56 / 106
Season2
月下の蝶ーButterflyー
しおりを挟む
月下の蝶は右手にレイピア、もう片方の手には攻撃を受け流すダガーを装備していた。月の影は両手に三日月のように刀身が沿ったククリナイフを持つ。
対するデネブは宝石など派手な装飾を施された小ぶりのショートソードを持ち不敵に佇む。
刹那、月下の蝶の周りを光り輝く蝶が取り囲むと彼女はその姿を消す。
月の影は再びナイフを投げると間髪入れずにデネブに向かっていく。デネブの背後に蝶が集まると月下の蝶が現れ再び胸に向かいレイピアを突く。
デネブは投げナイフを剣で防ぐとそのまま背後からの一撃を弾く。月下の蝶と同時に仕掛けられた月の影のナイフがその喉元に届く時であった。
「“離れろ”」
月の影を謎の力が襲いデネブから引き離されるように吹き飛ばされた。月下の蝶もその異様な現象に距離を取る。二人はデネブを挟みこむ形になった。
(なんだ今のは!?魔法……違う。魔力の流れが全く見えなかった)
「だからさっきから言っているだろう。これは奇跡だと」
「!?」
考えをまた見透かされた月の影の額を冷や汗が滴り落ちる。
「これでもまだ私をペテン師と呼ぶつもりかね」
デネブの言葉に月の影は反論できない。
「まあ、考えてもみたまえ。私と君たちが戦う理由はないはずだ。元を辿れば盗賊、暗殺両部隊を設立したのはこの私だ。言ってしまえば私は君たちの主人なんだぞ」
「……戯言を……私たちが仕えるのは国王、ひいてはこの国だけだ!!」
「……残念だな。ここで引けば片方は殺さないでおいたものを……“不届き者には神の斬撃が下るだろう”」
「!?月の蝶!!避けろ!!」
瞬間、無数の斬撃が二人を襲った。その速さは光速に近いものであり回避は不可能である。
しかし、月下の蝶は再び体を無数の蝶に変え、月の影は全ての攻撃を紙一重で避け切った。
「ほお、月下の蝶はともかくお前は殺す気でいたのだが……なるほど、その眼か。お前、“導きの欠片”を目にしたな」
デネブは月の影の眼帯を指差す。
導きの欠片ははるか昔に宇宙から落ちてきた“導きの星の欠片であり、目にしたものに予言をもたらすと言われている。三英雄もこの予言に導かれて旅をしていたと言い伝えにある。
「だが、その眼。光を失うとはどうやらお前は私たちと違い選ばれし者ではなかったらしいな。」
月の影は若かりし時、盗みに入った神殿の奥で導きの欠片を目にし右目を失明した。それ以来、見えないはずの右目には近い未来に起こる自身の危機が見えた。他にも遠い未来に起こる大きな物事を抽象的であるが予言として感じ取ることができた。
月の影はそれを自身の大いなる使命と捉え、以後、盗賊ギルドとしてラウム王国を守ってきた。
「……こちらもお前のカラクリがわかったぞ。先程の攻撃……魔法にしては発動が早すぎる……」
月の影は激しい戦闘が巻き起こってなお黙って祈り続ける数百人の信者達をチラリと見た。
「お前、この信者達に魔法の処理をさせているな……。あれ程の魔法を個人で、あの一瞬で放つのは不可能だ」
「ほお、みくびっていたよ月の影。お前はなかなか鋭いな。殺すに惜しい」
話の最中も攻撃を繰り返す月下の蝶を軽々といなしながら話を続ける。
「だが、半分正解で半分ハズレだ。魔法の処理をさせているのではない、私の言葉が奇跡を起こしているのだ。こんな風にな……”燃えろ“」
瞬間、月下の蝶と月の影の体から火が上がる。二人は膝をつき悶え苦しみながらも自身の体の変化を察知する。
二人から上がった炎は二人自身の魔力を触媒として発生していた。つまり、彼ら自身が知らぬうちに発動していた魔法で燃えていたのだ。
二人は自身の魔力の流れをコントロールするとすぐに火は鎮火した。
「なるほど……言葉に力を与えて聞いた者の魔力で再現する素質……」
「ほお、正直感心したよ。どの時代にも強者はいるものだな……。今すぐ全盛期の力を見せられなくて申し訳ない」
「……今すぐ……?」
デネブの言葉の端に違和感を持つ。
「ああ、言い忘れていたな。お前達を呼んだのは他でもない。復活したばかりの私が元の力を取り戻すためだ」
「呼んだ!?どういうことだ!?俺たちは自分の意思でここに来たはずだ!!」
「ここまでやったお前達に敬意を称して教えてやろう」
デネブが話を始める。月の影と月下の蝶はお構いなしに攻撃を繰り返すがデネブは気にも留めない。
「1000年前、私は不治の病に倒れた。当時は治療の術はなく、私は一回死ぬことで生を未来に託した。……教会に私の復活を指示してな」
光る蝶がデネブの周りを舞うと次々と爆発していく。しかし爆煙が晴れると無傷のデネブは話を続ける。
「だが、復活はいつになるか導きの欠片を見てもわからなかった。100年後か、1000年後か。もしかしたら人が滅びた後かもしれない。その時に私が万全である保証はない。だから保険として私は子を儲けた」
「!?何の話をしている!?」
「おや、さっきまでの察しの良さはどうした。呪いをかけたんだよ、自身の血に。私が復活した際、その命を献上して私を癒せとな」
「!?」
「長い年月で血は薄れ、呪いの形は変わってしまったが私の元に来てくれた。なあ、我が子孫、月下の蝶よ」
告げられた真実に二人は固まる。月の影は彼女がしきりに教会へ向かおうとしていたのを思い出した。
「嘘だ……出鱈目を言うな!!」
「!?月下の蝶!!」
月下の蝶は怒り、今までよりも激しくデネブに剣撃を繰り返す。
「月下の蝶か……呼びにくいな。名前は何という?」
「うるさい!!貴様に名乗る名などない!!」
「単に名前を付けられなかっただけじゃないのか?お前は暗殺ギルドで生まれ、育てられてきたのだろう」
「!!何故それを!?」
「はははは。存外、人とは律儀なものだな。私が命じたのだ。我ながら危ない綱渡りだったが我が子を暗殺ギルドに預け、長となるように育てさせた。そして子を生ませ、代々ギルドマスターの座と”月下の蝶“の名を継がせるようにともな」
「!!私はお前の操り人形ではない!!」
激情に任せて攻撃を繰り返す月下の蝶の隙をつき、デネブが一撃を加えようとする。しかし、その攻撃は間に入った月の影に阻まれた。
「月下の蝶!!落ち着け。相手の思う壺だ」
月の影がなだめるのも虚しく月下の蝶は息を荒げ続ける。
「今思えばお前達は蝶などと美しいものではなかったな。ただ月の光を目指して飛び続ける醜い蛾に過ぎないのに」
「だまれ!!」
挑発するようにデネブは言葉を連ねる。
すると、どこからか大聖堂に声が響いた。
『デネブ様、お戯れのところ申し上げにくいのですがそろそろお時間です』
「ロメロか。まあもう少しいいではないか。これ程の者たちは私の時代でも珍しかった」
『しかし、投薬のお時間です」
「うーむ。あの煩わしい薬か……。いや、もういらん。この体は今宵癒す」
デネブの表情が貼り付けたような笑顔から冷たく鋭い顔に変わる。異変を察した月の影は月下の蝶に注意を促すと自身も回避の態勢を取る。
「月の影よ……悪いがここで終焉だ。……”私の周囲の命は全て消えていく“」
デネブから発せられた眩い光が二人と信者の半分を包み込む。
光が消えるととそこにはただ一人、デネブだけが立っていた。その数秒後、光の蝶が集まり始める。
「ほお、これは予想外だ」
そこに現れたのは月下の蝶ではなく月の影であった。
「……月下の蝶……。デネブ!!どうやらお前の野望もここまでのようだな!!」
「分からんな……何故、自分の身よりもこの男を優先するのか……」
デネブは片手を前に差し出し、何かを掴むような動作をした。
「”消え去った命は再び芽吹く“」
突如、デネブにより消えた信者は何事もなかったかのように再び姿を現し、デネブの腕には月下の蝶の首が握られていた。
月下の蝶は脱出しようともがくもデネブはその手を離さない。
ゆっくりとデネブは剣先を彼女の腹部に近づけていく。
「や、やめろ!!……やめてくれ……」
月の影の懇願も虚しく剣は月下の蝶の腹を貫いた。彼女の生気が消えていくのと反比例して剣が光り輝いていく。月下の蝶がぐったりと動かなくなるとデネブは彼女を投げ捨て、剣先を次は自身の腹に突き刺した。
眩い光と共にデネブの体に変化が起こる。長い白髪は毛の先まで美しい黄金に染まり死人のように白かった肌は血色を取り戻す。
「ふむ、魔力は元どおりだな。体の方は……素晴らしい!!生前以上だ!!これが異界の力か……」
デネブが自身の体を観察する中、月の影は捨てられた月下の蝶に駆け寄った。
弱々しく息をしながら月下の蝶は月の影になにかを伝えようとする。しかし、口からは空気が漏れるだけでそれは声にはならなかった。
「ああ、わかってる」
月の影はただ頷くと黙って冷たくなっていく手を握った。
「なるほど……お前たち、そういう仲だったのか」
先程と同じく演技かかった大袈裟な手振りで話すデネブを月の影は黙って睨みつける。
「ああ、愛とはなんて美しく、儚くそして……くだらないものなのだ」
「……貴様は復活して何をするつもりだ……。再び教皇として立つのか?この滅んだ国で……」
「ふっ。そんな馬鹿な真似をするものか。私は”導きの欠片“の予言通り復活したのだ!!……今なら神にでもなれるだろう……」
「……どうやら貴様はせっかちなようだな。予言の続きを見なかったらしい……」
月の影の言葉にデネブは表情を固める。
「邪悪なる者が復活する時、英雄が集い、その者の野望は断たれるだろう……導きの星の下で……」
「……くだらんな。もういい”爆ぜよ“」
刹那、月の影は消え去り血飛沫だけが残った。
デネブは万全になった体で風を感じようと大聖堂の外で夜空を見上げる。そんな彼に近づく人影があった。
「……ロメロか」
「デネブ様、国外でも計画は順調に進んでおります。ただ一つ、外から侵入者が……」
「ふむ、あれか」
夜空を飛行する謎の物体に手を向けると光の柱がそれを貫く。
「おお、これが神の御業……デネブ様の本来のお力ですか!!」
感動に浸るロメロ司祭を無視し、月の影の言葉を思い出しながらデネブは夜空を見上げた。
(導きの星か……ふっ、何者にも私の邪魔はさせん。……アルタイルやベガでもな……)
ガラクシアの夜空は雲に覆われ、その日は導きの星は地上からは見られなかった。
Season 2 fin
~Next Season Coming Soon~
対するデネブは宝石など派手な装飾を施された小ぶりのショートソードを持ち不敵に佇む。
刹那、月下の蝶の周りを光り輝く蝶が取り囲むと彼女はその姿を消す。
月の影は再びナイフを投げると間髪入れずにデネブに向かっていく。デネブの背後に蝶が集まると月下の蝶が現れ再び胸に向かいレイピアを突く。
デネブは投げナイフを剣で防ぐとそのまま背後からの一撃を弾く。月下の蝶と同時に仕掛けられた月の影のナイフがその喉元に届く時であった。
「“離れろ”」
月の影を謎の力が襲いデネブから引き離されるように吹き飛ばされた。月下の蝶もその異様な現象に距離を取る。二人はデネブを挟みこむ形になった。
(なんだ今のは!?魔法……違う。魔力の流れが全く見えなかった)
「だからさっきから言っているだろう。これは奇跡だと」
「!?」
考えをまた見透かされた月の影の額を冷や汗が滴り落ちる。
「これでもまだ私をペテン師と呼ぶつもりかね」
デネブの言葉に月の影は反論できない。
「まあ、考えてもみたまえ。私と君たちが戦う理由はないはずだ。元を辿れば盗賊、暗殺両部隊を設立したのはこの私だ。言ってしまえば私は君たちの主人なんだぞ」
「……戯言を……私たちが仕えるのは国王、ひいてはこの国だけだ!!」
「……残念だな。ここで引けば片方は殺さないでおいたものを……“不届き者には神の斬撃が下るだろう”」
「!?月の蝶!!避けろ!!」
瞬間、無数の斬撃が二人を襲った。その速さは光速に近いものであり回避は不可能である。
しかし、月下の蝶は再び体を無数の蝶に変え、月の影は全ての攻撃を紙一重で避け切った。
「ほお、月下の蝶はともかくお前は殺す気でいたのだが……なるほど、その眼か。お前、“導きの欠片”を目にしたな」
デネブは月の影の眼帯を指差す。
導きの欠片ははるか昔に宇宙から落ちてきた“導きの星の欠片であり、目にしたものに予言をもたらすと言われている。三英雄もこの予言に導かれて旅をしていたと言い伝えにある。
「だが、その眼。光を失うとはどうやらお前は私たちと違い選ばれし者ではなかったらしいな。」
月の影は若かりし時、盗みに入った神殿の奥で導きの欠片を目にし右目を失明した。それ以来、見えないはずの右目には近い未来に起こる自身の危機が見えた。他にも遠い未来に起こる大きな物事を抽象的であるが予言として感じ取ることができた。
