ゾンビ転生〜パンデミック〜

不死隊見習い

文字の大きさ
上 下
95 / 106
Final Season

男ーBetelgeuseー

しおりを挟む
「はぁ……はぁ……」

 鐘を鳴らしてから何分経っただろうか。ナナシは時計塔の最上階で階段を登った疲れから息を切らし座り込んでいた。

「ははっ。大分集まってきたな」

 窓から外を覗くと時計塔の周りは一面ゾンビで埋め尽くされ、扉を破壊しようとする者、よじ登ろうとする者など様々であった。
 いずれにしても長くは保たないだろう。

「旦那達、無事に逃げたかな……」

 ナナシは自身への救助など少しも期待していなかった。元々盗人である自分を危険を冒してまで助ける理由がポラリス達には何一つ無いと思ったからである。
 しかし、ナナシの胸に満ちるのは仲間への失望でも死への恐怖でもなく、ただ人のために何かを成した達成感であった。それは彼が今まで成し遂げたどんな盗みの仕事よりも大きな、そして暖かい物であった。

「さて、どうやって終わらすかな」

 ナナシが自身の最期の瞬間について思いを馳せている時、彼の脳内にシリウスの声が響いた。

『!?やっと繋がったか』
「勇者の旦那!?」
『すまない、慣れない魔力で探知が遅れた。ナナシ、無事か!?』

 シリウスの声にナナシの胸に今度は熱い何かが涙と共に溢れ出した。

『もう少し耐えてくれ。先程、国王がそっちに向かった』
「王様が!?……いったいどうやって?」
『それが……俺も信じられないんだが……』

 その時、時計塔全体が大きく揺れると外壁を何かが登る気配がし、数秒後、最上階の壁が登ってきた何かに破壊され、それがナナシの前に姿を現す。

「な……」
『おい、ナナシ!!どうした!!何があった!?』

 目の前に現れた巨大な怪物に、ナナシはシリウスの言葉を捉えることができなかった。

「あんたは……ビル……!?」

 肥大化した肉体と紅く光る瞳。それは狂戦士バーサーカーを発動したビルであった。

「ぐるるるる」

 ビルは血が混じったよだれを垂らしながら血走った目でナナシを見ると唸りながら身を屈めた。
 次の瞬間にはビルは突進し、瞬きも終わらぬうちにその巨体はナナシの目の前まで迫っていた。

「くそっ!!」

 ナナシは本能で避け、捕まりはしなかったものの、ナナシの体はビルの肩に吹き飛ばされてそのまま壁に叩きつけられた。

「ぐ……うう……」

 壁からずるずると落ちるとナナシはその場で蹲る。恐らく骨の数本は砕け散りもう立ち上がることは出来ないだろう。
 そんなナナシに情けをかけることなく、ビルは倒れる彼の下にその足を進めた。

「くそっ。……やっと生きたいと思ったんだ。……生きていいって言ってくれる人がやっと見つかったんだ。……こんなところで……こんなところで死んでたまるか……」
「ぐるるる!?」

 ビルは不思議そうに辺りを見回す。先ほどまで目の前で倒れていたはずのナナシの姿が急に消えたのである。

 素質タレントを使ったナナシは何とかビルから逃れようと這いながら距離を取ろうとした。しかし、瀕死の状態でそう長く能力が続くはずもなくナナシの存在はすぐにビルに捉えられた。

 ビルは再びナナシの下へ歩みを始める。
 ナナシは迫りくる死を睨みつけた。その目には恐怖は無くただ自身の死に対す反抗心が宿っていた。

「……絶対生き延びてやる。……絶対にだ……」

 勿論、ビルはナナシの心情などお構いなく目の前まで近づくと拳をその頭に向けて振り下ろした。しかし、それでもナナシは目を背けない。

 その時、ナナシの視界の端から黒い影が飛び出すとビルの体に強くぶつかり、吹き飛ばした。

「な……なんだこりゃ……」

 ナナシの前に立つのは巨大な人造兵ゴーレムであった。黒く染色カラーリングされた丸太のように太く、大きなボディからはこれまた太いアームレッグが取り付けられており、装甲アーマーの間からは熱い蒸気が噴出されていた。
 
 ナナシが茫然としていると頭部ヘッドに取り付けられた紫色に光る|目がナナシを捉えるとゴーレムの胸部が開いた。

「……お、王様!?」

 そこに現れたのは国王であった。ナナシは更に訳が分からなくなり再び茫然としているとゴーレムは彼の体を軽々と持ち上げ、国王の乗る操縦席コックピットへと放り投げ、胸部は閉じた。

「馬鹿者!!早く乗らんか!!」
「え、えぇ。……あの、王様、これは?」
「説明は後じゃ!!」

 国王は目の前のレバーを動かすと再び立ち上がったビルと向き合う。

「このまま脱出するぞ!!」

 こちらに突進してくるビルに応じる様にゴーレムの背中と足の裏から魔力を炎の様に噴出して僅かに飛び上がるとそのままビルに向かって行った。

「揺れるぞ!!掴まっていろ!!」

 ゴーレムは勢いを殺すことなく、ビルの頭部に右腕を叩き込んで潰すとそのまま壁を突き抜け、飛び去っていった。

「ひぃ!!……飛んでる!?……こいつは一体……」
「……ああ、こいつはな……」

 国王はナナシに向けて説明を始める。

 人造兵ゴーレムはガラクシアがドワーフの国だった時に彼らによって作られたものであり、土で作られた体に魔力を込めることによってその体は硬く、そして自律して動く。
 特に国王が乗る機体は人が乗って操縦できる様に改造されており、アルタイルが鍛錬の相手として闘技場の地下に格納していたものであった。
 国王は幼い時に闘技場の地下室に忍び込み、眠りにつくこのゴーレムを目にするや心奪われ、それ以来独学でゴーレムの機構について調べては修理メンテナンスをしていた。
 国王が何とか修理したとは言え、作られてから千年以上も経つゴーレムが動くのはドワーフの技術が流石と言うほかないだろう。

王女アンドロメダがうるさいからしばらく見ていなかったが……まさかこいつと空を飛ぶことになるとはな」

 国王は名残惜しそうに操縦レバーを撫でた。ナナシはそんな国王に自身の疑問をぶつける。

「あ、あの……何で俺なんかを……?」
「……お主も儂の大切な民じゃ。……ナナシは偽名じゃろう。お主の本当の本当の名を教えてくれんかの?」

 国王の言葉にナナシは涙と鼻水でぐちゃぐちゃな顔を国王に埋めた。

「こ、これ!!やめんか!!」
「ベ……ベテルギウスです!!」
「……!!」

 ナナシの本当の名を聞き、国王は押し黙る。

「俺の……俺の本当の名前はベテルギウスです!!」
「ベテルギウス……良い名をつけたのだな、月の影達は……」
「? あの、それは一体……」
「それ、城が見えてきたぞ。しっかり掴まっているように。生憎、地面への着陸は初めてでの……」

 ベテルギウスの疑問に被せる様にゴーレムを急降下させるとそのまま城へと突っ込んでいった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...