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2-2.友情と愛情の違いは性欲の有無だとよく言われるが (北澤侑弥/ソムリエ)
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斉藤くんが今日もやばかったから、他にどうしようもなかった。
何だよあの「おはようございます」は。ていうか相手はただ挨拶してるだけだろう、と思ったところで途方もない無力感に襲われて、だから俺はバーカウンターに行った。一杯やらないと今日の俺は駄目だ。このままだと絶対に何かとんでもないことをやらかす。そう思って、普段は絶対しないことだがバーカウンターに行って、波多野さんにショットグラスとテキーラの瓶を頼んだ。
その時点で波多野さんが大袈裟に叫ぶから、面倒なことに広瀬が来て、俺を見るなり「相変わらず手癖の悪い奴だな」と無茶苦茶嫌そうな顔で言った。
「いや、それ違って」
「どう考えても斉藤くんだろ。そんでお前が誘ったろ」
「そりゃ、誘ったって言えば確かに、俺が誘ったけど。でも誘わされた感すごくて」
「へえ、斉藤くんてそういうキャラなんだ」
「いや違うよ、そういう意味じゃない。そういう意味じゃなくてさ。とにかく悪いのは俺だよ、だから今はちょっと、そっとしといてほしい」
「営業に支障が出ないなら喜んで放っとくよ」
「じゃあそうしてくれ」
広瀬と入れ違いで森川が来たと思ったら、信じがたいことに「今日だけは飲んでいい」と言った(こういうところ好きだ)。波多野さんが蛇蝎を見る目で俺を見ていたが、演技なのは解ってた。森川のOKが出ると、アペリティフのために用意していたカットライムをひと切れ、俺の前にすっと置いてくれたからだ(こういうところ大好きだ)。
だから俺はショットグラスのテキーラを一息に呷ってライムを齧った。
一杯目で、少し気持ちが落ち着いた。
二杯目で、何とか今日は乗り切れそうな気がした。
三杯目で、確信した。やっぱ無理だ。
森川とのことをちゃんと片付けないといけない。今までずっと白黒つけずに放置してきた関係をきちんと終わらせないことには、俺は次に行けない。
って待てよ。次に行くって、それ斉藤くんのことか?
昨夜の記憶のどこを掘り返しても、俺も斉藤くんも、好きだって告白したりも付き合おうって約束したりもしていない。そりゃ初めて会って二週間じゃそうだろう。だから俺と斉藤くんの間にあるのは、飲みに行った流れで一回寝たっていう実績だけだ。
実績って。
これまで、俺は色んな相手と寝てきた。店のスタッフほぼ全員と寝たし(自慢することじゃないのは解ってる)、店のお客さんに誘われることも多い(これは俺としても微妙だけどぜんぶ断るってわけでもない)。何で誰とでも簡単にそういうことになるんだ、と詰められたことも多々ある(店の中では広瀬と波多野さんに)。けど、俺は相手の嫌がることはしないよう細心の注意を払ってるし、相手が既婚者だと知っていれば絶対手を出さない(倉田さんまで俺とそうなりかけたっていう話は迷惑かつ失礼なでっち上げでしかない)。
昨夜だって、あの斉藤くんを相手に、俺は限界越えの自制心を発揮した。斉藤くんの目が先に獣モードに変わるまで耐えた。それがどれだけ厳しい試練だったか誰かに聞いて欲しい。俺のあの超絶な忍耐を誰かに誉めて欲しい。
もとい、俺は本来、ただ人を口説くのが好きなだけなのだ。まずは普通に仲良くなって、食事とか映画とかに誘って、心を開いてくれそうならその隙間に潜ってそこからちょっとずつ広げていく。その過程で相手の反応や感情の揺れを読んで、どういう人間なのかを観察して分析するのが楽しい。
