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過去話
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カミラとノアは平野に一本だけ生えたずっしりとした構えの木の陰に座る。
「まずはそうだな…生まれた時から話そうか」
カミラはひとつひとつを思い出すようにゆっくりと話し始めた。
私が育ったのは自然の広がる空間。そこは絶妙なバランスで保たれていてそこで暮らすのはとても心地良い場所だった。
そこで私を育ててくれたのは神獣と呼ばれるリアンという名の白龍。
神獣とは一つの種族に一体いる王みたいなものだ。またその王たちをまとめる神獣の長という役割があって、それがリアンだった。私の育ての親であり、力の使い方を教えてくれたのもリアンで私の知らないことを何でも教えてくれた。
ある日の夜、ふとリアンが私にそろそろ話さないとな…と言った。
「どうしたんだ?」
「……お前を拾ったのはな、もしもの時にすぐに殺すためだったんだ。」
「……」
私はただひたすら見ていた。そう、なんにも思わず見ていた…。
「なぁリアン、『殺す』って何だ?」
そう問いかけると黄金色の穏やかな瞳の視点は私がいないところに向けられる。しかしすぐに夜の月のような光を放つ目を向けた。
「これはまだ話していなかったが…神獣が生まれた瞬間その種族が細かく分かれながら誕生する。しかし、神獣がいなくなってしまえばその種族は消えてしまうんだ…。」
リアンで詳しく例えると、蛇のような長い胴体を持つ龍やドラゴンと言われる個体など同じ種族ではあるが違う個体になるという事らしい。しかし神獣がいなくなればこれらの種族は道連れで消えてしまうということだった。
そして大きく一息入れる。
「『殺す』というのは生命を強制的に絶たせることだ。」
「…?神獣は何というか…怪我はすぐ治るし、体も変わらないし、それに強い…」
「それでも『死ぬ』んだ!カミラ」
ハッキリと大きな声でカミラに言い聞かせる。
…『死ぬ』ってなんだろう。良くない意味だとは分かるが、それ以外全くわからない。
「リアンはなんで私を殺すんだ?」
「……どれだけ神獣同士が仲良くしていようがその種族同士は争うことがある。その争いの果てにはどちらかが滅ぶことが多い。だからもし人間が我の種族と争うことになれば殺してしまおう…そう思った。だが…」
「だが…?」
「我には無理だ…もうお前を殺せない。」
悲しそうに目を細めて口端を少し上げる。
「リアン?」
「カミラよく聞け。私はお前が知るように神獣の長だ。次の神獣の長は現役の長が決める。その中での条件は神獣であることと現役の神獣より強いことだ。お前はこの条件を満たしている。」
もう覚悟を決めた。カミラは一人で生きていける。もう我に教えれることは無い。
「要するに私に長となれということ?」
「そうだ」
「じゃあ私が長になったとしてリアンはこの先どうなるんだ?」
「我の種族から選んだやつに神獣の力を引き継ぎ、残りをお前に全てを授けよう。力、知識、命さえも」
「命…?」
「生きているものはいつか死にゆく。これが自然の理なんだ。」
「…」
「私はお前が長になれるのが誇らしい。だから私の跡を継いでくれないか?お前なら必ず出来るはずだ、我の愛しい子よ。」
リアンの意志はおそらく揺るぎないものだろう。正直、長なんかになりたくなかったがリアンの意志を尊重したかった。だから私は頷いた。
「そうか…ありがとう。そうとなれば後継者を探さなければいかんな。」
そう言ってから数日たち、後継者として山の半分くらいの大きさの黒いドラゴンを連れてきた。ちなみにリアンは山一つ分だと言っていいだろう。力はもう引き継いだらしい。だから後は私だけということだ。
私とリアンは互いに額を合わせる。これがふたりの愛情表現なのだが、リアンが大きすぎるためカミラがほとんどかぶさっているように見える。
「カミラと過ごした日々はとても楽しかった。…この先我はいなくなるがお前ならきっと大丈夫だ。我をカミラの師匠に…親にしてくれてありがとう。」
ハハっと笑った後短い沈黙をおいて「もうお別れだ」と言った。
「カミラ」
「……?」
「愛してる。我はずっとお前の幸せを願っているぞ。」
リアンは私を見て優しく微笑むと一瞬眩しい光を放ち目をつぶる。光がおさまり目を開けるとリアンの姿はなくそこにあったのは手のひらに楽々と収まるくらいの透き通った結晶。そして私は神獣の長としての力が引き継がれていた。リアンいわくこの結晶は全ての力を詰めておりどうしても必要になったときに使うものらしくそれまでは大事に持っておけと事前に言われていた。
私はその結晶を拾い上げ壊さないように優しく握りしめてその場から立ち去ろうとする。すると後ろから「おい!」と声がかけられる。
「お前…最低なのか?」
そこにいたのはリアンの後継者として連れてこられたヴァルケイド・モリスガンクだった。神獣になろうが特に容姿は変わらないので白くもならず黒いドラゴンのままのようだ。
「まだいたのか、勝手に帰ってくれ」
「よくそんなことが言えるよなー。普通だったら泣くんじゃねぇの?」
「なんで泣くんだ?」
「はぁ??そんなの死んだからに決まってんじゃん。」
「死んだ…?」
「死んだらもう二度と会えないんだぞ?よくそんな反応できるよなー」
死んだらもう二度と会えない?
もうあの黄金色の瞳を見れない。
(もっと見ておけばよかった…)
もう真っ白な胴体で堂々と飛ぶ姿が見れない。
(目に焼き付ければよかった…)
あの少し乱暴な口調が聞けない。
(たくさん話せばよかった…)
まだリアンに伝えられてない。
(あの時、私も愛してるって返せばよかった…)
あぁ、『死ぬ』というのはこういうことなのか。これは後悔しか残らないんだ。そう思った瞬間視界が歪む。頬に温かいものが流れて、嗚咽が漏れ出す。
「リアン…リアン!!」
必死に名前を呼びながら声をあげて泣いた。ここまで泣いたのは前にも後にもここだけだろう。長い間一緒にいたはずなのにいなくなってもう会えないとわかった瞬間悲しくて心が苦しくなった。
ちなみにこの後ヴァルケイドがなぜか焦りながら慰めていたのだが、カミラの記憶にはあまり残っていない。
カミラは一通り話し終えるとふぅと息をつく。
「…驚くところがたくさんありますね。神獣とか師匠が神獣の長とか…」
「そうか?でもリアンは凄かったな」
「…今でも後悔しているんですか?」
そう聞くと師匠は「まぁな」と即答する。
「未だに後悔している。だが今は、悲しくなっても楽しい大切な思い出ばかりなんだ。それにあれがなければ私は『死』というものが分からなかっただろうし…」
「そうなんですね…」
「あぁ」
昔のことを懐かしむように上を見上げて目を細める。表情はいつもより穏やかで雰囲気が柔らかい気がする。
「そういえばリアンさんの結晶はどうしたんですか?」
「ネックレスにしているよ。念の為自分にしか見えないようにしている。」
そう言って首元に触れると透明な結晶の付いたネックレスが出てきた。
「綺麗ですね。あ、でも俺に見せてよかったんですか?」
「別に構わん。それに私からこれを取るのは不可能だからな」
「取るつもりはありませんけど…」
「ハハ、言ってみただけだ。しかしいま考えてみるとお前も私もリアンも色が白だな」
「白に縁があるんじゃないですか?」
「そうかもな、私は白が好きだ。だからこの髪も気に入ってるんだ。」
そう言ってカミラは自分の髪を見たあとノアの髪を手で梳いた。
私にはまだノアに話してない過去があるがそれはまだ話さない。話すときが来たら話そう。
心のなかでそう思いながらノアの頭にポンと手をおいた。
「まずはそうだな…生まれた時から話そうか」
カミラはひとつひとつを思い出すようにゆっくりと話し始めた。
私が育ったのは自然の広がる空間。そこは絶妙なバランスで保たれていてそこで暮らすのはとても心地良い場所だった。
そこで私を育ててくれたのは神獣と呼ばれるリアンという名の白龍。
神獣とは一つの種族に一体いる王みたいなものだ。またその王たちをまとめる神獣の長という役割があって、それがリアンだった。私の育ての親であり、力の使い方を教えてくれたのもリアンで私の知らないことを何でも教えてくれた。
ある日の夜、ふとリアンが私にそろそろ話さないとな…と言った。
「どうしたんだ?」
「……お前を拾ったのはな、もしもの時にすぐに殺すためだったんだ。」
「……」
私はただひたすら見ていた。そう、なんにも思わず見ていた…。
「なぁリアン、『殺す』って何だ?」
そう問いかけると黄金色の穏やかな瞳の視点は私がいないところに向けられる。しかしすぐに夜の月のような光を放つ目を向けた。
「これはまだ話していなかったが…神獣が生まれた瞬間その種族が細かく分かれながら誕生する。しかし、神獣がいなくなってしまえばその種族は消えてしまうんだ…。」
リアンで詳しく例えると、蛇のような長い胴体を持つ龍やドラゴンと言われる個体など同じ種族ではあるが違う個体になるという事らしい。しかし神獣がいなくなればこれらの種族は道連れで消えてしまうということだった。
そして大きく一息入れる。
「『殺す』というのは生命を強制的に絶たせることだ。」
「…?神獣は何というか…怪我はすぐ治るし、体も変わらないし、それに強い…」
「それでも『死ぬ』んだ!カミラ」
ハッキリと大きな声でカミラに言い聞かせる。
…『死ぬ』ってなんだろう。良くない意味だとは分かるが、それ以外全くわからない。
「リアンはなんで私を殺すんだ?」
「……どれだけ神獣同士が仲良くしていようがその種族同士は争うことがある。その争いの果てにはどちらかが滅ぶことが多い。だからもし人間が我の種族と争うことになれば殺してしまおう…そう思った。だが…」
「だが…?」
「我には無理だ…もうお前を殺せない。」
悲しそうに目を細めて口端を少し上げる。
「リアン?」
「カミラよく聞け。私はお前が知るように神獣の長だ。次の神獣の長は現役の長が決める。その中での条件は神獣であることと現役の神獣より強いことだ。お前はこの条件を満たしている。」
もう覚悟を決めた。カミラは一人で生きていける。もう我に教えれることは無い。
