払暁の魔獣使い フォルナ

小鳥葵

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道中の邂逅

8.霧隠し

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「ねえ、リュキ。この世界にどんな言語があるか知ってる?」

 リュキの火馬、オラムに草を食べさせながら、フォルナは訪ねた。


「陽の国だからサナー語、夜の民のナイーグ語、それと、水の民のプルシュカ言語があるな」

「水の民……! 水の民かもしれない!」


 フォルナは突然ブーメランの切っ先を石で磨いているリュキを指差した。

「本には、『オリトスから託された』とあったのよ。私には全く手紙の文字が読めなかったけれど、プルシュカ語に違いないわ」

「オリトス……?」

「ええ、これから水の民にオリトスという人を聞いて、探しましょう」

「人探しか……大変そうだ」


 リュキは、持っていた簡易な地図を広げる。

「プルシュカ語を話す人となると水の国の領内になる。まずはここから近い霧の町を目指すべきだろうな」

「きり……の町?」

「そう。そこも、プルシュカ語を話していたはずだ」

 フォルナは、鞄に持ち物を詰め、旅の支度をした。


「さっそくそこへ行きましょう!」

「傷はどうしたんだい?」

「もう治ってるわよ」


 フォルナはマントをめくって肩を見せると、傷が見えなくなり黒ずみだけが残っていた。

「クイラタはすごいな」

「でしょう? まあ、他の人に塗ってもそこまで早く治らないのよ……だから、私と相性が良いのかもしれないわ」

「へえ。薬と人に相性ってものがあるのか」

「そうよ。それは生まれた時から定まっているの」

 グアナも、怪我した跡はほとんどわからなくなっていた。


 フォルナはそっとグアナに跨り、出発と命令をかけて走り出す。

 リュキも慌ててオラムに乗り、オラムの腹をつついた。

 オラムはくすぐったいらしく、少々スピードを出してグアナに追いついた。

 その様子に、フォルナは顔をほころばせた。


「それでは、霧の町へ!」





 二人は見晴らしの良い平野で盗賊に標的にされないよう、洞窟を出た後は林の中を通って行った。

 乗ってしばらくすると川に突き当たり、釣りをしている人に霧の町を訪ねると、川沿いに歩けば着くという情報をもらった。


 二人は川の流れに沿ってグアナとオラムを走らせ、時折トラモント村で買い溜めた食事をとった。

 そんなことを繰り返して旅を続けていると、常に燃えるように赤かった空がだんだんと薄くなり、白へと変わっていった。


「とても、おかしな空の色ね……」

「僕も、この世界に空が白の場所があるとは知らなかった」

 それでも、しばらく経てば二人は白色の空に慣れていった。


 しかし、白色に変わったのは空だけでなく、周りの景色も例外ではなかった。

 一寸先は白く濁り、手をかざせば指の先が白く見えなくなるほどの霧であった。


「町はこの辺りのはずなんだけどな」

「そうなの? でも一面が白くて何も見当たらないわよ」

 フォルナがリュキへ振り向くと、リュキの姿が見えなくなっていた。

「リュキ、リュキ! どこへ行ったの? グアナ、わかる?」

 グアナは鼻をひくつかせたが、ぶるんぶるんと首を振った。

(ティメールは鼻が良い方ではなかったわね……どうしよう)


 立往生していると、フォルナの前の霧が割れたように晴れ、その先にリュキとオラムが見えた。

「こっちだよ、フォルナ!」

「リュキ! ああ、いなくなっちゃったかと思った」

「大丈夫だよ。ほら、あった」


 リュキの指差す先には、『霧の町』と薄く書かれた看板があった。

「ここが、そうなのね」

「ああ。入ってみよう」

 グアナとオラムを門につなぎ、二人は、霧の町へ入っていった……。





「誰もいないわね」

 フォルナ達が町の中に入っても、町人達は一人も見当たらなかった。

 町の外ほどではないが薄く霧がかっており、タイルで積まれた家々の煙突まではよく見えない。

「今、寝てるってことはないかな? みんな食事しているとか」

「そうなのかな……あ、あの路地裏」


 フォルナは薄暗く細い路地裏の中に、一人の幼い子供が建物にもたれかかっているのを見つけた。
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