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断片;旅の途中
ぶらり途中懺悔の旅 -2-
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「……つまらんのう。独りぼっちは……」
道端の石ころを蹴りながら寂しい背中で町を歩くクロハ。ふと顔を上げると視界に子供たちの姿が入った。遠目だと遊んでいるように見えるが、よくよく見るとそのうちの1人が寄って集って苛められていた。
「こらッ! 何をしておるッ!」
クロハは走ってその集団に突っ込んだ。
「お姉さん誰?」
「我が誰かは今関係なかろう。それよりも汝ら、寄って集って1人を甚振る行為が卑怯だとは思わんのか」
「だってこいつが嘘をつくから!」
主犯格と思われる男児が指を差して声を上げた。暴行により傷や痣ができた男児は座り込んだ状態で口を開いた。
「嘘じゃない。あれは悪いものだったんだ。だから町の外に持っていったんだ」
「嘘だッ! 売るために盗んだんだッ!」
過熱して再び暴力を振るおうとしたその手をクロハが制した。落ち着けるために軽く電気を流すと男児は驚いて少し大人しくなった。
「その話、我に詳しく聞かせよ」クロハが問う。
「……ちょっと前、神社にあったこの町の宝がなくなったんだ。ちょうどその時からこいつの母さんもいなくなって、町のみんなは盗まれたって思ってる」
「町の宝とは何ぞ?」
「黒くて、硬くて、丸くて、中がぐるぐるしてる石。昔から神社に置いてあって叩いても殴っても地面に落としても全然壊れないんだ。だから縁起がいいってみんなで大事にしてたのに……」
「違う。あれは悪いものなんだっ! お母さんが言ってたっ! 置いたままにしてるとこの町にすごく悪いことが起こるって!」
横から苛められていた子が声を張り上げる。
「盗んだんだっ! それで珍しい石だったからきっとどこかで売ったんだっ!」
再び言い合う2人。互いに一歩も引く様子はなかった。
「話はよう分かった。しかし如何なる理由があろうとも1人の人間を痛めつけてよいということにはならない。汝らの行為は道端の子犬に殴る蹴るの暴力を振るう行為と何ら変わらぬ。恥を知れ、小童ども」
それはかつての自分にも刺さる叱咤。クロハ自身もそれは分かっていた。
叱りつけられて主犯格の男児以外はその表情に反省の色を見せた。
「……俺たちは悪くない。悪いのはこいつだ」
主犯格の男児はぶつぶつと呟いたあと、クロハをカッと睨みつけてそのワンピースの裾を思いっきり捲り上げた。そのせいで艶やかな黒の下着が周囲に晒された。
「――ッ!」
クロハは慌てて捲り上がったスカート部分を手で押さえた。
「行くぞお前らッ!」
その隙を突いて主犯格の男児は仲間を連れてその場から走り去った。
「あんの、小童どもめ……」
クロハは怒りに拳を震わせて絶対に仕置きすることを誓った。
「ありがとう、お姉ちゃん。僕を助けてくれて」
「……気にするでない。当然のことをしたまでだ。ほれっ、立てるか?」
クロハが振り向いて手を差し伸べると少年はその手を取って立ち上がった。
「どれ、傷も治してやろう」
治癒の魔術により少年の傷は塞がって痣は薄くなった。
「ありがとう。……なんだかお母さんみたい」
「ほう。坊やの母君も魔術師なのかえ?」
「魔術師って……何?」
少年は小首を傾げる。
「知らぬのか。このような不思議な力のことを魔術と言い、それを使う者のことを魔術師と言うのだ。おそらく坊やの母君もそうであったのだろう」
「へえ、初めて知った。でもお母さんはそんなこと一度も教えてくれなかった」
「不思議じゃのう。坊やからは魔術師の素質を感じるというのに」
「それって僕にも使えるってこと?」
「うむ。練習をすればな。そうじゃ。我が簡単なものを教えてやろう。あやつらがまた苛めてきたらそれで撃退すればよい」
「でも痛いやつは嫌だな。傷つけたくないんだ」
少年の言葉にクロハは深く感心してその頭をよしよしと撫でた。
「坊やは心の優しき子であるな。心配はいらない。びっくりさせるだけのやつじゃ」
「……うん。じゃあ頑張って練習してみる」
それから2人は場所を広い河原に移して練習を開始した。クロハが教えるのは手に微弱な電気を纏わせるというもの。それに触れるとバチッという音が鳴って相手を驚かせるのだ。痛み自体は一瞬で驚きには勝らない強さなので安心だ。
