平和に生き残りたいだけなんです

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四度目の世界

3.

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 一度目は赤ん坊から始まった。
 歩いていたら突然、目眩がして倒れてしまった。
 目を開くと、知らない天井が見えて、身体が思うように動かせなくなっていて混乱した。よくみると自分の手が小さい。なんだこれ。
 どうやら倒れた時に死んだようだ。何故か今までの記憶は全てあるし、それ以上の知識もあるようで(あ、これは流行りの転生といつやつだ)と直感的に理解した。そう理解するような仕組みになっていたといったほうが正しいかもしれない。
 赤ん坊だからしゃべることが出来なくなっているし、泣くことしか出来ないもどかしさと、自分でトイレに行けない恥ずかしさ。出来ればもう二度と赤ん坊から始まって欲しくないと願った。
 なんだかんだ両親は優しく、普通の家庭で普通に成長して大学にも通わせてくれた。死ぬ前のはじまりの世界の生活に比べれば、とてもとても幸せだった。
 そんな時だった。
 19歳の誕生日を迎える日。学校から家に帰ろうと階段を下りている時に声をかけられ、振り向いた瞬間に突き落とされ殺された。
 突き落とした相手は薄ら笑いを浮かべ、そして泣いていた。

 二度目は転移だった。
 赤ん坊から始まらない願いは叶ったようだ。
 目を開けたらそこは学校で授業中だった。黒板の日付を見ると一度目の死の一年前に戻っているではないか。
 突き落とされた原因は幼馴染の男の彼女。自分が愛されないのはお前のせいだと突き落とされたのだ。
 そんなもん知るか!とばっちりもいいところだ!
 今度は突き落とされないようにと、幼馴染にも、その彼女にも近寄らず、避けに避けまくって学校に通っていたら、違う問題が起きてしまった。
 何故か幼馴染に刃物で突き刺されたのだ。
 幼馴染はグサグサと刺しながら桜華を見て、うっとりと笑っていた。
 自分はこんなにも桜華のことを愛しているのにと言っていた。こうしたら僕のものになるんだと喜んで、血だらけの桜華の体を抱きしめて口付けをしてきた。
 愛していたら殺してもいいのだろうか。
 どんなヤンデレ!?そんなの嫌すぎる…!!
 あんな狂った男と出会わない世界で生きたいと薄れゆく意識の中、切実に願った。

 そして三度目。
 幼馴染がいない世界へ転移していた。
 目を開けば何も無い、のどかな森の中。
 一日かけて森の中を歩けば、RPGゲームでいうハジマリの村のような小さな街があった。
 願ったはいいが、現代に慣れている人間を、こんな魔物だらけの世界に転移させるのはどうかと思う。
 二度目の世界でいつの間にか使えるようになっていたSi〇i機能を使いまくり、まるでサバイバルゲームのような何も無い森で生き残ることに必死だった。
 右も左も分からない桜華に街の人たちはよくしてくれた。
 街の人たちに協力してもらい、街から少し離れた森の土地に家を建てた。その横に畑を作り自給自足できるようにして、教えてもらって作れるようになった小物や薬を作っては街に出て売る。贅沢な暮らしではないけれど、それなりに暮らせていた。
 まあ、最後は魔物に食われてしまった短い命だったけども。

 もっとこうさぁ…よくあるじゃないですか…チート級スキルを使って生きていくやつが!!そんなのが良かったんですけど!?

 ねえ神様。
 神様が本当にいるのなら、私はアナタをぐっちゃぐっちゃのぎったんぎったんにしてやりたいと思うわけですよ。ねえ。いや、本当に。

 普通に愛し愛され、平和に、健康に、そうやって過ごせれば幸せなのに。
 ああ、もう本当に嫌だな。
 幸せなんて、願えば願うほどその望みは膨れ上がるばかりで、幸せなんてちっとも感じられない。なんて人間とは難しい生き物なんだろう。


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