9 / 82
四度目の世界
8.
しおりを挟む(わあ、すっごい見られてる!)
チラチラとした視線があちこちから感じる。平然と歩いていく龍鵬の背中を眺めながら歩くこと五分ほど経つが、会話という会話はなかった。
黒スーツに黒いサングラス。派手な柄のシャツに赤いネクタイ。茶色がかった黒髪は肩くらいまでの長さで、ひとつにまとめて結っている。見たまんまチンピラって感じだから一際目立つ。
「そんなに珍しいか?」
「えっ」
「そんなに見られると照れるんだが…」
ぽりぽりと頬を掻きながら桜華の方を見てくる。耳がほんのり少し赤くなっていて…この厳つさと図体に似合わず可愛いとか…これがギャップ萌え?ってやつだろうかと桜華は小さく呻いた。
「ごめんなさい。龍さんみたいな人、初めてで…。ゲームの中の人みたい」
とても萌えますなんて本人に言えず、カタコトになりながら思ったことをそのまんま言ってしまい、しまったと桜華は慌てて口をおさえた。
「ゲームか。〇〇シリーズはカッケェよなー」
「し…知ってる!2と3はやったよ!」
「渋いの知ってんのな。2の主人公、最後のやつは泣けるよな。最新のやつも面白いぜ」
もともとゲームは好きだった。久しぶりに懐かしいゲームの名前を聞いて嬉しくなった。話が通じるって素敵だ。
「ここだ、ここ」
龍鵬が店の中に入っていくので、桜華は後から着いて入って行く。
小さな細い階段を降りていくと、ごちゃっと並べられる沢山の品物。携帯やパソコン、音楽プレーヤー。電子系のパーツとか見たことも知らないやつもあった。
沢山のものが広いとはいえないフロアに、ぎゅうぎゅうに積み上げられている。
「客が来たぞ、兄貴」
龍鵬がカウンターの奥にいるスキンヘッドのおじさんに話しかけた。イスに座って新聞を読んでいたのか、ガサゴソたたみながら立ち上がると傍に寄ってくると桜華をチラッと見てから龍鵬を見てニヤニヤ笑った。
「龍鵬か。なんだ珍しく可愛い客だな」
「このお嬢さんにスマホ売ってくれ。俺が落としたの蹴って壊しちまった」
「災難だったな。どこのやつだ?」
「△△のとこのやつ契約してました」
「そのパソコン使っていいから契約してるところからSiM再発行してもらえ。対応してんのは…あったかな。見てくるから待ってろ」
カウンターから出て、店のフロアのダンボールやらを漁り始めたおじさん。桜華はあったイスに座ってパソコン画面を見て、SiMの再発行の手続きをすることにした。背後から龍鵬が覗き込んできて教えてくれた。
「桜華か、いい名前だな」
「字画多いので面倒ですけどね」
「わかる。俺もそうだ。その住所ってことは、この近くに住んでるのか?」
「はい。引越してきたんです」
「その辺、夜は気を付けろ。裏に入ると飲み屋が多いから酔っ払いが多い」
「え、やだなあ…コンビニ行けないじゃん」
気軽に買い物に行けないのは辛い。酔っ払いほど絡まれると面倒なものはない。どうせ酔ってるなら魔法使って成敗しちゃってもいいんだけど…成敗できる魔法なんて習得していただろうか?と桜華は首を傾げた。後で天津に聞いておくことにした。
「なんだ?一人暮らしか?」
「この前、両親が事故で亡くなって」
「そうか、そんで引越してきたのか。ガキなのに大変だな」
大きい掌がガシガシと頭を撫でてくる。
桜華のことをガキというが、龍鵬も歳が近い気がするんだけど?と桜華はムッスリと頬をふくらませた。
横を見たら、思ったよりも龍鵬の顔が近くにあって桜華は驚いたが、サングラスを外した龍鵬の瞳は青く輝いていて思わず見とれる。
「カラコン…?」
「ハーフだからだな」
「わあ、キレイ!」
「ッ…!」
龍鵬の瞳がビー玉みたいにキラキラしていて、目を覗き込んでしまった。すると龍鵬の顔がみるみる赤くなっていき、両肩を掴まれて身を離された。
「お、男はオオカミなんだ。そんな無防備に近付くんじゃねーよ」
「オオカミ…」
桜華は龍鵬の場合は大型犬のような気もするけど…?と思ったが黙っておくことにした。
「△△なら、使えるやつはこれぐらいだな。最新のは取り寄せれば手に入るぞ」
おじさんが戻ってくると、ダンボールから色々と取り出してきたものをカウンターの上に、ガサガサと置いた。思っていたよりも種類が多い。どれがいいのか分からないので手に取って見てみる。
「どれがいいんだろう」
『調べましょうか?』
天津が聞いてきたので首を振った。スマホがない今、天津に話しかけるのは二人がいるから無理だ。
「新しいやつは、んー。こんな感じだな。この順で、これはお勧めできん」
「そんなもん売ってるなよ」
迷っている桜華を見かねて、おじさんがわかりやすいように順番に並べてくれた。どれも画面が大きいし軽くて使いやすそうだ。
「電話とかカメラあんまり使わないし…音楽聴いてられるやつ」
「なら、これとこれだな。色は白、黒、赤、青」
「こっちかな…白いので」
「それじゃあ、そいつで用意してくるから待ってな」
本当にサクッと決まってしまった。でも値段とか書いてなかったことに大丈夫なのか不安で龍鵬のほうをみたら、桜華が何が言いたいのか気付いたらしく、ニッと笑って「心配すんな」と言うと、わしゃわしゃと乱暴に頭を撫でられた。
10
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。


王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる