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四度目の世界

14.

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 龍鵬は桜華と同じ年くらいだろう年下の男の子にキラキラとした目で見つめられていて困惑していた。

「かっけえっすね!」
「お、おう?ありがとな?」

 まるでゲームに出てくる登場人物のようだと南が言った。

(私と同じ反応だ…)

 怖がって嫌がるようだったらどうしようかと焦ったけれど、そんなことがないようで良かった。むしろその逆のようだ。南が楽しそうに会話をする姿を眺めながら桜華は微笑んだ。
 少し三人で会話をしたあと、南がまた連絡を取りたいので龍鵬のIDを教えてくださいと頭を下げて頼んでいて、龍鵬はぐいぐい来る南に若干引き気味にIDを交換をしていた。交換が終わったあと、とても残念そうな南と別れてから龍鵬の家へと戻ってきた。

 龍鵬は桜華が買ってきたものを取り出して冷蔵庫に入れると、着替えてくると自室に戻って行った。
 桜華は必要な野菜を洗って切ったり、野菜や肉を鍋へと入れて炒めて煮込んだりして、一通り調理が終わったところで、着替え終わった龍鵬も戻ってきたので、二人でソファーに座って休む。

 「ちゃんと寝れたか?悪いな…夜中に仕事で呼び出されてよ」
「私こそ、寝ちゃってごめんなさい」

 首を横に振る。横に座っていた龍鵬は、手を伸ばしてきて桜華の頭を撫でると、また昨日と同じように両脇に手を差し込むと、ひょいと持ち上げて自分の膝の上へと桜華を乗せた。

「龍さん!?」
「いいだろ?まだ飯できないんだし、夜中に呼び出されて疲れてよー」

 ぎゅうっと正面から抱きしめられて桜華は赤面した。昨日ので、いくらか耐性がついたとはいえ…龍鵬は男の人だ。恥ずかしいものは恥ずかしい。

「龍さんは…その…よくこうやって女の人をぎゅってするんですか…?」
「するわけねーだろ」
「だって、してるじゃないですか」

 抱きしめてる腕が緩められ、なにを突然言い出すんだという目で見られ、桜華は少し身を離すと龍鵬を首を傾げて不思議そうに見つめ返した。

「言っただろ?お前だからだ。抱き心地良すぎるんだよ」

 そう言って、ふっと微笑むと右手の指で桜華の頬を撫でた。

(う、なんていう破壊力…)

 とても顔が熱い。桜華は龍鵬の素敵すぎる微笑みにやられてしまい両手で顔を隠した。

「嫌か?」

 言葉が出てこなくて、ぶんぶんと首を横に振る。
 龍鵬は、すげー顔が真っ赤だぞと笑って、桜華の頬を指でつついたり、撫でたりして遊ぶので、だんだんムカついてきて、その指をガシッと掴んだ。

「人で遊ぶの、よくない」
「遊んでねぇけどな」
「り、龍さんだって照れるくせにっ!」

 やられっぱなしでたまるかと、桜華は勢い良く龍鵬の首に腕を回して、ぎゅうーっと抱きついた。勢いをつけすぎたのか、龍鵬がソファーの木の枠の部分に頭をゴンっとぶつけた音が聞こえる。

「痛っ…!おまっ、なにやってん…」
「ほら、龍さんだって顔真っ赤じゃないですか!!」

 慌てて龍鵬は引き剥がそうと両手で桜華の腰を掴むが、思っていたよりも桜華の腰は細くて、ふにふにと柔らかい感触に龍鵬はパッと手を離した。
 離せと何度言っても、首に回されてる腕が強まるだけで離れる気配はない。
 「おい」だの「こら」だの困り果てたよう声をかけてくる龍鵬に、桜華は勝ち誇ったように少しだけ離れて、顔を覗き込むようにしながらにんまりと笑った。

