8 / 82
四度目の世界
7.
しおりを挟む昨日、天津がどれが安いかをまとめてくれたものを見ることが出来なかったので携帯に転送してもらい、値段を比較しながら駅前へと向かっていた。
「店のほうが高いのが多い…」
過去今までで、こうして家電など自分で購入した事がなかったのでわからなかったが、結構高いものなんだなと思った。
「ものを見て良さそうだったらネットで購入しよう」
『わかりました』
ピロンとアプリが鳴る。天津が見るものを店ごとにまとめてくれたようだった。相変わらず仕事が早い…。桜華は天津にありがとうのスタンプを送っておいた。
とりあえずは電気屋さんに行くことにする。電気屋は、この角を左に曲がればあったはずだ。
曲がったところで、ドンと誰かにぶつかった。
「あっ…」
「うおっ」
ぶつかった衝撃で、手にしていた携帯が地面に落ちる。落ちた携帯を、その人がタイミングよく蹴っ飛ばしてしまい、道路の方へと音を立てて滑っていった。
「あ、あ、あぁぁぁあ~!携帯があ…!」
「あぶねえ!」
慌てて取りに行こうと道路に飛び出そうとした桜華をその人は咄嗟に腕を掴んでとめた。車はそんなものに気付くわけもなく、ガリ!グシャッ!っと嫌な音を立てて携帯は粉々に壊れた。
『修復不可能』
「そんなの見ればわかるよ!」
事故とはいえ、なんてタイミングの悪い…。
転移して二日目にしてもう携帯を壊してしまったことが、だいぶショックで顔を覆って俯いた。
「おい」
背後から声が聞こえて、ぶつかった人の存在を忘れていたことに気付いて慌てて振り向いた。
(ひ、ひぇっ…!)
なんかこんな人を某ちんぴらのゲームで見たことがあるかもしれない。
「おい、大丈夫か?あんたのスマホ、蹴飛ばしちまった…」
返事もせず、ぼけっと見つめていたら、黒いスーツでポニテの男が心配そうに、少しサングラスをずらして桜華の顔を覗き込んできた。
「あ、ぶつかってすみません!」
「いや、俺の方こそ悪い…あんたのスマホが…」
二人一緒になって無惨な姿になった携帯を見つめた。車が通るたびに、パキパキ音が鳴っている。
パンクしそうだから信号が変わって車が通らなくなったタイミングで、二人で拾えそうな部分だけ素早く拾い集めた。
(よく考えたら、あのまま飛び出してたら、四度目の命、この携帯みたいにぺちゃんこで終わってたんじゃない?)
こわ…!こっわ…!!
お兄さんありがとうございますと、桜華は心の中でお礼を言った。
「本当ありがとうございます…」
「データとか、大事な写真とかあったろ」
「データ…」
『バックアップ済です』
「大丈夫です!家にありますので!」
さすがあーくん。
ちゃんと触っていないため、大事なデータがあったかもわからないけども。
男はすまなそうに桜華が手にしているスマホの残骸を見つめて声をかけてきた。
「弁償する」
「え?いいです、大丈夫です」
「ないと困るだろ?」
ぶんぶんと首と手を振って断る。
そんな様子の桜華たちをチラチラと見つめながら通り過ぎていく人たち。傍から見ればチンピラに絡まれる女に見えてしまうのだろうか。
話してる感じからは、そんな怖いとは思わない。
飛び出そうとした桜華をとめてくれたし、その後も放置するわけでもなく、弁償してくれるというこの優しい人を、そんな風に見られるのも嫌だったので、さっさと断ってこの場を離れようと声をかけた。
「あの弁償とか大丈夫ですから」
「そんなの俺の気がすまねぇからよ。これから時間ないか?」
「え?いや、その、買い物するだけだけど…」
「なら駅前だろ?そっちのほうに店あるからついでに選んじまえよ。高くてもいいぞ」
「いやいやいや」
「学生ぐらいだろ?ガキが遠慮すんな」
そうか。この世界ではまだ成人してなかったな。このお兄さんからみたら私なんてガキかもしれないけど。
「し、知らない人に着いていってはダメです!」
力いっぱい言いすぎたかもしれない。だが、これで諦めてくれるだろう。
「ぶはっ」
きょとんとした顔で数秒ほど見つめてきたと思ったら、突然吹き出してゲラゲラと笑いはじめた。
「えらいな、お前」
ゴソゴソと上着の内ポケットから何かを取り出して、桜華に差し出して渡してきた。
「名刺?」
名刺には会社の名前、住所、電話番号などが書かれており、名前は西条龍鵬と書かれていた。
「さいじょうりゅう…りゅう…?りゅうなんとか…?」
『りゅうほうと読みますね』
読めずに首を傾げたら、天津が教えてくれた。
「龍でいいよ。ほら、これで知らない人じゃないだろ?」
「でも…」
「ほら、行くぞ」
ぽんぽんと大きな手が優しく背中を叩く。
諦めて桜華は龍鵬と一緒に駅の方へと歩き出した。
10
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。

三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる