平和に生き残りたいだけなんです

🐶

文字の大きさ
上 下
5 / 82
四度目の世界

4.

しおりを挟む

 機械のナビのおかげで特に問題なく自宅に辿り着けた。
 見た目の割には、しっかりとした小さなアパートにひとりで住んでいるようだった。というより、引っ越したばかりのようで、ダンボールが積まれているだけで部屋には何も無い。

「家具とか買わないと…。機械さん、通販と家具屋どっちがいいと思う?」
『わかりません』
「だよねー。ここから近い家具屋は?」
『徒歩15分ほどの店が一番近いです』
「なら、そこで揃えようかな」

 所持金などは贅沢をしなければ生きていける程度にはあるようだった。チート級がいいと言ったからだろうか?…いやいや、まさか。そんなわけないよね。

「家電屋もいかないと…駅の前に色々あったし、家具屋もそっちだから行こうかな」

 ローテーブルの上にあったメモとペンで買う物をスラスラと書いていく。思ったよりも多い。

「ネットスーパーみたいなのあるのかな?」
『この地域であれば二件ほど』
「どっちがいい?」
『こちらのほうが比較的に安めかと』

 ネットスーパーのページが表示された。桜華は表示されたページをきょとんと見つめた。いつものように『わかりません』と答えられるかと思っていたけれど、ちゃんと答えられたことに少し驚いてしまう。
 機械も、成長…するとか…?
 少しあれこれ考えては見たが、こういう機能とかには疎いから気にしても仕方ないのでレベルアップしていくものとしておこう。
 日常品や飲料、細々とした必要な物を沢山頼んで、明日の夜に届くよう注文して家を出た。

 静かな住宅街。
 ちょっと歩いたところには、昔ながらの商店街。その先に行くと駅の近くだから賑わっている。八百屋とかもあるみたいだし、帰りに少し食料も買っていこうかなと近所を散策しながら歩いた。

「前のところより利便性は高いし住みやすそう」
『それは良かったです』
「……」

 独り言のつもりで呟いたのだが、機械が返事をした。

「喋れるの?」
『可能です』
「今まで喋らなかったじゃん」
『必要とされなかったので』

 はあ?なんだそれ?と思わず足を止めて立ち止まったことにより、背後から歩いていた男性にぶつかってしまった。慌てて謝ると男性は舌打ちをして追い抜いて歩いて去っていく。苦笑をして、邪魔にならないよう歩道の端に寄り、再びゆっくりと歩いた。
(必要としていなかったわけではない。必要かと言われれば必要な場面ばかりでしたけど?)
 そんな機能あるなら、さっさと教えてほしかった。
 そしたら…多少は…。
 多少は?生き残れただろうか?
 いやいや。機械を使いこなせていたとしても、あんなの生き残れるはずがない。やめよう。こんなことを考えても仕方ないことだろうと桜華は頭を振った。
 というか機械は人工知能というやつなのだろうか?
 会話ができるとか、中身は人間?いや二度目と三度目の時も、この機能は使用していた。人間ではないはずだ。

「話しかけてもいいの?」
『どうぞ』
「わかった。ありがとう。機械さんも話してくれると寂しくないかも」
『…わかりました』

 素っ気ない返事ではあるけど、会話ができることが嬉しい。
 森でひとりで住んでいた時もそうだし、今回もまたひとりで住むことになりそうだし、この機能があると少しは寂しさが紛れる。良い新たな機能が追加されたと思えばいい。そう頷いて桜華は再び駅前へと向かって歩き始めた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

竜王の花嫁は番じゃない。

豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」 シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。 ──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。

【完】お義母様そんなに嫁がお嫌いですか?でも安心してください、もう会う事はありませんから

咲貴
恋愛
見初められ伯爵夫人となった元子爵令嬢のアニカは、夫のフィリベルトの義母に嫌われており、嫌がらせを受ける日々。 そんな中、義父の誕生日を祝うため、とびきりのプレゼントを用意する。 しかし、義母と二人きりになった時、事件は起こった……。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

処理中です...