ゾンビ転生〜パンデミック〜

不死隊見習い

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Season2

再会ーReunionー

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「なるほど、黒尸菌による変異で外皮が異常に発達。電気を通さなかったわけか」
「おい、さっさと出口に案内しろ」

 ブルートアリゲーターの死骸を未だに観察するカーネルをシリウスが急かす。

「案内っつったって出口はフランケンしか知らなかったんだ。……奴がここに案内したってことはそこら辺に空いている穴のどこかから出れるんだろう」

 死体処理場の壁には排水路や牢獄への道の他にもいくつか通路があった。

「……!?何か落ちてきます!!」

 自分たちが落ちてきた天井の大穴を見つめていたポラリスがその気配に気づく。数秒後、黒い巨大な竜が落下し、衝突の衝撃で周りの死骸は吹き飛ぶ。幸い、ポラリスたちはシリウスが魔法の障壁を張ったため被害は最小に済んだ。

「……なんだこいつは……?」

 遠くから竜を観察する。本来の手足の他に無数に生えた蟲の腕。竜の頭には頭部が吹き飛んだ死体が縫い付けられ、胸からは小さな人影が這い出ていた。
 刹那、白銀の翼を生やしたエストレアが同じく降ってきてその人影を貫く。

「!?エストレアさん!?」
「ポラリス!!シリウス!!無事だったか。」

 エストレアとポラリスは互いに駆け寄るとエストレアは彼を強く抱擁する。突然のことにポラリスは赤面した。

「エ、エストレアさん!??」
「ポラリス。君のおかげでみんなが来てくれた。本当にありがとう……。」
「?言っている意味が……。ちょ!?エストレアさん!!重いです。あっいや全然重くないけど!!」
「おい!!その嬢ちゃん気絶してるぞ!!」

 エストレアの頭からは勢い良く血が吹き出ていた。


 一行は一旦死体処理場から出て適当な横道に入りポラリスの持ってきた救急キットで傷の手当てをする。流石医者とも言うべきか手当てをするカーネルの手捌きは手慣れたものであった。
 ポラリスは頭からの出血。シリウスは全身の軽い打撲と魔力欠乏。そして最も重症なエストレアは右腕の単純骨折、肋骨数カ所のヒビに全身の裂傷。特に頭部からの出血はひどくシリウスが無理を押して強い治癒魔法をかけることでようやく塞がった。

「皆、満身創痍か……おい、勇者さん。無理すんなよ」

 シリウスは探索魔法で出口を探っていた。

「……ここに長居するわけにもいかない。出口は見つかった。エストレアが歩けるようになったらすぐに出発するぞ」

 気絶したエストレアは手当てをすると速かに意識を取り戻したがそれでも歩ける状態ではなかった。
 三人はここまでの話をお互いにした。黒幕が教会であることを知らされた際、エストレアは少し驚いたがすぐにいつもの淡白な口調に戻った。

「そう、ポラリス、頑張ったんだね。」
「いえ!シリウスさん力がなければあの化け物は倒せなかったです!」
「……お前の力もな。そう自分を卑下するな」
「私もポラリスのおかげで“英雄の宴ヴァルハラ”を発動できた。」

 二人の英傑に褒められたポラリスは照れくさくなった。

「しかし、ネクロマンシー研究会がアマデウスを殺していたとは……。それにあの死骸は三英雄が討った煉獄の邪竜ウロボロス……何故あんな神話級の魔物が奴らの手に……」
「教会が手引きしたんだろう。ネクロマンシー研究会はデネブ復活の鍵を握っていたからな」

 ネクロマンシー研究会は問題を多く起こしていたがそれでも存続できたのは教会の強い庇護があったからだ。表向きは全ての魔法は教皇デネブの庇護下にあるという理由であったが真実は1000年前の英雄、デネブの魂を体に降ろすためにアリス・ザ・ネクロフィリアの協力を仰ぐためだったのだろう。
 ポラリスはこの先、何が起こるか予想が出来なかった。


 エストレアが歩けるまで回復するとすぐに出口に向かう。死体処理場から少し進み、階段を上ると斎場の近くに出た。どうやらポラリスたちが落ちた大穴は地上の屋敷と直接つながっていたようである。
 帰りの道ではネクロマンサーたちの襲撃はなく、そのかわりに至る所に魂を抜かれたように横たわる死体が転がっていた。
 地下から地上に戻り屋敷から出ると外は真っ暗になっていた。

「よくぞ御無事で」

 玄関を出たところで何者かに話しかけられた。それは気配を完全に消していたため、急なことに一同は身構える。

「……月の影!!お前、生きていたのか……」

 物陰から姿を現す。側にはカレンの姿もあった。

「……同士たちの犠牲のお陰です。残ったのは私とこの子、それと月下の蝶のみ」

 月の影がカレンの背中を押すと彼女は泣きそうな顔を隠すようにポラリスに抱きついた。

「その子を頼みます」
「……お前はどうする?」
「月下の蝶と教会に向かいます」
「お前、教会が黒幕だと知っていたのか!?」

 月の影は眼帯の下の光を失った眼黙って見せた。

「邪な者の存在はこの眼が教えてくれました。あとは月下の蝶が色々と調査をしてくれた……」
「?どう言うことだ」
「それよりも戦士ギルドの動きが慌ただしくなってきました。恐らく城に攻め入るかと。シリウス様たちはそちらの防衛に専念してください」
「待て、相手はあの三英雄デネブだぞ!!たった二人で勝てると!?」

 月の影はシリウス達三人の体の状態を見た。

「お言葉ですが今の貴方がたでは足手まといにしかならない。……それに月下の蝶が一人で先行してもう向かってしまった。一人で行かせるわけにもいかないでしょう」

 月の影の言葉にシリウスは言い返せなかった。

「……あの、月の影さん。……レオールさんの最後は……?」
「……彼は最後の最後まで勇敢に戦っていた。私たちが離脱する際にも体を張ってくれた。ただ一人、その子を託してな」
 
 月の影はポラリスの肩に手を置き、顔を近づける。

「良き眼の少年よ。何があってもその子を……皆を守れ。それが大義のために散った同士達の唯一の供養だ」
「……はい。月の影さんも御無事で」

 月の影はわずかに微笑むとシリウスに向き直る。

「シリウス様、王をどうかお守りください」
「……お前も死ぬなよ」

 一礼すると月の影は夜の闇に消えていった。
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