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四度目の世界

8.

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(わあ、すっごい見られてる!)

 チラチラとした視線があちこちから感じる。平然と歩いていく龍鵬の背中を眺めながら歩くこと五分ほど経つが、会話という会話はなかった。
 黒スーツに黒いサングラス。派手な柄のシャツに赤いネクタイ。茶色がかった黒髪は肩くらいまでの長さで、ひとつにまとめて結っている。見たまんまチンピラって感じだから一際目立つ。

「そんなに珍しいか?」
「えっ」
「そんなに見られると照れるんだが…」

 ぽりぽりと頬を掻きながら桜華の方を見てくる。耳がほんのり少し赤くなっていて…この厳つさと図体に似合わず可愛いとか…これがギャップ萌え?ってやつだろうかと桜華は小さく呻いた。

「ごめんなさい。龍さんみたいな人、初めてで…。ゲームの中の人みたい」

 とても萌えますなんて本人に言えず、カタコトになりながら思ったことをそのまんま言ってしまい、しまったと桜華は慌てて口をおさえた。

「ゲームか。〇〇シリーズはカッケェよなー」
「し…知ってる!2と3はやったよ!」
「渋いの知ってんのな。2の主人公、最後のやつは泣けるよな。最新のやつも面白いぜ」

 もともとゲームは好きだった。久しぶりに懐かしいゲームの名前を聞いて嬉しくなった。話が通じるって素敵だ。

「ここだ、ここ」

 龍鵬が店の中に入っていくので、桜華は後から着いて入って行く。
 小さな細い階段を降りていくと、ごちゃっと並べられる沢山の品物。携帯やパソコン、音楽プレーヤー。電子系のパーツとか見たことも知らないやつもあった。
 沢山のものが広いとはいえないフロアに、ぎゅうぎゅうに積み上げられている。

「客が来たぞ、兄貴」

 龍鵬がカウンターの奥にいるスキンヘッドのおじさんに話しかけた。イスに座って新聞を読んでいたのか、ガサゴソたたみながら立ち上がると傍に寄ってくると桜華をチラッと見てから龍鵬を見てニヤニヤ笑った。

「龍鵬か。なんだ珍しく可愛い客だな」
「このお嬢さんにスマホ売ってくれ。俺が落としたの蹴って壊しちまった」
「災難だったな。どこのやつだ?」
「△△のとこのやつ契約してました」
「そのパソコン使っていいから契約してるところからSiM再発行してもらえ。対応してんのは…あったかな。見てくるから待ってろ」

 カウンターから出て、店のフロアのダンボールやらを漁り始めたおじさん。桜華はあったイスに座ってパソコン画面を見て、SiMの再発行の手続きをすることにした。背後から龍鵬が覗き込んできて教えてくれた。

「桜華か、いい名前だな」
「字画多いので面倒ですけどね」
「わかる。俺もそうだ。その住所ってことは、この近くに住んでるのか?」
「はい。引越してきたんです」
「その辺、夜は気を付けろ。裏に入ると飲み屋が多いから酔っ払いが多い」
「え、やだなあ…コンビニ行けないじゃん」

 気軽に買い物に行けないのは辛い。酔っ払いほど絡まれると面倒なものはない。どうせ酔ってるなら魔法使って成敗しちゃってもいいんだけど…成敗できる魔法なんて習得していただろうか?と桜華は首を傾げた。後で天津に聞いておくことにした。

「なんだ?一人暮らしか?」
「この前、両親が事故で亡くなって」
「そうか、そんで引越してきたのか。ガキなのに大変だな」

 大きい掌がガシガシと頭を撫でてくる。
 桜華のことをガキというが、龍鵬も歳が近い気がするんだけど?と桜華はムッスリと頬をふくらませた。
 横を見たら、思ったよりも龍鵬の顔が近くにあって桜華は驚いたが、サングラスを外した龍鵬の瞳は青く輝いていて思わず見とれる。

「カラコン…?」
「ハーフだからだな」
「わあ、キレイ!」
「ッ…!」

 龍鵬の瞳がビー玉みたいにキラキラしていて、目を覗き込んでしまった。すると龍鵬の顔がみるみる赤くなっていき、両肩を掴まれて身を離された。

「お、男はオオカミなんだ。そんな無防備に近付くんじゃねーよ」
「オオカミ…」

桜華は龍鵬の場合は大型犬のような気もするけど…?と思ったが黙っておくことにした。

「△△なら、使えるやつはこれぐらいだな。最新のは取り寄せれば手に入るぞ」

 おじさんが戻ってくると、ダンボールから色々と取り出してきたものをカウンターの上に、ガサガサと置いた。思っていたよりも種類が多い。どれがいいのか分からないので手に取って見てみる。

「どれがいいんだろう」
『調べましょうか?』

 天津が聞いてきたので首を振った。スマホがない今、天津に話しかけるのは二人がいるから無理だ。

「新しいやつは、んー。こんな感じだな。この順で、これはお勧めできん」
「そんなもん売ってるなよ」

 迷っている桜華を見かねて、おじさんがわかりやすいように順番に並べてくれた。どれも画面が大きいし軽くて使いやすそうだ。

「電話とかカメラあんまり使わないし…音楽聴いてられるやつ」
「なら、これとこれだな。色は白、黒、赤、青」
「こっちかな…白いので」
「それじゃあ、そいつで用意してくるから待ってな」

 本当にサクッと決まってしまった。でも値段とか書いてなかったことに大丈夫なのか不安で龍鵬のほうをみたら、桜華が何が言いたいのか気付いたらしく、ニッと笑って「心配すんな」と言うと、わしゃわしゃと乱暴に頭を撫でられた。
 

   
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