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Season2
月下の蝶ーButterflyー
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月下の蝶は右手にレイピア、もう片方の手には攻撃を受け流すダガーを装備していた。月の影は両手に三日月のように刀身が沿ったククリナイフを持つ。
対するデネブは宝石など派手な装飾を施された小ぶりのショートソードを持ち不敵に佇む。
刹那、月下の蝶の周りを光り輝く蝶が取り囲むと彼女はその姿を消す。
月の影は再びナイフを投げると間髪入れずにデネブに向かっていく。デネブの背後に蝶が集まると月下の蝶が現れ再び胸に向かいレイピアを突く。
デネブは投げナイフを剣で防ぐとそのまま背後からの一撃を弾く。月下の蝶と同時に仕掛けられた月の影のナイフがその喉元に届く時であった。
「“離れろ”」
月の影を謎の力が襲いデネブから引き離されるように吹き飛ばされた。月下の蝶もその異様な現象に距離を取る。二人はデネブを挟みこむ形になった。
(なんだ今のは!?魔法……違う。魔力の流れが全く見えなかった)
「だからさっきから言っているだろう。これは奇跡だと」
「!?」
考えをまた見透かされた月の影の額を冷や汗が滴り落ちる。
「これでもまだ私をペテン師と呼ぶつもりかね」
デネブの言葉に月の影は反論できない。
「まあ、考えてもみたまえ。私と君たちが戦う理由はないはずだ。元を辿れば盗賊、暗殺両部隊を設立したのはこの私だ。言ってしまえば私は君たちの主人なんだぞ」
「……戯言を……私たちが仕えるのは国王、ひいてはこの国だけだ!!」
「……残念だな。ここで引けば片方は殺さないでおいたものを……“不届き者には神の斬撃が下るだろう”」
「!?月の蝶!!避けろ!!」
瞬間、無数の斬撃が二人を襲った。その速さは光速に近いものであり回避は不可能である。
しかし、月下の蝶は再び体を無数の蝶に変え、月の影は全ての攻撃を紙一重で避け切った。
「ほお、月下の蝶はともかくお前は殺す気でいたのだが……なるほど、その眼か。お前、“導きの欠片”を目にしたな」
デネブは月の影の眼帯を指差す。
導きの欠片ははるか昔に宇宙から落ちてきた“導きの星の欠片であり、目にしたものに予言をもたらすと言われている。三英雄もこの予言に導かれて旅をしていたと言い伝えにある。
「だが、その眼。光を失うとはどうやらお前は私たちと違い選ばれし者ではなかったらしいな。」
月の影は若かりし時、盗みに入った神殿の奥で導きの欠片を目にし右目を失明した。それ以来、見えないはずの右目には近い未来に起こる自身の危機が見えた。他にも遠い未来に起こる大きな物事を抽象的であるが予言として感じ取ることができた。
月の影はそれを自身の大いなる使命と捉え、以後、盗賊ギルドとしてラウム王国を守ってきた。
「……こちらもお前のカラクリがわかったぞ。先程の攻撃……魔法にしては発動が早すぎる……」
月の影は激しい戦闘が巻き起こってなお黙って祈り続ける数百人の信者達をチラリと見た。
「お前、この信者達に魔法の処理をさせているな……。あれ程の魔法を個人で、あの一瞬で放つのは不可能だ」
「ほお、みくびっていたよ月の影。お前はなかなか鋭いな。殺すに惜しい」
話の最中も攻撃を繰り返す月下の蝶を軽々といなしながら話を続ける。
「だが、半分正解で半分ハズレだ。魔法の処理をさせているのではない、私の言葉が奇跡を起こしているのだ。こんな風にな……”燃えろ“」
瞬間、月下の蝶と月の影の体から火が上がる。二人は膝をつき悶え苦しみながらも自身の体の変化を察知する。
二人から上がった炎は二人自身の魔力を触媒として発生していた。つまり、彼ら自身が知らぬうちに発動していた魔法で燃えていたのだ。
二人は自身の魔力の流れをコントロールするとすぐに火は鎮火した。
「なるほど……言葉に力を与えて聞いた者の魔力で再現する素質……」
「ほお、正直感心したよ。どの時代にも強者はいるものだな……。今すぐ全盛期の力を見せられなくて申し訳ない」
「……今すぐ……?」
デネブの言葉の端に違和感を持つ。
「ああ、言い忘れていたな。お前達を呼んだのは他でもない。復活したばかりの私が元の力を取り戻すためだ」
「呼んだ!?どういうことだ!?俺たちは自分の意思でここに来たはずだ!!」
「ここまでやったお前達に敬意を称して教えてやろう」
デネブが話を始める。月の影と月下の蝶はお構いなしに攻撃を繰り返すがデネブは気にも留めない。
「1000年前、私は不治の病に倒れた。当時は治療の術はなく、私は一回死ぬことで生を未来に託した。……教会に私の復活を指示してな」
光る蝶がデネブの周りを舞うと次々と爆発していく。しかし爆煙が晴れると無傷のデネブは話を続ける。
「だが、復活はいつになるか導きの欠片を見てもわからなかった。100年後か、1000年後か。もしかしたら人が滅びた後かもしれない。その時に私が万全である保証はない。だから保険として私は子を儲けた」
「!?何の話をしている!?」
「おや、さっきまでの察しの良さはどうした。呪いをかけたんだよ、自身の血に。私が復活した際、その命を献上して私を癒せとな」
「!?」
「長い年月で血は薄れ、呪いの形は変わってしまったが私の元に来てくれた。なあ、我が子孫、月下の蝶よ」
告げられた真実に二人は固まる。月の影は彼女がしきりに教会へ向かおうとしていたのを思い出した。
「嘘だ……出鱈目を言うな!!」
「!?月下の蝶!!」
月下の蝶は怒り、今までよりも激しくデネブに剣撃を繰り返す。
「月下の蝶か……呼びにくいな。名前は何という?」
「うるさい!!貴様に名乗る名などない!!」
「単に名前を付けられなかっただけじゃないのか?お前は暗殺ギルドで生まれ、育てられてきたのだろう」
「!!何故それを!?」
「はははは。存外、人とは律儀なものだな。私が命じたのだ。我ながら危ない綱渡りだったが我が子を暗殺ギルドに預け、長となるように育てさせた。そして子を生ませ、代々ギルドマスターの座と”月下の蝶“の名を継がせるようにともな」
「!!私はお前の操り人形ではない!!」
激情に任せて攻撃を繰り返す月下の蝶の隙をつき、デネブが一撃を加えようとする。しかし、その攻撃は間に入った月の影に阻まれた。
「月下の蝶!!落ち着け。相手の思う壺だ」
月の影がなだめるのも虚しく月下の蝶は息を荒げ続ける。
「今思えばお前達は蝶などと美しいものではなかったな。ただ月の光を目指して飛び続ける醜い蛾に過ぎないのに」
「だまれ!!」
挑発するようにデネブは言葉を連ねる。
すると、どこからか大聖堂に声が響いた。
『デネブ様、お戯れのところ申し上げにくいのですがそろそろお時間です』
「ロメロか。まあもう少しいいではないか。これ程の者たちは私の時代でも珍しかった」
『しかし、投薬のお時間です」
「うーむ。あの煩わしい薬か……。いや、もういらん。この体は今宵癒す」
デネブの表情が貼り付けたような笑顔から冷たく鋭い顔に変わる。異変を察した月の影は月下の蝶に注意を促すと自身も回避の態勢を取る。
「月の影よ……悪いがここで終焉だ。……”私の周囲の命は全て消えていく“」
デネブから発せられた眩い光が二人と信者の半分を包み込む。
光が消えるととそこにはただ一人、デネブだけが立っていた。その数秒後、光の蝶が集まり始める。
「ほお、これは予想外だ」
そこに現れたのは月下の蝶ではなく月の影であった。
「……月下の蝶……。デネブ!!どうやらお前の野望もここまでのようだな!!」
「分からんな……何故、自分の身よりもこの男を優先するのか……」
デネブは片手を前に差し出し、何かを掴むような動作をした。
「”消え去った命は再び芽吹く“」
突如、デネブにより消えた信者は何事もなかったかのように再び姿を現し、デネブの腕には月下の蝶の首が握られていた。
月下の蝶は脱出しようともがくもデネブはその手を離さない。
ゆっくりとデネブは剣先を彼女の腹部に近づけていく。
「や、やめろ!!……やめてくれ……」
