77 / 106
Season3
変身ーMetamorphosisー
しおりを挟む
眼前に広がる曇り空。目覚めたメルセデスは自身の身に何が起きたのか理解できなかった。
自身の右肩から胸にまで切り裂かれた傷。すでにメルセデスの心臓はその機能を失くし、父親から移植した第二の心臓が辛うじてメルセデスの命を繋いでいた。しかし、それも長くは保たないだろう。
メルセデスに死の恐怖は無かった。そこにあるのはただ怒り。弱者に強者が嬲り殺される不条理への八つ当たりともいえる怒りであった。
「こ……このままで終わるものか」
震える手で懐から注射器を取り出すと迷うことなく自身の首筋に打ち込んだ。
「なるほど……お前の素質で黒尸菌への抵抗を得たわけか」
「ええ、元々そこまで強いものじゃなかったんですけど……」
カーネルは興味深くポラリスの体を観察する。
「この一部だけ体が変色しているな……いずれにしても後で検査する必要がある」
ポラリスの顔面右上の白く変色した部分を指摘する。
「でも良かった。生きていてくれて。」
エストレアが嬉しそうに微笑む。ルーナ達もポラリスにしがみ付いて離れようとしなかった。
「え!?明日にこの街が消えるって!?」
チャックとヤンと自己紹介を済ませるとこれまでの経緯を聞かされ、消滅のタイムリミットに驚く。
「じゃあ一刻も早く脱出しないと……そうだ!!シリウスさんは!?」
「それが……シリウスは……っ!?」
自分たちを取り囲むジットリとした殺気にエストレアは息を呑み蒼白な顔で倒れたはずのメルセデスを見る。
そこにあるのは肉でできた繭であった。繭に亀裂が入ると巨大な手がヒビををこじ開け、巨大な怪物が姿を現す。
巨大な手足にはやはり巨大な爪が生え揃い心臓はさらに肥大化して大きく拍動していた。崩れた顔には無数の目玉が生え揃い首元から右肩にかけて牙の生えそろった歪んだ口が形成されている。鋭い右目と薄く生えた金髪だけがメルセデスの面影僅かに残していた。
「皆さん下がって!!」
ポラリスは“暁”に魔力を込めると怪物に飛び込むと石像のように動かない怪物に取ってつけたように飛び出し淡く光る心臓に槍を突き刺した。
「っ!!」
ポラリスは驚愕の表情を浮かべる。心臓を正確に突き刺した槍の柄から未だに拍動が伝わってきていた。
怪物の無数の目玉が総て、ポラリスに怒りの眼差しを向けると右手を振り上げ、ポラリスを殴りつけた。
どしゃっ。肉の潰れたような音とともにポラリスは反対の壁まで吹き飛ばされ壁にめり込む。
「ぐおおおおおおお」
怪物は右肩の大きな口で叫び声を上げるとポラリスに向かって飛びかかった。
「ポラリス!!」
「おい!!こっちもやばいぞ」
先ほどの叫び声に誘われてか四方に設置された闘技場の入り口から大勢のゾンビがぞろぞろと現れた。
エストレアはポラリスの援護に向かおうとするもゾンビへの対応に追われることとなった。
「エストレア!!これを使え!!」
ヤンが倒れている戦士ギルドの者から剣を奪い取り、エストレアに渡す。
「戦えない者は俺の側に!!」
カーネルとナナシ、子供達はチャックの側に寄るとチャックは素質でバリアを張った。
「この数、一度に来られたら俺のバリアじゃ防ぎ切れない。少しでも数を減らしてくれ」
エストレアとヤンはバリアに近づくゾンビ達を次々と倒していく。
全身の痛みで気絶すらできなかったのは不幸中の幸いだろうか。ポラリスの全身の骨はボロボロに砕けてしまったがその体はすぐさま再生を開始する。
腕の骨が元通りになった所で怪物が飛びかかってきた。迫りくる怪物の両手をなんとか防ぎ、怪物と押し合う形となった。
「ぐうううう」
この押し合いに敗れれば自分はその巨大な手で押し潰されることとなるだろう。ポラリスは全ての力を上半身に集め、ひたすら耐え抜く。
すると怪物の口が不意に開き、そこから飛び出た長く、鋭い舌がポラリスの腹を貫いた。
「がはっ!!」
ポラリスは血を吐きつつも腕の力は弱めない。
すると、怪物の舌はさらに伸びてポラリスを持ち上げるとそのまま地面に壁にと次々とポラリスを叩きつけた。大量の失血と痛みでポラリスの意識は次第に薄れていった。
怪物はポラリスの抵抗がなくなるのを確認するとその体を口元まで運び、捕食を始めようとする。
薄れていく視界の中、怪物の右肩に開かれた大きな口が次第に近づいてくる。そこでポラリスは怪物の心臓に未だに刺さり続ける“暁”に気づいた。
ポラリスはある勝機を思いつくと自分を奮い立たせ、腹を貫く舌を掴むとその体が怪物の口内に入る前に怪物の肩に足をかけ、全身に力をこめて耐え抜く。怪物の力が一瞬緩まったその瞬間をポラリスは見逃さず、その舌を根本から一気に引き抜いた。
流石の怪物もこれには怯み、ポラリスはその隙を見逃さず“暁”を掴むと集中して魔力を込め、怪物の心臓に送っていく。
次第に槍の柄から怪物の心臓の拍動が次第に早く、大きくなっていくのを感じた。このまま魔力を送り続ければ魔力駆動式内燃機関は暴走し、怪物自身の体を滅ぼす、というのがポラリスの考えであった。
しかし、ポラリス一人の魔力量では戦神の心臓を滅ぼすには足りない。怪物は苦しむもののその両手でポラリスをつぶそうとした。
自身の右肩から胸にまで切り裂かれた傷。すでにメルセデスの心臓はその機能を失くし、父親から移植した第二の心臓が辛うじてメルセデスの命を繋いでいた。しかし、それも長くは保たないだろう。