###
夕暮れまで続いた練習は順調に進んだが、結局この日は完成には至らなかった。少年は飲み込みが早く明日には完成するだろうとクロハは太鼓判を押した。
「今日はこれでしまいじゃ。もうすぐ暗くなるからのう」
「ありがとう。お姉ちゃん」
「明日は朝からでよいか?」
「うん。大丈夫」
「ではまた明日、この場所で。風邪を引かぬようにな」
「あ、待って!」
別れ際、少年は呼び止めた。クロハはサッと振り返った。
「お姉ちゃんの名前は?」
「我の名はクロハ。坊やの名は?」
「ムート」
「ムートか。覚えておこう」
クロハはフッと笑って背を向けた。
###
日が沈んだ野営地ではすでにみんなが夕食を食べていた。大きな鍋に入っていたのはこの地で採れた野菜のごった煮だ。それとは別に全員にパンと干し肉も支給されていた。質素な食事だが食料を節約するためには仕方がないことだ。
「あ、クロハさん! 今までどこに行っていたのですか!」
帰ってきたクロハを見つけるなりエスカは駆け寄った。なかなか戻ってこないから心配していたのだろう。
「すまぬ。少し道に迷ってな」
「本当に良かった。何かの事故に巻き込まれていたらどうしようと心配で心配で……」
エスカは心の底からほっと胸を撫で下ろした。嘘偽りのないその顔を見たクロハは本当に反省した。
「心配をかけたな。悪かった」
「無事に戻ってきてくれたので許します。さあ、みんなで一緒にご飯を食べましょう。向こうでセンリさんも待っていますよ」
エスカに手を引かれてクロハはセンリの近くまでやってきた。センリは焚火から少し離れたところで地べたに胡坐をかいていた。その前には夕食が置かれていたがまだ手を付けていなかった。
「もしや我を待っていてくれたのか……?」
「……勘違いするな。まだ腹が減っていなかっただけだ。それよりもさっさと飯を取りにいけ。なくなっても知らんぞ」
「…………」
「なんだ?」
「いや、何でもない。急いで取りにゆくから、もう少しだけ待っていてくれ」
クロハは背中越しにお願いを残して夕食を取りにいった。
2人が見せた小さな優しさのせいでその目には薄らと涙が浮かんでいた。
道端の石ころを蹴りながら寂しい背中で町を歩くクロハ。ふと顔を上げると視界に子供たちの姿が入った。遠目だと遊んでいるように見えるが、よくよく見るとそのうちの1人が寄って集って苛められていた。
「こらッ! 何をしておるッ!」
クロハは走ってその集団に突っ込んだ。
「お姉さん誰?」
「我が誰かは今関係なかろう。それよりも汝ら、寄って集って1人を甚振る行為が卑怯だとは思わんのか」
「だってこいつが嘘をつくから!」
主犯格と思われる男児が指を差して声を上げた。暴行により傷や痣ができた男児は座り込んだ状態で口を開いた。
「嘘じゃない。あれは悪いものだったんだ。だから町の外に持っていったんだ」
「嘘だッ! 売るために盗んだんだッ!」
過熱して再び暴力を振るおうとしたその手をクロハが制した。落ち着けるために軽く電気を流すと男児は驚いて少し大人しくなった。
「その話、我に詳しく聞かせよ」クロハが問う。
「……ちょっと前、神社にあったこの町の宝がなくなったんだ。ちょうどその時からこいつの母さんもいなくなって、町のみんなは盗まれたって思ってる」
「町の宝とは何ぞ?」
「黒くて、硬くて、丸くて、中がぐるぐるしてる石。昔から神社に置いてあって叩いても殴っても地面に落としても全然壊れないんだ。だから縁起がいいってみんなで大事にしてたのに……」
「違う。あれは悪いものなんだっ! お母さんが言ってたっ! 置いたままにしてるとこの町にすごく悪いことが起こるって!」
横から苛められていた子が声を張り上げる。
「盗んだんだっ! それで珍しい石だったからきっとどこかで売ったんだっ!」
再び言い合う2人。互いに一歩も引く様子はなかった。
「話はよう分かった。しかし如何なる理由があろうとも1人の人間を痛めつけてよいということにはならない。汝らの行為は道端の子犬に殴る蹴るの暴力を振るう行為と何ら変わらぬ。恥を知れ、小童ども」
それはかつての自分にも刺さる叱咤。クロハ自身もそれは分かっていた。
叱りつけられて主犯格の男児以外はその表情に反省の色を見せた。
「……俺たちは悪くない。悪いのはこいつだ」
