不老不死と拾われ弟子

シーカピ

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"ただ"

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「ねぇ貴方って何者なの?」

先程まで泣いていたとは思えない鋭い視線を向けるレイラ。その視線の先には無表情だが人懐っこい印象を受ける黒髪の女性が立っている。少し沈黙が流れた後、その女性は後ろの金髪の従者を一瞬横目で見てため息をついた。

「…鋭いな、わからないと思ったのに」
「私はバレるんじゃないかと思ってましたよ」
「なんでバレたんだ?」
「細かいところが雑だからですかね?」

先程までの丁寧な言葉が崩れた彼女と今までずっと黙っていた彼が口を開いて親しげに話している。そして口調が崩れたまま私の方を向いた。

「…私が何者かだったな。私はカミラ・フローレス、ただの魔女とでも思ってくれ」

そう言い切った後、黒髪から白髪へと変わり先程の人懐こそうな顔から切れ長の赤い目が特徴的な美女となった。本当の姿を見たレイラは思わず息を呑む。魔女は見た目が良いものが多くいるが、ここまでの容姿は見たことがない。
そしてカミラの隣で変装を解いたノアもまたカミラをうっとりと見つめる中、カミラ本人だけが疑問を抱いていた。

変装を解いただけなのになぜそんなに見るんだ?ノアはよくあるからまだ分かるが、レイラまで…やはり私の姿はおかしいのか。

少しの間カミラを見つめていたレイラはハッとして口を開く。

「どうして変装なんかしているの?」
「魔女らしく見せるため」
「じゃあ…目的は何なの?」
「魔女集会がどんなのか気になったから」

淡々と答える彼女は嘘をついているようには見えない。さらに驚かせたものは彼女のオーラだった。彼女のオーラは色は見えないが、肌でビリビリと感じるくらい強い威圧感がある。

この人今まであった人よりもさらに強い…。

「ただの魔女には見えないわ」

私はそう呟くことしかできなかった。ここまでのオーラは私も含めて十三厄にもいないだろう。これがどうしてただの魔女と言えるだろうか。自分の開いた口が塞がらない。座り込んだままでいるとカミラさんがしゃがんで目を見てきたため、体がビクリと反応する。

「…自分で言っといてなんだが"ただ''ってなんだろうな?」
「…え?」
「レイラさんにとっての"ただ"って?」
「………"普通"かしら?」
「"普通"か。私はな''気にすることはない''という意味で使っているが…捉え方は人それぞれか」

"気にすることはない"という言葉がレイラの中にストンと落ちる。彼女に問われたときなんと答えていいか全く分からなかった。やっと絞り出した答えも自分でもその言葉は合わないと感じていた。だが彼女の言葉はピタリと当てはまる気がする。
カミラはスクっと立ち上がって体を伸ばす。

「…騒がしくなってきたな。まぁどんなのかは見れたしそろそろ帰るかノア」
「はい。師匠」
「じゃあなレイラさん。…そうだ。周りの言うことなんか"ただ"の言葉だよ」

右手をひらひらし、この場から立ち去ろうとするカミラの左手を慌てて掴む。レイラは掴まれたことに一瞬ギョッとしたが、なんだ?と聞いた。

「まだ何か用か?」
「そのままの姿じゃ駄目だわ!隠さないと!」
「なんでだ?」
「多分だけど私を移動させるために瞬間移動を使ったことで貴方は狙われているかもしれない。それにオーラも感じたことないもの、一応さっきの姿とは変えたほうがいいわ」
「…そうか、なら変えよう」

指をパチンッと鳴らすと白髪から茶髪に赤目から黒目に変わっていった。弟子さんも金から黒へと変わっていく。そしてオーラはどうやって変えているのかは分からないが土のオーラをまとっていた。これで良いかというようにチラリとこちらを見て、レイラはうなずく。

「私達は帰るがレイラさんはどうする?」
「私はもう少しここにいるわ。うまく誤魔化しとくわね」
「ありがとう、世話をかけるな。また逢えたらその時はお礼をさせてくれ」
「ええ、また逢いましょう」

カミラとノアは瞬間移動をし、その場にいるのはレイラだけとなった。その後先程まで静かだった森が大勢の魔女によって騒がしくなったが、レイラだけは静かにカミラとまた逢える日に思いを馳せていた。
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