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解読
13.祈り
しおりを挟むフォルナが部屋を飛び出すと、すぐに人々が武器を手にフォルナの周りに立ちはだかっていた。
「傷つきたくなければ、私に攻撃しないで!」
フォルナがブーメランを手に鋭い目で人々を睨むと、実戦経験のない村の人々は思わず剣を取り落として両手を上げた。
フォルナは人を避けて、今まで通ってきた通路を必死で走った。
途中で背後から怒号が聞こえ、金属でできた武器が重なり合う音と数人のずっしりとした人の足音が聞こえてくる。体格の良い男が追ってきているのだろうか。
「もう少しよ、クー!」
フォルナは通路を抜け、暖かい光が差す拠点の入り口へ戻った。
しかし入り口にも武装した兵に囲まれ、後ろから迫る者達と挟み撃ちになってしまった。
「……馬!」
フォルナは今まで乗ってきた馬が繋がれた木へ向かう。
フォルナはブーメランと、もう一つ服に忍ばせた短剣を両手に持って構えた。
フォルナを馬まで行かせぬと、前には男達がいて立ち塞がっていた。
「くっ!」
フォルナは目を細め、器用な刀さばきで両手を速く動かした。
刀はうなりをあげて、男達の肩の肉を引き裂き、貫通する。
彼らは夜の民だったようだ。
二箇所から、空中に向かって青い噴水が立ち上った。
フォルナは一瞬悲しく苦しい顔をして、馬の繋いだ鎖をブーメランの一斬りで断ち切った。
「水の国へ」
フォルナがそう言って飛び乗ると、馬はすぐに全速力で走り出した。
拠点の人々は混乱しており、肩を負傷した者に駆け寄る者、泣きだす者、フォルナを追う者もいた。
しかし彼らもフォルナの馬には追いつくことができず、重い足取りで拠点へと戻って行った。
◆
ルルートはブルゾイが去ってから、想像をしていた。
それは、自分が真っ暗な世界でただ一人、どこかにある出口を探す夢のようなものでもあった。
その夢はいつまでも終わらず、出ることのできない空間で一人寂しさを感じている。
そして自分が寂しさに苦しんでいると、これではどうかというように、何か得体の知れないとても恐ろしいものが追いかけてきた。
「おい、顔が真っ青だぞ」
リュキがルルートの顔を見て驚いていた。
「だ、大丈夫。さっき見た悪夢を思い出しただけなの」
ルルートはひきつった顔で、傍の寝巻に横たわっているリュキを見た。
「まあ、そういうこともある。今はこんな状況だし、フォルナもいないんだから仕方がない」
リュキは腕を伸ばし、ルルートの頭を撫でた。
「ルルート。一人じゃないから、大丈夫だ。怖いものも、僕やフォルナが倒す。…さ、疲れが溜まってるしすることもないから僕はもう一眠りするよ」
そう言うと、リュキはルルートに背を向けた。
暗闇の中で、リュキも考えていた。
(ルルート……僕だって、今とても怖い。フォルナが今、陽の国の追っ手の迫る水の国にいて僕達を探しているかもしれない。僕は自分の正体をずっと君に隠していた。……君に知られるのも、追っ手が君に迫ることも両方、怖い)
リュキは拳を握った。
(とにかくクノッタさんがフォルナをいち早くここへ連れてくるのを祈るばかりだ)
リュキは手の甲を見た。
そこには、神獣の守護する証と呼ばれるものがあった。
リュキはフォルナが食事の前後で祈りを捧げていたのを思い出し、それを真似て神獣に祈った。
(どうか、神獣よ。もしいるのならば、幸運を運んできてくれ)
リュキは帽子を握り一心に、祈り続けた。
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