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裏側の裏側
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「——サクラさん、アリスちゃんを、呼び出したでしょ?」
夕食を終えたサクラの背に声をかけたティアは、彼が中央棟への入り口となるステンドグラスに差し掛かった瞬間、本題に入った。
中央棟への開かれたドアを通りぬけるサクラは、素知らぬ顔で進んでいき——ティアもまた、その後ろ姿を追った。ミヅキや警告音に止められることはなかった。
「聞いてる? 僕の声、届いてるかな?」
「聞こえているよ」
「じゃ、返事くらい欲しいな」
「なんの話をしているのかと思ってね」
「うん? とぼけるつもりでいる?」
暖炉の火が燃えさかる部屋へとたどり着く。サクラはティアに構うことなく青い布地の長ソファへと腰を下ろした。見上げているというのに、その瞳は見下ろすような圧がある。
「惚けているつもりはないよ。なんの話をしているのだろうな——と考えている」
「それをとぼけるって言わないかな? あなたが、アリスちゃんを夜に呼び出してる話だよ。身に覚えあるでしょ?」
「そうだな、それは身に覚えがある」
「——何をしているの? 事と次第によっては、僕もいつまでも黙ってるわけにいかないよ」
「釈明するようなことは、何も」
「……バターやらチョコレートやら提供しておいて? チョコレートも追加されたってことは、また呼んだってことだよね?」
「お前が案じるようなことはない。ささやかな試験に付き合ってもらっている」
「……試験?」
「熟睡する者が、他者に与える影響——とでも言おうか」
「うん? ……あっ、ほらまた! 難しいこと言って僕を煙に巻こうとする」
「難解なことは言っていないと思うのだがな」
見上げていた青の眼は、ついっと横に流れた。面倒くさそう。こちらは真剣に話をしているというのに。
不満を隠す気のないティアの表情に、サクラの瞳が戻った。
「——なら、訊くが、お前の睡眠は深いか?」
「……なんの話?」
「毎夜、深く眠れているか——と、訊いている」
「……まぁ、眠れてると思うけど……睡眠グラフも、平均的だったと思うよ……?」
「そうか。では、お前に頼もうか」
「……うん? 何を?」
にこりと表面的な笑顔を見せたサクラに、ティアは経験則ではなく、本能で——
(……あれ、なんか、いやな予感)
炎を反射する暗い眼から、逃げるように。
「——僕、予定を思い出した。戻るから、この話は忘れて」
くるっとターンして、振り向くことなく足早に中央棟を後にする。
(ごめん、アリスちゃん……)
戦う意志をあっさり捨て去って。
騎士ではなく、素直に見守る者であろうと思うティアだった。
水面下でサクラとの秘密を持つ彼女は、この表の攻防を知らない。
夕食を終えたサクラの背に声をかけたティアは、彼が中央棟への入り口となるステンドグラスに差し掛かった瞬間、本題に入った。
中央棟への開かれたドアを通りぬけるサクラは、素知らぬ顔で進んでいき——ティアもまた、その後ろ姿を追った。ミヅキや警告音に止められることはなかった。
「聞いてる? 僕の声、届いてるかな?」
「聞こえているよ」
「じゃ、返事くらい欲しいな」
「なんの話をしているのかと思ってね」
「うん? とぼけるつもりでいる?」
暖炉の火が燃えさかる部屋へとたどり着く。サクラはティアに構うことなく青い布地の長ソファへと腰を下ろした。見上げているというのに、その瞳は見下ろすような圧がある。
「惚けているつもりはないよ。なんの話をしているのだろうな——と考えている」
「それをとぼけるって言わないかな? あなたが、アリスちゃんを夜に呼び出してる話だよ。身に覚えあるでしょ?」
「そうだな、それは身に覚えがある」
「——何をしているの? 事と次第によっては、僕もいつまでも黙ってるわけにいかないよ」
「釈明するようなことは、何も」
「……バターやらチョコレートやら提供しておいて? チョコレートも追加されたってことは、また呼んだってことだよね?」
「お前が案じるようなことはない。ささやかな試験に付き合ってもらっている」
「……試験?」
「熟睡する者が、他者に与える影響——とでも言おうか」
「うん? ……あっ、ほらまた! 難しいこと言って僕を煙に巻こうとする」
「難解なことは言っていないと思うのだがな」
見上げていた青の眼は、ついっと横に流れた。面倒くさそう。こちらは真剣に話をしているというのに。
不満を隠す気のないティアの表情に、サクラの瞳が戻った。
「——なら、訊くが、お前の睡眠は深いか?」
「……なんの話?」
「毎夜、深く眠れているか——と、訊いている」
「……まぁ、眠れてると思うけど……睡眠グラフも、平均的だったと思うよ……?」
「そうか。では、お前に頼もうか」
「……うん? 何を?」
にこりと表面的な笑顔を見せたサクラに、ティアは経験則ではなく、本能で——
(……あれ、なんか、いやな予感)
炎を反射する暗い眼から、逃げるように。
「——僕、予定を思い出した。戻るから、この話は忘れて」
くるっとターンして、振り向くことなく足早に中央棟を後にする。
(ごめん、アリスちゃん……)
戦う意志をあっさり捨て去って。
騎士ではなく、素直に見守る者であろうと思うティアだった。
水面下でサクラとの秘密を持つ彼女は、この表の攻防を知らない。
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