払暁の魔獣使い フォルナ

小鳥葵

文字の大きさ
上 下
1 / 31
旅の前日譚

王国の滅亡

しおりを挟む

 七年ぶりに訪れた王国は、見る影もなくなっていた。

 丘から一人、長身の少女が見下ろしている。

 少女は長い黒髪を一本に結わえ、大人びた顔つきをしていた。

 崖の下からなびき吹かれた黒髪が、風にただ揺れている。



 ーーこの場所にあったのはこの少女の故郷、夜の国。

 光が差し込まぬ世界で、太古から自然とともに生きる夜の民が暮らす国であった。

 しかし、隅々まで見ても人の気配はなく、瓦礫が積み重なった広大な廃墟と化していた。


「ここで、一体何が起こったというの?」

 以前は夜光石が建造物のあちこちに埋め込まれ王国は幻想的な情景を映し出していたが、光っている夜光石は一つも見当たらない。


「元気だっていう手紙が届いたばかりだった‥‥‥‥だったのにっ……!」

 少女は唇を噛み、手に持った手紙を握りしめた。


 ◆


 少女は夜の国から遠く離れた家へ向かって駆け戻った。

 家が近くなると、少女の相棒グアナが少女を出迎えてくれていた。


「待っていてくれたのね。ただいま……グアナ」

 フォルナは近づいて、グアナと呼ばれた魔獣の首を優しく抱き、顔をうずめた。

 グアナは、まるで少女の気持ちを理解したように長い首を曲げて少女の後ろ髪を噛んだ。



 少女がグアナの首から顔を離すと、顔をうずめていた周りの砂色の毛は濡れて色が濃くなっていた。

 この砂色の毛で覆われた魔獣は、父が亡くなった後の少女の心の拠り所であり、唯一の家族であった。

 少女は疲れ切ったのか、その場で長い間動かなかった。しかし、少女の頭に、ふいに父の言葉がよぎった。

──何か大変なことが起きたら、この箱を持ち、森でチトの行方を追え……。

 父は開かずの箱を渡して最期、少女にそう伝えたのだった。


 「……チトの、行方?」

 チトとは、小さな手ほどの桃色の毛に包まれた魔獣だ。

 少女はなぜチトを追うのかがわからなかったが、夜の国が滅亡し大変なことがおきた今はその言葉に従うほかなかった。


「グアナ、チトを探そう」

 少女はグアナに語りかけ、最期父が彼女に残した一つの箱を、家から持ち出した。
 
 彼女はグアナに跨って周囲を見渡す。

 時折、桃色が茂みの間を通るのが見え、少女はグアナを走らせ始めた。



(あの時も、こうやってチトを追いかけていたっけ……)

 暗くても、この少女にはチトの群れがいる場所がわかった。

「……チトの群れが近い」

 森の奥からは木の実が強く匂い、魔獣の鳴き声が聞こえる。

 深い木々を駆け抜けると、そこは滝が流れる魔獣達の水飲み場であった。

 夜光石がたくさん落ちていて、それぞれが光を放っている。

 少女の読み通り、チトの群れが湖沿いにいるのがわかった。


「ここに辿り着いたけれど、父さんは一体私に何を伝えたかったんだろう……」

 少女は箱を持ったままグアナから降りて、チトの群れへ近づいた。

 チトは少女を見て怖がる様子でもなく、木の実を水洗いして食べている。


「水で洗い流す……?」


 少女は靴を脱ぎ、素足で湖の中に入り込んだ。

 その足には、模様のような刻印がついている。

 少女は恐る恐る、箱を水の中に浸した。

 箱が水に触れたその時、まるで箱の中から溢れ出して何かが蓋を押しのけたように開き、中身が見えた。

「……ブーメランと、本」

 少女はその二つを取り出して眺める。

 ブーメランには宝玉が埋め込まれ、夜光石の光に反射して輝いていた。

 本の方をめくると、それはとても古いようで、少女の知らない言葉で書かれており読むことはできなかった。

「……?」

 本をめくる風で、本から薄い紙が舞い落ちる。

 それは、短い手紙であった。

 手紙には、亡き父からこう、記されていた。



『オリトスから託された古代の本だ。チトを追って来たということは、この本が役に立つ時が来るだろう。

そのブーメランも、代々夜の民に伝わってきたものだ。必要な時に使え。

私がおまえの傍にいられないことを詫びる。

……アバズ・コルタナより、愛する娘、フォルナへ』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「専門職に劣るからいらない」とパーティから追放された万能勇者、教育係として新人と組んだらヤベェ奴らだった。俺を追放した連中は自滅してるもよう

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「近接は戦士に劣って、魔法は魔法使いに劣って、回復は回復術師に劣る勇者とか、居ても邪魔なだけだ」  パーティを組んでBランク冒険者になったアンリ。  彼は世界でも稀有なる才能である、全てのスキルを使う事が出来るユニークスキル「オールラウンダー」の持ち主である。  彼は「オールラウンダー」を持つ者だけがなれる、全てのスキルに適性を持つ「勇者」職についていた。  あらゆるスキルを使いこなしていた彼だが、専門職に劣っているという理由でパーティを追放されてしまう。  元パーティメンバーから装備を奪われ、「アイツはパーティの金を盗んだ」と悪評を流された事により、誰も彼を受け入れてくれなかった。  孤児であるアンリは帰る場所などなく、途方にくれているとギルド職員から新人の教官になる提案をされる。 「誰も組んでくれないなら、新人を育て上げてパーティを組んだ方が良いかもな」  アンリには夢があった。かつて災害で家族を失い、自らも死ぬ寸前の所を助けてくれた冒険者に礼を言うという夢。  しかし助けてくれた冒険者が居る場所は、Sランク冒険者しか踏み入ることが許されない危険な土地。夢を叶えるためにはSランクになる必要があった。  誰もパーティを組んでくれないのなら、多少遠回りになるが、育て上げた新人とパーティを組みSランクを目指そう。  そう思い提案を受け、新人とパーティを組み心機一転を図るアンリ。だが彼の元に来た新人は。  モンスターに追いかけ回されて泣き出すタンク。  拳に攻撃魔法を乗せて戦う殴りマジシャン。  ケガに対して、気合いで治せと無茶振りをする体育会系ヒーラー。  どいつもこいつも一癖も二癖もある問題児に頭を抱えるアンリだが、彼は持ち前の万能っぷりで次々と問題を解決し、仲間たちとSランクを目指してランクを上げていった。  彼が新人教育に頭を抱える一方で、彼を追放したパーティは段々とパーティ崩壊の道を辿ることになる。彼らは気付いていなかった、アンリが近接、遠距離、補助、“それ以外”の全てを1人でこなしてくれていた事に。 ※ 人間、エルフ、獣人等の複数ヒロインのハーレム物です。 ※ 小説家になろうさんでも投稿しております。面白いと感じたらそちらもブクマや評価をしていただけると励みになります。 ※ イラストはどろねみ先生に描いて頂きました。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

処理中です...