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四度目の世界

16.

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 ぶんぶん手を振る南を避けて部屋に入ってくると、袋をキッチンに置いてからカウンターの横にあるイスに座った。
 南が「お邪魔してもいい?」と首を傾げて聞いてくるので、桜華は慌てて頷いた。入ってきた南は部屋を見て雑誌に載ってそうな部屋だなと、キョロキョロして見ながら入ってくる。

「はあ。こいつコンビニで会ったら着いてきやがった」
「ひどい。鏡さんの引越し手伝ってるって聞いたから、俺も手伝おうかなってって思って」

 昨日ぶりだねと笑いかけてくる。今日もイケメンだ。まぶしい笑顔。

「そっちのお兄さんは初めまして。俺は南って言います」
「東です。鏡さんのお友達かな?」
「ですです」

 本当は友達と言っていいのか微妙なんだけどなと桜華と南はお互いに顔を見合った。
 記憶がないけど、再会できたのは何かの縁だし、南が嫌でなければ友達になってくれたら嬉しいなと桜華は微笑む。

「先輩とは知り合い?」
「昨日会ったばっかだぞ」
「なんでコンビニ行っただけで、そんなに疲れてんですか?」
「あいつがうるせぇ」

 ここに戻る間ずっと、キラキラした目で話しかけられて疲れたと東に愚痴っていた。交換したばかりのメッセージでも。
 桜華に対してもそうだった。マメに返信してくるので会話が途切れないのだ。

「龍さんかっこいいもんね」
「兄貴って呼びたいくらいだよ」
「ヤメテクレ」

 なんでそんなに懐く?と嫌そうな龍鵬。
 そんな龍鵬をみて、東はクスクスと笑った。

「子供たちに懐かれるレアな先輩を拝めるとは思ってませんでしたね。いつも怖がられるか泣かれるかだし」
「先輩?」
「ああ。昔からの腐れ縁ですよ。ここでは中学から一緒でしたっけ」
「へえ、学生だった頃の西条さん見てみたい!」
「私も見てみたい」

 東の発言が不思議で首を傾げたが、桜華が聞く前に南が写真あるの?とスマホで写真を漁ったりと東と話をしていたので、桜華は黙ってカウンターで伸びてる龍鵬を見て近寄る。

「そんなに?」
「オジサンには学生パワーはキツイんだよ」
「そんな差がないじゃないですか」
「6つも違えばオジサンだろ」
「え?もっと上かと思っ…いったい!!」

 ちょっと強めに頭を叩かれた。

「しのぶなんか21だからな。俺より上だと思うだろ?」
「え?そうかなあ。東さんはもっと若…うむぐぅむむむ…」

 今度は両頬を捕まれ、むにむにされて喋れなくなる。ハムスターみたいだと笑いながら、むにむにしている姿が可愛くて文句が言えない。桜華は大人のくせに!と心の中で悪態をついた。

 少し休んだ後、片付け作業を再開。途中参加で南も手伝いをしてくれたおかげか、予定よりも早めに片付けが終わる。
 南が桜華の両親の仏壇に手を合わせてから、しばらく無言で写真を見つめていた。
 なんとなく話しかけられず、ダンボールを片付けている二人に先にお礼を言った。

「ありがとうございます」
「早く作業終わって良かったですね」
「昼、過ぎてっけど、どっかで飯食うか?」
「そういえばお腹空いた」

 作業に夢中だったからか、空腹だったのに気付かなかった。お腹をさすりながら時計を見たら14時過ぎていた。ランチの店は終わるだろう微妙な時間だ。

「ファミレスでも行くか?駅の方にあっただろう」
「ありましたっけ?」
「駅通り過ぎた向こう側に行けば選び放題っすね」

 いつの間にか、桜華の隣に来ていた南が、カバンからクーポン券を取り出す。色んなチェーン店のドリンクバーやポテトの無料券など様々なものを学校の友達から勝ち取ったと話している。

「行ったことない…」
「なら、行くか」
「そうしましょう。ファミレスなんて久しぶりですね」
「あんま行かねぇな」
「二人はお洒落なレストランとか似合いそう…」
「確かに…バーとかで『あちらのお客様から…』とかさあ」
「あー、ありそうだね」
「なにバカなこと言ってんだよ。あるわけねーだろ。さっさと行くぞ」

 呆れたように先に出ていく龍鵬に続いて、苦笑しながら出て行く東。桜華と南は、お酒飲みながら、お洒落なバーやレストランとかにいる二人を想像してカッコイイねと話しながら二人を追いかけて玄関を出た。

 少し歩いたところで桜華は思い出した。
 今日は龍鵬は黒いスーツではないので油断していたのだ。

(わあ…すっごい見られてる…!!)