月の影はそれを自身の大いなる使命と捉え、以後、盗賊ギルドとしてラウム王国を守ってきた。
「……こちらもお前のカラクリがわかったぞ。先程の攻撃……魔法にしては発動が早すぎる……」
月の影は激しい戦闘が巻き起こってなお黙って祈り続ける数百人の信者達をチラリと見た。
「お前、この信者達に魔法の処理をさせているな……。あれ程の魔法を個人で、あの一瞬で放つのは不可能だ」
「ほお、みくびっていたよ月の影。お前はなかなか鋭いな。殺すに惜しい」
話の最中も攻撃を繰り返す月下の蝶を軽々といなしながら話を続ける。
「だが、半分正解で半分ハズレだ。魔法の処理をさせているのではない、私の言葉が奇跡を起こしているのだ。こんな風にな……”燃えろ“」
瞬間、月下の蝶と月の影の体から火が上がる。二人は膝をつき悶え苦しみながらも自身の体の変化を察知する。
二人から上がった炎は二人自身の魔力を触媒として発生していた。つまり、彼ら自身が知らぬうちに発動していた魔法で燃えていたのだ。
二人は自身の魔力の流れをコントロールするとすぐに火は鎮火した。
「なるほど……言葉に力を与えて聞いた者の魔力で再現する素質……」
「ほお、正直感心したよ。どの時代にも強者はいるものだな……。今すぐ全盛期の力を見せられなくて申し訳ない」
「……今すぐ……?」
デネブの言葉の端に違和感を持つ。
「ああ、言い忘れていたな。お前達を呼んだのは他でもない。復活したばかりの私が元の力を取り戻すためだ」
「呼んだ!?どういうことだ!?俺たちは自分の意思でここに来たはずだ!!」
「ここまでやったお前達に敬意を称して教えてやろう」
デネブが話を始める。月の影と月下の蝶はお構いなしに攻撃を繰り返すがデネブは気にも留めない。
「1000年前、私は不治の病に倒れた。当時は治療の術はなく、私は一回死ぬことで生を未来に託した。……教会に私の復活を指示してな」
光る蝶がデネブの周りを舞うと次々と爆発していく。しかし爆煙が晴れると無傷のデネブは話を続ける。
「だが、復活はいつになるか導きの欠片を見てもわからなかった。100年後か、1000年後か。もしかしたら人が滅びた後かもしれない。その時に私が万全である保証はない。だから保険として私は子を儲けた」
「!?何の話をしている!?」
「おや、さっきまでの察しの良さはどうした。呪いをかけたんだよ、自身の血に。私が復活した際、その命を献上して私を癒せとな」
「!?」
「長い年月で血は薄れ、呪いの形は変わってしまったが私の元に来てくれた。なあ、我が子孫、月下の蝶よ」
告げられた真実に二人は固まる。月の影は彼女がしきりに教会へ向かおうとしていたのを思い出した。
「嘘だ……出鱈目を言うな!!」
「!?月下の蝶!!」
月下の蝶は怒り、今までよりも激しくデネブに剣撃を繰り返す。
「月下の蝶か……呼びにくいな。名前は何という?」
「うるさい!!貴様に名乗る名などない!!」
「単に名前を付けられなかっただけじゃないのか?お前は暗殺ギルドで生まれ、育てられてきたのだろう」
「!!何故それを!?」
「はははは。存外、人とは律儀なものだな。私が命じたのだ。我ながら危ない綱渡りだったが我が子を暗殺ギルドに預け、長となるように育てさせた。そして子を生ませ、代々ギルドマスターの座と”月下の蝶“の名を継がせるようにともな」
「!!私はお前の操り人形ではない!!」
激情に任せて攻撃を繰り返す月下の蝶の隙をつき、デネブが一撃を加えようとする。しかし、その攻撃は間に入った月の影に阻まれた。
「月下の蝶!!落ち着け。相手の思う壺だ」
月の影がなだめるのも虚しく月下の蝶は息を荒げ続ける。
「今思えばお前達は蝶などと美しいものではなかったな。ただ月の光を目指して飛び続ける醜い蛾に過ぎないのに」
「だまれ!!」
挑発するようにデネブは言葉を連ねる。
すると、どこからか大聖堂に声が響いた。
『デネブ様、お戯れのところ申し上げにくいのですがそろそろお時間です』
「ロメロか。まあもう少しいいではないか。これ程の者たちは私の時代でも珍しかった」
『しかし、投薬のお時間です」