メルセデスに死の恐怖は無かった。そこにあるのはただ怒り。弱者に強者が嬲り殺される不条理への八つ当たりともいえる怒りであった。
「こ……このままで終わるものか」
震える手で懐から注射器を取り出すと迷うことなく自身の首筋に打ち込んだ。
「なるほど……お前の素質で黒尸菌への抵抗を得たわけか」
「ええ、元々そこまで強いものじゃなかったんですけど……」
カーネルは興味深くポラリスの体を観察する。
「この一部だけ体が変色しているな……いずれにしても後で検査する必要がある」
ポラリスの顔面右上の白く変色した部分を指摘する。
「でも良かった。生きていてくれて。」
エストレアが嬉しそうに微笑む。ルーナ達もポラリスにしがみ付いて離れようとしなかった。
「え!?明日にこの街が消えるって!?」
チャックとヤンと自己紹介を済ませるとこれまでの経緯を聞かされ、消滅のタイムリミットに驚く。
「じゃあ一刻も早く脱出しないと……そうだ!!シリウスさんは!?」
「それが……シリウスは……っ!?」
自分たちを取り囲むジットリとした殺気にエストレアは息を呑み蒼白な顔で倒れたはずのメルセデスを見る。
そこにあるのは肉でできた繭であった。繭に亀裂が入ると巨大な手がヒビををこじ開け、巨大な怪物が姿を現す。
巨大な手足にはやはり巨大な爪が生え揃い心臓はさらに肥大化して大きく拍動していた。崩れた顔には無数の目玉が生え揃い首元から右肩にかけて牙の生えそろった歪んだ口が形成されている。鋭い右目と薄く生えた金髪だけがメルセデスの面影僅かに残していた。
「皆さん下がって!!」
ポラリスは“暁”に魔力を込めると怪物に飛び込むと石像のように動かない怪物に取ってつけたように飛び出し淡く光る心臓に槍を突き刺した。
「っ!!」
ポラリスは驚愕の表情を浮かべる。心臓を正確に突き刺した槍の柄から未だに拍動が伝わってきていた。
怪物の無数の目玉が総て、ポラリスに怒りの眼差しを向けると右手を振り上げ、ポラリスを殴りつけた。
どしゃっ。肉の潰れたような音とともにポラリスは反対の壁まで吹き飛ばされ壁にめり込む。
「ぐおおおおおおお」
怪物は右肩の大きな口で叫び声を上げるとポラリスに向かって飛びかかった。
「ポラリス!!」
「おい!!こっちもやばいぞ」
先ほどの叫び声に誘われてか四方に設置された闘技場の入り口から大勢のゾンビがぞろぞろと現れた。
エストレアはポラリスの援護に向かおうとするもゾンビへの対応に追われることとなった。
「エストレア!!これを使え!!」
ヤンが倒れている戦士ギルドの者から剣を奪い取り、エストレアに渡す。
「戦えない者は俺の側に!!」
カーネルとナナシ、子供達はチャックの側に寄るとチャックは素質でバリアを張った。
「この数、一度に来られたら俺のバリアじゃ防ぎ切れない。少しでも数を減らしてくれ」
エストレアとヤンはバリアに近づくゾンビ達を次々と倒していく。
全身の痛みで気絶すらできなかったのは不幸中の幸いだろうか。ポラリスの全身の骨はボロボロに砕けてしまったがその体はすぐさま再生を開始する。
腕の骨が元通りになった所で怪物が飛びかかってきた。迫りくる怪物の両手をなんとか防ぎ、怪物と押し合う形となった。
「ぐうううう」
この押し合いに敗れれば自分はその巨大な手で押し潰されることとなるだろう。ポラリスは全ての力を上半身に集め、ひたすら耐え抜く。
すると怪物の口が不意に開き、そこから飛び出た長く、鋭い舌がポラリスの腹を貫いた。
「がはっ!!」
ポラリスは血を吐きつつも腕の力は弱めない。
すると、怪物の舌はさらに伸びてポラリスを持ち上げるとそのまま地面に壁にと次々とポラリスを叩きつけた。大量の失血と痛みでポラリスの意識は次第に薄れていった。
怪物はポラリスの抵抗がなくなるのを確認するとその体を口元まで運び、捕食を始めようとする。
薄れていく視界の中、怪物の右肩に開かれた大きな口が次第に近づいてくる。そこでポラリスは怪物の心臓に未だに刺さり続ける“暁”に気づいた。
ポラリスはある勝機を思いつくと自分を奮い立たせ、腹を貫く舌を掴むとその体が怪物の口内に入る前に怪物の肩に足をかけ、全身に力をこめて耐え抜く。怪物の力が一瞬緩まったその瞬間をポラリスは見逃さず、その舌を根本から一気に引き抜いた。
流石の怪物もこれには怯み、ポラリスはその隙を見逃さず“暁”を掴むと集中して魔力を込め、怪物の心臓に送っていく。
次第に槍の柄から怪物の心臓の拍動が次第に早く、大きくなっていくのを感じた。このまま魔力を送り続ければ魔力駆動式内燃機関は暴走し、怪物自身の体を滅ぼす、というのがポラリスの考えであった。
しかし、ポラリス一人の魔力量では戦神の心臓を滅ぼすには足りない。怪物は苦しむもののその両手でポラリスをつぶそうとした。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

妻を蔑ろにしていた結果。
下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。
主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。
小説家になろう様でも投稿しています。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる