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Season3
変身ーMetamorphosisー
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眼前に広がる曇り空。目覚めたメルセデスは自身の身に何が起きたのか理解できなかった。
自身の右肩から胸にまで切り裂かれた傷。すでにメルセデスの心臓はその機能を失くし、父親から移植した第二の心臓が辛うじてメルセデスの命を繋いでいた。しかし、それも長くは保たないだろう。
メルセデスに死の恐怖は無かった。そこにあるのはただ怒り。弱者に強者が嬲り殺される不条理への八つ当たりともいえる怒りであった。
「こ……このままで終わるものか」
震える手で懐から注射器を取り出すと迷うことなく自身の首筋に打ち込んだ。
「なるほど……お前の素質で黒尸菌への抵抗を得たわけか」
「ええ、元々そこまで強いものじゃなかったんですけど……」
カーネルは興味深くポラリスの体を観察する。
「この一部だけ体が変色しているな……いずれにしても後で検査する必要がある」
ポラリスの顔面右上の白く変色した部分を指摘する。
「でも良かった。生きていてくれて。」
エストレアが嬉しそうに微笑む。ルーナ達もポラリスにしがみ付いて離れようとしなかった。
「え!?明日にこの街が消えるって!?」
チャックとヤンと自己紹介を済ませるとこれまでの経緯を聞かされ、消滅のタイムリミットに驚く。
「じゃあ一刻も早く脱出しないと……そうだ!!シリウスさんは!?」
「それが……シリウスは……っ!?」
自分たちを取り囲むジットリとした殺気にエストレアは息を呑み蒼白な顔で倒れたはずのメルセデスを見る。
そこにあるのは肉でできた繭であった。繭に亀裂が入ると巨大な手がヒビををこじ開け、巨大な怪物が姿を現す。
巨大な手足にはやはり巨大な爪が生え揃い心臓はさらに肥大化して大きく拍動していた。崩れた顔には無数の目玉が生え揃い首元から右肩にかけて牙の生えそろった歪んだ口が形成されている。鋭い右目と薄く生えた金髪だけがメルセデスの面影僅かに残していた。
「皆さん下がって!!」
ポラリスは“暁”に魔力を込めると怪物に飛び込むと石像のように動かない怪物に取ってつけたように飛び出し淡く光る心臓に槍を突き刺した。
「っ!!」
ポラリスは驚愕の表情を浮かべる。心臓を正確に突き刺した槍の柄から未だに拍動が伝わってきていた。
怪物の無数の目玉が総て、ポラリスに怒りの眼差しを向けると右手を振り上げ、ポラリスを殴りつけた。
どしゃっ。肉の潰れたような音とともにポラリスは反対の壁まで吹き飛ばされ壁にめり込む。
「ぐおおおおおおお」
怪物は右肩の大きな口で叫び声を上げるとポラリスに向かって飛びかかった。
「ポラリス!!」
「おい!!こっちもやばいぞ」
先ほどの叫び声に誘われてか四方に設置された闘技場の入り口から大勢のゾンビがぞろぞろと現れた。
エストレアはポラリスの援護に向かおうとするもゾンビへの対応に追われることとなった。
「エストレア!!これを使え!!」
ヤンが倒れている戦士ギルドの者から剣を奪い取り、エストレアに渡す。
「戦えない者は俺の側に!!」
カーネルとナナシ、子供達はチャックの側に寄るとチャックは素質でバリアを張った。
「この数、一度に来られたら俺のバリアじゃ防ぎ切れない。少しでも数を減らしてくれ」
エストレアとヤンはバリアに近づくゾンビ達を次々と倒していく。
全身の痛みで気絶すらできなかったのは不幸中の幸いだろうか。ポラリスの全身の骨はボロボロに砕けてしまったがその体はすぐさま再生を開始する。
腕の骨が元通りになった所で怪物が飛びかかってきた。迫りくる怪物の両手をなんとか防ぎ、怪物と押し合う形となった。
「ぐうううう」
この押し合いに敗れれば自分はその巨大な手で押し潰されることとなるだろう。ポラリスは全ての力を上半身に集め、ひたすら耐え抜く。
すると怪物の口が不意に開き、そこから飛び出た長く、鋭い舌がポラリスの腹を貫いた。
「がはっ!!」
ポラリスは血を吐きつつも腕の力は弱めない。
すると、怪物の舌はさらに伸びてポラリスを持ち上げるとそのまま地面に壁にと次々とポラリスを叩きつけた。大量の失血と痛みでポラリスの意識は次第に薄れていった。
怪物はポラリスの抵抗がなくなるのを確認するとその体を口元まで運び、捕食を始めようとする。
薄れていく視界の中、怪物の右肩に開かれた大きな口が次第に近づいてくる。そこでポラリスは怪物の心臓に未だに刺さり続ける“暁”に気づいた。
ポラリスはある勝機を思いつくと自分を奮い立たせ、腹を貫く舌を掴むとその体が怪物の口内に入る前に怪物の肩に足をかけ、全身に力をこめて耐え抜く。怪物の力が一瞬緩まったその瞬間をポラリスは見逃さず、その舌を根本から一気に引き抜いた。
流石の怪物もこれには怯み、ポラリスはその隙を見逃さず“暁”を掴むと集中して魔力を込め、怪物の心臓に送っていく。
次第に槍の柄から怪物の心臓の拍動が次第に早く、大きくなっていくのを感じた。このまま魔力を送り続ければ魔力駆動式内燃機関は暴走し、怪物自身の体を滅ぼす、というのがポラリスの考えであった。
