ゾンビ転生〜パンデミック〜

不死隊見習い

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Season1

勇者ーCollapseー2

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「ふう。なんだったのだあやつらは」

 貧民街のとある空き家を間借りして暫しの休息をとっていた。

「兵隊さんの話だと妙なクスリで凶暴化しているみたいだけど私の幻惑魔法も効かないなんて妙ね…」

 暴動の鎮圧に赴いたものの、市民相手に殺害するわけにもいかずターニャの時間停止魔法で動きを止めることで一時を凌いだ。

「ザハク様、一応抗菌魔法もかけておきましたがなにか体に異常があったらなんでも仰って下さい」
「悪いのう新入り。まさか喉元に噛み付いてきよるとは…まあワシの筋肉で止血はしているから大丈夫だろう……のう、なんだか寒くないか?」
「はあ?今はこっちは暖季だんきの真っ只中よ。体まで馬鹿になったんじゃないの?」
「…おいザハク、顔色が悪いぞ」

 シリウスの指摘通りいつも赤みがかったザハクの顔は死人のように血の気が引いていた。

「はあ。昼間から飲みすぎたかのう。頭もなんだかクラクラするわい」

 ローズがザハクの額に手をやる。

「っ!!すごい熱!!そんな…抗菌魔法はしっかりかけたはずなのに…」
「……ローズ、なんとかできないのか?」
「す、すみません私ではなんとも…教会で高度治療魔法をかけてもらわないと」
「教会か…よし、一時離脱するぞ」
「なあに、こんなのただの風邪よ。ワシなら大丈夫。それに七英傑ともあろう者が戦を前に背中を見せられるか」

 声にいつもの覇気がこもっていない。

「はあー。本当に馬鹿ね。シリウス、どうやらまた世界の危機らしいわよ。なんと馬鹿が風邪を引いたわ」

 皮肉を言いながらザハクに近寄り手を貸して立たせようとする。

「そんな体でどうやって肉壁になるのよ。……ほらさっさと治しに行くわよ」
「そ、そうですよ。ここは兵隊様達に任せてゆっくり休みましょう!」

 なんとか大男を二人で手を引き立ち上がらせようとした時だった。

「ゔぉえええええ」
「きゃあ!!」

 ザハクが突如口から大量の血を吐き出した。

「っ!!ザハク!!おい、しっかりしろ!!」

 シリウスの呼びかけにザハクは項垂れるだけで答えない。
 外で激しい騒乱が聞こえてきた。

「くっ!何とかこの大男を運ばないと…外の兵隊達に助けを頼みましょう」
「ああ。……ザハク?」

 ターニャに賛同するように窓辺から振り向くとザハクがよろよろと立ち上がっていた。

「なによ、もう治ったの?やっぱり馬鹿の生命力は異常よ」

 普段ならターニャの小言に言い返すところなのだがザハクは何も答えない。
 ターニャが怪訝な顔をすると急にザハクは抱きつくようにターニャを押さえ込み、首元に噛み付いた。

「っ!!」
「おい!ザハク何やってるんだ!!」

 シリウスが二人の間に入り、ザハクを引き剥がそうとするもびくともしない。

「きゃあああ!!」

 ローズの悲鳴が部屋中に響いた。

 注意をそちらに向けると這いつくばった何かがローズの足に噛み付いていた。
 それは人間であった。どこからか入り込んだのかあるいはこの空き家に元々居たのかは分からない。
 
「っ!!この!!」

 シリウスが蹴り上げてローズから引き離す。それは勢いよく壁に頭をぶつけると動かなくなった。

「くっ!この馬鹿!!仲間だからってやっていいことと悪いことがあるでしょうが!!“フォース”!!」

 ターニャが魔法を詠唱するとザハクは壁に吹き飛んだ。

「……シリウス!!私はこのバカをどうにかするからローズちゃん連れて早く退きなさい!!」

 ターニャは噛まれた傷を治癒魔法で塞ぎながら再び立ち上がるザハクに立ち向かう。

「……ザハクを任せるぞ」

 負傷したローズを抱き抱える。空き家から出ようとした時、ターニャに語りかけた。

「ターニャ……また4人で旅に出よう……」
「……まったく、馬鹿ばかりね……」

 シリウス達が出ていくのを確認すると一人呟いた。

「……そんなの当たり前じゃない……」




 確かに治癒魔法を掛けた。抗菌魔法だって掛けた。しかしローズはシリウスの腕の中で衰弱していた。

「あと少しだ!!頼む耐えてくれ!」

 神にでも祈るように呟く。ローズは血の混じった咳をしていた。

「……シ…リウス様」
「!?どうした!」
「私を……殺してください……」
「な、何を!!」
「これは……きっと呪いの類です。ザハク様も……他のみなさんも怪物にされてしまったのです。そして私もきっと…」

 今にも消えそうな弱々しい声で話す。

「……感じるのです。私が消えて、邪悪な何かが私の中で大きくなていくのを……お願いです…私が私であるうちに…人間(ヒト)として殺してください……」
「そんなことできるわけないだろう!!また4人で旅に出るんだ!!そうだ!何度だって世界を救いに行こう!!」

 普段、仲間の前では冷静な態度を取っていたシリウスの熱い一面を見てローズは少し笑ったような気がした。

「……ローズ?おい!しっかりしろ!!」

 ローズは何も答えなくなった。シリウスは抱えたものから生気が消えていくのを感じた。



 次の瞬間にはシリウスは剣を抜いて彼女の胸に突き立てていた。気づいた時にはシリウス自身、驚いていた。百戦錬磨のシリウスの勘が彼女から発せられた自身への危機を感じ取り本能で体が動いたのである。

「な……俺は何てことを……」

 剣をゆっくりと引き抜くとそのまま地面に落とした。
 シリウスが剣を落としたのは彼が剣を覚えてから初めてのことであった。
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