10 / 82
四度目の世界
9.
しおりを挟む龍鵬に頭を撫でられるのは嫌な感じがしない。むしろ落ち着くかもしれない。
龍鵬のほうを見たら、撫でていた手をパッと離された。桜華は離れていく手を見つめて、嫌とかではないのに残念だなと思ってしまう。
「桜華は買い物すんだろ?何買うんだ?」
「冷蔵庫とか、家具全然揃ってないので買いに行こうかと」
「まだまだこれからなんだな。サイズとか測ってあんのか?」
「サイズ?え?サイズ…??」
「冷蔵庫を置く場所、測っておかねえと入るかわかんねーだろ?だいたいは入るだろうが。棚とかも」
(なにそれ。そんなのはかってないよ?)
サイズの事なんてすっぽ抜けていた。
「あーくん」
『不明。わかりません』
小声で天津に聞いてみたけど、そこはわからないんだなー。そうだよねー。戻ったら調べられるだろうか?と桜華は溜息をついた。
「一旦、家に戻ろう…」
「わからないのかよ。どうせメジャーないだろ?おい兄貴、メジャーも入れといて」
「おう」
「教えてくれてありがとうございます」
教えてくれなきゃ無駄足を踏むところだった。にっこり笑ってお礼を言うと、龍鵬はそっぽを向きながら照れていた。
本当になんだろう、この可愛い生き物。
ぶんぶんと尻尾を振っている幻覚が見えてきそうだ。
「設定とかは充電すりゃいじれるから帰ったらやりな」
「はい」
「引越したばかりなら重いもんも買うんだろ?こいつのこと使えばいい」
おじさんが袋を桜華に渡しながら龍鵬を指差して言う。
「どうせ今は休養中で暇だろ?男手があれば楽できるぞ」
「ああ、暇だけど」
「え?いやいやいや、そこまでしてもらうわけには…って休養中…?」
「仕事でヘマして怪我しただけでなんともないぜ」
「ヘマ…」
どんなお仕事をしているのか想像も出来ず、ゲーム内の殴る蹴る出来事が思い浮かんできて、桜華の顔はみるみる青くなる。
「け、け、怪我してるのに、私ぶつかっちゃった…!」
大丈夫なの?と慌てて龍鵬を見て、どこか痛いところがないか腕や肩を触って確認する。
折れてる?縫ってある?歩くのは普通だったけど。
桜華は顔色を青くしたり赤くしたりして慌てている姿を龍鵬とおじさんはきょとんと見ていた。
「落ち着けよ。なんともないから」
「でも…」
「はっはっは!嬢ちゃん面白いな!龍鵬は丈夫だから平気だろ」
あんまり触んなと肩を掴まれて、桜華を落ち着かせるよう頭を優しく撫でた。
「あーくん」
『西条龍鵬の怪我の状態。主に右腹部打撲。臓器外傷なし』
蹴られたり殴られたりでもしたのだろうか。重症の傷とかではなさそうなので、ほっとした。
「またなんか困ったら来な。安くしてやんぜ」
「ありがとうございます!」
龍鵬が支払いや他の手続きやらをしてくれて、おじさんは桜華にそう言ってきた。桜華はにっこり笑うとお礼を言って頭を下げた。
とりあえずは家に戻って携帯の設定をしよう。
「龍さんも、ありがとうございます」
「いいって。俺のせいだし。んじゃ、桜華ん家いくか」
「…へ?なんで?」
「なんでって確認しなきゃだろ?」
サイズを測ったりするのは、ひとりじゃ難しいだろうから手伝ってやるよと言って家の方へと向かおうとしている。
そんな龍鵬の腕を掴み、桜華は首をぶんぶんと横に振った。
「それはひとりで出来ますよ。怪我人なんだから!おうちで大人しくしないと!」
「なんともな…痛ってぇ!」
ひとりで出来なかったら、魔法や天津に頼れば、たぶんなんとかなるだろう。
桜華は龍鵬のお腹辺りに思い切り抱き着いた。
ぎゅっと。ぎゅぎゅっと。
強めに抱きしめてしまったからか、龍鵬が思ったよりも痛がったので、桜華は慌てて離れて心配そうに背中をさすった。
「や、やっぱ痛いんじゃないですか!」
「痛くない!それよりもお前、いま抱きつ…」
「なんですか?あれくらいで痛がるようじゃ重いもんなんて無理ですね!」
「はあ?無理じゃねえし。ほら!」
「うわあ!!ちょっ…なん…!?」
何してるの!?
龍鵬が桜華を米俵でも担いでいるように、ひょいっと持ち上げる。
離してほしくてジタバタと足を動かすけど、龍鵬は降ろそうとしないので周囲の人達の視線が痛い。早く降りなければと焦る桜華。
「ちょっ、龍さん!」
「暴れると痛いかもな?」
「う……」
ジタバタしたら怪我したとろこに響くかもしれない。諦めて動きをとめて大人しくしたら、笑いながら担ぐのをやめて普通の抱っこ状態にしてくれた。
(いや、そこは降ろしてよ。普通に恥ずかしいから)
どこに手をやればいいのかわからず、桜華はあたふたしながら怒鳴った。
「子供じゃないんで歩けます!!」
「まだまだ子供だ。ぴよぴよー」
「うぐっ」
ぴよぴよって何?なんでそのチョイスなの!?
すごい笑顔で言うじゃん。この人、萌え殺そうとしてるんだろうか?
桜華は不意打ちの萌え攻撃をくらってしまってドキドキしてしまい、思わず胸をおさえた。
「悪い、急に持ち上げたから気持ち悪くなったか?」
「違う!大丈夫ですから早く降ろしてってば!」
仕方ねえなと言いながら降ろしてくれた。
「言っただろ。男はオオカミなんだから無闇に抱きつくんじゃねえよ」
襲われても知らねえぞと額にデコピンを食らった。手加減してくれたようだが、ペチッといい音がした。いたい。
「明日、暇か?」
「片付けるくらいで、特になにもないです」
「寸法測っておけ。安い場所教えてやるから一緒に行ってやる。それくらいなら良いだろ?」
この辺りのことは任しておけと胸を張りながら自信満々に言う龍鵬。今日みたいなおじさんの所が色々あるという事だろうか?安く手に入るなら、それは嬉しいけども迷惑じゃないのだろうか。
「龍さんが無理をしないなら…」
「決まりだな。んなら俺ん家から通り道だし迎えに行く。オートロック?」
「ううん」
「女ならオートロックのとこ選べよ…あぶねえな」
生き返ったら、家があそこだったのだから、どう選んだのかもわからない。それを言ったところで龍鵬がわかるわけもないので桜華は苦笑した。
それにしても今回ここに生き返る前…この世界での記憶がまったくない。
これまでどう過ごしたのかという記憶がないので、どこで生まれ育ったのかとか、誰が知り合いなのかとかもわからない状態だ。両親のことすらわからないので引越してきたという状況は、ある意味助かっている。
桜華は龍鵬に近所に何があるのか教えてもらいながら家まで送ってもらった。
視線は痛かったけれど、慣れてくると麻痺するのか視線など気にならなくなった。慣れってすごい。
「じゃ、また明日な」
別れ際に桜華が貰った龍鵬の名刺の裏にメッセージアプリのIDを教えてもらい、繋がったら登録しておけと書いてくれた。
10
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定

竜王の花嫁は番じゃない。
豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」
シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。
──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

【完】お義母様そんなに嫁がお嫌いですか?でも安心してください、もう会う事はありませんから
咲貴
恋愛
見初められ伯爵夫人となった元子爵令嬢のアニカは、夫のフィリベルトの義母に嫌われており、嫌がらせを受ける日々。
そんな中、義父の誕生日を祝うため、とびきりのプレゼントを用意する。
しかし、義母と二人きりになった時、事件は起こった……。

愛されなかった公爵令嬢のやり直し
ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。
母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。
婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。
そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。
どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。
死ぬ寸前のセシリアは思う。
「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。
目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。
セシリアは決意する。
「自分の幸せは自分でつかみ取る!」
幸せになるために奔走するセシリア。
だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。
小説家になろう様にも投稿しています。
タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。


婚約破棄されなかった者たち
ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。
令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。
第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。
公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。
一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。
その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。
ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる