」
「ごちそうさまです!」
「ああ、またな」
手を振って仕事に向かう二人を見送った。
「南くんも電車?」
「んー」
スマホを取り出して時間を見てから、桜華の顔をじっと見てきた。
「暇だし、送ってっちゃダメかな?」
なんだろう。この小型犬にキラキラした目でお願いされてる感じ。うぐっと桜華は胸を押さえた。
「時間あるなら冷蔵庫まだ空っぽだし、買い物付き合ってくれる?」
「じゃあ荷物持ちはお任せ!」
「ありがとう。お礼におやつ作ろうかな」
「おやつ?」
「甘いもの平気?ホットケーキ作ろうよ」
「いいね」
駅前のスーパーに寄ることにした二人。
さっきの事を話してくるかと思ったけど、南はそんな様子も見せずに、学校で流行ってる動画やゲームの話をしてくれた。
今時の高校生が何が好きなのかとか、全然わからないので、南の話は桜華にとって嬉しい情報源だ。
はじめの世界から二度目までの世界とは、そんなに変わりはないようなので助かっている。
現代から中世な世界に行き、今度はいきなり近未来な世界とかになったら、もうついていけそうもない。
「ごめんね、また袋持ってもらって」
「いいよ。全部持つって言ったのに」
「さすがにそれは悪い」
半分こね、と袋を渡して家へと向かう。
必要そうなものを買ったら二袋分になってしまった。重い方を持ってくれた南に感謝をする。
「鏡さん、これあげる」
「ん?」
「あーんって口開けて」
南が袋に入ってる飴を一粒取り出して桜華の口の前に差し出してきた。差し出された飴を見て戸惑う。
手に置いてほしいと言う意味で手を出したら、その手をペチッと払われた。
「!?」
「ほら、あーん?」
これは口を開けないと許されないパターンだと桜華は顔を顰めて南をじっと見た。しかし、南はそんな桜華を無視して口を開けるのを、にっこりと笑って待つだけ。桜華は諦めて口を開けた。
ころりと口の中に転がってきた飴はイチゴの味がした。とても懐かしい味。
「桜華が好きだったやつだよ」
小さく囁くよう呟かれた言葉。
だけどはっきりと聞こえ、パッと南の方に振り向いて見たら、優しい表情をして桜華を見ていたので、なんだか泣きそうになった。
「ごめん…」
「なんで謝るの?」
「だって……。ごめん…侑斗くん…」
思い出せない。何故だかそれが悔しい。
南が俯いて謝る桜華の前まで近付くと、袋を持ってない左手で頬に手を添えて上を向かせた。
「もっかい呼んで?」
優しい声に涙が出そうになるので、ぐっと堪える。たぶんひどい顔をしているから俯きたいのに、南の手はそれを許そうとしない。
「ねえ、桜華…名前呼んでよ」
おねがい。
そう言われて、小さく震える声で南の名前を呼ぶ。
「ゆうと」
ちょっと涙目になった南が、すごい嬉しそうに笑むと、頬にあった手を、するりと桜華の首に回してきて、ぎゅっと抱きしめる。
「ずっと会いたかったんだ」
会えて嬉しかったんだ。そう頬を擦り寄せて言ってくるので、桜華は「うん」と小さく頷いた。
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