24 / 106
Season1
盗人ーThiefー
しおりを挟む
「……あまりこっちを見るな。」
エストレアが恥ずかしそうに赤く腫れた目を背ける。
「……このことは内密に頼む。七英傑が泣いたとあらば国の威信に関わる。」
「別に言いませんよ。それに…泣くのなんて恥ずかしくないですよ。エストレアさんが優しい証拠です」
「な……私は優しくなんてない。私は悪魔だと言ったはずだろう。」
「はいはい。じゃあ帰ったらジョシュとルーナにも少しは優しく接してあげてください。七英傑として国の威信にかけて」
「……ふんす。」
拗ねるように頬を膨らませながら赤らめた顔を背けた。
その時、厩の外に何人かの人の気配を二人は感じ取った。
「……こいつはなかなかヤバイな」
ポラリス達が厩に到着する数刻前、食料庫に向かっていたビルとナナシは廊下の角に隠れ一体のアンデットを観察していた。
禿げ上がった頭と長い刀。それが剣聖ムサシであるとビルは一目で分かった。
「七英傑までもが……。」
「ビルの旦那、あんな奴どうすりゃいいんだよ!」
ナナシはビルの影に隠れ、震えていた。ムサシはまるで食糧庫を守るかのようにその前で直立していた。
「……貴様は元々盗人だろう。私には貴様を守る義務は無いし、仮にこの国から脱出出来たとしてもすぐに牢獄行きだろう」
「え……それはどう言う……」
「貴様が囮になれ……せめて最後は誰かの為に死ぬのも悪くなかろう」
「ひ、ひいいい」
ビルに睨みつけられナナシは怯える。
「……ふー。冗談だ。貴様が死ぬとポラリス君が少しばかりは悲しむだろう。シリウス殿かエストレア殿を探してきてくれ。彼らしか対処できそうに無い」
「りょ、了解しやした。所で旦那は?」
「ああ、俺は少しやることがある。奴を放置するわけにもいかんしな」
ビルを置いてナナシは七英傑を探しに駆けた。
「あれは誰でしょう……」
ポラリスは厩から外の様子を伺っていた。外にはいくつかの人影が何かの荷物を大きなトカゲのような壁際の生き物に乗せていた。
ポラリスが暗闇の中をより目を凝らして観察すると、トカゲはバジリスクモドキという種類だと分かった。この生物は馬並みの大きさであるにも関わらず人を乗せてヤモリのように壁を這ったり腕と足にある膜で滑空をすることさえできる。おそらくこの生き物に乗って城壁を越えてきたのだろう。
「……怪しい奴ら。とりあえず捕えよう。」
人影は荷物を乗せ終え、出発しようとしていた。近づいてようやく人が五人、バジリスクモドキが三匹だと分かった。
エストレアの接近に気づくと二人だけ残し、三匹のオオトカゲは壁を登って行った。
(……トカゲの方は間に合わない……。せめてあの二人を捉えて何者か吐かせる。)
二人のうち片方が放った鞭を避けると剣は抜かずにそのまま接近し足払いで態勢を崩しそのまま喉に手刀を喰らわせる。
後ろからもう一人が剣を振り下ろす。それを見もせずに避けると軽々と相手に向かって飛びつき、両手で首を押さえつけるとそのまま倒れ込み、締め落とした。
「…………」
「………なに?」
「いえ……なんでもありません」
この人は怒らせないようにしよう。そう心に誓った。
エストレアが恥ずかしそうに赤く腫れた目を背ける。
「……このことは内密に頼む。七英傑が泣いたとあらば国の威信に関わる。」
「別に言いませんよ。それに…泣くのなんて恥ずかしくないですよ。エストレアさんが優しい証拠です」
「な……私は優しくなんてない。私は悪魔だと言ったはずだろう。」
「はいはい。じゃあ帰ったらジョシュとルーナにも少しは優しく接してあげてください。七英傑として国の威信にかけて」
「……ふんす。」
拗ねるように頬を膨らませながら赤らめた顔を背けた。
その時、厩の外に何人かの人の気配を二人は感じ取った。
「……こいつはなかなかヤバイな」
ポラリス達が厩に到着する数刻前、食料庫に向かっていたビルとナナシは廊下の角に隠れ一体のアンデットを観察していた。
禿げ上がった頭と長い刀。それが剣聖ムサシであるとビルは一目で分かった。
「七英傑までもが……。」
「ビルの旦那、あんな奴どうすりゃいいんだよ!」
ナナシはビルの影に隠れ、震えていた。ムサシはまるで食糧庫を守るかのようにその前で直立していた。
「……貴様は元々盗人だろう。私には貴様を守る義務は無いし、仮にこの国から脱出出来たとしてもすぐに牢獄行きだろう」
「え……それはどう言う……」
「貴様が囮になれ……せめて最後は誰かの為に死ぬのも悪くなかろう」
「ひ、ひいいい」
ビルに睨みつけられナナシは怯える。
「……ふー。冗談だ。貴様が死ぬとポラリス君が少しばかりは悲しむだろう。シリウス殿かエストレア殿を探してきてくれ。彼らしか対処できそうに無い」
「りょ、了解しやした。所で旦那は?」
「ああ、俺は少しやることがある。奴を放置するわけにもいかんしな」
ビルを置いてナナシは七英傑を探しに駆けた。
「あれは誰でしょう……」
ポラリスは厩から外の様子を伺っていた。外にはいくつかの人影が何かの荷物を大きなトカゲのような壁際の生き物に乗せていた。
ポラリスが暗闇の中をより目を凝らして観察すると、トカゲはバジリスクモドキという種類だと分かった。この生物は馬並みの大きさであるにも関わらず人を乗せてヤモリのように壁を這ったり腕と足にある膜で滑空をすることさえできる。おそらくこの生き物に乗って城壁を越えてきたのだろう。
「……怪しい奴ら。とりあえず捕えよう。」
人影は荷物を乗せ終え、出発しようとしていた。近づいてようやく人が五人、バジリスクモドキが三匹だと分かった。
エストレアの接近に気づくと二人だけ残し、三匹のオオトカゲは壁を登って行った。
(……トカゲの方は間に合わない……。せめてあの二人を捉えて何者か吐かせる。)
二人のうち片方が放った鞭を避けると剣は抜かずにそのまま接近し足払いで態勢を崩しそのまま喉に手刀を喰らわせる。
後ろからもう一人が剣を振り下ろす。それを見もせずに避けると軽々と相手に向かって飛びつき、両手で首を押さえつけるとそのまま倒れ込み、締め落とした。
「…………」
「………なに?」
「いえ……なんでもありません」
この人は怒らせないようにしよう。そう心に誓った。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は
だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。
私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。
そのまま卒業と思いきや…?
「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑)
全10話+エピローグとなります。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

妻を蔑ろにしていた結果。
下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。
主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。
小説家になろう様でも投稿しています。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる