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四度目の世界
4.
しおりを挟む機械のナビのおかげで特に問題なく自宅に辿り着けた。
見た目の割には、しっかりとした小さなアパートにひとりで住んでいるようだった。というより、引っ越したばかりのようで、ダンボールが積まれているだけで部屋には何も無い。
「家具とか買わないと…。機械さん、通販と家具屋どっちがいいと思う?」
『わかりません』
「だよねー。ここから近い家具屋は?」
『徒歩15分ほどの店が一番近いです』
「なら、そこで揃えようかな」
所持金などは贅沢をしなければ生きていける程度にはあるようだった。チート級がいいと言ったからだろうか?…いやいや、まさか。そんなわけないよね。
「家電屋もいかないと…駅の前に色々あったし、家具屋もそっちだから行こうかな」
ローテーブルの上にあったメモとペンで買う物をスラスラと書いていく。思ったよりも多い。
「ネットスーパーみたいなのあるのかな?」
『この地域であれば二件ほど』
「どっちがいい?」
『こちらのほうが比較的に安めかと』
ネットスーパーのページが表示された。桜華は表示されたページをきょとんと見つめた。いつものように『わかりません』と答えられるかと思っていたけれど、ちゃんと答えられたことに少し驚いてしまう。
機械も、成長…するとか…?
少しあれこれ考えては見たが、こういう機能とかには疎いから気にしても仕方ないのでレベルアップしていくものとしておこう。
日常品や飲料、細々とした必要な物を沢山頼んで、明日の夜に届くよう注文して家を出た。
静かな住宅街。
ちょっと歩いたところには、昔ながらの商店街。その先に行くと駅の近くだから賑わっている。八百屋とかもあるみたいだし、帰りに少し食料も買っていこうかなと近所を散策しながら歩いた。
「前のところより利便性は高いし住みやすそう」
『それは良かったです』
「……」
独り言のつもりで呟いたのだが、機械が返事をした。
「喋れるの?」
『可能です』
「今まで喋らなかったじゃん」
『必要とされなかったので』
はあ?なんだそれ?と思わず足を止めて立ち止まったことにより、背後から歩いていた男性にぶつかってしまった。慌てて謝ると男性は舌打ちをして追い抜いて歩いて去っていく。苦笑をして、邪魔にならないよう歩道の端に寄り、再びゆっくりと歩いた。
(必要としていなかったわけではない。必要かと言われれば必要な場面ばかりでしたけど?)
そんな機能あるなら、さっさと教えてほしかった。
そしたら…多少は…。
多少は?生き残れただろうか?
いやいや。機械を使いこなせていたとしても、あんなの生き残れるはずがない。やめよう。こんなことを考えても仕方ないことだろうと桜華は頭を振った。
というか機械は人工知能というやつなのだろうか?
会話ができるとか、中身は人間?いや二度目と三度目の時も、この機能は使用していた。人間ではないはずだ。
「話しかけてもいいの?」
『どうぞ』
「わかった。ありがとう。機械さんも話してくれると寂しくないかも」
『…わかりました』
素っ気ない返事ではあるけど、会話ができることが嬉しい。
森でひとりで住んでいた時もそうだし、今回もまたひとりで住むことになりそうだし、この機能があると少しは寂しさが紛れる。良い新たな機能が追加されたと思えばいい。そう頷いて桜華は再び駅前へと向かって歩き始めた。
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