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Season2
突撃ーAssaultー
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「!?エストレアさん!!」
視界の光が消え、目が慣れるとエストレアはいつの間にか倉庫に移動していたことに気付く。側を見るとシリウスも移動していた。
「……エストレア、先ほどは取り乱してすまない……」
「いや……問題ない。……しかし、これは一体なにが起きたのだ?」
「どうやら“月下の蝶”が間に合ったようだな」
そばにいたガネシャが語りかけてくる。エストレアは未だに何が起きたか分からず、門に開いた穴から外を覗く。そこにはフードをかぶった十数名の人影がアンデット達と交戦していた。特にザハクとターニャを相手取っている女性は見事な体捌きで二人を翻弄しており、その周りにはエストレア達を包んだ蝶が舞っていた。
「……あれは暗殺ギルド……。」
暗殺ギルドは盗賊ギルド同様、存在自体がただの噂だとされている組織であり、その名の通り暗殺を生業とすると言われている。
「外はもう保ちません。我が同胞達も屋内まで後退するでしょう」
いつのまにか側にいたフードを被った女性がガネシャに伝令を伝える。
「うむ。三人とも、こちらの裏口から出られます。今ならアンデットも表に集中しているでしょう」
ガネシャがポラリス達を裏口に案内する。
「……やはりあんたが“月の影”か」
「…お初にお目にかかります。シリウス様」
月の影が片膝をついて敬礼する。
「シリウスさん!?どういうことですか!?」
「ポラリスよ。もう時間がない、後にしなさい」
「自分たちだけ逃げろと!?他の皆は!?レオールさんやカレンちゃんは!?」
「……お主達は三人でここから出なければならない……そう運命で決められている……」
「運命!?」
ポラリスは目の前の男が何を言っているのかわからなかった。しかし、この男の目を見ていると本当の事を言っているように感じた。
「……お前達はどうする」
「隙を見て離脱します。必ず生き延びるのでご心配なく」
「……そうか」
「行こうポラリス。私たちはやるべきことがある。」
月の影の覚悟を前にシリウスとエストレアは脱出の準備を整える。しかしポラリスは未だに覚悟を決めきれなかった。
そんな彼にレオールとカレンが駆け寄ってくる。
「ポラリス君、行ってくれ。私たちのことは心配しなくていい」
「……でも……」
「これはきっとカレン達の使命なんです!!盗賊ギルドのメンバーは皆大いなる使命を負っているのです!!」
「大丈夫。色々あったがここまで生きてきたんだ。そう簡単にくたばらんよ」
「……どうか御無事で」
三人は裏口から外へ出ていく。ポラリスは決して振り返らなかった。振り返るとと決意が揺らぐ気がした。
「……すまないな……」
残った月の影がレオール達に謝る。
「いえ。しかしガネシャさんが月の影だったとは」
「月の影の御命令ならばカレンはなんだっています!!」
月の影は黙ってカレンの頭に手を置くと、レオールに倉庫の人間を集めるよう命令した。
人が集まると自分が月の影であること、すぐにここにアンデットがなだれ込んで来ることを伝える。盗賊ギルドの面々は月の影の言葉を黙って聞き、一切の動揺もなかった。戦士ギルドの面々は最初はざわついていたが盗賊ギルドの態度を前に最終的には腹を据えたようだった。
門の穴から暗殺ギルドのメンバーが次々と入り込み、これを追うようににアンデット達も倉庫に入ってきた。月の影とレオールはこれで最後になるであろう言葉を交わす。
「……戦士ギルドはせっかく逃げてきたのに気の毒だったな」
「いえ、彼らも遅かれ早かれこうなることは覚悟はしていたはずです。……我々は大いなる目的を果たすことができるのでしょうか」
「……我々の使命はこの国の未来に殉じることだ。そのために己の過去と未来は捨て去ったはずだ。……お主達はもう十分にそれは果たした。あとはあの者達に託そう」
「……月の影、恐れながらお願いがございます。もし自分が死んだら……カレンを……」
「……ああ」
アンデットの波が生存者の眼前まで迫った。
「シリウス、そろそろ説明してくれ。」
三人は倉庫から脱出後、再びネクロマンシー研究会に向かっていた。その道中、エストレアが月の影との関係について尋ねる。