月の影の懇願も虚しく剣は月下の蝶の腹を貫いた。彼女の生気が消えていくのと反比例して剣が光り輝いていく。月下の蝶がぐったりと動かなくなるとデネブは彼女を投げ捨て、剣先を次は自身の腹に突き刺した。
眩い光と共にデネブの体に変化が起こる。長い白髪は毛の先まで美しい黄金に染まり死人のように白かった肌は血色を取り戻す。
「ふむ、魔力は元どおりだな。体の方は……素晴らしい!!生前以上だ!!これが異界の力か……」
デネブが自身の体を観察する中、月の影は捨てられた月下の蝶に駆け寄った。
弱々しく息をしながら月下の蝶は月の影になにかを伝えようとする。しかし、口からは空気が漏れるだけでそれは声にはならなかった。
「ああ、わかってる」
月の影はただ頷くと黙って冷たくなっていく手を握った。
「なるほど……お前たち、そういう仲だったのか」
先程と同じく演技かかった大袈裟な手振りで話すデネブを月の影は黙って睨みつける。
「ああ、愛とはなんて美しく、儚くそして……くだらないものなのだ」
「……貴様は復活して何をするつもりだ……。再び教皇として立つのか?この滅んだ国で……」
「ふっ。そんな馬鹿な真似をするものか。私は”導きの欠片“の予言通り復活したのだ!!……今なら神にでもなれるだろう……」
「……どうやら貴様はせっかちなようだな。予言の続きを見なかったらしい……」
月の影の言葉にデネブは表情を固める。
「邪悪なる者が復活する時、英雄が集い、その者の野望は断たれるだろう……導きの星の下で……」
「……くだらんな。もういい”爆ぜよ“」
刹那、月の影は消え去り血飛沫だけが残った。
デネブは万全になった体で風を感じようと大聖堂の外で夜空を見上げる。そんな彼に近づく人影があった。
「……ロメロか」
「デネブ様、国外でも計画は順調に進んでおります。ただ一つ、外から侵入者が……」
「ふむ、あれか」
夜空を飛行する謎の物体に手を向けると光の柱がそれを貫く。
「おお、これが神の御業……デネブ様の本来のお力ですか!!」
感動に浸るロメロ司祭を無視し、月の影の言葉を思い出しながらデネブは夜空を見上げた。
(導きの星か……ふっ、何者にも私の邪魔はさせん。……アルタイルやベガでもな……)
ガラクシアの夜空は雲に覆われ、その日は導きの星は地上からは見られなかった。
Season 2 fin
~Next Season Coming Soon~
対するデネブは宝石など派手な装飾を施された小ぶりのショートソードを持ち不敵に佇む。
刹那、月下の蝶の周りを光り輝く蝶が取り囲むと彼女はその姿を消す。
月の影は再びナイフを投げると間髪入れずにデネブに向かっていく。デネブの背後に蝶が集まると月下の蝶が現れ再び胸に向かいレイピアを突く。
デネブは投げナイフを剣で防ぐとそのまま背後からの一撃を弾く。月下の蝶と同時に仕掛けられた月の影のナイフがその喉元に届く時であった。
「“離れろ”」
月の影を謎の力が襲いデネブから引き離されるように吹き飛ばされた。月下の蝶もその異様な現象に距離を取る。二人はデネブを挟みこむ形になった。
(なんだ今のは!?魔法……違う。魔力の流れが全く見えなかった)
「だからさっきから言っているだろう。これは奇跡だと」
「!?」
考えをまた見透かされた月の影の額を冷や汗が滴り落ちる。
「これでもまだ私をペテン師と呼ぶつもりかね」
デネブの言葉に月の影は反論できない。
「まあ、考えてもみたまえ。私と君たちが戦う理由はないはずだ。元を辿れば盗賊、暗殺両部隊を設立したのはこの私だ。言ってしまえば私は君たちの主人なんだぞ」
「……戯言を……私たちが仕えるのは国王、ひいてはこの国だけだ!!」
「……残念だな。ここで引けば片方は殺さないでおいたものを……“不届き者には神の斬撃が下るだろう”」
「!?月の蝶!!避けろ!!」
瞬間、無数の斬撃が二人を襲った。その速さは光速に近いものであり回避は不可能である。
しかし、月下の蝶は再び体を無数の蝶に変え、月の影は全ての攻撃を紙一重で避け切った。
「ほお、月下の蝶はともかくお前は殺す気でいたのだが……なるほど、その眼か。お前、“導きの欠片”を目にしたな」
デネブは月の影の眼帯を指差す。