しかし、ポラリス一人の魔力量では戦神の心臓を滅ぼすには足りない。怪物は苦しむもののその両手でポラリスをつぶそうとした。
自身の右肩から胸にまで切り裂かれた傷。すでにメルセデスの心臓はその機能を失くし、父親から移植した第二の心臓が辛うじてメルセデスの命を繋いでいた。しかし、それも長くは保たないだろう。
メルセデスに死の恐怖は無かった。そこにあるのはただ怒り。弱者に強者が嬲り殺される不条理への八つ当たりともいえる怒りであった。
「こ……このままで終わるものか」
震える手で懐から注射器を取り出すと迷うことなく自身の首筋に打ち込んだ。
「なるほど……お前の素質で黒尸菌への抵抗を得たわけか」
「ええ、元々そこまで強いものじゃなかったんですけど……」
カーネルは興味深くポラリスの体を観察する。
「この一部だけ体が変色しているな……いずれにしても後で検査する必要がある」
ポラリスの顔面右上の白く変色した部分を指摘する。
「でも良かった。生きていてくれて。」
エストレアが嬉しそうに微笑む。ルーナ達もポラリスにしがみ付いて離れようとしなかった。
「え!?明日にこの街が消えるって!?」
チャックとヤンと自己紹介を済ませるとこれまでの経緯を聞かされ、消滅のタイムリミットに驚く。
「じゃあ一刻も早く脱出しないと……そうだ!!シリウスさんは!?」
「それが……シリウスは……っ!?」
自分たちを取り囲むジットリとした殺気にエストレアは息を呑み蒼白な顔で倒れたはずのメルセデスを見る。
そこにあるのは肉でできた繭であった。繭に亀裂が入ると巨大な手がヒビををこじ開け、巨大な怪物が姿を現す。
巨大な手足にはやはり巨大な爪が生え揃い心臓はさらに肥大化して大きく拍動していた。崩れた顔には無数の目玉が生え揃い首元から右肩にかけて牙の生えそろった歪んだ口が形成されている。鋭い右目と薄く生えた金髪だけがメルセデスの面影僅かに残していた。
「皆さん下がって!!」
ポラリスは“暁”に魔力を込めると怪物に飛び込むと石像のように動かない怪物に取ってつけたように飛び出し淡く光る心臓に槍を突き刺した。
「っ!!」
ポラリスは驚愕の表情を浮かべる。心臓を正確に突き刺した槍の柄から未だに拍動が伝わってきていた。
怪物の無数の目玉が総て、ポラリスに怒りの眼差しを向けると右手を振り上げ、ポラリスを殴りつけた。
どしゃっ。肉の潰れたような音とともにポラリスは反対の壁まで吹き飛ばされ壁にめり込む。
「ぐおおおおおおお」
怪物は右肩の大きな口で叫び声を上げるとポラリスに向かって飛びかかった。
「ポラリス!!」
「おい!!こっちもやばいぞ」
先ほどの叫び声に誘われてか四方に設置された闘技場の入り口から大勢のゾンビがぞろぞろと現れた。
エストレアはポラリスの援護に向かおうとするもゾンビへの対応に追われることとなった。
「エストレア!!これを使え!!」
ヤンが倒れている戦士ギルドの者から剣を奪い取り、エストレアに渡す。
「戦えない者は俺の側に!!」
カーネルとナナシ、子供達はチャックの側に寄るとチャックは素質でバリアを張った。
「この数、一度に来られたら俺のバリアじゃ防ぎ切れない。少しでも数を減らしてくれ」
エストレアとヤンはバリアに近づくゾンビ達を次々と倒していく。
全身の痛みで気絶すらできなかったのは不幸中の幸いだろうか。ポラリスの全身の骨はボロボロに砕けてしまったがその体はすぐさま再生を開始する。
腕の骨が元通りになった所で怪物が飛びかかってきた。迫りくる怪物の両手をなんとか防ぎ、怪物と押し合う形となった。
「ぐうううう」
この押し合いに敗れれば自分はその巨大な手で押し潰されることとなるだろう。ポラリスは全ての力を上半身に集め、ひたすら耐え抜く。
すると怪物の口が不意に開き、そこから飛び出た長く、鋭い舌がポラリスの腹を貫いた。
「がはっ!!」
ポラリスは血を吐きつつも腕の力は弱めない。
すると、怪物の舌はさらに伸びてポラリスを持ち上げるとそのまま地面に壁にと次々とポラリスを叩きつけた。大量の失血と痛みでポラリスの意識は次第に薄れていった。
怪物はポラリスの抵抗がなくなるのを確認するとその体を口元まで運び、捕食を始めようとする。
薄れていく視界の中、怪物の右肩に開かれた大きな口が次第に近づいてくる。そこでポラリスは怪物の心臓に未だに刺さり続ける“暁”に気づいた。
ポラリスはある勝機を思いつくと自分を奮い立たせ、腹を貫く舌を掴むとその体が怪物の口内に入る前に怪物の肩に足をかけ、全身に力をこめて耐え抜く。怪物の力が一瞬緩まったその瞬間をポラリスは見逃さず、その舌を根本から一気に引き抜いた。
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次第に槍の柄から怪物の心臓の拍動が次第に早く、大きくなっていくのを感じた。このまま魔力を送り続ければ魔力駆動式内燃機関は暴走し、怪物自身の体を滅ぼす、というのがポラリスの考えであった。
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