 あの日の視線とは別のものだが、ものすごく見られてると感じて落ち着かない。
 桜華は前を歩く三人を見た。

(みんなイケメンだもんな…女の人がチラチラ見てる…)

 龍鵬が一番背が高いが、東もそれなりに高身長で、ボーダーの服に、ネイビーの上着を羽織り、落ち着いた大人の男の人という感じだし、南はオーバーサイズの赤の上着に白いトレーナーを着ていて、桜華と同じ、年相応な格好をしている。二人とも染めてるのか地毛なのかわからないが明るい茶髪。陽にあたるとキラキラしていて、絵本でよくいる王子様のようだ。

「モデルかなにか?あの子かわいい」
「兄妹かな?サングラスの人かっこいい」
「私は隣の人…!」
「声掛けたら…」
「彼女いるのかな」

 聞こえてくるのは、そんな会話。
 さすがイケメンは大変だなと桜華は苦笑した。
 そんなのを気にもせず、三人は会話をしながら歩いていく。普段からこんな感じで慣れてるからだろうか。気にならないのかな。
 葵と歩く時も、こんな感じだったなと懐かしく思う。

「鏡さん、疲れた?」

 声をかけられた方を見ると、いつの間にやら横に移動してきていた東がいた。
 南と龍鵬はゲームの話で盛り上がっている。なんだかんだ嫌がってる割には仲良しなんだなあ。

「大丈夫です。みんなモテモテだなって」
「モテモテ…?」
「声掛けられたりしませんか?」

 この視線気にならないの?というように周囲を見て尋ねると、桜華の言いたいことに気付いたのか困ったように笑う。

「たまにありますね」
「わあ、やっぱり!一夜限りのめくるめくラブロマ…むぐっ」
「そんな人に見えます?ショックだなあ…」

 東に手で口を塞がれて最後まで言えなかった。しかも悲しそうな泣きマネつき。桜華は手を退けると首を振って力いっぱい言う。

「なんていうか…東さんは王子様みたいだから、そんな軽い人じゃなくて一途そうですね…!」
「ぶはっ!!」

 何故か前を歩く龍鵬が聞こえてたのか盛大に吹き出してヒーヒー笑い始めた。東はそんな龍鵬を睨む。
 桜華と南は、そんな二人をきょとんと見ていた。

「王子様だってよ」
「先輩は黙っててください」

 ムッとした表情で龍鵬の脛に割と強めの蹴りをいれる東だが、龍鵬は痛がりもせず笑い続けていた。

「先輩は?」
「え?」
「先輩はどうですか?」

 さっきの話が続いているのか、東は龍鵬のことを尋ねてきているようだ。桜華は龍鵬の顔を見つめて、うーんと唸った。

「龍さんは女たらし?みたいですよね」
「あ、わかる」
「アァ?」
「キャバクラとか行ってそう」
「ね。キレイなお姉さんに囲まれてそう」

 南と桜華は頷きあって言っていたら、龍鵬が両手をグーに握りしめて、その手で二人の頭を軽く叩いた。

「最近のガキはどうなってやがる」
「俺よりひどいからスッキリしました」
「お前な…」

 笑う先輩が悪いんですよと龍鵬の肩を叩いた。そうして桜華と南の背を押して先を歩いていく。
 やれやれといった感じで溜息をついて、龍鵬は三人の後を着いて歩いた。
 追いついた龍鵬は何かを思い付いたのか、桜華の耳元に口を寄せてボソボソとしゃべった。しゃべり終わる頃には、桜華の顔が真っ赤に染まり、早く行こう!と逃げるように早歩きで先に歩いて行ってしまった。

「先輩、何言ったんですか」
「あ?ヤツアタリ」
「大人気ないな」
「うるせえ。やられたら倍返しってやつだ」

 ふんと鼻で笑って、人混みを避けて小走りで逃げた桜華を追うと首根っこ捕まえて捕獲していた。

「仲良いっすね」
「本当ですね。あんな先輩見れるとは思ってませんでした」
「……」

 南は少し離れた先にいる二人を見つめる。
 何かを言いかけたが、口を一旦閉じて頭を振ってから、東の腕を引いた。

「俺らも行きましょ!腹減ったー」
「そうですね」

 何を食べようか、食べ物で何が好きなのか話をしながら四人はファミレスへと向かった。


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