ゾンビ転生〜パンデミック〜

不死隊見習い

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Season2

生存者ーSurvivorー1

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 紅いヘアバンドをした栗色の髪の中から生えた犬の様な耳はピョンと立ってポラリスたちの方を向く。腰から生えた尻尾は慌ただしく左右に振られ、そのたびに栗色の艶やかな毛並みの光沢が光った。

 前述したとおり、ガラクシアでは人間以外の種族は非常に珍しい。中でも聴覚と嗅覚が非常に発達した獣人族は人並みの喧騒を嫌うためほとんど見られず、ポラリスもこの街で生まれ育ったポラリスは初めて獣人族を見たほどだ。

「狼さんたち、あなたたちが殺したの?」

 突然現れた少女に呆気に取られていると少女が再び尋ねてくる。その純粋な声はまるで、自分たちが狼を殺めたことを非難している様にも聞こえた。獣人族は狩猟の中でコンチネンタルウルフをパートナーとして狩りを行うこともあると言う。

「……そうだが。だったらどうする」

 シリウスが冷たく言い切る。自分たちは狼に襲われていたところを助けようとしただけだ。確かに非難されるいわれはない。
 すると、少女の後ろから大男がヌッと顔を出す。こちらも少女と同じく紅ヘアバンドを着けた栗色の毛並みの獣人族であった。
 男は少女を自分の後ろに隠すと人懐っこい笑顔を作った。

「いえいえ、非常に助かりました。俺たちももう、生きるのを諦めていたほどで……。こんな所で話すのもあれですから中へどうぞ」

 男の言われるまま、商店の中に入った。

 この商店は雑貨屋の様であり、店内に高く並べられた棚には食品類から日用品まで幅広い商品が置かれていた。男の案内で店の奥の部屋に入ると少し休息を取ることになった。
 
 お互いに自己紹介を済ます。男の名はレオール、少女の名はカレンといい、二人は親子のようであった。

「ほお、二方は七英傑でしたか。通りでお強い訳だ!」

 レオールが賞賛の言葉を贈る。釣られるようにカレンも尊敬の眼差しで二人を見た。
 ふと、シリウスが傍に置かれたカバンに気づく。そこには店の商品が一杯に詰み込まれていた。

「あ、ああこれですか?ほら…こんな状況でしょ?お恥ずかしい話、実は先ほどもこの店に物資を頂戴しに来たところを囲まれたもので……」
「いや、責めるつもりはない」

 恥ずかしそうに話すレオールをシリウスが擁護する。この極限ともいえる状況ではモラルを捨ててまで生きる道を探らねばならない。

「あの……他にもご一緒の方は?」
「ああ、実はちょっと行ったところにある倉庫で数人で避難しているんです」

 レオールの回答にシリウスとポラリスは顔を合わせる。

「そうだ!よろしければ皆さんも一緒に来てください……正直言うと帰るのに護衛がいてくれると心強いんです」
「いや、俺たちは別にやることがある」

 護衛を引き受けようとしたポラリスを制し、シリウスが答える。

「失礼ですがやるべきこととは?」
「……ネクロマンシー研究会を打ち取りに行く…」
「では貧民街に向かうのですか……あそこはこの騒動の中心でもあります。アンデットの量がここいらの比でない。
「それでも行くさ。無理やりにでも……」

 シリウスが視線を鋭くする。その冷たい眼差しにポラリスの背筋がひんやりとする。するとそこにそれまで傍観していたエストレアが話に入ってきた。

「……いや、その拠点でゆっくりと休息をとるべきだ。」
「ネクロマンサー共を後回しにすると?」
「……ポラリスは先の戦闘で大分消耗している。このまま進むのは得策でない。」
「そんな!?自分はまだ動けます!!」
「……それはお前もだシリウス。魔力を使いすぎている。大分足に来ているぞ。」
「……お前にはわかるか」
「ええ、歩行の際、僅かに軸が右にずれている。その状態での戦闘はとてもじゃないが推奨できない。……それに……。」

 ぐー。エストレアの腹から音がなる。気がつけば時刻はもうすぐ昼であった。

「はっはっは。あなた達は命の恩人だ!御馳走を見舞いますよ!」
 
 

 商店を出てさらに街道を南下し貧民街の裏道に入る。レオール達の倉庫は貧民街の中にあった。道中、レオール達の昨晩から今までのことを聞いた。

「俺たち親子二人と職場の仲間数人と何とか倉庫に逃げ延びましてね。何とか朝まで息を潜めてやり過ごしていると外のアンデット達はどこかに行ってしまいました。あ!そうそう昨日、深夜に戦士ギルドから何人か合流しました!私にはよくわかりませんがギルド内でイザコザがあったようで……」
「ほう……ところで戦士ギルドの者達は護衛にはついてこなかったのか?」
「そ、それは……」
「それはカレンと父さんが盗賊ギルドのエリートだからです!!」

 言葉に詰まったレオールの代わりにカレンが答える。まだ幼い顔はどこか誇らしげである。

「こ、こら!カレン!」
「なるほど……」

 シリウスがレオールの右腕を掴むと着けていた手袋を無理やり外す。するとそこには、ばつ印の刺青が彫られていた。

「聞いたことがある。獣人族の罪人は腕に印を彫られて村を追放されると……この街に流れ着いてまで盗み家業か」
「やめて下さい!!」

 カレンが父親の前に盾になるように立ち塞がる。

「カレン達はただのコソ泥じゃないんです!!弱い人のために金持ちから盗む義賊様なんです!!」

 カレンが胸を張る。
 
 盗賊ギルドとはその名の通り盗賊達が集まったギルドであると言われ、表の人間は存在自体が噂であるという認識の闇ギルドである。殺人は絶対に行わず、弱き者からは何も奪わないという義賊を自称しているらしいが兵隊からは
単なる盗人として扱われている。

「シリウスさん!今はそんなことを言っている場合ではないですよ!」
「……お前はお人好しだな…」

 シリウスが腕を離すとレオールは地面に落ちた手袋を拾い、急いで着ける。

「俺だって好きでやってるわけじゃない…」
「……知ってるさ……」

 そこから倉庫に着くまで、一同の周りは沈黙に包まれ、少女の尻尾が空を切る音だけだ漂っていた。
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