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Season2
獣ーBeastー1
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目的地、ネクロマンシー研究会のある貧民街はガラクシアの南に位置している。ポラリスたちは街の中心である城から南下する形となった。
城を出てから半刻ほど経っただろうか。三人は貧民街に通じる商店街を進んでいた。辺りには食い散らかされた死体や何箇所も剣で貫かれたような死体が転がっていた。暖かい気候のせいか腐敗が始まっており、嫌な匂いが鼻を刺激する。ポラリスは朝食を戻しそうになるのを何度も堪えた。
「やけに静かですね……」
これまでの道のりでも数回、アンデットが2、3体ずつ襲ってくる程度であり、七英傑二人の手にかかれば危機はないに等しかった。
「……昨晩、城門を突破するのに数千のアンデットが集まったと聞く。奴らが人の多い場所に集まるという習性があるとすると、もしかしたら他の人間を求めて移動したのかもな」
「……自分たち以外にもまだ生きている人間がいると思いますか?」
「暴動は昨日から始まったばかりだ。まだ街の全体には広がっていない、もしくは兵団やギルド員が他の区画の人間を避難させたのかもしれない」
ガラクシアは城を中心にして西から城の周辺にかけて城下町、南に貧民街、東に港、そして北には教会関係者が暮らす教区が位置する。このアンデット騒動は南の貧民街から発生したと思われる。
生き残った人々のためにも一刻も早く黒幕を討たなければならない。
「このペースなら昼前には着きそうですね」
「……何かおかしいと思わないか?」
シリウスがここまで感じてきた違和感を口にする。それは出発時から感じていたが目的地に近づくにつれて次第に大きくなっていったものである。
「敵の本拠地に向かっているにしては道中が手薄すぎる。」
「……もしかして罠かもしれないと?」
シリウスは顎に手を当てて一考したのちに答える。
「……かもしれないな。しかし、どちらにせよ今のところ手がかりはあのペンダントしかないんだ。行くしかあるまい」
城でポラリスたちを襲った巨人が持っていたペンダントを思い出す。髑髏の周りに蛇がまとわりつくようなデザイン。髑髏は死者、蛇は黒魔術、あるいは輪廻を意味する。ネクロマンシー研究会のシンボルである。
確かにあの巨人は他のアンデットたちとは違い、異様であった。人の死体を縫い合わせて人工的に造られた体。それはネクロマンシー研究会が得意とする合成獣(キメラ)技術である。それがまるで明確な殺意があるように自分たちを襲ってきた。ネクロマンシー研究会は自分たちを消したいのだろうか。
ポラリスが考え込んでいると先頭を歩いていたエストレアが片手を上げて一同を静止させる。
「……何かいる……。」
彼女の言葉通り数十メートル先に影が見える。目を凝らすとそれは四足歩行の大型の獣であった。
コンチネンタルウルフ。大陸に多く分布する狼型の魔物であり、高い社会性を持ち群れで狩りを行う。とても高い知能を持つため戦士ギルドやサーカスではこの狼を手懐け、仕事を共にすることも多い。恐らくそのどちらかから逃げ出したのだろう。
狼たちは商店街のある商店の前を取り囲んでいた。
「もしかして中に誰かいるんじゃ!?」
「……急ぐぞ!」
シリウスの言葉に三人は駆け出す。近づくにつれて狼は10体いることがわかった。
「……ポラリスは危ない。下がってて。」
エストレアが魔力の刃を降らせながら狼の群れの頭上を大きく跳び、シリウスと挟み撃ちの形になった。狼たちは身軽な動きで刃を躱すが2体、刃に倒れた。
残りの狼たちはいきなり現れた敵に混乱し、統率を失っていた。その隙に二人は無駄のない剣筋で次々と狼たちを切り裂いていく。ものの数秒で10体いた狼は全て地に伏せた。
「つ、強い……」
改めて二人の力に見惚れる。自分との圧倒的な差に嫉妬すら起きずただ尊敬の眼差しを送った。
「妙だな……群れの長がいない」
コンチネンタルウルフは一匹の群れの長の統率で行動する。長は他よりも体が大きく、額には一本のツノが生えている。このツノは魔力の塊であり、魔力や空気の流れを感じ取ることができる。
「……上だ!」
エストレアの言葉に一同は向かいの建物の屋根を見る。
3メートルはあるだろうか。一匹の巨大な狼が屋根の影から姿を現す。アンデット同様目は血走り、口元からは血が混じった涎を垂らしている。
一同が武器を構えると群れの長は天空に向かって遠吠えをした。ポラリスはその獣の声に全身に鳥肌を立てた。
「な!?馬鹿な!!」
シリウスが驚きの声を上げる。先程殺したはずの狼たちの傷が癒えていきなんと立ち上がり始めたのだ。
コンチネンタルウルフの群れの長の鳴き声には他の群れの狼たちの身体能力を活性化する効果がある。それを用いれば治癒力を向上させて小さな傷ならば塞ぐことも可能である。
しかし、今回は訳が違う。
絶ったはずの命が蘇るばかりでなく断頭したはずの頭まで胴と癒着し始めた。
「!?ポラリス!!」
立ち上がった一匹がポラリスに向かって飛びかかる。
城を出てから半刻ほど経っただろうか。三人は貧民街に通じる商店街を進んでいた。辺りには食い散らかされた死体や何箇所も剣で貫かれたような死体が転がっていた。暖かい気候のせいか腐敗が始まっており、嫌な匂いが鼻を刺激する。ポラリスは朝食を戻しそうになるのを何度も堪えた。
「やけに静かですね……」
これまでの道のりでも数回、アンデットが2、3体ずつ襲ってくる程度であり、七英傑二人の手にかかれば危機はないに等しかった。
「……昨晩、城門を突破するのに数千のアンデットが集まったと聞く。奴らが人の多い場所に集まるという習性があるとすると、もしかしたら他の人間を求めて移動したのかもな」
「……自分たち以外にもまだ生きている人間がいると思いますか?」
「暴動は昨日から始まったばかりだ。まだ街の全体には広がっていない、もしくは兵団やギルド員が他の区画の人間を避難させたのかもしれない」
ガラクシアは城を中心にして西から城の周辺にかけて城下町、南に貧民街、東に港、そして北には教会関係者が暮らす教区が位置する。このアンデット騒動は南の貧民街から発生したと思われる。
生き残った人々のためにも一刻も早く黒幕を討たなければならない。
「このペースなら昼前には着きそうですね」
「……何かおかしいと思わないか?」
シリウスがここまで感じてきた違和感を口にする。それは出発時から感じていたが目的地に近づくにつれて次第に大きくなっていったものである。
「敵の本拠地に向かっているにしては道中が手薄すぎる。」
「……もしかして罠かもしれないと?」
シリウスは顎に手を当てて一考したのちに答える。
「……かもしれないな。しかし、どちらにせよ今のところ手がかりはあのペンダントしかないんだ。行くしかあるまい」
城でポラリスたちを襲った巨人が持っていたペンダントを思い出す。髑髏の周りに蛇がまとわりつくようなデザイン。髑髏は死者、蛇は黒魔術、あるいは輪廻を意味する。ネクロマンシー研究会のシンボルである。
確かにあの巨人は他のアンデットたちとは違い、異様であった。人の死体を縫い合わせて人工的に造られた体。それはネクロマンシー研究会が得意とする合成獣(キメラ)技術である。それがまるで明確な殺意があるように自分たちを襲ってきた。ネクロマンシー研究会は自分たちを消したいのだろうか。
ポラリスが考え込んでいると先頭を歩いていたエストレアが片手を上げて一同を静止させる。
「……何かいる……。」
彼女の言葉通り数十メートル先に影が見える。目を凝らすとそれは四足歩行の大型の獣であった。
コンチネンタルウルフ。大陸に多く分布する狼型の魔物であり、高い社会性を持ち群れで狩りを行う。とても高い知能を持つため戦士ギルドやサーカスではこの狼を手懐け、仕事を共にすることも多い。恐らくそのどちらかから逃げ出したのだろう。
狼たちは商店街のある商店の前を取り囲んでいた。
「もしかして中に誰かいるんじゃ!?」
「……急ぐぞ!」
シリウスの言葉に三人は駆け出す。近づくにつれて狼は10体いることがわかった。
「……ポラリスは危ない。下がってて。」
エストレアが魔力の刃を降らせながら狼の群れの頭上を大きく跳び、シリウスと挟み撃ちの形になった。狼たちは身軽な動きで刃を躱すが2体、刃に倒れた。
残りの狼たちはいきなり現れた敵に混乱し、統率を失っていた。その隙に二人は無駄のない剣筋で次々と狼たちを切り裂いていく。ものの数秒で10体いた狼は全て地に伏せた。
「つ、強い……」
改めて二人の力に見惚れる。自分との圧倒的な差に嫉妬すら起きずただ尊敬の眼差しを送った。
「妙だな……群れの長がいない」
コンチネンタルウルフは一匹の群れの長の統率で行動する。長は他よりも体が大きく、額には一本のツノが生えている。このツノは魔力の塊であり、魔力や空気の流れを感じ取ることができる。
「……上だ!」
エストレアの言葉に一同は向かいの建物の屋根を見る。
3メートルはあるだろうか。一匹の巨大な狼が屋根の影から姿を現す。アンデット同様目は血走り、口元からは血が混じった涎を垂らしている。
一同が武器を構えると群れの長は天空に向かって遠吠えをした。ポラリスはその獣の声に全身に鳥肌を立てた。
「な!?馬鹿な!!」
シリウスが驚きの声を上げる。先程殺したはずの狼たちの傷が癒えていきなんと立ち上がり始めたのだ。
コンチネンタルウルフの群れの長の鳴き声には他の群れの狼たちの身体能力を活性化する効果がある。それを用いれば治癒力を向上させて小さな傷ならば塞ぐことも可能である。
しかし、今回は訳が違う。
絶ったはずの命が蘇るばかりでなく断頭したはずの頭まで胴と癒着し始めた。
「!?ポラリス!!」
立ち上がった一匹がポラリスに向かって飛びかかる。
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