ゾンビ転生〜パンデミック〜

不死隊見習い

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Season2

生存者ーSurvivorー2

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 ポラリス達一行は貧民街にある大通りに面した倉庫に到着した。そこは以前はある商人が所有していたものだったが、その商人の店は潰れてしまってからは廃屋同然であった。外観から見た広さは一般的なガラクシアの家屋よりもやや広い程度ではあるが堅牢な門が以前の商店の繁盛を物語っていた。
 レオールが門を叩くと門に付けられた覗き窓が開く。数秒、二者の間でやり取りが行われると巨大な門がゆっくりと開いた。
 
 ポラリス達が中に入ると十数人がよそ者を最初は怪訝な目で見る。しかしシリウスとエストレアの姿を認めるとざわめきが広がった。

 倉庫の奥から初老の男性がレオール達に近づいてきた。右目には眼帯をしており、無造作に伸ばした髪と髭で顔と認識できる部分は左目くらいしかない。

「レオール、カレンもよく無事に戻ってきた」

 男はゴツゴツの手でカレンを撫でる。カレンは嬉しそうな顔をしながら商店から持ち帰った鞄いっぱいの戦利品を見せびらかした。

「ガネシャさん、”月の影“からの連絡は?」

 レオールの問いにガネシャと呼ばれた初老の男は黙って首を横に振る。それを見たレオールはガックリと肩を落とした。

「……なに、心配するな。月の影は我々を見捨てることはない。きっとこの状況の打開策を探ってらっしゃることだろう」

 月の影とは盗賊ギルドの長にあたる人物とされ、ギルドのメンバーを含めて誰一人その姿を見たことがない。兵隊の間では名前だけで実在しない架空の人物という説が主流だが、様々な手段でギルドのメンバーに指令を送り、報酬を渡していると言われている。


 ガネシャはレオール達を助けたシリウス達に礼を言うと奥で休息を取らせてもらえることになった。
 彼の話によるとこの倉庫は元の持ち主の手から離れてからは盗賊ギルドの隠れ家の一つとして使われていたらしく、盗賊ギルドの何名かはアンデット騒動を逃れ、ここに避難したらしい。そして昨夜、戦士ギルドの内乱から逃げてきた何名かと偶然合流したらしい。
 ポラリス達はその内乱について聞くため戦士ギルドのメンバーのもとに話を聞きに行った。

「ギルドマスターであるダイムラーさんのご子息、メルセデスさんが謀反を起こしたんです。……実の父を手にかけて……」
「あのダイムラーがやられたのか!?」

 戦士ギルドは勇者アルタイルに師事した戦士、タイクンが開いたことが始まりであり、実権は国王が持っていた。戦士ギルド内では実権をギルドに返還することを主張する独立派と古くからの風習を守る保守派に二分されていた。七英傑であるギルド長ダイムラーは保守派であったため、表立った抗争は起きていなかった。
 しかし、ダイムラーの息子でありながら独立派であるメルセデスはこの状況を好機とし、実の父に反旗を翻したらしい。

「メルセデスさんと側近のバーゲンとフォードを中心に独立派の面々が急に保守派の仲間を殺し始めたんです……。きっと、ずっと前から計画を練っていたのでしょう。保守派である我々は命からがらここまで逃げてきたんです。……不本意ですが盗賊共の手を借りてまで」

 戦士ギルドの状況を聞き、三人はこれからの事を話し合った。

「仲間を殺すなんてな。戦士ギルドの奴らは今や暴徒だ」
「……独立派の人たちは国王を狙うんじゃ……」
「……いや、戦士ギルドの奴らの話によると昨晩、俺らと同じ様に大量のアンデットの襲撃があったらしい。恐らく今も防衛で手が回らないはずだ」
「……いずれにしても早くこの街から脱出しなければ。」
「ああ、もう少しで魔力も回復する。半刻ほど休んだら出発しよう」

 休息の間、ポラリスはレオールとカレンのもとに向かった。二人はガネシャと次の物資の補給について話し合っていた。

「レオールさん……先程、シリウスさんが言った事で気分を害されたのならば自分が謝ります」
「いや、本当のことだからね。気にしてないよ」
「あの……レオールさんは好きで盗賊をやっているわけではないんですよね……よろしければお話を聞いても?」
「ああ、構わないよ」
 
 レオールはふうと一息つくと語り始めた。

「俺たちがまだ獣人族の村にいた頃だ。俺の妻はカレンがまだ赤子の頃に病で亡くなってね。俺たちは二人でなんとか暮らしてきたんだ」

 レオールは目を細めるとボールで遊んでいるカレンを眺めた。

「あの子はああ見えて昔は体が弱くてね。ある時大きな病気を患ってしまったんだ。教会に頼んで直してもらおうとしたがカレンの病は珍しく、その治療魔法はまだ開発されていなかったらしい。唯一の治療法は医療協会が開発した薬だったんだが……それがとても高価でな。俺の稼ぎでは金が貯まる前にカレンが死んでしまう程だ」

 この国では教会の治療魔法がとても発達しており、だいたいの病気は教会によって治療される。その反面、医療技術は軽視されており、主に治療魔法が開発されない珍しい病の治療薬を作っていた。しかし、その技術は発展途上であるため、薬は非常に希少であり薬価はとても高価となる。

「あの子は俺に残された最後の宝だ。手段を選んでいる時間もなかった。盗んだ薬でなんとか病気は治ったが村の者達にバレて二人で追放されてしまいこの街に流れ着いたんだ。……しかし、罪人の獣人がまとまな仕事に就けるはずもない……行き倒れそうになったところでガネシャさんに拾われて盗賊ギルドに入ったんだ。……別に軽蔑してくれても構わない……」
「軽蔑なんてするわけないじゃないですか……自分だってレオールさんの立場なら同じことをします!!」

 ポラリスの言葉にレオールは胸にあった重いものが少しだけ落ち、少し救われた様な顔をした。ガネシャがポラリスの顔を見ながら話しかけた。

「“月の影”に拾われたもの達は皆それぞれ強い思いがあり、過去を、未来を捨て去れるもの達だ。矜恃の無いものはただのコソ泥だ。我々盗賊ギルドは大いなる目的のために忍び、盗む。……なにを犠牲にしようとな……」
「……それはカレンちゃんも解っているんですか?」

 ポラリスはガネシャの目を真っ直ぐ見据える。ガネシャはその眼差しを正面から捉えるとニコッと笑った。

「安心しなさい。月の影も悪魔ではないさ。この親子にはそれほど危険な任務は任せなよさ。……ところで若き兵士よ、名前は何という?」
「ポラリスです」

 名前を聞くとガネシャは驚き左目を丸くするとどこか嬉しそうな顔になった。

「ポラリス……導きの星ポラリスか!!いい名前だな……それにいい目をする……」

 ガネシャはポラリスの顔を両手で抑えるとその目を覗き込む。ポラリスは突然のことにたじろいだ。

「ああ、すまんすまん。歳を取ると若者の真っ直ぐな目が懐かしくてな。私も昔はそんな目をしていたものだ」

 ポラリスはどこか自分が褒められたようで少し照れ臭くなった。

 そんな時であった。突然倉庫が揺れるほどの衝撃が響いた。
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