致死量の愛を飲みほして+

藤香いつき

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 医務室にいるのは、アリアとサクラ。
 記録が残らないよう気を回したうえで、ふたりはについて話していた。

「——副作用、ですか?」
「ああ、あのは、使用した者だけでなく、そばにいる者にも影響が出る。揮発性が高いからか……私がからなのかは、断定できないね」
「再度試すわけにもいきませんからね……」
「……そうだな」

 空間に映し出されたデータをなぞりながら、アリアが思案する顔つきで、

「バーチャル試験で、周囲の者も設定してみましょう。距離や接触の程度など、条件によって大きく変化が出るかも知れませんね」
「ああ、節電が解除されたら、試してみるといい」
「差し支えなければ、彼女が服用した分量だけでなく、サクラさんの彼女との距離や接触の程度をお聞きしてもよろしいですか?」
「——悪いが、よく覚えていなくてね」
「今、口頭でなくとも……映像データでも構いませんよ?」
「私室での出来事は残していない」
「……おや。となると、彼女の服用に関するデータは……客観性の高いものは、無いということでしょうか?」
「そうなるね」
「そうですか……」

 残念そうなアリアの顔に、サクラの興味深げな視線が注がれている。

「お前は、私を非難しないんだね?」
「……ええ、自白剤については……私も、最初の段階で使うべきではないか、と……思っていましたので。……同罪です」
「最初の段階というのは、食堂で偽の毒を飲ませようとしたときか?」
「いえ」

 アリアの目は、サクラを見ない。
 言うべきかどうか、迷うように目線を落としている。
 ためらいを含んだ唇は、重く開いた。

「……お姫様が、ここに訪れた日です」

 アリアの声が、低く響いた。
 目線をサクラに向けることはなかった。青い眼にさらされることを、恐れるように。

「……アリア、」
「はい、なんでしょう?」
「ティアが口にした毒物の混入ルートは、分かっていない」
「? ……ええ、そうですね。ティアさんから、調べる必要はないと言われて……調査は止めましたが……続けますか?」
「——いや、それは私が行おうか」

 不意に、サクラは微笑ほほえんだ。
 場違いな笑顔を目の端に捉えたアリアは、ついそちらに目を向けていた。

「……サクラさんが、ですか?」
「ああ、私が調べよう」
「そうですか……では、お任せします」

 やわらかな微笑に、安心したように笑みを返したアリアだったが、そのあとのサクラの言葉に凍りついた。

「——お前は、ティアがここに来る前から、あの子のことを知っていたね?」

 ビオラを奏でるかのような、甘く深い、なめらかな音。
 それは質問ではなく、確認の響き。
 アリアの動揺に向けて、サクラは尋ねる。

「私が知らないとでも思っていたか?」
「……いえ……ただ、話題に出すべきではないかと……思っていましたから。は、宗教を禁止されていましたので……」
「それは昔の話だろう? 私は禁止していないよ」
「そう……ですね。でも、私も……母が信仰していただけですから、ティアさんと面識はないのです……」
「ティアの反応を見るに、そうなのかも知れないね?」
「……毒物の混入について、私を疑っているのでしょうか?」
「——いいや」

 そこだけは、妙に明瞭めいりょうな響きで否定を返した。何か思うところがあるのか、サクラはアリアを観察していた目を止めて、脳裏のうりのイメージを追うように焦点をぼやけさせる。

「他の者には言っていないが、毒物を手に入れて、かつ混入可能だった者が、ひとりいる」
「それは……もちろん、お姫様ではないのですよね?」
「ああ」

 ビオラの響きは、アリアの予想にない仮定を口にした。

「——には、可能だった」

 彼らの、小さな弟。
 黒い髪に、白い肌、黒い眼。サクラに似ているようで、まったく似ていない。母親の血を強く引き継いだ——今では亡き、末っ子の兄弟。

 彼が、ティアが飲んだ紅茶の、最初の所持者だった。
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感想 15

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みんなの感想(15件)

2024.03.08 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

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ゆうり
2024.01.26 ゆうり

本編がほんとにほんとに大好きです!!
もっと読みたくて応援頑張ろうと思いました!٩( 'ω' )و
続編いつまでも待ってます!

解除
ゆに
2024.01.12 ゆに
ネタバレ含む
2024.01.16 藤香いつき

ゆに様

Xにて連絡すべきか迷ったのですが、一応こちらで。
おかげさまでifストーリーにて自由に書きたい放題やらせていただいております。
エール数も多く、好評のようです。
本当にありがとうございます。
またいつでも、要望がありましたら教えてくださいね!

解除

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