確実にベッドに誘われてる、と察した瞬間、嘘の顔ができる人間は多くない(それができるのは日常的にそういうことを経験してる人種だけだ)。だから、その瞬間の顔で俺はいつも判断する。嫌悪感はないか、喜んでるのか、迷惑なのか、驚きが次の瞬間どう変わるか、既にその気なのか、戸惑いと好奇心のどっちが勝つか。
今のところ、いちばん面白かったのは波多野さんだ。急に笑い出して「北澤くんに口説かれるん、めっちゃ気持ちいいんやけど。ちょっとその気なってまうやん」と言った。どっちに転ぶか解らない言い方だったので俺は黙って笑った。すると、波多野さんは悪戯っぽい顔で俺の目を覗き込み、「私すごい寝相悪いからさ、部屋にダブルベッド置いてんねん。肝試しに一晩、泊まりに来てみる?」と言った。
寝相悪いから、とか肝試し、とかいう言葉のためにそれは絶妙に、冗談にしてしまうこともできる提案だった。しかも自分の部屋に誘うことで、いかにも波多野さんらしく俺を信用してもいいけど信頼はしない、判断するのは自分だ、という意思表示になっていた。俺はその夜、女のひとの柔らかさにあらためて驚き、波多野さんの寝相にも驚き、その日から俺と波多野さんはそれまでより少しだけ親密に接するようになった。
逆に、最悪だったのが鏑木だ。こいつは明らかに食い気味だった。だから押した。興味あるならホテル行ってみる、と訊いたら、あっさりついて来た。ところが、やることやった後で(しかもけっこう積極的に楽しんでたのに)急に「ちょっと家に連絡入れないと」と言い出して、電話しに行って戻ってきたところに「親御さん?」と俺は訊いた。
そしたら、電話の相手は結婚して一緒に住んでる社会人の彼女で、しかも妊娠三か月だという。
まさかこんな落とし穴があるとは思ってもみなかった。
「お前な、そういうことは先に言えよ。っていうかそういう状態のパートナーがいるのに男とラブホ入るバカがいるか? 何をふわふわついて来て俺と寝てんだよ。結婚してるんなら、まして相手がそんな大変な時なら、もっと大事にしてやらなきゃ駄目だろ」
自分が誘ったクセに、と言われるかと思いきや、鏑木はちょっとうなだれて、すいません、と言った。
「何だよそれ。お前、謝りかたまで軽いな」
「それ波多野さんにも言われました」
何だよそれは。
まあ、もっと後味の悪い経験も余裕でしてきた。プライベートはともかく、店のお客さんとの話だ。あからさまに、金を払うから、みたいな提案をしてくる相手もいた。誘われてコンサート行ったらずっと俺の膝やら太腿やら撫で回してきて(音楽聴けよ)、終わってからディナー、ディナー終わったら当然その先だろうって言われて(そんなわけあるかよ)ホテルの部屋まで予約されてたこともある。店を盾にしてくれていい、と森川に言われていたから、店の規則でお客様とそういうことは無理なのだと言って、何とか逃げた。
その数日後、営業中は既婚者アピールしとけ、と言って森川がシルバーの指輪を渡してきた。よく見ると安物だったが、左薬指にその指輪をしておくだけで面倒なお誘いは減ったし、誘いを断る理由としてもかなり効果的だった。
こういうとこ好きだよ、と俺は思った。優しくて気配りができる。だからこそ、俺と別れない。というよりあいつは多分、俺を捨てられないと思っているのだ。
俺だって森川のことは今でも、好きか嫌いかで言えば好きだ。ただ、ずいぶん前から恋人らしいことは何もしてないし、今となってはする気もあまり起こらない。ほとんど毎日顔を合わせるせいで、自然消滅と言えるのかどうか解らないだけ。
だから、別れればいいだけの話なのだ。森川はいつか広瀬に行くだろう、というのは俺は確信していて、俺がいるからまだ行ってないだけの話だ。
目の前の対象を真剣に、五感をフルに使って観察すれば、大抵は正解にたどり着く。それはワインのテイスティングも他人を口説くのも、もっと言えば恋愛でもセックスでも同じだ。森川と広瀬はそのうちくっつく。それも、たぶん森川から言って。
ところで、友情と愛情の違いは性欲の有無だとよく言われるが、俺はそうは思わない。だってそれだと恋愛の高揚感とか相手を愛おしく思う気持ちとか、そういうのを全部「性欲」って括りに入れることになる。俺としてはそれはだいぶ的外れだと思うし、何より無粋だ。俺が言うのも何だけど、性欲は性欲でしかない。冷静に考えて、友情に性欲を足せばたぶんいい感じのセックスフレンドあたりに落ち着くだろうと思う(カラオケ行くかホテル行くか、みたいな)。
実際、俺が斉藤くんを可愛いと思って見る時、感じてるのは性欲じゃなくもっとぎゅっと甘い感覚だ。たとえるなら極上のソーテルヌとか。幾ら俺でも、いつもいつも、抱きたいとだけ思って相手を見つめるわけではない(昨日そう思って見つめたことは認めるが)。
俺と森川の間に残ってるのは極めてフラットな愛情、というより既に、使い慣れた家電とかに抱く種類の愛着だ。そういう愛着に性欲を足せばセックスフレンドになるのか考えてみると、正直なりそうな気もするが、俺はそういう関係には興味がない。
口説く必要も誘う必要もなくただ寝るだけの相手なんて、逆に色気を感じない。
斉藤くんを口説くのは楽しかった。素直すぎる反応がとにかく可愛かった。というか口説くも何も斉藤くんは既にその気だったから、同じ方向に流れるふたつの水が合流して倍加速したような、激しく速やかな一夜だった。
カウンターでキスをしながらほんのちょっと促しただけで、斉藤くんは俺の意図をすぐに察した。俺が、こうして欲しい、と思った通りに斉藤くんの身体は動いた。何も言う必要はなく、まるで頭の中を覗かれているような感覚だった。それが不愉快でなかったのは、俺を覗き込んでいるのが斉藤くんのあの、濡れた黒い目だったから。
そしてオードブルの提供が始まった時、俺の手には空のシャンパンボトルがあり、それは無料サービスに使うべきボトルではなく、10番テーブルのお客様がオーダーされた限定ラベルのボトルだった。
テキーラが裏目に出たわけじゃない。俺が駄目すぎただけだ。
何だよあの「おはようございます」は。ていうか相手はただ挨拶してるだけだろう、と思ったところで途方もない無力感に襲われて、だから俺はバーカウンターに行った。一杯やらないと今日の俺は駄目だ。このままだと絶対に何かとんでもないことをやらかす。そう思って、普段は絶対しないことだがバーカウンターに行って、波多野さんにショットグラスとテキーラの瓶を頼んだ。
その時点で波多野さんが大袈裟に叫ぶから、面倒なことに広瀬が来て、俺を見るなり「相変わらず手癖の悪い奴だな」と無茶苦茶嫌そうな顔で言った。
「いや、それ違って」
「どう考えても斉藤くんだろ。そんでお前が誘ったろ」
「そりゃ、誘ったって言えば確かに、俺が誘ったけど。でも誘わされた感すごくて」
「へえ、斉藤くんてそういうキャラなんだ」
「いや違うよ、そういう意味じゃない。そういう意味じゃなくてさ。とにかく悪いのは俺だよ、だから今はちょっと、そっとしといてほしい」
「営業に支障が出ないなら喜んで放っとくよ」
「じゃあそうしてくれ」
広瀬と入れ違いで森川が来たと思ったら、信じがたいことに「今日だけは飲んでいい」と言った(こういうところ好きだ)。波多野さんが蛇蝎を見る目で俺を見ていたが、演技なのは解ってた。森川のOKが出ると、アペリティフのために用意していたカットライムをひと切れ、俺の前にすっと置いてくれたからだ(こういうところ大好きだ)。
だから俺はショットグラスのテキーラを一息に呷ってライムを齧った。
一杯目で、少し気持ちが落ち着いた。
二杯目で、何とか今日は乗り切れそうな気がした。
三杯目で、確信した。やっぱ無理だ。
森川とのことをちゃんと片付けないといけない。今までずっと白黒つけずに放置してきた関係をきちんと終わらせないことには、俺は次に行けない。
って待てよ。次に行くって、それ斉藤くんのことか?
昨夜の記憶のどこを掘り返しても、俺も斉藤くんも、好きだって告白したりも付き合おうって約束したりもしていない。そりゃ初めて会って二週間じゃそうだろう。だから俺と斉藤くんの間にあるのは、飲みに行った流れで一回寝たっていう実績だけだ。
実績って。
これまで、俺は色んな相手と寝てきた。店のスタッフほぼ全員と寝たし(自慢することじゃないのは解ってる)、店のお客さんに誘われることも多い(これは俺としても微妙だけどぜんぶ断るってわけでもない)。何で誰とでも簡単にそういうことになるんだ、と詰められたことも多々ある(店の中では広瀬と波多野さんに)。けど、俺は相手の嫌がることはしないよう細心の注意を払ってるし、相手が既婚者だと知っていれば絶対手を出さない(倉田さんまで俺とそうなりかけたっていう話は迷惑かつ失礼なでっち上げでしかない)。
昨夜だって、あの斉藤くんを相手に、俺は限界越えの自制心を発揮した。斉藤くんの目が先に獣モードに変わるまで耐えた。それがどれだけ厳しい試練だったか誰かに聞いて欲しい。俺のあの超絶な忍耐を誰かに誉めて欲しい。
もとい、俺は本来、ただ人を口説くのが好きなだけなのだ。まずは普通に仲良くなって、食事とか映画とかに誘って、心を開いてくれそうならその隙間に潜ってそこからちょっとずつ広げていく。その過程で相手の反応や感情の揺れを読んで、どういう人間なのかを観察して分析するのが楽しい。
確実にベッドに誘われてる、と察した瞬間、嘘の顔ができる人間は多くない(それができるのは日常的にそういうことを経験してる人種だけだ)。だから、その瞬間の顔で俺はいつも判断する。嫌悪感はないか、喜んでるのか、迷惑なのか、驚きが次の瞬間どう変わるか、既にその気なのか、戸惑いと好奇心のどっちが勝つか。
今のところ、いちばん面白かったのは波多野さんだ。急に笑い出して「北澤くんに口説かれるん、めっちゃ気持ちいいんやけど。ちょっとその気なってまうやん」と言った。どっちに転ぶか解らない言い方だったので俺は黙って笑った。すると、波多野さんは悪戯っぽい顔で俺の目を覗き込み、「私すごい寝相悪いからさ、部屋にダブルベッド置いてんねん。肝試しに一晩、泊まりに来てみる?」と言った。
寝相悪いから、とか肝試し、とかいう言葉のためにそれは絶妙に、冗談にしてしまうこともできる提案だった。しかも自分の部屋に誘うことで、いかにも波多野さんらしく俺を信用してもいいけど信頼はしない、判断するのは自分だ、という意思表示になっていた。俺はその夜、女のひとの柔らかさにあらためて驚き、波多野さんの寝相にも驚き、その日から俺と波多野さんはそれまでより少しだけ親密に接するようになった。
逆に、最悪だったのが鏑木だ。こいつは明らかに食い気味だった。だから押した。興味あるならホテル行ってみる、と訊いたら、あっさりついて来た。ところが、やることやった後で(しかもけっこう積極的に楽しんでたのに)急に「ちょっと家に連絡入れないと」と言い出して、電話しに行って戻ってきたところに「親御さん?」と俺は訊いた。
そしたら、電話の相手は結婚して一緒に住んでる社会人の彼女で、しかも妊娠三か月だという。
まさかこんな落とし穴があるとは思ってもみなかった。
「お前な、そういうことは先に言えよ。っていうかそういう状態のパートナーがいるのに男とラブホ入るバカがいるか? 何をふわふわついて来て俺と寝てんだよ。結婚してるんなら、まして相手がそんな大変な時なら、もっと大事にしてやらなきゃ駄目だろ」
自分が誘ったクセに、と言われるかと思いきや、鏑木はちょっとうなだれて、すいません、と言った。
「何だよそれ。お前、謝りかたまで軽いな」
「それ波多野さんにも言われました」
何だよそれは。
まあ、もっと後味の悪い経験も余裕でしてきた。プライベートはともかく、店のお客さんとの話だ。あからさまに、金を払うから、みたいな提案をしてくる相手もいた。誘われてコンサート行ったらずっと俺の膝やら太腿やら撫で回してきて(音楽聴けよ)、終わってからディナー、ディナー終わったら当然その先だろうって言われて(そんなわけあるかよ)ホテルの部屋まで予約されてたこともある。店を盾にしてくれていい、と森川に言われていたから、店の規則でお客様とそういうことは無理なのだと言って、何とか逃げた。
その数日後、営業中は既婚者アピールしとけ、と言って森川がシルバーの指輪を渡してきた。よく見ると安物だったが、左薬指にその指輪をしておくだけで面倒なお誘いは減ったし、誘いを断る理由としてもかなり効果的だった。
こういうとこ好きだよ、と俺は思った。優しくて気配りができる。だからこそ、俺と別れない。というよりあいつは多分、俺を捨てられないと思っているのだ。
俺だって森川のことは今でも、好きか嫌いかで言えば好きだ。ただ、ずいぶん前から恋人らしいことは何もしてないし、今となってはする気もあまり起こらない。ほとんど毎日顔を合わせるせいで、自然消滅と言えるのかどうか解らないだけ。
だから、別れればいいだけの話なのだ。森川はいつか広瀬に行くだろう、というのは俺は確信していて、俺がいるからまだ行ってないだけの話だ。
目の前の対象を真剣に、五感をフルに使って観察すれば、大抵は正解にたどり着く。それはワインのテイスティングも他人を口説くのも、もっと言えば恋愛でもセックスでも同じだ。森川と広瀬はそのうちくっつく。それも、たぶん森川から言って。
ところで、友情と愛情の違いは性欲の有無だとよく言われるが、俺はそうは思わない。だってそれだと恋愛の高揚感とか相手を愛おしく思う気持ちとか、そういうのを全部「性欲」って括りに入れることになる。俺としてはそれはだいぶ的外れだと思うし、何より無粋だ。俺が言うのも何だけど、性欲は性欲でしかない。冷静に考えて、友情に性欲を足せばたぶんいい感じのセックスフレンドあたりに落ち着くだろうと思う(カラオケ行くかホテル行くか、みたいな)。
実際、俺が斉藤くんを可愛いと思って見る時、感じてるのは性欲じゃなくもっとぎゅっと甘い感覚だ。たとえるなら極上のソーテルヌとか。幾ら俺でも、いつもいつも、抱きたいとだけ思って相手を見つめるわけではない(昨日そう思って見つめたことは認めるが)。
俺と森川の間に残ってるのは極めてフラットな愛情、というより既に、使い慣れた家電とかに抱く種類の愛着だ。そういう愛着に性欲を足せばセックスフレンドになるのか考えてみると、正直なりそうな気もするが、俺はそういう関係には興味がない。
口説く必要も誘う必要もなくただ寝るだけの相手なんて、逆に色気を感じない。
斉藤くんを口説くのは楽しかった。素直すぎる反応がとにかく可愛かった。というか口説くも何も斉藤くんは既にその気だったから、同じ方向に流れるふたつの水が合流して倍加速したような、激しく速やかな一夜だった。
カウンターでキスをしながらほんのちょっと促しただけで、斉藤くんは俺の意図をすぐに察した。俺が、こうして欲しい、と思った通りに斉藤くんの身体は動いた。何も言う必要はなく、まるで頭の中を覗かれているような感覚だった。それが不愉快でなかったのは、俺を覗き込んでいるのが斉藤くんのあの、濡れた黒い目だったから。
そしてオードブルの提供が始まった時、俺の手には空のシャンパンボトルがあり、それは無料サービスに使うべきボトルではなく、10番テーブルのお客様がオーダーされた限定ラベルのボトルだった。
テキーラが裏目に出たわけじゃない。俺が駄目すぎただけだ。
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