ゾンビ転生〜パンデミック〜

不死隊見習い

文字の大きさ
上 下
43 / 106
Season2

生存者ーSurvivorー1

しおりを挟む
 紅いヘアバンドをした栗色の髪の中から生えた犬の様な耳はピョンと立ってポラリスたちの方を向く。腰から生えた尻尾は慌ただしく左右に振られ、そのたびに栗色の艶やかな毛並みの光沢が光った。

 前述したとおり、ガラクシアでは人間以外の種族は非常に珍しい。中でも聴覚と嗅覚が非常に発達した獣人族は人並みの喧騒を嫌うためほとんど見られず、ポラリスもこの街で生まれ育ったポラリスは初めて獣人族を見たほどだ。

「狼さんたち、あなたたちが殺したの?」

 突然現れた少女に呆気に取られていると少女が再び尋ねてくる。その純粋な声はまるで、自分たちが狼を殺めたことを非難している様にも聞こえた。獣人族は狩猟の中でコンチネンタルウルフをパートナーとして狩りを行うこともあると言う。

「……そうだが。だったらどうする」

 シリウスが冷たく言い切る。自分たちは狼に襲われていたところを助けようとしただけだ。確かに非難されるいわれはない。
 すると、少女の後ろから大男がヌッと顔を出す。こちらも少女と同じく紅ヘアバンドを着けた栗色の毛並みの獣人族であった。
 男は少女を自分の後ろに隠すと人懐っこい笑顔を作った。

「いえいえ、非常に助かりました。俺たちももう、生きるのを諦めていたほどで……。こんな所で話すのもあれですから中へどうぞ」

 男の言われるまま、商店の中に入った。

 この商店は雑貨屋の様であり、店内に高く並べられた棚には食品類から日用品まで幅広い商品が置かれていた。男の案内で店の奥の部屋に入ると少し休息を取ることになった。
 
 お互いに自己紹介を済ます。男の名はレオール、少女の名はカレンといい、二人は親子のようであった。

「ほお、二方は七英傑でしたか。通りでお強い訳だ!」

 レオールが賞賛の言葉を贈る。釣られるようにカレンも尊敬の眼差しで二人を見た。
 ふと、シリウスが傍に置かれたカバンに気づく。そこには店の商品が一杯に詰み込まれていた。

「あ、ああこれですか?ほら…こんな状況でしょ?お恥ずかしい話、実は先ほどもこの店に物資を頂戴しに来たところを囲まれたもので……」
「いや、責めるつもりはない」

 恥ずかしそうに話すレオールをシリウスが擁護する。この極限ともいえる状況ではモラルを捨ててまで生きる道を探らねばならない。

「あの……他にもご一緒の方は?」
「ああ、実はちょっと行ったところにある倉庫で数人で避難しているんです」

 レオールの回答にシリウスとポラリスは顔を合わせる。

「そうだ!よろしければ皆さんも一緒に来てください……正直言うと帰るのに護衛がいてくれると心強いんです」
「いや、俺たちは別にやることがある」

 護衛を引き受けようとしたポラリスを制し、シリウスが答える。

「失礼ですがやるべきこととは?」
「……ネクロマンシー研究会を打ち取りに行く…」
「では貧民街に向かうのですか……あそこはこの騒動の中心でもあります。アンデットの量がここいらの比でない。
「それでも行くさ。無理やりにでも……」

 シリウスが視線を鋭くする。その冷たい眼差しにポラリスの背筋がひんやりとする。するとそこにそれまで傍観していたエストレアが話に入ってきた。

「……いや、その拠点でゆっくりと休息をとるべきだ。」
「ネクロマンサー共を後回しにすると?」
「……ポラリスは先の戦闘で大分消耗している。このまま進むのは得策でない。」
「そんな!?自分はまだ動けます!!」
「……それはお前もだシリウス。魔力を使いすぎている。大分足に来ているぞ。」
「……お前にはわかるか」
「ええ、歩行の際、僅かに軸が右にずれている。その状態での戦闘はとてもじゃないが推奨できない。……それに……。」

 ぐー。エストレアの腹から音がなる。気がつけば時刻はもうすぐ昼であった。

「はっはっは。あなた達は命の恩人だ!御馳走を見舞いますよ!」
 
 

 商店を出てさらに街道を南下し貧民街の裏道に入る。レオール達の倉庫は貧民街の中にあった。道中、レオール達の昨晩から今までのことを聞いた。

「俺たち親子二人と職場の仲間数人と何とか倉庫に逃げ延びましてね。何とか朝まで息を潜めてやり過ごしていると外のアンデット達はどこかに行ってしまいました。あ!そうそう昨日、深夜に戦士ギルドから何人か合流しました!私にはよくわかりませんがギルド内でイザコザがあったようで……」
「ほう……ところで戦士ギルドの者達は護衛にはついてこなかったのか?」
「そ、それは……」
「それはカレンと父さんが盗賊ギルドのエリートだからです!!」

 言葉に詰まったレオールの代わりにカレンが答える。まだ幼い顔はどこか誇らしげである。

「こ、こら!カレン!」
「なるほど……」

 シリウスがレオールの右腕を掴むと着けていた手袋を無理やり外す。するとそこには、ばつ印の刺青が彫られていた。

「聞いたことがある。獣人族の罪人は腕に印を彫られて村を追放されると……この街に流れ着いてまで盗み家業か」
「やめて下さい!!」

 カレンが父親の前に盾になるように立ち塞がる。

「カレン達はただのコソ泥じゃないんです!!弱い人のために金持ちから盗む義賊様なんです!!」

 カレンが胸を張る。
 
 盗賊ギルドとはその名の通り盗賊達が集まったギルドであると言われ、表の人間は存在自体が噂であるという認識の闇ギルドである。殺人は絶対に行わず、弱き者からは何も奪わないという義賊を自称しているらしいが兵隊からは
単なる盗人として扱われている。

「シリウスさん!今はそんなことを言っている場合ではないですよ!」
「……お前はお人好しだな…」

 シリウスが腕を離すとレオールは地面に落ちた手袋を拾い、急いで着ける。

「俺だって好きでやってるわけじゃない…」
「……知ってるさ……」

 そこから倉庫に着くまで、一同の周りは沈黙に包まれ、少女の尻尾が空を切る音だけだ漂っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

処理中です...