55 / 106
Season2
月の影ーShadowー
しおりを挟む
ポラリスが去ったのち、シリウスたちは国王たちにこれまでの話をした。
「信じられん……教会がそのようなことを……」
「……父上は教会が教皇デネブの復活を目論んでいたことはご存知でしたか?」
「……ああ。だがそれはあくまでも教義的な意味であったはずじゃ。我々が真の苦難を前にしたとき、英雄が復活し導いてくれると。……まさか異界の力で復活するとは……」
「何故デネブはこの国の破滅を望むのでしょうか」
「……さっぱりわからぬ」
カーネルもデネブとロメロ司祭の話を盗み聞きしただけで、その真意は分からなかった。
「……教会は月の影達に任せて我々はこちらの防衛に専念しましょう」
「信じられん!!メルセデス殿がダイムラー様を!!」
戦士ギルドの内乱を知り、ビルは頭を抱える。
「確かにメルセデス殿はギルドの王国による運営を快く思っていなかった。だがまさか実の父親を手にかけるほどとは……」
「……奴らは明日にも攻めてくるだろう。ビル、戦えるか?」
「問題ない。……だがその前にやるべきことがある」
ビルは大斧を手に立ち上がるとその切っ先をナナシに向けた。
「ひぃ!!?」
「恐らく食糧庫から食料を奪ったのも戦士ギルドの者だろう。……内通者は今の時点で消しておくべきだ」
大斧を構え、ナナシに近づいていく。しかし、シリウスが両者の間に入り、その処刑を止めた。
「……なんのつもりかな?」
「……あいつは最後に俺に皆を守れと言っていた」
「その男も“皆”の中に入っているとでも?」
「ああ、少なくともあいつの中ではな。……それにまだこいつが内通者と決まったわけではない」
シリウスは決して譲らまいと鋭い視線をビルに送ると彼はたじろぎ、武器を納めた。
庭園の面々は明日起こるであろう衝突に向けて策を練ることとなった。
この日、ガラクシアの夜空は雲に覆われ、その間からわずかに顔を出す月だけが辺りを照らしていた。
月の影は夜の闇に紛れ、家々の屋根を軽々と飛んでいくとガラクシアの北東に位置する教区、その中心にある大聖堂へと向かっていた。
「来たか、月の影」
道中、先に向かっていた暗殺ギルドマスター、月下の蝶と合流する。彼女とは駆け出しの頃からの旧知の仲であり月の影自身、最も信頼できる相手であった。
「一刻も早く教会を討ち、闇を払わねばならん」
「……月下の蝶、なぜそこまで先を急ぐ?」
教会が黒幕であることを知ると月下の蝶は脇目を振らずに大聖堂に向かった。それは普段、慎重な彼女らしからぬ行動である。
「何を言っている。この国の未曾有の危機、一刻も速く収束させ王の安全を確保せねばならん」
「……そうだな。見えてきたぞ大聖堂だ」
聖職者や教会関係者の住宅や多くの教会が立ち並ぶ教区で飛び抜けて天高くそびえる大聖堂。まだ距離があるはずのそこから漂うなんとも言えない気配に二人は息を呑んだ。
大聖堂に到着するとゆっくりとその門を開け中に入る。中は真夜中であるにも関わらず照明の魔石でほんのりと明るく、一面に取り付けられた三英雄の伝説を物語るステンドグラスを煌めかせていた。
二人はその異様な空間に息を呑む。数百人は入るであろう無数に並べられた長椅子には隙間なく信者が座り、手を合わせ、俯き何かを祈る。
大聖堂の奥の祭壇に建てられた教皇デネブを象った巨大な彫像。その足元にある玉座のような椅子に何者かが座っている。
そこは“空の皇座”と呼ばれ、教皇のみが座ることができる。教皇の座は未来永劫デネブにあるため本来、誰も座ることは許されない。
しかしそこに座る男はどこか退屈そうにくつろぐ。白い長髪に白い肌。上半身は白いジャケットを羽織っただけという格好で左胸から血管が浮き出て脈を打っていた。
「やあ、待ちくたびれたよ」
男は手を一回叩くとゆっくりと立ち上がった。
「……お前がデネブか?」
「いかにも、私こそが三英雄にして世界の救世主。教皇デネブである」
デネブは祭壇を大袈裟な手振りで歩き回る。その様子に警戒しながら二人はゆっくりと近づいていく。
「ふっ。まるでペテン師だな」
「おや、今の時代でも私は三英雄として崇められていると聞いたんだがね。皆の衆、どう思う」
デネブはわざとらしく目を見開くと祈る信者達に尋ねる。信者達は何も応じずただデネブに手を合わせていた。
「1000年前はどうだか知らんが今のお前は英雄ではない。ただのイカれた狂人だ!!」
デネブの隙を窺い、月の影は数本のナイフを投げる。ナイフは一直線にデネブに向かうと思われたが何本かは不規則な軌道を描き四方から彼を襲う。
デネブはどこからか取り出した小ぶりのショートソードで軽くナイフを撃ち落とすと月の影に向かって不敵に笑う。
刹那、その心臓を背後から刃が貫く。その根本は月下の蝶が握っていた。
デネブは血を吐くとそのまま倒れ込み、動かなくなった。
「……存外あっけなかったな……幻術じゃないのか……」
「いや、感触は確かにあった。覚醒魔法も常にかけている。……三英雄も所詮は伝説にすぎなかったわけだな」
「おやおや、随分な物言いじゃないか」
デネブの死体を覗き込む二人の背後から肩を組むようにデネブが顔を出した。
(!!!??)
二人は慌てて振り払い、距離を取る。月の影、月下の蝶は両者とも歴戦の猛者であり、敵に背後を許したのは数十年ぶりであった。それほどデネブはまるで無から湧いたかのようにいきなり現れた。
(なんなんだ!?幻術!?いや、月下の蝶の覚醒魔法は本物だ。……死体も消えていない……幻術ではなかったのか!?)
「幻術?そんなチンケなものではない。そうだな……言うなれば“奇跡”だ」
デネブは自身の死体に手をかざすと死体は灰になって消えていった。
「こいつ……俺の心を……」
「落ち着け、月の影。大方、影武者でも使っていたのだろう」
「ふっ。信用がないんだな」
二人は武器を構えると背筋に冷たい汗をかきながら怪物に向かった。
「信じられん……教会がそのようなことを……」
「……父上は教会が教皇デネブの復活を目論んでいたことはご存知でしたか?」
「……ああ。だがそれはあくまでも教義的な意味であったはずじゃ。我々が真の苦難を前にしたとき、英雄が復活し導いてくれると。……まさか異界の力で復活するとは……」
「何故デネブはこの国の破滅を望むのでしょうか」
「……さっぱりわからぬ」
カーネルもデネブとロメロ司祭の話を盗み聞きしただけで、その真意は分からなかった。
「……教会は月の影達に任せて我々はこちらの防衛に専念しましょう」
「信じられん!!メルセデス殿がダイムラー様を!!」
戦士ギルドの内乱を知り、ビルは頭を抱える。
「確かにメルセデス殿はギルドの王国による運営を快く思っていなかった。だがまさか実の父親を手にかけるほどとは……」
「……奴らは明日にも攻めてくるだろう。ビル、戦えるか?」
「問題ない。……だがその前にやるべきことがある」
ビルは大斧を手に立ち上がるとその切っ先をナナシに向けた。
「ひぃ!!?」
「恐らく食糧庫から食料を奪ったのも戦士ギルドの者だろう。……内通者は今の時点で消しておくべきだ」
大斧を構え、ナナシに近づいていく。しかし、シリウスが両者の間に入り、その処刑を止めた。
「……なんのつもりかな?」
「……あいつは最後に俺に皆を守れと言っていた」
「その男も“皆”の中に入っているとでも?」
「ああ、少なくともあいつの中ではな。……それにまだこいつが内通者と決まったわけではない」
シリウスは決して譲らまいと鋭い視線をビルに送ると彼はたじろぎ、武器を納めた。
庭園の面々は明日起こるであろう衝突に向けて策を練ることとなった。
この日、ガラクシアの夜空は雲に覆われ、その間からわずかに顔を出す月だけが辺りを照らしていた。
月の影は夜の闇に紛れ、家々の屋根を軽々と飛んでいくとガラクシアの北東に位置する教区、その中心にある大聖堂へと向かっていた。
「来たか、月の影」
道中、先に向かっていた暗殺ギルドマスター、月下の蝶と合流する。彼女とは駆け出しの頃からの旧知の仲であり月の影自身、最も信頼できる相手であった。
「一刻も早く教会を討ち、闇を払わねばならん」
「……月下の蝶、なぜそこまで先を急ぐ?」
