不老不死と拾われ弟子

シーカピ

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要望

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黒い渦の中をくぐった先は白い壁に高くそびえ立つ柱のある所だった。

「ここに師匠が…」

ここに師匠がいる。しかし…

「静かすぎる」

そうヴァルケンドが呟いた。そうなのだ。このただただ広い空間に気配を全く感じない。
歩けばカツンカツンと音が鳴り響いた。気配を感じないため一応注意しながら2人は進んでいく。

「そういえば…あなたはここに1回来てるんですよね?その時はどのくらいいたんですか?」
「ここは初めて来た、ただカミラに追跡魔法をかけてただけだ」
「あ、そうなんですか。…反感をかって攫われたと言ってましたが何したんです?どこで攫われたんですか?」

質問に答えるのも面倒だと言わんばかりにため息をつくが、沈黙を貫いているとやがて口を開く。

「攫ったやつは見てないが、空間にできた穴から連れて行かれる所は見た。カミラは良い意味でも悪い意味でも強いからな…恨みでもかったというところか?」
「…」

許せない、なぜ師匠を攫うのか。確かに師匠は強いが流石にそれは卑怯では無いのか?

「…怖い顔になってるぜ?」

ニヤニヤとこちらを見られているがノアはそんな表情もどうでもいいといった感じでただ怒りを抑えられなかった。

ある程度歩いていると1つのドアを見つけた。壁と同じように白いただのドア。しかし何故かここだと思った。そう思ったのは私だけではないようだ。ヴァルケンドにちらっと目配せをし、取っ手をグッと握りしめゆっくりと押す。

「これは…」

そこは何とも言えない空間だった。いや、部屋はそこまでおかしくないのだ。黒い皮のソファにワインレッドの絨毯から覗く下の木の床、ガラスで出来た下が透けている机と所々見たことの無い家具もあるがそこまで驚くほどでもない…問題は。

「部屋が傾いている」

ヴァルケンドがボソリと呟く。そう、部屋が直角に近い急な角度に傾いているのだ。なんとも異様な光景に2人はゴクリと喉がなった。
そして顔を見合せ2人でその空間へと足を踏み入れた。

次の瞬間、頭がグワンと殴られたようになった。うっ…と小さく唸って下を向く。だがその感覚もすぐに戻り頭をあげると、先程までは誰もいなかったソファに座ってこちらをポカンと見ている師匠と目が合った。

「…え?なんでノアが?それにヴァルもいるじゃないか」
「師匠…」「カミラ…」

あれ?なんでこんなに殺伐としていないのだろう。ソファで拘束もされずゆったりと足を組み手には白いティーカップ。しかもさっきの部屋の傾きが無くなっていた。

「し、師匠…師匠ですよね」

再会は思ったものではなかったが目から涙が溢れる。やっと会えたのだ。

「そ、そうだが…なんで泣いてるんだ」

カミラは滅多に泣かない弟子の涙にカチャンと音を立ててティーカップを置き、「どうしたっ」と狼狽える。

「だって…だって師匠が数十年も居なくなってしまったからっ」
「数十年…?」
「そうだ、でもお前がいなくなって数十年も経ってないぞ?」
「え?」

3人とも何が何だか分からないと言った表情である。すると聞きなれない言葉が聞こえてきた。

「lhdk▽○jq‪✕?」

声のする方に目を向けてギョッとした。黒くて目も鼻も口もない平面顔が覗き、頭や体は桃色のピチッとした布で覆われた全身タイツの様な格好。体は私たちと同じような形だが…色々情報量が多かった。
そして意味のわからない言語を話しているのも異様に感じた。しかしそれに対して師匠も話しかける。

「ilcc□▫r△✕‬p」

いろいろ分からない事だらけで頭がついて行かない。隣をチラッと見るとヴァルケンドも開いた口が塞がらない様だ。
数十年居なくなったこと、そしてヴァルケンドと日にちに違いがあること、この目の前の異様なヒト?とそこから発せられる言語。その言語を話せる師匠…と分かる事の方が少ない。

「と、とにかく…お前が攫われた所から全て説明してくれ!!」

そうヴァルケンドは叫んだ。突然の大声に桃色の方とノアの2人はビクッと肩が跳ねる。カミラも少し驚きつつも「あ、あぁ」と言い、話し始める。その内容は信じられないものだった。

「えっと…攫われたといえば攫われたのか?忘れ物を家に取り帰ってる時に何やら変な感じがしてな…その方向に向かったら黒い穴があったんだ」
「んで、あの穴に突然引きずり込まれたと」
「まぁそういう事だな」
「そうか、でも何でこいつと時間の差ができてるんだ?俺は数ヶ月だったぞ」

それにコクコクとノアが頷く。すると桃色のタイツマンがカミラの脇腹を手の甲でポンポンと叩く。そして振り向いたカミラにまた分からない言語で話しかける。ひとしきり話を聞くとカミラは自らの肩に人差し指を置き、2人に向けて指をパチンと鳴らす。一体何が起こったのだろうと思っていると桃色タイツが話しかけた。

「これで分かりますか…?私の言葉」

突然言葉が通じるようになり驚いたがコクコクと何度も頷く。

「わ、分かります!さっきまで全く分からなかったのに…!」

そう発した自分の言語はいつも話しているのとは全く違う言語だった。相手の言語が自分たちがいつも使ってる言語に、自分たちが話している言語が相手の言語に翻訳されていると思ったがそれは違った。突然相手の言語を理解し、話せるまでになってしまったのだ。

「ど、どうして話せるように!?」
「ん?それは私が"共有"したからだよ」
「共有?」
「あぁ、最初は私も言語が分からなくてな…正体を探るついでに生まれてから今までの人生を体験させてもらった。そして獲得した言語を2人に共有したという訳だ」
「???」
「…魔法だ、魔法でいい」

説明するのがめんどくさいのだろうが、もう少し詳しく話して欲しかった。気になっていると後ろから急にわかるようになった言語が聞こえる。

「あの、えっと…先程の話もう一度してくれませんか?」

そう言われカミラは桃色のタイツマンに一通り説明をする。

「なるほど…お二人の時間にズレが出来ている事ですね、それについては私から説明させてください。えっと、私がカミラさんを攫った時、誰かが迫ってきてたんですけどおそらくそれがあなたなんですよね…?」

そう言ってヴァルケンドの方を振り向く。

「あぁ、多分そうだぜ」

ヴァルケンドもうんうんと頷き返した。

「その、あなたが侵入してきた域はあなた達が住んでいる空間ではないんですよ。だから時間の流れが違うんです。その中でおそらく数ヶ月探したのは本当でしょうね。しかし私は危険と判断した為すぐ元の世界へと戻させて頂きました。ですが…あなたがあまりにも移動するものですからカミラさんに協力してもらったのです、ちなみに私たちは数時間程しか話してません」
「ほぉーん、俺たちの世界の方が流れが早かったというわけか。ん?カミラに協力して貰ったということは…俺の怪我はまさかっ!」
「…あれってヴァルだったのか、すまん」

謝ってはいるが少しも悪びれている様子は見られない。だが相手もそこまで気にしてないどころか何故か納得したような表情をしていた。

「あの…」

桃色の全身タイツがオドオドとしながらも気まずそうに手を上げる。3人も振り返った。

「私が攫った理由、お2人は聞かないんですか?」
「「……!」」

あぁ…完全に忘れていた。だって師匠…攫われた人の雰囲気じゃないから。

「忘れてたんですね…」
「ま、まぁ…でもなんで師匠を…?」
「カミラさんを連れてきたのは助けて欲しいからです。私達の住む世界にどこから入ってきたのか暴れ回るナニカがいまして…それを元の世界へと戻して欲しいのです」
「なるほど…でもなぜ師匠を?」
「それは1番年寄りだからですよ?」
「と、年寄り!!?」

その言葉を聞いた瞬間ノアとヴァルケンドはギョッとした顔をし、カミラはほぉ…という風に感心していた。
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