ゾンビ転生〜パンデミック〜

不死隊見習い

文字の大きさ
上 下
13 / 106
Season1

強者ーWarriorー

しおりを挟む
 ファランクスはこれまでの戦と同じ無敵ぶりを見せた。疲労の溜まった兵士は後ろに控える兵士と交代することで前衛は一切崩壊する気配は見せない。これは普段の訓練と実戦経験の賜物である。
 アンデットの数は緩やかにではあるが確かに減ってきていた。

「皆、終わりは近い!気を抜くなよ!!」

 皆に気を引き締めさせるとリック隊長はある違和感に気付いた。
 アンデットたちの攻撃が急に止み、後退し始めたのだ。

(アンデットが後退?知能はほとんどないはずだが……)

 兵士たちになお気を張らせ怪訝な目で観察しているとさらにアンデットは何かを通すように一斉に左右に分かれて道を開けた。

 アンデット達で作られた道の先には人影が一つ見えた。リック隊長はその人影に目を凝らした。 

 ハゲ上がった頭に皺皺な顔。体は骨と皮だけのように細く痩せ細った老人が一人立っていた。かなり高齢に見えるが背筋はピンと伸びきっており、自分の身の丈よりもずっと長い刀を軽々と腰に差していた。

 光のない白目でこちらに突き刺さるように睨みつける鋭い視線とその立ち姿に見覚えがあった。

「剣聖……ムサシ……」

 剣聖ムサシ。七英傑の一人にして刀の達人。齢は100を超えるとも言われており、歳をとって衰えてなお愛刀である背丈よりも長い刀、物干し竿を軽々と振り回す。全盛期は山をも切ったという伝説が残っている。

 リック隊長が唖然としているとムサシは身をかがめ居合の構えをとった。

「っ!!総員!!盾にありったけの魔力を込めろ!!守りをより強固にしろ!!」

 ムサシの構えに焦ったように叫ぶ。
 
 ムサシは居合の構えから刀を鞘から抜くと同時に全身をバネにするように地面を蹴った。100mは離れていたであろう距離が一瞬で縮まる。

「……我流…横…一文字…」

 掠れた声でアンデットのはずのムサシから発せられた言葉をリックが聞き取る頃には数十人の兵士は盾ごと上半身と下半身に両断されていた。ファランクスは崩壊した。
 
「!!!!後退!!後退だ!!皆城内に戻れ!!城門を閉じろ!!」

 開いてしまった“鉄壁”の穴からアンデットが一気に入り込んでいる。隊長の言う通り後退しようとする兵士のほとんどがその波に飲まれてしまった。

 城門を閉じようとするも大量のアンデットの波によって押し返されてしまう。リック隊長達は急いで城内に入って扉を塞いだ。

 剣聖ムサシは不気味なほど落ち着いた足取りで城門をくぐった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

処理中です...