「うーむ。あの煩わしい薬か……。いや、もういらん。この体は今宵癒す」
デネブの表情が貼り付けたような笑顔から冷たく鋭い顔に変わる。異変を察した月の影は月下の蝶に注意を促すと自身も回避の態勢を取る。
「月の影よ……悪いがここで終焉だ。……”私の周囲の命は全て消えていく“」
デネブから発せられた眩い光が二人と信者の半分を包み込む。
光が消えるととそこにはただ一人、デネブだけが立っていた。その数秒後、光の蝶が集まり始める。
「ほお、これは予想外だ」
そこに現れたのは月下の蝶ではなく月の影であった。
「……月下の蝶……。デネブ!!どうやらお前の野望もここまでのようだな!!」
「分からんな……何故、自分の身よりもこの男を優先するのか……」
デネブは片手を前に差し出し、何かを掴むような動作をした。
「”消え去った命は再び芽吹く“」
突如、デネブにより消えた信者は何事もなかったかのように再び姿を現し、デネブの腕には月下の蝶の首が握られていた。
月下の蝶は脱出しようともがくもデネブはその手を離さない。
ゆっくりとデネブは剣先を彼女の腹部に近づけていく。
「や、やめろ!!……やめてくれ……」
月の影の懇願も虚しく剣は月下の蝶の腹を貫いた。彼女の生気が消えていくのと反比例して剣が光り輝いていく。月下の蝶がぐったりと動かなくなるとデネブは彼女を投げ捨て、剣先を次は自身の腹に突き刺した。
眩い光と共にデネブの体に変化が起こる。長い白髪は毛の先まで美しい黄金に染まり死人のように白かった肌は血色を取り戻す。
「ふむ、魔力は元どおりだな。体の方は……素晴らしい!!生前以上だ!!これが異界の力か……」
デネブが自身の体を観察する中、月の影は捨てられた月下の蝶に駆け寄った。
弱々しく息をしながら月下の蝶は月の影になにかを伝えようとする。しかし、口からは空気が漏れるだけでそれは声にはならなかった。
「ああ、わかってる」
月の影はただ頷くと黙って冷たくなっていく手を握った。
「なるほど……お前たち、そういう仲だったのか」
先程と同じく演技かかった大袈裟な手振りで話すデネブを月の影は黙って睨みつける。
「ああ、愛とはなんて美しく、儚くそして……くだらないものなのだ」
「……貴様は復活して何をするつもりだ……。再び教皇として立つのか?この滅んだ国で……」
「ふっ。そんな馬鹿な真似をするものか。私は”導きの欠片“の予言通り復活したのだ!!……今なら神にでもなれるだろう……」
「……どうやら貴様はせっかちなようだな。予言の続きを見なかったらしい……」
月の影の言葉にデネブは表情を固める。
「邪悪なる者が復活する時、英雄が集い、その者の野望は断たれるだろう……導きの星の下で……」
「……くだらんな。もういい”爆ぜよ“」
刹那、月の影は消え去り血飛沫だけが残った。
デネブは万全になった体で風を感じようと大聖堂の外で夜空を見上げる。そんな彼に近づく人影があった。
「……ロメロか」
「デネブ様、国外でも計画は順調に進んでおります。ただ一つ、外から侵入者が……」
「ふむ、あれか」
夜空を飛行する謎の物体に手を向けると光の柱がそれを貫く。
「おお、これが神の御業……デネブ様の本来のお力ですか!!」
感動に浸るロメロ司祭を無視し、月の影の言葉を思い出しながらデネブは夜空を見上げた。
(導きの星か……ふっ、何者にも私の邪魔はさせん。……アルタイルやベガでもな……)
ガラクシアの夜空は雲に覆われ、その日は導きの星は地上からは見られなかった。
Season 2 fin
~Next Season Coming Soon~
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

妻を蔑ろにしていた結果。
下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。
主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。
小説家になろう様でも投稿しています。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる