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5話

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寝間着からメイドに手伝ってもらいドレスへと着替え、エイデン兄様と朝食を済ませる。そして庭園で食後のティータイムを送っていた。
いつものように穏やかな朝……なわけない!なぜ私は重要なことを逃してしまうのか。とにかく運が悪い。さらに、最悪な気分にさせるのは夢の中で初めて聞いた婚約者の存在。
アニタは恐らく悪役令嬢(私にとってはヒロインどころか聖女級)であるため婚約者がおり、その婚約者が攻略対象だろう。だが、問題はそこではなく婚約者の系統だ。

俺様、クール、あざとい、ツンデレ…うん、いっぱいあるからここでやめておこう。

沢山ある系統の中で私が一番心配なのは腹黒。う~ん…漫画でも小説でも厄介なタイプだと思う。

どうか…どうか腹黒じゃありませんように!!

「どうしたの!?急に手を合わせて?」

おっと…願いが強すぎて体が動いてしまったようだ。エイデン兄様も目をパチクリさせている。

「気にしないで!少し願い事をしてただけ」

神頼みだが、願っておいて損はない!ん?こういうのをフラグという気が…いや!気にし過ぎだろう。うん、そうに決まっている。

自分を落ち着かせようと紅茶をゴクゴクと飲み、クッキーを口に放り込む。それにしても気になる。なぜエイデン兄様がキラキラとした目でこちらを見ているのか気になる。私の奥になにかあるのだろうか?

「…どうしたの?」
「ん?なにが?」
「えっと、なにか期待しているような表情をしていたから」
「えーそんなに分かりやすい?」

コクリとうなずくと、そんなに分かりやすいかな?と少し頬を膨らませて拗ねたような顔をする。さすが兄妹、ふとした表情がそっくりだ。

「今日ローウェン殿下が来るけどどうするの?」
「どうするって…」

どうすればいいのだろう?何が正解なんだろう?アニタは婚約破棄をするって言っていたけど、相手がするのを待つとも言っていたっけ?でもあれ?

「婚約破棄ってどうすればいいんだろう?」

思わずボソッと最後のところの疑問が口からでてしまった。それを聞き逃さなかった彼は待ってましたとばかりにバンッと身を乗り出してこう切り出した。

「僕に良い考えがあるよ!」

その笑顔は我が兄ながら目を覆い隠すほど眩しい。例えるならば、小さい子が宝物を満面の笑みで見せてこようとする様子。しかし、この例えには続きがある。いざ宝物を見てみると自分の大ッ嫌いな虫が入っていたのだ。ちなみにこの例は実体験で、見せられたときは今まで出たことのない野太い声で逃げた。いま兄が見せている笑顔はそれとよく似ている。

「良い考えって…?」

恐る恐る聞くと、エイデンはよくぞ聞いてくれたとでもいわんばかりに声を張る。

「殿下に愛する人ができればいいんだ!」
「…へ?」

話をまとめるとこうだ。殿下に愛する人ができれば、婚約破棄があちらの原因でスムーズに進められるかもしれないというのだ。

「無理だと思うけど…」
「そうかな?良い考えだと思ったのに…」

ざんねーんと軽く言い、腕を組んで次の策を考える。
でも彼の策をよく考えてみると案外良い作戦かもしれない。まずここは小説の世界でヒロインがいることも分かってる。そして私は悪役令嬢だ。ならば、婚約破棄はしやすいだろう。その上私はハンター(魔物討伐騎士団の簡易的な言い方)になりたい。そんなものを王家は娶りたいとは思わないだろう。それならば、今日の交流で話してしまったほうがいいだろう。

「エイデン兄様、私がハンターになると言ったらその方は婚約破棄してくれると思う?」
「うーん、どうだろう?あちらから婚約破棄をしてくるのは難しいからな。アニタの方がハンターを諦めろと言われるかもしれない。でも言ってみないとわからないね」

結局具体的な案は出ず、約束の時間になってしまった。きちんと身なりを整え終わりあとは待つのみと椅子に体を預ける。
私の相手に対する心情はアニタの潜在的な心情と共鳴している。エイデン兄様に対しては楽しさや安心感がある。そして滅多に見かけない父母には怒りもなく静かに警戒するように冷えきった感覚がある。婚約者であるローウェン様にはどんなものを向けるのだろうかと考えていると侍女から婚約者が到着したと伝えられた。
急がずゆっくりとした足取りで大きな扉の前まで歩いていく。その扉の向こうにはどんな人がいるのかと強張った体で開かれたその先を進む。いざ対面!と椅子に座っている相手を見ると、赤髪に金色の瞳の男性が座っていた。第一印象は優しそうで髪色以外は王道とも言える人だ。

「お久しぶりです、ローウェン様。お待ちしておりました」

ドレスの裾を両端つまみ、お辞儀をする。すると彼もパッと立ち上がる。

「久しぶりアニタ。来ることを伝えるのが遅くなってすまない」
「いいえ、お気になさらず」

ここまでの流れでアニタのこの人に対する心情に反応がない…ということはなんとも思ってないと言うことなのだろうか。
彼も私も腰を下ろし、雑談を交わす。特に重要な話もなく知人と話しているようだ。しかし常に浮かべる笑顔は作り物のように見える。でも婚約者であるこの人には言っておかなければならないだろう。静かになった時を見計らって意を決する。

「あのっ!少しだけ話を聞いてもらえませんか?」
「うん、いいよ。なんだ?」

考えても仕方がない、今はまず当たって砕けろ精神で彼へと心からの思いを伝える。

「私、私は…魔物討伐騎士団に入ろうと思っているんです!だから婚約破棄をしてくれませんか!?」
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