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四度目の世界
2.
しおりを挟む暖かい日差し。
ゆっくり目を開くと、そこは大きな森林公園の中のようだった。春らしき陽気の中、桜が満開に咲く広場のベンチに桜華は座っていた。
(あーあ、今回もまた死ねなかった)
赤ん坊でもない。森の中でもない。どこかに転移したようだ。
自分の手を見つめ、感覚を確認するように手を握ったり、ひろげたり。そのまま大きく伸びをした。
「メニュー」
そう呟くと目の前に透明な画面か表示される。
〇〇〇4年4月2日11:05
場所:〇〇県〇〇市
知ってる地名。現代だ。
それだけで安心できた。
風呂トイレなどがある。安全に飲める水も。
前回のように、まともなものが一切ない場所だったり、夜には盗賊が現れて大暴れしている時代だと気が滅入るからだ。いつ襲われるかわからない中で、ゆっくり眠れもしないのも地獄。
「ねえ、機械さん。私は何すればいいの?」
『わかりません』
「ですよねー」
画面に話しかけると男性の声の機械音が返事をする。Si〇iのような機能があると知ったのは二度目の時だった。使えそうで使えない機能。それでも使い方次第では役に立つ。
あとは寂しい時に、ちょっとしたおしゃべり相手にもなって助かったりもした。いつもだいたい会話らしい会話にならないけども。
「私のステータス」
『こちらになります』
パパっと画面の表示が変わったので、ずらりと並ぶ文字を眺めた。
名前:鏡桜華
生年月日:〇〇年4月9日(17歳)
家族構成:なし
基本スキル
魔力コントロール
体力&魔力回復上昇
魔法:水魔法、火魔法、光魔法
遠見、聞き耳、嗅覚、調合、魅了
三度目のサバイバルのおかげて色々と習得できたのだが、それが残ったままなのは嬉しい。
「光魔法と魅了が追加されてる」
どんなのだろう?
気になるけれど、この世界では魔法はあまり使わなさそうだ。魔法なんか使ったら大問題になるだろう。
それにしても家族構成なしって両親や親戚などいないってことだろうか。
「家族は?」
『交通事故により、両親とも二週間前に他界』
「ええ?家はどうなってるの…?家まで何分?」
『ここから最寄りの駅まで10分。電車で40分ほど』
「ちょっと遠いな。あ!そうだ、機械さん。お金ってあるの?」
『財布に11564円。交通カードに3万円ほどあります』
「良かった。じゃあ、最寄りの駅まで道案内して」
『わかりました』
道に矢印が表示される。それを辿れば目的地に辿り着く便利ナビ機能。もちろんこれは他の人には見えていないようだ。
前回、森の中でも迷わず暮らせたのはこの機能があったからだ。
公園にいてもどうしようもないから、家に戻ってから何をするか考えた方がいいだろう。
桜華はひろげっぱなしだった画面を閉じて立ち上がると、のんびり駅へと歩き始めた。
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