「……盗賊ギルドと暗殺ギルドは王国直属の諜報・暗殺部隊だ」
シリウスの話によると盗賊ギルドと暗殺ギルドはラウム王国建国時、教皇デネブの進言によって情報収集、要人暗殺を目的に設立されたらしい。しかしその存在は国家の円滑な運営には必要不可欠だが三英雄の名誉としては汚点以外の何者でもないため正式には認められず闇社会の住人として認識されていた。
しかし、彼らの王家、ひいては国家への忠誠心は建国から1000年間変わることはなく、今でも現国王であるルシウスに盗賊ギルド長、“月の影”と暗殺ギルド長、“月下の蝶”は絶対の忠誠を誓っている。
「そんな……闇に紛れてまで……国民に罵られてまで国のために働くなんて」
「ご先祖のアルタイルは彼らの存在を公にしようとしていたらしい。しかし、勇者の名の下にできたこの国にとってその名が汚れるのは崩壊を意味する。彼らは勇者の名のために…この国のために“月の影”にまで隠れたんだ」
ポラリスはそれ以上何も言えなかった。
道中、数体のアンデットを蹴散らしながら貧民街の裏路地を進むとついにネクロマンシー研究会の前に辿り着いた。
周囲の家屋はボロボロの中、広い庭とそれを囲む小綺麗なフェンスの奥に建つ、まるで貴族の屋敷のような建物がネクロマンサー達の研究所である。
目の前まで来たはいいがフェンスの周りは大量のアンデットで溢れており、奥の建物を求めてフェンスに阻まれながらも手を伸ばしていた。
「……どうやら人はいそうだな」
「しかし、あんなに大量にいては入れないですよ」
シリウスが少し考え込むと作戦を提案する。
「俺が道を門ごとぶち開ける。その内に入り込み、門を塞ぐ」
「……今の状態でできるのか?」
「魔力を丁寧に練ればまた倒れることもない」
三人はシリウスの作戦に従うことにした。シリウスは少しの間集中し剣に魔力を込める。
「よし、行くぞ!!」
シリウスの合図で三人は門まで走っていく。
「“切り開く剣”!!」
魔力を存分に込めた剣を振り下ろすと大きな斬撃がアンデットを切り裂きながら門ごと吹き飛ばす。
斬撃によって出来上がった道を三人は急いで通り抜け、庭に入るとシリウスは魔法で地面を隆起させて門があった場所を塞いだ。
「さて、さっさと済まそう」
目の前の屋敷は不気味なほど静かであった。
視界の光が消え、目が慣れるとエストレアはいつの間にか倉庫に移動していたことに気付く。側を見るとシリウスも移動していた。
「……エストレア、先ほどは取り乱してすまない……」
「いや……問題ない。……しかし、これは一体なにが起きたのだ?」
「どうやら“月下の蝶”が間に合ったようだな」
そばにいたガネシャが語りかけてくる。エストレアは未だに何が起きたか分からず、門に開いた穴から外を覗く。そこにはフードをかぶった十数名の人影がアンデット達と交戦していた。特にザハクとターニャを相手取っている女性は見事な体捌きで二人を翻弄しており、その周りにはエストレア達を包んだ蝶が舞っていた。
「……あれは暗殺ギルド……。」
暗殺ギルドは盗賊ギルド同様、存在自体がただの噂だとされている組織であり、その名の通り暗殺を生業とすると言われている。
「外はもう保ちません。我が同胞達も屋内まで後退するでしょう」
いつのまにか側にいたフードを被った女性がガネシャに伝令を伝える。
「うむ。三人とも、こちらの裏口から出られます。今ならアンデットも表に集中しているでしょう」
ガネシャがポラリス達を裏口に案内する。
「……やはりあんたが“月の影”か」
「…お初にお目にかかります。シリウス様」
月の影が片膝をついて敬礼する。
「シリウスさん!?どういうことですか!?」
「ポラリスよ。もう時間がない、後にしなさい」
「自分たちだけ逃げろと!?他の皆は!?レオールさんやカレンちゃんは!?」
「……お主達は三人でここから出なければならない……そう運命で決められている……」
「運命!?」
ポラリスは目の前の男が何を言っているのかわからなかった。しかし、この男の目を見ていると本当の事を言っているように感じた。
「……お前達はどうする」
「隙を見て離脱します。必ず生き延びるのでご心配なく」
「……そうか」
「行こうポラリス。私たちはやるべきことがある。」
月の影の覚悟を前にシリウスとエストレアは脱出の準備を整える。しかしポラリスは未だに覚悟を決めきれなかった。
そんな彼にレオールとカレンが駆け寄ってくる。
「ポラリス君、行ってくれ。私たちのことは心配しなくていい」
「……でも……」
「これはきっとカレン達の使命なんです!!盗賊ギルドのメンバーは皆大いなる使命を負っているのです!!」
「大丈夫。色々あったがここまで生きてきたんだ。そう簡単にくたばらんよ」
「……どうか御無事で」
三人は裏口から外へ出ていく。ポラリスは決して振り返らなかった。振り返るとと決意が揺らぐ気がした。
「……すまないな……」
残った月の影がレオール達に謝る。
「いえ。しかしガネシャさんが月の影だったとは」
「月の影の御命令ならばカレンはなんだっています!!」
月の影は黙ってカレンの頭に手を置くと、レオールに倉庫の人間を集めるよう命令した。
人が集まると自分が月の影であること、すぐにここにアンデットがなだれ込んで来ることを伝える。盗賊ギルドの面々は月の影の言葉を黙って聞き、一切の動揺もなかった。戦士ギルドの面々は最初はざわついていたが盗賊ギルドの態度を前に最終的には腹を据えたようだった。
門の穴から暗殺ギルドのメンバーが次々と入り込み、これを追うようににアンデット達も倉庫に入ってきた。月の影とレオールはこれで最後になるであろう言葉を交わす。
「……戦士ギルドはせっかく逃げてきたのに気の毒だったな」
「いえ、彼らも遅かれ早かれこうなることは覚悟はしていたはずです。……我々は大いなる目的を果たすことができるのでしょうか」
「……我々の使命はこの国の未来に殉じることだ。そのために己の過去と未来は捨て去ったはずだ。……お主達はもう十分にそれは果たした。あとはあの者達に託そう」
「……月の影、恐れながらお願いがございます。もし自分が死んだら……カレンを……」
「……ああ」
アンデットの波が生存者の眼前まで迫った。
「シリウス、そろそろ説明してくれ。」
三人は倉庫から脱出後、再びネクロマンシー研究会に向かっていた。その道中、エストレアが月の影との関係について尋ねる。
「……盗賊ギルドと暗殺ギルドは王国直属の諜報・暗殺部隊だ」
シリウスの話によると盗賊ギルドと暗殺ギルドはラウム王国建国時、教皇デネブの進言によって情報収集、要人暗殺を目的に設立されたらしい。しかしその存在は国家の円滑な運営には必要不可欠だが三英雄の名誉としては汚点以外の何者でもないため正式には認められず闇社会の住人として認識されていた。
しかし、彼らの王家、ひいては国家への忠誠心は建国から1000年間変わることはなく、今でも現国王であるルシウスに盗賊ギルド長、“月の影”と暗殺ギルド長、“月下の蝶”は絶対の忠誠を誓っている。
「そんな……闇に紛れてまで……国民に罵られてまで国のために働くなんて」
「ご先祖のアルタイルは彼らの存在を公にしようとしていたらしい。しかし、勇者の名の下にできたこの国にとってその名が汚れるのは崩壊を意味する。彼らは勇者の名のために…この国のために“月の影”にまで隠れたんだ」
ポラリスはそれ以上何も言えなかった。
道中、数体のアンデットを蹴散らしながら貧民街の裏路地を進むとついにネクロマンシー研究会の前に辿り着いた。
周囲の家屋はボロボロの中、広い庭とそれを囲む小綺麗なフェンスの奥に建つ、まるで貴族の屋敷のような建物がネクロマンサー達の研究所である。
目の前まで来たはいいがフェンスの周りは大量のアンデットで溢れており、奥の建物を求めてフェンスに阻まれながらも手を伸ばしていた。
「……どうやら人はいそうだな」
「しかし、あんなに大量にいては入れないですよ」
シリウスが少し考え込むと作戦を提案する。
「俺が道を門ごとぶち開ける。その内に入り込み、門を塞ぐ」
「……今の状態でできるのか?」
「魔力を丁寧に練ればまた倒れることもない」
三人はシリウスの作戦に従うことにした。シリウスは少しの間集中し剣に魔力を込める。
「よし、行くぞ!!」
シリウスの合図で三人は門まで走っていく。
「“切り開く剣”!!」
魔力を存分に込めた剣を振り下ろすと大きな斬撃がアンデットを切り裂きながら門ごと吹き飛ばす。
斬撃によって出来上がった道を三人は急いで通り抜け、庭に入るとシリウスは魔法で地面を隆起させて門があった場所を塞いだ。
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