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英雄譚③
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そうさね……。あれから森の木々が何百回果実をつけたか……忘れてしまうくらい昔さねぇ。私はドワーフの国、ああ、今のガラクシアの地に昔あった小人達の国のことさね。とにかくその国で奴隷として働かされていたの。え?ドワーフは気のいい奴らだって?……まあそういう奴らもいるかもね。でも少なくともあの国の奴らは違う。私のおばあちゃんの時代は全ての種族が仲良く生きていたみたいだけど、ドワーフはいつの日か身の丈に合わない力を手にして変わってしまったらしい。……陰鬱な毎日だった。幼いながらも私は自分の生きる意味、命の尊厳を失いかけていたんさね。……何不思議そうな顔してるの。こんな私にも少女の時代があったのよ。え?話を戻せって?まったく、人間は横暴な種族だよ!!……今でもあの日のことは忘れないよ。あれは暑季の暮れ、うんざりする暑さが少しは和らぎ、私はほっと空の雲を眺めていたのを覚えているよ。三英雄様が来たのさ。私にはあの方達は世界の何よりも輝いて見えた。痩せっぽちた私の体をデネブ様が労ると今まで灰色だった世界に色が芽吹いた気さえした。アルタイル様は国の惨状にひどく怒ってくださった。ベガ様は特に何もおっしゃらなかったけどその眼に怒りと私たちへの哀れみを秘めていたのは幼い私にもわかった。三英雄様は奴隷達を逃すとたった三人だけでドワーフ達の造った人造兵と戦った。私たちは村まで逃げ、応援を連れて戻ったときにはもうあの国にはドワーフはいなかった。でも、驚くことに死体は一体も転がっていなかったんだよ。
何と慈悲深いことか、三英雄様はドワーフの行いをお許しになり命の代わりにこの国から出ていくように言ったらしい。この日、ついに私たちを長年縛っていた鎖が断ち切られたのさ。そこからはもう、三英雄様を迎えて三日三晩、宴を開いた。エルフ族に人間族、獣人族にオーク族。あんなに色々な種族が集まり、肩を組んで笑い合ったのは後にも先にもないだろうねぇ。私たちは三英雄様がずっと私たちと一緒にいてくれることを願った。でもそうはいかなかった。三英雄様はドワーフ達がはるか北の古の神殿から持ち帰った予言の石……ああ、今は導きの欠片と言ったかね。その予言を求めてこの地を訪ね、すぐに旅立たねばならぬらしい。この世界に終焉を与える邪竜を討つために……。あとはお前達も知っての通りだよ。三英雄様はこの地に戻ってきてくださり、このラウム王国を建国なさった。もちろん、私たちは皆んな、あの野蛮なオーク族でさえ王国への従属を申し込んだよ。でも王となったアルタイル様はあくまでも私たちと対等な関係で迎え入れてくれた。それから今まで、この国に平和が続くのも三英雄様の籠の賜物だよ。
「エルフ族の長老の話」より
何と慈悲深いことか、三英雄様はドワーフの行いをお許しになり命の代わりにこの国から出ていくように言ったらしい。この日、ついに私たちを長年縛っていた鎖が断ち切られたのさ。そこからはもう、三英雄様を迎えて三日三晩、宴を開いた。エルフ族に人間族、獣人族にオーク族。あんなに色々な種族が集まり、肩を組んで笑い合ったのは後にも先にもないだろうねぇ。私たちは三英雄様がずっと私たちと一緒にいてくれることを願った。でもそうはいかなかった。三英雄様はドワーフ達がはるか北の古の神殿から持ち帰った予言の石……ああ、今は導きの欠片と言ったかね。その予言を求めてこの地を訪ね、すぐに旅立たねばならぬらしい。この世界に終焉を与える邪竜を討つために……。あとはお前達も知っての通りだよ。三英雄様はこの地に戻ってきてくださり、このラウム王国を建国なさった。もちろん、私たちは皆んな、あの野蛮なオーク族でさえ王国への従属を申し込んだよ。でも王となったアルタイル様はあくまでも私たちと対等な関係で迎え入れてくれた。それから今まで、この国に平和が続くのも三英雄様の籠の賜物だよ。
「エルフ族の長老の話」より
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