主犯格の男児はぶつぶつと呟いたあと、クロハをカッと睨みつけてそのワンピースの裾を思いっきり捲り上げた。そのせいで艶やかな黒の下着が周囲に晒された。
「――ッ!」
クロハは慌てて捲り上がったスカート部分を手で押さえた。
「行くぞお前らッ!」
その隙を突いて主犯格の男児は仲間を連れてその場から走り去った。
「あんの、小童どもめ……」
クロハは怒りに拳を震わせて絶対に仕置きすることを誓った。
「ありがとう、お姉ちゃん。僕を助けてくれて」
「……気にするでない。当然のことをしたまでだ。ほれっ、立てるか?」
クロハが振り向いて手を差し伸べると少年はその手を取って立ち上がった。
「どれ、傷も治してやろう」
治癒の魔術により少年の傷は塞がって痣は薄くなった。
「ありがとう。……なんだかお母さんみたい」
「ほう。坊やの母君も魔術師なのかえ?」
「魔術師って……何?」
少年は小首を傾げる。
「知らぬのか。このような不思議な力のことを魔術と言い、それを使う者のことを魔術師と言うのだ。おそらく坊やの母君もそうであったのだろう」
「へえ、初めて知った。でもお母さんはそんなこと一度も教えてくれなかった」
「不思議じゃのう。坊やからは魔術師の素質を感じるというのに」
「それって僕にも使えるってこと?」
「うむ。練習をすればな。そうじゃ。我が簡単なものを教えてやろう。あやつらがまた苛めてきたらそれで撃退すればよい」
「でも痛いやつは嫌だな。傷つけたくないんだ」
少年の言葉にクロハは深く感心してその頭をよしよしと撫でた。
「坊やは心の優しき子であるな。心配はいらない。びっくりさせるだけのやつじゃ」
「……うん。じゃあ頑張って練習してみる」
それから2人は場所を広い河原に移して練習を開始した。クロハが教えるのは手に微弱な電気を纏わせるというもの。それに触れるとバチッという音が鳴って相手を驚かせるのだ。痛み自体は一瞬で驚きには勝らない強さなので安心だ。
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夕暮れまで続いた練習は順調に進んだが、結局この日は完成には至らなかった。少年は飲み込みが早く明日には完成するだろうとクロハは太鼓判を押した。
「今日はこれでしまいじゃ。もうすぐ暗くなるからのう」
「ありがとう。お姉ちゃん」
「明日は朝からでよいか?」
「うん。大丈夫」
「ではまた明日、この場所で。風邪を引かぬようにな」
「あ、待って!」
別れ際、少年は呼び止めた。クロハはサッと振り返った。
「お姉ちゃんの名前は?」
「我の名はクロハ。坊やの名は?」
「ムート」
「ムートか。覚えておこう」
クロハはフッと笑って背を向けた。
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日が沈んだ野営地ではすでにみんなが夕食を食べていた。大きな鍋に入っていたのはこの地で採れた野菜のごった煮だ。それとは別に全員にパンと干し肉も支給されていた。質素な食事だが食料を節約するためには仕方がないことだ。
「あ、クロハさん! 今までどこに行っていたのですか!」
帰ってきたクロハを見つけるなりエスカは駆け寄った。なかなか戻ってこないから心配していたのだろう。
「すまぬ。少し道に迷ってな」
「本当に良かった。何かの事故に巻き込まれていたらどうしようと心配で心配で……」
エスカは心の底からほっと胸を撫で下ろした。嘘偽りのないその顔を見たクロハは本当に反省した。
「心配をかけたな。悪かった」
「無事に戻ってきてくれたので許します。さあ、みんなで一緒にご飯を食べましょう。向こうでセンリさんも待っていますよ」
エスカに手を引かれてクロハはセンリの近くまでやってきた。センリは焚火から少し離れたところで地べたに胡坐をかいていた。その前には夕食が置かれていたがまだ手を付けていなかった。
「もしや我を待っていてくれたのか……?」
「……勘違いするな。まだ腹が減っていなかっただけだ。それよりもさっさと飯を取りにいけ。なくなっても知らんぞ」
「…………」
「なんだ?」
「いや、何でもない。急いで取りにゆくから、もう少しだけ待っていてくれ」
クロハは背中越しにお願いを残して夕食を取りにいった。
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