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Brothers B-side
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黒くつややかな髪が、さらりと夜風になびいた。
短いそれは小柄な少年の頬をくすぐり、少年は目を細める。その目つきは、開かれた窓の外、遠くを眺めるようにも見えた。
「あぁぁあああ! オレが作った! モンスター!」
物思いにふけるような少年の耳を、突き破らんばかりの、やかましい声。少年は吐息まじりに背後を振り返る。
「……ねぇ、うるさいよ」
「うぅぅぅっ……ひどいっ……これ作るのにオレ、何日も徹夜したのに……」
「ウソ。昨日ぐっすり眠ってたよねぇ?」
ぐすぐすと泣きまねをするのは、ベッドに転がっていた赤い髪の青年。身につけていたヘッドセットを取り払い、枕を抱きしめ顔をうずめている。「もういやだ……こんなゲーム壊してやる!」いきなり体を起こしたかと思うと、ヘッドセットを壁へと投げつけた。カシャン、と。機械のゆがむ音が響いた。
黒髪の少年は、大きくため息をつく。
「また壊した。……もうさぁ、君はゲームやらないほうがいいんじゃない?」
「なんで!」
「ヘタクソだから」
「オレはゲームが好きなのに!」
「……そうだっけ?」
「そうだ! ……ん? いや、違うな……ゲームが好きなのは……ハオロン?」
赤髪の青年の目が、考えるようにぐるりと上を向いた。
少年は肩をすくめる。
「“アプリコットくん”だ。彼と君、似てるとこあるよね」
「そうか? オレが似てるのはルカだと思う!」
「……“ロキくん”ね」
「そうそれ! アイツ、いつのまに改名したんだ?」
「さぁ? 本名より、HNのほうがしっくりくるんじゃない? 世間的には、“ロキ”のほうが知名度あるから……それとも、もっと別の感情があるのかなぁ……?」
「やめろやめろ! ルカの思考をトレースすると碌なことがないぞ! アイツも悪役だから!」
「……ふぅん」
黒髪の少年は、再び窓の外を眺める。はっきりとは見えないが、遠くには稜線が空とを区切り、より暗い山の影をえがいていた。
「……そのわりには、誰も、ヴィランのロキくんを疑わなかったんだねぇ……?」
ぽつりと、不満そうな声がこぼれ落ちる。少年の瞳は、遠くを見るためではなく、退屈そうに細められている。
「んん? なんの話だ?」
「なにって——お姫様が口にした、毒りんごの話だよ」
「ああ! 毒のお茶!」
ざわっ、と。風が吹き抜ける。
雪は無いが、乾いた冷たい風に——赤髪の青年が身を震わせた。
「さむいっ? 寒い寒い! なんで窓なんか開けてるんだっ?」
「……ボクは暑いから」
「閉めて! 暖房弱めるから!」
「ワガママだねぇ……」
「えっ! オレが悪いのか?」
赤い頭髪の上には、疑問符が並びそうなほど。
ベッドの上で考え込む姿に、黒髪の少年は笑った。
「——まぁ、いっか。次は……きっと、兄さんたちも笑っていられないだろうから」
閉じられた窓に、幼い少年の顔が映る。黒髪に縁取られた、白い顔。黒い眼。左頬には、可愛らしい片えくぼ。
「……何人、死ぬかな?」
小さな死神に似た少年の声は、期待に満ちている。
短いそれは小柄な少年の頬をくすぐり、少年は目を細める。その目つきは、開かれた窓の外、遠くを眺めるようにも見えた。
「あぁぁあああ! オレが作った! モンスター!」
物思いにふけるような少年の耳を、突き破らんばかりの、やかましい声。少年は吐息まじりに背後を振り返る。
「……ねぇ、うるさいよ」
「うぅぅぅっ……ひどいっ……これ作るのにオレ、何日も徹夜したのに……」
「ウソ。昨日ぐっすり眠ってたよねぇ?」
ぐすぐすと泣きまねをするのは、ベッドに転がっていた赤い髪の青年。身につけていたヘッドセットを取り払い、枕を抱きしめ顔をうずめている。「もういやだ……こんなゲーム壊してやる!」いきなり体を起こしたかと思うと、ヘッドセットを壁へと投げつけた。カシャン、と。機械のゆがむ音が響いた。
黒髪の少年は、大きくため息をつく。
「また壊した。……もうさぁ、君はゲームやらないほうがいいんじゃない?」
「なんで!」
「ヘタクソだから」
「オレはゲームが好きなのに!」
「……そうだっけ?」
「そうだ! ……ん? いや、違うな……ゲームが好きなのは……ハオロン?」
赤髪の青年の目が、考えるようにぐるりと上を向いた。
少年は肩をすくめる。
「“アプリコットくん”だ。彼と君、似てるとこあるよね」
「そうか? オレが似てるのはルカだと思う!」
「……“ロキくん”ね」
「そうそれ! アイツ、いつのまに改名したんだ?」
「さぁ? 本名より、HNのほうがしっくりくるんじゃない? 世間的には、“ロキ”のほうが知名度あるから……それとも、もっと別の感情があるのかなぁ……?」
「やめろやめろ! ルカの思考をトレースすると碌なことがないぞ! アイツも悪役だから!」
「……ふぅん」
黒髪の少年は、再び窓の外を眺める。はっきりとは見えないが、遠くには稜線が空とを区切り、より暗い山の影をえがいていた。
「……そのわりには、誰も、ヴィランのロキくんを疑わなかったんだねぇ……?」
ぽつりと、不満そうな声がこぼれ落ちる。少年の瞳は、遠くを見るためではなく、退屈そうに細められている。
「んん? なんの話だ?」
「なにって——お姫様が口にした、毒りんごの話だよ」
「ああ! 毒のお茶!」
ざわっ、と。風が吹き抜ける。
雪は無いが、乾いた冷たい風に——赤髪の青年が身を震わせた。
「さむいっ? 寒い寒い! なんで窓なんか開けてるんだっ?」
「……ボクは暑いから」
「閉めて! 暖房弱めるから!」
「ワガママだねぇ……」
「えっ! オレが悪いのか?」
赤い頭髪の上には、疑問符が並びそうなほど。
ベッドの上で考え込む姿に、黒髪の少年は笑った。
「——まぁ、いっか。次は……きっと、兄さんたちも笑っていられないだろうから」
閉じられた窓に、幼い少年の顔が映る。黒髪に縁取られた、白い顔。黒い眼。左頬には、可愛らしい片えくぼ。
「……何人、死ぬかな?」
小さな死神に似た少年の声は、期待に満ちている。
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