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四度目の世界
10.
しおりを挟む桜華は布団に大の字に寝転がると、しばらくの間、ぼんやりと天井を見つめた。
「結局なんも買えてないや」
『夕方に荷物が届きますよ』
「そうだった。冷やさなきゃいけないもの買わなくて良かったなあ…。あーくん、この部屋のサイズを色々と調べることは可能なの?」
『可能です。まとめておきます』
ピロンと、部屋の情報がお知らせに追加された。
(え?一瞬?便利すぎない…?)
メジャーも買ってもらったというのに、これだと使わなさそうだ。ごめんなさいと心の中で龍鵬に謝った。
「ありがとう、あーくん」
前よりも色々と使える機能が確実に増えている。天津が喋ることに気付いたからなのか、それともこの四度目の世界で増えたのか。
魔法も知らないうちに習得してるものがあるし、まだまだよくわからないな。
「今のところ、殺される要素ないし。今度こそ平和に生きれそうで良かった」
幼なじみも、モンスターもいない。家族がいないのは少し寂しいけども…そんなのは慣れている。
西条龍鵬という新たな人に出会ってしまったけれど害はなさそうだった。むしろ、この近所の情報を得れたので感謝だ。
「とりあえずは携帯使えるようにしないと…あーくん、やり方教えてー」
『わかりました。まずは充電しましょう』
「いやいやいや。あーくん、さすがにそれはわかるよ?」
袋から取り出してスマホは充電して、その間にダンボールを片付けられるものは片付けて減らした。途中、ネットスーパーで購入したものも届いて、それも片付けているうちに日が暮れていた。
「携帯も家では使えるし、あとはSimカードが届いたらすぐ使えるようにしたしオッケーかな。あ~、お腹空いたなあ」
『女性の夜の外出は危険とのことですよ』
「そう言ってたね。あ、龍さんにお礼送っておこう」
携帯のアプリを開いて、龍鵬のIDを追加した。
『桜華です。今日は色々ごめんなさい。携帯買ってくれてありがとうございました』
キツネがお辞儀をしているスタンプも一緒に送っておく。
「これでよしと。うーん、なんか食べ物…魔法で出せないの?」
『わかりません』
「ですよねー」
『魔法ではわかりませんが、付近の出前可能な店舗はこちらになります』
画面が表示された。
レストランや蕎麦屋がある。久しぶりの世界で忘れていたけれど、出前なら外に出なくても大丈夫そうだ。
「そんなものもあったねー。久しぶりにピザ食べたい!」
『太りますよ』
「なっ!?」
天津にそんなことを言われるとは思わなかったので、桜華はショックを受けて悲しそうな表情で俯いて溜息をついた。
しかし久しぶりの出前。そんな脅しなど効果はない。
「半分のやつで二種類くらい頼んじゃおー。残ったら明日食べればいいし」
マルゲリータとトロピカル。
桜華は好きだったが、ピザにパイナップル入ってるのが嫌いと最初の母が言っていたので、あまり食べることが出来なかった。食べ残ったとしても、ウォームがあれば問題ないだろう。
ピンポーン。
店舗が近かったのか、混んでいない時間帯だったのか、注文してから1時間もかからずピザが届いたようだ。
「ピザお届けにまいりましたー」
「はーい」
玄関のドアを開けたら、イケメンなお兄さんが笑顔で立っていた。
「え?…っと、こちらになります」
桜華の顔を見て少し驚いた表情をしたけど、一瞬でまた笑顔に戻り、ピザを袋から取り出した。桜華はピザを先に受け取ると、中のキッチンへと箱を置いてから財布を持って玄関に戻る。
「1377円です」
「ちょっとまってくださいね。はい、これで」
「丁度いただき…」
ガッシャーン!!
「うわっ」
「わっ」
ピザ屋にお金を渡し、それを確認していると、隣の家から何かが玄関ドアに投げつけられて割れる音が聞こえてきて、桜華はビクッと飛び上がる。驚いたピザ屋はピザ屋で、小銭を地面に落としてしまった。慌てて小銭を拾い集めるピザ屋を桜華も手伝う。
「最低!帰る!」
「おい、これどうすんだ。片付けてから帰れよ!」
「知らないわよ、このヤリチン野郎!」
「うわっとっと…」
隣のお家から怒鳴り声が聞こえ、ぷりぷり怒りながら飛び出してきたお姉さん。ピザ屋にぶつかっても、無言で睨むだけ睨んで立ち去ってしまった。桜華は拾っ小銭をピザ屋に渡して、お姉さんにぶつかった時に咄嗟に手を添えていたので小銭は無事だった。
「おっかね…」
ピザ屋が立ち去ったお姉さんの後ろ姿を見つめながらボソッと呟いた。
桜華もピザ屋の立つ隙間から顔を覗き出して様子を見ていたら、隣の家のお兄さんと目が合った。
「うるさくして悪いな。無事か?」
「もうピザは受け渡し完了してますので平気です」
ピザ屋は笑顔で答える。桜華もコクコクと頷いた。
隣の家の人は確か北野という大人の人だ。
毎日違うお姉さんを連れ歩いてると、ゴミを出した時に管理人のおばさんが「あなたも年頃の子なんだから気をつけた方がいいわよ」と教えてくれた。
北野もイケメンなお兄さんだなと顔を見ながら桜華は思った。でも龍鵬のほうが格好いいかもしれないとも思う。
「そうか、なら良かった。今度あんたのとこで頼むわ」
「お待ちしてまーす!」
そう言って北野は部屋に入って行った。
「ビックリしましたね。じゃあ、お代頂いたんで俺は店に戻りますね」
頭上から声が聞こえてきて、優しく肩をちょんちょんと突かれた。そういえばピザ屋の隙間から外を見てたことを思い出して、桜華は近すぎたことを謝りながらサッと離れた。
「お疲れ様です」
「あざっしたー」
帽子を脱いで、ぺこっとお辞儀をして去っていくピザ屋。桜華は部屋に戻り、ピザと飲み物をローテーブルに運ぶと床に座る。そのままテーブルに突っ伏して大きく息を吐き出した。
「なんか色々ありすぎ。疲れたなあ」
『また寝落ちはいけませんよ』
「しないよ。お腹空いたもん」
突っ伏したままピザの箱を開けて、そのまま一切れ取り出しすとパクっとひとくち食べた。
『行儀の悪い食べ方はやめたほうが良いです』
「あーくん、うるさいなあ。お母さんみたいなこと言わないで」
『お母さん…』
久しぶりのピザは、とても美味しかった。しかし三切れほど食べたところで満腹になり、もう食べられそうもない。
「保存できるかな」
『食べ物を腐らせない防腐魔法があります』
「私は習得してないよ」
『私がしておきましょう』
天津はそう言うとピザがほんのりと光った。
ええ?あーくん、そんなことも出来るの?
チートじゃん。チートじゃん!?
確かにチート級のスキルを使って生きたいと思ったよ?だけど…だけど、どうして私ではなく、あーくんのほうなの!?
とても便利だ。天津にお礼を伝えるとピザにラップをしてキッチンに置いておいた。
明日は龍鵬と買い物する約束だ。寝坊しないように、もう少し部屋を片付けてから早めに寝ることにした。
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