「要するに私に長となれということ?」
「そうだ」
「じゃあ私が長になったとしてリアンはこの先どうなるんだ?」
「我の種族から選んだやつに神獣の力を引き継ぎ、残りをお前に全てを授けよう。力、知識、命さえも」
「命…?」
「生きているものはいつか死にゆく。これが自然の理なんだ。」
「…」
「私はお前が長になれるのが誇らしい。だから私の跡を継いでくれないか?お前なら必ず出来るはずだ、我の愛しい子よ。」
リアンの意志はおそらく揺るぎないものだろう。正直、長なんかになりたくなかったがリアンの意志を尊重したかった。だから私は頷いた。
「そうか…ありがとう。そうとなれば後継者を探さなければいかんな。」
そう言ってから数日たち、後継者として山の半分くらいの大きさの黒いドラゴンを連れてきた。ちなみにリアンは山一つ分だと言っていいだろう。力はもう引き継いだらしい。だから後は私だけということだ。
私とリアンは互いに額を合わせる。これがふたりの愛情表現なのだが、リアンが大きすぎるためカミラがほとんどかぶさっているように見える。
「カミラと過ごした日々はとても楽しかった。…この先我はいなくなるがお前ならきっと大丈夫だ。我をカミラの師匠に…親にしてくれてありがとう。」
ハハっと笑った後短い沈黙をおいて「もうお別れだ」と言った。
「カミラ」
「……?」
「愛してる。我はずっとお前の幸せを願っているぞ。」
リアンは私を見て優しく微笑むと一瞬眩しい光を放ち目をつぶる。光がおさまり目を開けるとリアンの姿はなくそこにあったのは手のひらに楽々と収まるくらいの透き通った結晶。そして私は神獣の長としての力が引き継がれていた。リアンいわくこの結晶は全ての力を詰めておりどうしても必要になったときに使うものらしくそれまでは大事に持っておけと事前に言われていた。
私はその結晶を拾い上げ壊さないように優しく握りしめてその場から立ち去ろうとする。すると後ろから「おい!」と声がかけられる。
「お前…最低なのか?」
そこにいたのはリアンの後継者として連れてこられたヴァルケイド・モリスガンクだった。神獣になろうが特に容姿は変わらないので白くもならず黒いドラゴンのままのようだ。
「まだいたのか、勝手に帰ってくれ」
「よくそんなことが言えるよなー。普通だったら泣くんじゃねぇの?」
「なんで泣くんだ?」
「はぁ??そんなの死んだからに決まってんじゃん。」
「死んだ…?」
「死んだらもう二度と会えないんだぞ?よくそんな反応できるよなー」
死んだらもう二度と会えない?
もうあの黄金色の瞳を見れない。
(もっと見ておけばよかった…)
もう真っ白な胴体で堂々と飛ぶ姿が見れない。
(目に焼き付ければよかった…)
あの少し乱暴な口調が聞けない。
(たくさん話せばよかった…)
まだリアンに伝えられてない。
(あの時、私も愛してるって返せばよかった…)
あぁ、『死ぬ』というのはこういうことなのか。これは後悔しか残らないんだ。そう思った瞬間視界が歪む。頬に温かいものが流れて、嗚咽が漏れ出す。
「リアン…リアン!!」
必死に名前を呼びながら声をあげて泣いた。ここまで泣いたのは前にも後にもここだけだろう。長い間一緒にいたはずなのにいなくなってもう会えないとわかった瞬間悲しくて心が苦しくなった。
ちなみにこの後ヴァルケイドがなぜか焦りながら慰めていたのだが、カミラの記憶にはあまり残っていない。
カミラは一通り話し終えるとふぅと息をつく。
「…驚くところがたくさんありますね。神獣とか師匠が神獣の長とか…」
「そうか?でもリアンは凄かったな」
「…今でも後悔しているんですか?」
そう聞くと師匠は「まぁな」と即答する。
「未だに後悔している。だが今は、悲しくなっても楽しい大切な思い出ばかりなんだ。それにあれがなければ私は『死』というものが分からなかっただろうし…」
「そうなんですね…」
「あぁ」
昔のことを懐かしむように上を見上げて目を細める。表情はいつもより穏やかで雰囲気が柔らかい気がする。
「そういえばリアンさんの結晶はどうしたんですか?」
「ネックレスにしているよ。念の為自分にしか見えないようにしている。」
そう言って首元に触れると透明な結晶の付いたネックレスが出てきた。
「綺麗ですね。あ、でも俺に見せてよかったんですか?」
「別に構わん。それに私からこれを取るのは不可能だからな」
「取るつもりはありませんけど…」
「ハハ、言ってみただけだ。しかしいま考えてみるとお前も私もリアンも色が白だな」
「白に縁があるんじゃないですか?」
「そうかもな、私は白が好きだ。だからこの髪も気に入ってるんだ。」
そう言ってカミラは自分の髪を見たあとノアの髪を手で梳いた。
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