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それぞれの思い
しおりを挟む「私は長くないだろうな」
ヴァルケンドの風圧に耐えた木々がザーっと揺れる中、ヴァルケンドは時が止まったと思えるほどの笑顔のカミラを呆然と見つめていたがハッと我に返る。
そうだった…カミラはこういう奴だった。
「相変わらず言い方が紛らわしいな」
「…?」
「"何が"長くないんだよ」
「そんなのいつものに決まってるじゃないか」
当たり前だとでも言いたげな顔をするカミラにヴァルケンドは大きなため息をつく。たしかにこの言い方は紛らわしすぎだ。
「とりあえず…1から簡潔に話してくれよ」
「1からってどこから…」
「弟子をとったとこからもう長くないという紛らわしい宣言まで」
「あぁ紛らわしかったのか、すまん」
「いつもの事だからいい。それより説明」
「あ、あぁ。ノアを弟子にしたのはオーラを見て才能がありそうだったから後継者にできると思った。長くないのは今起きておける時間のことだが」
「…はぁ、初めからそう言って欲しいんだよな」
こいつは人と関わらないせいというべきか言葉足らずなところがある。弟子をとったなら少しはマシになったかと思ったが…弟子も苦労してんだろうな。
「弟子は勘違いしないのか?」
「さぁ…知らん」
「知らんって…もう少し関心を持ったらどうなんだ」
ヴァルケンドは頭をガシガシとかき、大きなため息をわざとらしくつく。カミラは少し考えた。
「関心か、多分あると思う…が私はあの子をどう思っているんだろうな」
死にかけだったあの子を拾い、治し、共に生活し始めた。静かな家が少し賑やかになった。それに慣れたせいだろうか、月の光がさしこむ森の静けさに落ち着かない。それは恐怖からではなくいつも聴いている音が無いことに違和感を感じていた。昔はそんなこと思ったことなどなかったというのに。今では風の音すらしないと自分の吐く息が大きくなる。あの子と出会う前と同じ静かさなのに、あの子が…ノアがいないだけで別の世界のように感じるのは…
「案外…悪くない」
ふっと笑みが溢れたカミラを見てヴァルケンドは心底意外だと思った。ほとんど表情筋が動かずいつも退屈そうな瞳をしていたカミラとは似ても似つかない表情で、誰かが化けているのかと思えるほどに。今回のように何度も訪問し会うたびに、まるで人間が出している店に並ぶ精巧な人形のようだった。そんなやつがたった一人の人間に向けて穏やかに笑うなんて…そのノアってやつを見てみたいな。
美しい顔で恐ろしいほどニヤリと笑うヴァルケンドと美しい顔で穏やかに微笑むカミラはまるで天使と悪魔のような光景だ。
何かを感じて背中がゾクッとなり少し震える。
「大丈夫?寒いのかい?」
心配そうに顔を覗き込んだのは金色の美しい毛並みをもったサリヴァードという狼。
早く師匠に会わせたい。会ったらどんな反応をするのだろう…。もし喜んでくれたら、高いところから落とされたかいがあるってものだ。
「大丈夫です!早く行きましょう!」
ノアは笑顔で返した。サリヴァードは良かったといい、視線を真っ直ぐにする。
もうすぐ、もうすぐ会えるのか…フローに。
会いたくて走るスピードが早くなる。しっぽが上がり、ただフローのいるという森を一点に見つめた。
大切な友人を傷つけてしまったこと謝りたい…。そしてもし可能ならば…。
カミラとサリヴァードが会うまであと少し。
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前回の話から長い間更新せず申し訳ありません。なるべく速く更新できるように精進しますので今後ともよろしくお願いします。
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