平和に生き残りたいだけなんです

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四度目の世界

9.

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 龍鵬に頭を撫でられるのは嫌な感じがしない。むしろ落ち着くかもしれない。
 龍鵬のほうを見たら、撫でていた手をパッと離された。桜華は離れていく手を見つめて、嫌とかではないのに残念だなと思ってしまう。

「桜華は買い物すんだろ?何買うんだ?」
「冷蔵庫とか、家具全然揃ってないので買いに行こうかと」
「まだまだこれからなんだな。サイズとか測ってあんのか?」
「サイズ?え?サイズ…??」
「冷蔵庫を置く場所、測っておかねえと入るかわかんねーだろ?だいたいは入るだろうが。棚とかも」
(なにそれ。そんなのはかってないよ?)

 サイズの事なんてすっぽ抜けていた。

「あーくん」
『不明。わかりません』

 小声で天津に聞いてみたけど、そこはわからないんだなー。そうだよねー。戻ったら調べられるだろうか?と桜華は溜息をついた。

「一旦、家に戻ろう…」
「わからないのかよ。どうせメジャーないだろ?おい兄貴、メジャーも入れといて」
「おう」
「教えてくれてありがとうございます」

 教えてくれなきゃ無駄足を踏むところだった。にっこり笑ってお礼を言うと、龍鵬はそっぽを向きながら照れていた。
 本当になんだろう、この可愛い生き物。
 ぶんぶんと尻尾を振っている幻覚が見えてきそうだ。

「設定とかは充電すりゃいじれるから帰ったらやりな」
「はい」
「引越したばかりなら重いもんも買うんだろ?こいつのこと使えばいい」

 おじさんが袋を桜華に渡しながら龍鵬を指差して言う。

「どうせ今は休養中で暇だろ?男手があれば楽できるぞ」
「ああ、暇だけど」
「え?いやいやいや、そこまでしてもらうわけには…って休養中…?」
「仕事でヘマして怪我しただけでなんともないぜ」
「ヘマ…」

 どんなお仕事をしているのか想像も出来ず、ゲーム内の殴る蹴る出来事が思い浮かんできて、桜華の顔はみるみる青くなる。

「け、け、怪我してるのに、私ぶつかっちゃった…!」

 大丈夫なの?と慌てて龍鵬を見て、どこか痛いところがないか腕や肩を触って確認する。
 折れてる?縫ってある?歩くのは普通だったけど。
 桜華は顔色を青くしたり赤くしたりして慌てている姿を龍鵬とおじさんはきょとんと見ていた。

「落ち着けよ。なんともないから」
「でも…」
「はっはっは!嬢ちゃん面白いな!龍鵬は丈夫だから平気だろ」

 あんまり触んなと肩を掴まれて、桜華を落ち着かせるよう頭を優しく撫でた。

「あーくん」
『西条龍鵬の怪我の状態。主に右腹部打撲。臓器外傷なし』

 蹴られたり殴られたりでもしたのだろうか。重症の傷とかではなさそうなので、ほっとした。

「またなんか困ったら来な。安くしてやんぜ」
「ありがとうございます!」

 龍鵬が支払いや他の手続きやらをしてくれて、おじさんは桜華にそう言ってきた。桜華はにっこり笑うとお礼を言って頭を下げた。
 とりあえずは家に戻って携帯の設定をしよう。

「龍さんも、ありがとうございます」
「いいって。俺のせいだし。んじゃ、桜華ん家いくか」
「…へ?なんで?」
「なんでって確認しなきゃだろ?」

 サイズを測ったりするのは、ひとりじゃ難しいだろうから手伝ってやるよと言って家の方へと向かおうとしている。
 そんな龍鵬の腕を掴み、桜華は首をぶんぶんと横に振った。

「それはひとりで出来ますよ。怪我人なんだから!おうちで大人しくしないと!」
「なんともな…痛ってぇ!」

 ひとりで出来なかったら、魔法や天津に頼れば、たぶんなんとかなるだろう。
 桜華は龍鵬のお腹辺りに思い切り抱き着いた。
 ぎゅっと。ぎゅぎゅっと。
 強めに抱きしめてしまったからか、龍鵬が思ったよりも痛がったので、桜華は慌てて離れて心配そうに背中をさすった。

「や、やっぱ痛いんじゃないですか!」
「痛くない!それよりもお前、いま抱きつ…」
「なんですか?あれくらいで痛がるようじゃ重いもんなんて無理ですね!」
「はあ?無理じゃねえし。ほら!」
「うわあ!!ちょっ…なん…!?」

 何してるの!?
 龍鵬が桜華を米俵でも担いでいるように、ひょいっと持ち上げる。
 離してほしくてジタバタと足を動かすけど、龍鵬は降ろそうとしないので周囲の人達の視線が痛い。早く降りなければと焦る桜華。

「ちょっ、龍さん!」
「暴れると痛いかもな?」
「う……」

 ジタバタしたら怪我したとろこに響くかもしれない。諦めて動きをとめて大人しくしたら、笑いながら担ぐのをやめて普通の抱っこ状態にしてくれた。

(いや、そこは降ろしてよ。普通に恥ずかしいから)

 どこに手をやればいいのかわからず、桜華はあたふたしながら怒鳴った。

「子供じゃないんで歩けます!!」
「まだまだ子供だ。ぴよぴよー」
「うぐっ」

 ぴよぴよって何?なんでそのチョイスなの!?
 すごい笑顔で言うじゃん。この人、萌え殺そうとしてるんだろうか?
 桜華は不意打ちの萌え攻撃をくらってしまってドキドキしてしまい、思わず胸をおさえた。

「悪い、急に持ち上げたから気持ち悪くなったか?」
「違う!大丈夫ですから早く降ろしてってば!」

 仕方ねえなと言いながら降ろしてくれた。

「言っただろ。男はオオカミなんだから無闇に抱きつくんじゃねえよ」

 襲われても知らねえぞと額にデコピンを食らった。手加減してくれたようだが、ペチッといい音がした。いたい。

「明日、暇か?」
「片付けるくらいで、特になにもないです」
「寸法測っておけ。安い場所教えてやるから一緒に行ってやる。それくらいなら良いだろ?」

 この辺りのことは任しておけと胸を張りながら自信満々に言う龍鵬。今日みたいなおじさんの所が色々あるという事だろうか?安く手に入るなら、それは嬉しいけども迷惑じゃないのだろうか。

「龍さんが無理をしないなら…」
「決まりだな。んなら俺ん家から通り道だし迎えに行く。オートロック?」
「ううん」
「女ならオートロックのとこ選べよ…あぶねえな」

 生き返ったら、家があそこだったのだから、どう選んだのかもわからない。それを言ったところで龍鵬がわかるわけもないので桜華は苦笑した。

 それにしても今回ここに生き返る前…この世界での記憶がまったくない。
 これまでどう過ごしたのかという記憶がないので、どこで生まれ育ったのかとか、誰が知り合いなのかとかもわからない状態だ。両親のことすらわからないので引越してきたという状況は、ある意味助かっている。

 桜華は龍鵬に近所に何があるのか教えてもらいながら家まで送ってもらった。
 視線は痛かったけれど、慣れてくると麻痺するのか視線など気にならなくなった。慣れってすごい。

「じゃ、また明日な」

 別れ際に桜華が貰った龍鵬の名刺の裏にメッセージアプリのIDを教えてもらい、繋がったら登録しておけと書いてくれた。


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