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Stay with me
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大丈夫か。痛いとこねぇか。歩けねぇなら運んでやるから。すぐに言え。
「だいじょうぶ」と、100回は言った気がする。大げさでなく、ほんとうに。
スキーをしようとハオロンに誘われて、“なんでもやってみよう”というチャレンジ精神で挑んでみたけれど、失敗だった。たしょう整備されているとはいえ、山の斜面を素人が滑るものじゃない。足腰の力が弱い人間は、とくに。この身体は筋力があまりない。
「……めいわくをかけて、ごめんなさい。いつも、ありがとう」
滑り落ちた山の斜面に近い道のそばで、除雪可能な車が来るのを座って待ちながら、私のことを見張るみたいに見下ろしているセトへと謝った。彼は謝罪が好きではないので、感謝も一緒に。
セトの眉がぎゅっと寄り、「迷惑じゃねぇ。謝るな」前半だけ返答があった。……でも、ここで謝っておかないと、怒っているようなセトの苛立ちの矛先が、ハオロンに向く気がする。ときおり小さな声で「許可するんじゃなかった」ハオロンの名前と舌打ちが出ていた。とばっちりだ。
「……せと、」
「なんだ? いてぇのか?」
「それは、だいじょうぶ……」
立ったままの彼は、目つきのせいか迫力があって怖い。ただ、怒っているわけではないことが多いらしいので(今は怒っていると思うけれど)、平常心を心がけて話しかけた。
「すきー、たのしいと、おもう。……つぎは、きをつけるから……」
(またやろうね)は、だめだろうか。他人に迷惑を掛けてまでやるほどでも。
言葉の続きを考えていると、見下ろしていたセトが急に屈んだ。膝を折って、すぐそばまで。
「お前が楽しいなら、いくらでも付き合ってやるから——俺がいないところでするなよ。分かったな?」
「……はい」
……なぜだろう。セトといると、たまに自分が本当の仔ウサギか何かになったような気分になる。セトは動物をたくさん見ているらしいので、彼からすると私も似たようなものなのか……。
「……本格的に遭難しなくてよかったな」
「ソーナン……それは、おおごと」
セトから出た言葉に、ハオロンから持たされた非常グッズの意味を改める。携帯食や、位置を知らせるために特化した強力な発信機。どれも救助を想定したグッズだが、私が遭難しても、ちゃんと助けにきてもらえるのか……不安もあった。
でも、
「……ほんとに痛いとこねぇか?」
「だいじょうぶ」
心配してくれている彼には悪いかもしれないが、すこしだけ、ほっとしている。
「……また、すきー、しよう……ね?」
「その前に練習な」
「……はい」
たしかに。そもそも実力も分からないのに、いきなり山に挑戦した私が悪い。まずは雪山でも作ってそこから滑る練習を……
「……まぁ、一緒なら遭難しても……」
真剣に考えている彼女に、セトの呟きは届かなかった。
——悪くないか。
「だいじょうぶ」と、100回は言った気がする。大げさでなく、ほんとうに。
スキーをしようとハオロンに誘われて、“なんでもやってみよう”というチャレンジ精神で挑んでみたけれど、失敗だった。たしょう整備されているとはいえ、山の斜面を素人が滑るものじゃない。足腰の力が弱い人間は、とくに。この身体は筋力があまりない。
「……めいわくをかけて、ごめんなさい。いつも、ありがとう」
滑り落ちた山の斜面に近い道のそばで、除雪可能な車が来るのを座って待ちながら、私のことを見張るみたいに見下ろしているセトへと謝った。彼は謝罪が好きではないので、感謝も一緒に。
セトの眉がぎゅっと寄り、「迷惑じゃねぇ。謝るな」前半だけ返答があった。……でも、ここで謝っておかないと、怒っているようなセトの苛立ちの矛先が、ハオロンに向く気がする。ときおり小さな声で「許可するんじゃなかった」ハオロンの名前と舌打ちが出ていた。とばっちりだ。
「……せと、」
「なんだ? いてぇのか?」
「それは、だいじょうぶ……」
立ったままの彼は、目つきのせいか迫力があって怖い。ただ、怒っているわけではないことが多いらしいので(今は怒っていると思うけれど)、平常心を心がけて話しかけた。
「すきー、たのしいと、おもう。……つぎは、きをつけるから……」
(またやろうね)は、だめだろうか。他人に迷惑を掛けてまでやるほどでも。
言葉の続きを考えていると、見下ろしていたセトが急に屈んだ。膝を折って、すぐそばまで。
「お前が楽しいなら、いくらでも付き合ってやるから——俺がいないところでするなよ。分かったな?」
「……はい」
……なぜだろう。セトといると、たまに自分が本当の仔ウサギか何かになったような気分になる。セトは動物をたくさん見ているらしいので、彼からすると私も似たようなものなのか……。
「……本格的に遭難しなくてよかったな」
「ソーナン……それは、おおごと」
セトから出た言葉に、ハオロンから持たされた非常グッズの意味を改める。携帯食や、位置を知らせるために特化した強力な発信機。どれも救助を想定したグッズだが、私が遭難しても、ちゃんと助けにきてもらえるのか……不安もあった。
でも、
「……ほんとに痛いとこねぇか?」
「だいじょうぶ」
心配してくれている彼には悪いかもしれないが、すこしだけ、ほっとしている。
「……また、すきー、しよう……ね?」
「その前に練習な」
「……はい」
たしかに。そもそも実力も分からないのに、いきなり山に挑戦した私が悪い。まずは雪山でも作ってそこから滑る練習を……
「……まぁ、一緒なら遭難しても……」
真剣に考えている彼女に、セトの呟きは届かなかった。
——悪くないか。
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