教会が黒幕であることを知ると月下の蝶は脇目を振らずに大聖堂に向かった。それは普段、慎重な彼女らしからぬ行動である。
「何を言っている。この国の未曾有の危機、一刻も速く収束させ王の安全を確保せねばならん」
「……そうだな。見えてきたぞ大聖堂だ」
聖職者や教会関係者の住宅や多くの教会が立ち並ぶ教区で飛び抜けて天高くそびえる大聖堂。まだ距離があるはずのそこから漂うなんとも言えない気配に二人は息を呑んだ。
大聖堂に到着するとゆっくりとその門を開け中に入る。中は真夜中であるにも関わらず照明の魔石でほんのりと明るく、一面に取り付けられた三英雄の伝説を物語るステンドグラスを煌めかせていた。
二人はその異様な空間に息を呑む。数百人は入るであろう無数に並べられた長椅子には隙間なく信者が座り、手を合わせ、俯き何かを祈る。
大聖堂の奥の祭壇に建てられた教皇デネブを象った巨大な彫像。その足元にある玉座のような椅子に何者かが座っている。
そこは“空の皇座”と呼ばれ、教皇のみが座ることができる。教皇の座は未来永劫デネブにあるため本来、誰も座ることは許されない。
しかしそこに座る男はどこか退屈そうにくつろぐ。白い長髪に白い肌。上半身は白いジャケットを羽織っただけという格好で左胸から血管が浮き出て脈を打っていた。
「やあ、待ちくたびれたよ」
男は手を一回叩くとゆっくりと立ち上がった。
「……お前がデネブか?」
「いかにも、私こそが三英雄にして世界の救世主。教皇デネブである」
デネブは祭壇を大袈裟な手振りで歩き回る。その様子に警戒しながら二人はゆっくりと近づいていく。
「ふっ。まるでペテン師だな」
「おや、今の時代でも私は三英雄として崇められていると聞いたんだがね。皆の衆、どう思う」
デネブはわざとらしく目を見開くと祈る信者達に尋ねる。信者達は何も応じずただデネブに手を合わせていた。
「1000年前はどうだか知らんが今のお前は英雄ではない。ただのイカれた狂人だ!!」
デネブの隙を窺い、月の影は数本のナイフを投げる。ナイフは一直線にデネブに向かうと思われたが何本かは不規則な軌道を描き四方から彼を襲う。
デネブはどこからか取り出した小ぶりのショートソードで軽くナイフを撃ち落とすと月の影に向かって不敵に笑う。
刹那、その心臓を背後から刃が貫く。その根本は月下の蝶が握っていた。
デネブは血を吐くとそのまま倒れ込み、動かなくなった。
「……存外あっけなかったな……幻術じゃないのか……」
「いや、感触は確かにあった。覚醒魔法も常にかけている。……三英雄も所詮は伝説にすぎなかったわけだな」
「おやおや、随分な物言いじゃないか」
デネブの死体を覗き込む二人の背後から肩を組むようにデネブが顔を出した。
(!!!??)
二人は慌てて振り払い、距離を取る。月の影、月下の蝶は両者とも歴戦の猛者であり、敵に背後を許したのは数十年ぶりであった。それほどデネブはまるで無から湧いたかのようにいきなり現れた。
(なんなんだ!?幻術!?いや、月下の蝶の覚醒魔法は本物だ。……死体も消えていない……幻術ではなかったのか!?)
「幻術?そんなチンケなものではない。そうだな……言うなれば“奇跡”だ」
デネブは自身の死体に手をかざすと死体は灰になって消えていった。
「こいつ……俺の心を……」
「落ち着け、月の影。大方、影武者でも使っていたのだろう」
「ふっ。信用がないんだな」
二人は武器を構えると背筋に冷たい汗をかきながら怪物に向かった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

妻を蔑ろにしていた結果。
下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。
主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。
小説家になろう様でも投稿しています。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる