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Season1
盗人ーThiefー
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「……あまりこっちを見るな。」
エストレアが恥ずかしそうに赤く腫れた目を背ける。
「……このことは内密に頼む。七英傑が泣いたとあらば国の威信に関わる。」
「別に言いませんよ。それに…泣くのなんて恥ずかしくないですよ。エストレアさんが優しい証拠です」
「な……私は優しくなんてない。私は悪魔だと言ったはずだろう。」
「はいはい。じゃあ帰ったらジョシュとルーナにも少しは優しく接してあげてください。七英傑として国の威信にかけて」
「……ふんす。」
拗ねるように頬を膨らませながら赤らめた顔を背けた。
その時、厩の外に何人かの人の気配を二人は感じ取った。
「……こいつはなかなかヤバイな」
ポラリス達が厩に到着する数刻前、食料庫に向かっていたビルとナナシは廊下の角に隠れ一体のアンデットを観察していた。
禿げ上がった頭と長い刀。それが剣聖ムサシであるとビルは一目で分かった。
「七英傑までもが……。」
「ビルの旦那、あんな奴どうすりゃいいんだよ!」
ナナシはビルの影に隠れ、震えていた。ムサシはまるで食糧庫を守るかのようにその前で直立していた。
「……貴様は元々盗人だろう。私には貴様を守る義務は無いし、仮にこの国から脱出出来たとしてもすぐに牢獄行きだろう」
「え……それはどう言う……」
「貴様が囮になれ……せめて最後は誰かの為に死ぬのも悪くなかろう」
「ひ、ひいいい」
ビルに睨みつけられナナシは怯える。
「……ふー。冗談だ。貴様が死ぬとポラリス君が少しばかりは悲しむだろう。シリウス殿かエストレア殿を探してきてくれ。彼らしか対処できそうに無い」
「りょ、了解しやした。所で旦那は?」
「ああ、俺は少しやることがある。奴を放置するわけにもいかんしな」
ビルを置いてナナシは七英傑を探しに駆けた。
「あれは誰でしょう……」
ポラリスは厩から外の様子を伺っていた。外にはいくつかの人影が何かの荷物を大きなトカゲのような壁際の生き物に乗せていた。
ポラリスが暗闇の中をより目を凝らして観察すると、トカゲはバジリスクモドキという種類だと分かった。この生物は馬並みの大きさであるにも関わらず人を乗せてヤモリのように壁を這ったり腕と足にある膜で滑空をすることさえできる。おそらくこの生き物に乗って城壁を越えてきたのだろう。
「……怪しい奴ら。とりあえず捕えよう。」
人影は荷物を乗せ終え、出発しようとしていた。近づいてようやく人が五人、バジリスクモドキが三匹だと分かった。
エストレアの接近に気づくと二人だけ残し、三匹のオオトカゲは壁を登って行った。
(……トカゲの方は間に合わない……。せめてあの二人を捉えて何者か吐かせる。)
二人のうち片方が放った鞭を避けると剣は抜かずにそのまま接近し足払いで態勢を崩しそのまま喉に手刀を喰らわせる。
後ろからもう一人が剣を振り下ろす。それを見もせずに避けると軽々と相手に向かって飛びつき、両手で首を押さえつけるとそのまま倒れ込み、締め落とした。
「…………」
「………なに?」
「いえ……なんでもありません」
この人は怒らせないようにしよう。そう心に誓った。
エストレアが恥ずかしそうに赤く腫れた目を背ける。
「……このことは内密に頼む。七英傑が泣いたとあらば国の威信に関わる。」
「別に言いませんよ。それに…泣くのなんて恥ずかしくないですよ。エストレアさんが優しい証拠です」
「な……私は優しくなんてない。私は悪魔だと言ったはずだろう。」
「はいはい。じゃあ帰ったらジョシュとルーナにも少しは優しく接してあげてください。七英傑として国の威信にかけて」
「……ふんす。」
拗ねるように頬を膨らませながら赤らめた顔を背けた。
その時、厩の外に何人かの人の気配を二人は感じ取った。
「……こいつはなかなかヤバイな」
ポラリス達が厩に到着する数刻前、食料庫に向かっていたビルとナナシは廊下の角に隠れ一体のアンデットを観察していた。
禿げ上がった頭と長い刀。それが剣聖ムサシであるとビルは一目で分かった。
「七英傑までもが……。」
「ビルの旦那、あんな奴どうすりゃいいんだよ!」
ナナシはビルの影に隠れ、震えていた。ムサシはまるで食糧庫を守るかのようにその前で直立していた。
「……貴様は元々盗人だろう。私には貴様を守る義務は無いし、仮にこの国から脱出出来たとしてもすぐに牢獄行きだろう」
「え……それはどう言う……」
「貴様が囮になれ……せめて最後は誰かの為に死ぬのも悪くなかろう」
「ひ、ひいいい」
ビルに睨みつけられナナシは怯える。
「……ふー。冗談だ。貴様が死ぬとポラリス君が少しばかりは悲しむだろう。シリウス殿かエストレア殿を探してきてくれ。彼らしか対処できそうに無い」
「りょ、了解しやした。所で旦那は?」
「ああ、俺は少しやることがある。奴を放置するわけにもいかんしな」
ビルを置いてナナシは七英傑を探しに駆けた。
「あれは誰でしょう……」
ポラリスは厩から外の様子を伺っていた。外にはいくつかの人影が何かの荷物を大きなトカゲのような壁際の生き物に乗せていた。
ポラリスが暗闇の中をより目を凝らして観察すると、トカゲはバジリスクモドキという種類だと分かった。この生物は馬並みの大きさであるにも関わらず人を乗せてヤモリのように壁を這ったり腕と足にある膜で滑空をすることさえできる。おそらくこの生き物に乗って城壁を越えてきたのだろう。
「……怪しい奴ら。とりあえず捕えよう。」
人影は荷物を乗せ終え、出発しようとしていた。近づいてようやく人が五人、バジリスクモドキが三匹だと分かった。
エストレアの接近に気づくと二人だけ残し、三匹のオオトカゲは壁を登って行った。
(……トカゲの方は間に合わない……。せめてあの二人を捉えて何者か吐かせる。)
二人のうち片方が放った鞭を避けると剣は抜かずにそのまま接近し足払いで態勢を崩しそのまま喉に手刀を喰らわせる。
後ろからもう一人が剣を振り下ろす。それを見もせずに避けると軽々と相手に向かって飛びつき、両手で首を押さえつけるとそのまま倒れ込み、締め落とした。
「…………」
「………なに?」
「いえ……なんでもありません」
この人は怒らせないようにしよう。そう心に誓った。
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