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四度目の世界
7.
しおりを挟む昨日、天津がどれが安いかをまとめてくれたものを見ることが出来なかったので携帯に転送してもらい、値段を比較しながら駅前へと向かっていた。
「店のほうが高いのが多い…」
過去今までで、こうして家電など自分で購入した事がなかったのでわからなかったが、結構高いものなんだなと思った。
「ものを見て良さそうだったらネットで購入しよう」
『わかりました』
ピロンとアプリが鳴る。天津が見るものを店ごとにまとめてくれたようだった。相変わらず仕事が早い…。桜華は天津にありがとうのスタンプを送っておいた。
とりあえずは電気屋さんに行くことにする。電気屋は、この角を左に曲がればあったはずだ。
曲がったところで、ドンと誰かにぶつかった。
「あっ…」
「うおっ」
ぶつかった衝撃で、手にしていた携帯が地面に落ちる。落ちた携帯を、その人がタイミングよく蹴っ飛ばしてしまい、道路の方へと音を立てて滑っていった。
「あ、あ、あぁぁぁあ~!携帯があ…!」
「あぶねえ!」
慌てて取りに行こうと道路に飛び出そうとした桜華をその人は咄嗟に腕を掴んでとめた。車はそんなものに気付くわけもなく、ガリ!グシャッ!っと嫌な音を立てて携帯は粉々に壊れた。
『修復不可能』
「そんなの見ればわかるよ!」
事故とはいえ、なんてタイミングの悪い…。
転移して二日目にしてもう携帯を壊してしまったことが、だいぶショックで顔を覆って俯いた。
「おい」
背後から声が聞こえて、ぶつかった人の存在を忘れていたことに気付いて慌てて振り向いた。
(ひ、ひぇっ…!)
なんかこんな人を某ちんぴらのゲームで見たことがあるかもしれない。
「おい、大丈夫か?あんたのスマホ、蹴飛ばしちまった…」
返事もせず、ぼけっと見つめていたら、黒いスーツでポニテの男が心配そうに、少しサングラスをずらして桜華の顔を覗き込んできた。
「あ、ぶつかってすみません!」
「いや、俺の方こそ悪い…あんたのスマホが…」
二人一緒になって無惨な姿になった携帯を見つめた。車が通るたびに、パキパキ音が鳴っている。
パンクしそうだから信号が変わって車が通らなくなったタイミングで、二人で拾えそうな部分だけ素早く拾い集めた。
(よく考えたら、あのまま飛び出してたら、四度目の命、この携帯みたいにぺちゃんこで終わってたんじゃない?)
こわ…!こっわ…!!
お兄さんありがとうございますと、桜華は心の中でお礼を言った。
「本当ありがとうございます…」
「データとか、大事な写真とかあったろ」
「データ…」
『バックアップ済です』
「大丈夫です!家にありますので!」
さすがあーくん。
ちゃんと触っていないため、大事なデータがあったかもわからないけども。
男はすまなそうに桜華が手にしているスマホの残骸を見つめて声をかけてきた。
「弁償する」
「え?いいです、大丈夫です」
「ないと困るだろ?」
ぶんぶんと首と手を振って断る。
そんな様子の桜華たちをチラチラと見つめながら通り過ぎていく人たち。傍から見ればチンピラに絡まれる女に見えてしまうのだろうか。
話してる感じからは、そんな怖いとは思わない。
飛び出そうとした桜華をとめてくれたし、その後も放置するわけでもなく、弁償してくれるというこの優しい人を、そんな風に見られるのも嫌だったので、さっさと断ってこの場を離れようと声をかけた。
「あの弁償とか大丈夫ですから」
「そんなの俺の気がすまねぇからよ。これから時間ないか?」
「え?いや、その、買い物するだけだけど…」
「なら駅前だろ?そっちのほうに店あるからついでに選んじまえよ。高くてもいいぞ」
「いやいやいや」
「学生ぐらいだろ?ガキが遠慮すんな」
そうか。この世界ではまだ成人してなかったな。このお兄さんからみたら私なんてガキかもしれないけど。
「し、知らない人に着いていってはダメです!」
力いっぱい言いすぎたかもしれない。だが、これで諦めてくれるだろう。
「ぶはっ」
きょとんとした顔で数秒ほど見つめてきたと思ったら、突然吹き出してゲラゲラと笑いはじめた。
「えらいな、お前」
ゴソゴソと上着の内ポケットから何かを取り出して、桜華に差し出して渡してきた。
「名刺?」
名刺には会社の名前、住所、電話番号などが書かれており、名前は西条龍鵬と書かれていた。
「さいじょうりゅう…りゅう…?りゅうなんとか…?」
『りゅうほうと読みますね』
読めずに首を傾げたら、天津が教えてくれた。
「龍でいいよ。ほら、これで知らない人じゃないだろ?」
「でも…」
「ほら、行くぞ」
ぽんぽんと大きな手が優しく背中を叩く。
諦めて桜華は龍鵬と一緒に駅の方へと歩き出した。
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