「わかった。わかったから一旦離れろ。近すぎだ」
「わざとです」
「お前なぁ…!言っただろ。男は…」
「オオカミなんですよね?知ってます」

 何度も聞いたもんと桜華。
 龍鵬は眉を顰めると、「ふーん」と低い声で言ったものだから、しまった!からかいすぎて怒ってしまったのかな?と首に回す手を離した瞬間、至近距離に龍鵬の顔があった。その背後にちらりと天井が見えて、桜華はソファーに押し倒された状態なのだと理解した。
 後頭部に手があったのと、クッションがある所に押し倒されていたので痛みがなかった。

「知ってんなら話は早いな?」

 とても笑顔だけど、いままでの中で一番低めの声に桜華は焦った。

「お仕置だ」

 そう言いながらブラウスの第二ボタンまで器用に外した。桜華の白い肌が見えて、龍鵬は黙ったまま目を瞑り、その首元に舌を這わせる。

「ひゃ…!」
 
 突然の舌の熱さに驚いて変な声が出たが、今はそんなの気にしてられない。
 龍鵬の名前を呼んでみるが無視され、頭を振って両手で龍鵬の肩を押してはみるもののビクともせず、その間も龍鵬は舌を這わせて、時折ちゅっと音を立てながら肌を何度も吸った。

「んっ…」

 思ったよりも甘い声が出て、桜華はぎゅっと目を閉じ、慌てて両手で口を押さえた。その手にも口付けを落とされ、そっと手を重ねて指を絡められると、ソファーに縫い付けるよう押さえ込まれる。

「な?危険だろう?」

 じっと見つめてくる龍鵬の青い瞳に吸い込まれそうになる。目を細めたと思うと、耳に熱い息を吹き込むように囁いた。

「喰われたくなきゃ無防備に近付くなよ、お嬢さん」

 耳朶を食む。
 ビクッと身を強張らせる桜華を見て大きく溜息をついた。
 龍鵬は起き上がると桜華を引っ張り起こし、再び膝の上に座らせる。こちらを不安そうに見る瞳は赤く潤んでいた。

「なんだ?本当に喰われると思ったのか?」

 首を横に振る桜華。

「龍さんが怒ったのかと」
「まあ、大人を揶揄うもんじゃねえな」

 俺だから良かったけど他の野郎なら襲われてんぞ。そう言って抱きしめると、ぐりぐりと頭を撫でて落ち着かせる。

「私は…」

 されるがままだった桜華が、きゅっと背中の服を掴んで俯いたままポツリと呟いた。その声は小さかったけれど龍鵬の耳には届いたようで、ボンッと音が聞こえてくるほどに顔を赤くさせた。
 最後の最後で桜華が勝ったようだ。
 耐えきれなくなったのか、桜華は龍鵬の肩口に頭を押し付けて、顔を見られないようにとしがみついていた。
 しばらく二人は時が止まったかのように何も喋らず無言でそのままの状態で過ごし、鍋に火をかけっぱなしだった事を思い出した桜華はキッチンへと逃げるように向かった。

「あー…参った…」

 龍鵬はソファーに沈むように腰掛ける。天井を見上げて深く息を吐き出した。
 危なかった。あそこまで脅かすつもりなどなかったのだが、桜華の表情に、ブラウスから覗く肌を見て、止めることが出来なかった。あれ以上は桜華にはまだ早い。自分が傷つけるような事をしでかさなくて良かったと額に手をやった。

(あのお嬢さん、何考えてあんな事言いやがったんだ)

 チラッとキッチンを見ると、桜華はぶつぶつ何か独り言を呟きながら食事の用意をしている。何を言っているのかはここからでは聞こえないが、頬を膨らませたり、恥ずかしそうにしていたり、コロコロと変わる表情を見て可愛らしいと思ってしまう。

(本当に参ったな…)

 じっとしてると余計な事を考えてしまいそうなので、食事の用意を手伝おうとソファーから立ち上がって桜華のいるキッチンへと向かった。


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