導きの欠片ははるか昔に宇宙から落ちてきた“導きの星の欠片であり、目にしたものに予言をもたらすと言われている。三英雄もこの予言に導かれて旅をしていたと言い伝えにある。
「だが、その眼。光を失うとはどうやらお前は私たちと違い選ばれし者ではなかったらしいな。」
月の影は若かりし時、盗みに入った神殿の奥で導きの欠片を目にし右目を失明した。それ以来、見えないはずの右目には近い未来に起こる自身の危機が見えた。他にも遠い未来に起こる大きな物事を抽象的であるが予言として感じ取ることができた。
月の影はそれを自身の大いなる使命と捉え、以後、盗賊ギルドとしてラウム王国を守ってきた。
「……こちらもお前のカラクリがわかったぞ。先程の攻撃……魔法にしては発動が早すぎる……」
月の影は激しい戦闘が巻き起こってなお黙って祈り続ける数百人の信者達をチラリと見た。
「お前、この信者達に魔法の処理をさせているな……。あれ程の魔法を個人で、あの一瞬で放つのは不可能だ」
「ほお、みくびっていたよ月の影。お前はなかなか鋭いな。殺すに惜しい」
話の最中も攻撃を繰り返す月下の蝶を軽々といなしながら話を続ける。
「だが、半分正解で半分ハズレだ。魔法の処理をさせているのではない、私の言葉が奇跡を起こしているのだ。こんな風にな……”燃えろ“」
瞬間、月下の蝶と月の影の体から火が上がる。二人は膝をつき悶え苦しみながらも自身の体の変化を察知する。
二人から上がった炎は二人自身の魔力を触媒として発生していた。つまり、彼ら自身が知らぬうちに発動していた魔法で燃えていたのだ。
二人は自身の魔力の流れをコントロールするとすぐに火は鎮火した。
「なるほど……言葉に力を与えて聞いた者の魔力で再現する素質……」
「ほお、正直感心したよ。どの時代にも強者はいるものだな……。今すぐ全盛期の力を見せられなくて申し訳ない」
「……今すぐ……?」
デネブの言葉の端に違和感を持つ。
「ああ、言い忘れていたな。お前達を呼んだのは他でもない。復活したばかりの私が元の力を取り戻すためだ」
「呼んだ!?どういうことだ!?俺たちは自分の意思でここに来たはずだ!!」
「ここまでやったお前達に敬意を称して教えてやろう」
デネブが話を始める。月の影と月下の蝶はお構いなしに攻撃を繰り返すがデネブは気にも留めない。
「1000年前、私は不治の病に倒れた。当時は治療の術はなく、私は一回死ぬことで生を未来に託した。……教会に私の復活を指示してな」
光る蝶がデネブの周りを舞うと次々と爆発していく。しかし爆煙が晴れると無傷のデネブは話を続ける。
「だが、復活はいつになるか導きの欠片を見てもわからなかった。100年後か、1000年後か。もしかしたら人が滅びた後かもしれない。その時に私が万全である保証はない。だから保険として私は子を儲けた」
「!?何の話をしている!?」
「おや、さっきまでの察しの良さはどうした。呪いをかけたんだよ、自身の血に。私が復活した際、その命を献上して私を癒せとな」
「!?」
「長い年月で血は薄れ、呪いの形は変わってしまったが私の元に来てくれた。なあ、我が子孫、月下の蝶よ」
告げられた真実に二人は固まる。月の影は彼女がしきりに教会へ向かおうとしていたのを思い出した。
「嘘だ……出鱈目を言うな!!」
「!?月下の蝶!!」
月下の蝶は怒り、今までよりも激しくデネブに剣撃を繰り返す。
「月下の蝶か……呼びにくいな。名前は何という?」
「うるさい!!貴様に名乗る名などない!!」
「単に名前を付けられなかっただけじゃないのか?お前は暗殺ギルドで生まれ、育てられてきたのだろう」
「!!何故それを!?」
「はははは。存外、人とは律儀なものだな。私が命じたのだ。我ながら危ない綱渡りだったが我が子を暗殺ギルドに預け、長となるように育てさせた。そして子を生ませ、代々ギルドマスターの座と”月下の蝶“の名を継がせるようにともな」
「!!私はお前の操り人形ではない!!」
激情に任せて攻撃を繰り返す月下の蝶の隙をつき、デネブが一撃を加えようとする。しかし、その攻撃は間に入った月の影に阻まれた。
「月下の蝶!!落ち着け。相手の思う壺だ」
月の影がなだめるのも虚しく月下の蝶は息を荒げ続ける。
「今思えばお前達は蝶などと美しいものではなかったな。ただ月の光を目指して飛び続ける醜い蛾に過ぎないのに」
「だまれ!!」
挑発するようにデネブは言葉を連ねる。
すると、どこからか大聖堂に声が響いた。
『デネブ様、お戯れのところ申し上げにくいのですがそろそろお時間です』
「ロメロか。まあもう少しいいではないか。これ程の者たちは私の時代でも珍しかった」
『しかし、投薬のお時間です」
「うーむ。あの煩わしい薬か……。いや、もういらん。この体は今宵癒す」
デネブの表情が貼り付けたような笑顔から冷たく鋭い顔に変わる。異変を察した月の影は月下の蝶に注意を促すと自身も回避の態勢を取る。
「月の影よ……悪いがここで終焉だ。……”私の周囲の命は全て消えていく“」
デネブから発せられた眩い光が二人と信者の半分を包み込む。
光が消えるととそこにはただ一人、デネブだけが立っていた。その数秒後、光の蝶が集まり始める。
「ほお、これは予想外だ」
そこに現れたのは月下の蝶ではなく月の影であった。
「……月下の蝶……。デネブ!!どうやらお前の野望もここまでのようだな!!」
「分からんな……何故、自分の身よりもこの男を優先するのか……」
デネブは片手を前に差し出し、何かを掴むような動作をした。
「”消え去った命は再び芽吹く“」
突如、デネブにより消えた信者は何事もなかったかのように再び姿を現し、デネブの腕には月下の蝶の首が握られていた。
月下の蝶は脱出しようともがくもデネブはその手を離さない。
ゆっくりとデネブは剣先を彼女の腹部に近づけていく。
「や、やめろ!!……やめてくれ……」
月の影の懇願も虚しく剣は月下の蝶の腹を貫いた。彼女の生気が消えていくのと反比例して剣が光り輝いていく。月下の蝶がぐったりと動かなくなるとデネブは彼女を投げ捨て、剣先を次は自身の腹に突き刺した。
眩い光と共にデネブの体に変化が起こる。長い白髪は毛の先まで美しい黄金に染まり死人のように白かった肌は血色を取り戻す。
「ふむ、魔力は元どおりだな。体の方は……素晴らしい!!生前以上だ!!これが異界の力か……」
デネブが自身の体を観察する中、月の影は捨てられた月下の蝶に駆け寄った。
弱々しく息をしながら月下の蝶は月の影になにかを伝えようとする。しかし、口からは空気が漏れるだけでそれは声にはならなかった。
「ああ、わかってる」
月の影はただ頷くと黙って冷たくなっていく手を握った。
「なるほど……お前たち、そういう仲だったのか」
先程と同じく演技かかった大袈裟な手振りで話すデネブを月の影は黙って睨みつける。
「ああ、愛とはなんて美しく、儚くそして……くだらないものなのだ」
「……貴様は復活して何をするつもりだ……。再び教皇として立つのか?この滅んだ国で……」
「ふっ。そんな馬鹿な真似をするものか。私は”導きの欠片“の予言通り復活したのだ!!……今なら神にでもなれるだろう……」
「……どうやら貴様はせっかちなようだな。予言の続きを見なかったらしい……」
月の影の言葉にデネブは表情を固める。
「邪悪なる者が復活する時、英雄が集い、その者の野望は断たれるだろう……導きの星の下で……」
「……くだらんな。もういい”爆ぜよ“」
刹那、月の影は消え去り血飛沫だけが残った。
デネブは万全になった体で風を感じようと大聖堂の外で夜空を見上げる。そんな彼に近づく人影があった。
「……ロメロか」
「デネブ様、国外でも計画は順調に進んでおります。ただ一つ、外から侵入者が……」
「ふむ、あれか」
夜空を飛行する謎の物体に手を向けると光の柱がそれを貫く。
「おお、これが神の御業……デネブ様の本来のお力ですか!!」
感動に浸るロメロ司祭を無視し、月の影の言葉を思い出しながらデネブは夜空を見上げた。
(導きの星か……ふっ、何者にも私の邪魔はさせん。……アルタイルやベガでもな……)
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