致死量の愛を飲みほして+

藤香いつき

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Brothers A-side

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 このヴァシリエフハウスと呼ばれる城館には、もっと大勢のひとが居たらしい。

 セト、ロキ、ハオロンの3人と一緒に、ロキの私室でゲームをすることになった、ある夜。セトの強い要望で挟んだ休憩中、カラフルなドリンクをすすっていたハオロンから、そんな話が出た。
 VR用のチェアに腰掛けるハオロン、広いベッドの端に腰掛けるロキと私、先ほどまで簡易のイスに座っていたセトは、現在、私たちの後ろでベッドに転がって半分眠っている。

「〈きょうだい〉も、もっと、たくさんいる……?」
「いるねェ。ほとんどハウスから出てったし、ここに残ってるほうがレア。誰も連絡よこさねェから、どこで何してンのか知らねェけど。……アイツとかどうしてンのかねェ~? “サイコパスくん”」
「……さいこぱすクン?」

 ロキの横顔に尋ねたが、ハオロンが先に反応して声をあげた。

「あぁ、エリルのことやろ?」
「はァ? そっちじゃねェって。それと一緒にいた、赤い髪のほう。赤毛のアンちゃん」
「アン……あぁ、いたわ……ん? そっちって、いい子なほうやろ? 正義の味方ってゆうかぁ……あれやわ、アクションストーリーに出てくるヒーローみたいなぁ、確かそんな子やったがの……?」
「その情報だけでも十分やばいヤツじゃん? ちょっとふざけただけで、すーぐ注意してくンの。“それは正しくないからダメだ!”とかバカみてェな理論でさァ……やべェやつだろ?」
「あんたの場合は、よぉ分からんのやけどぉ……まぁきっと10割ロキが悪いんやわ」
「はァァァ?」
「——だって、アンはめっちゃいい子やったよ? サイコパスってゆうなら……まぁ、あんたが言うなって話やけど……エリルやって。ボサボサっとしたぁ、黒髪の」
「エリルは面白いほうだろォ~?」
「面白いかぁ? うちは分からんわ……」

 ふたりの会話を聞き流しながら、弾けるドリンクの爽快感を味わう。
 立ち上がったハオロンが、「ねぇ、セト、話きいてたか?」ベッドの反対側に回って、セトの肩をゆさゆさと揺らした。「あぁ?」怖い声が聞こえる。しかしハオロンは動じない。

「アンとエリル、覚えてるかぁ? どっちがやばい子やったかってゆう話なんやけど……」
「……覚えてる。どっちも極端で危ねぇやつだったけど……面倒なのは、アン」
「あぁ、あんたら不真面目ツインやからの。真面目なアンと相性悪いんか……」

 勝手に納得したハオロンに、セトが「誰と誰が双子ツインだ。ロキと一緒にすんな」文句を唱えた。横では「頭脳が違いすぎ」ロキが笑っている。
 きしんだベッドに振り返ると、ハオロンによって目覚めさせられたセトが、上体を起こして不機嫌そうに眉を寄せていた。「ねみぃ……」それなら部屋に戻って寝てもいいのに……。
 そもそも参加を希望したのは、なぜだろう。夕食時に、ロキの部屋でゲームをするという話になったのだが、「ロキの部屋?」変に食いついてきたセトをハオロンが誘って、今に至っている。しかし……彼はもう限界だと思う。見ているこっちが部屋に戻してあげたくなる。

「せと、ねむいなら……ねても、いいとおもう」
「……お前は眠くねぇの?」
「? ……わたしは、だいじょうぶ」
「…………俺も問題ねぇよ」

 いえ、問題あると思う。
 などとは言えず、それ以上は黙っておいた。

 今夜のゲームはヘッドセット型。VRチェアの完全没入と比べると、没入感はそこそこ。脳が強制的に起こされているような感覚がないぶん、眠ろうと思えば眠れる。……なので、セトは次のゲームで居眠りして負けると思う。

「よぉ~し! もう一戦いこかぁ!」

 高らかなハオロンの宣言。
 うんざりするセトは、つゆ知らず。

 ——今夜も、にぎやかにけていく。
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