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For Your Sake

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 仕事のあとにデート。
 これは不利ではないだろうか。
 
「や、そんなことないよね?」

 真剣な顔の私に、ティアは軽い雰囲気で答えた。
 今日はワインを飲んでいる。たびたび出ていたこのグラスはオールドバカラらしい。口当たりが繊細でワインの邪魔を一切しない。値段は知らない。持つ手が震えそうなので聞かないでおく。
 
「不利だよ。職場が同じな場合、どう合流するのか。服とメイクを日中と変えたら、気合い入れすぎではないのか、などなど、分からないことだらけです」
「う~ん? 合流の仕方は僕も分からないね? メイクは多少なら雰囲気を変えてもいいんじゃないかな? 気づかない可能性もあるけど、気づいたら普通は嬉しいものじゃない?」
「提案してみましたが、どう変えればいいのか分かりません」
「うん、とても真面目な顔で他人任せな発言」
 
 あきれの吐息を呑み込むように、ティアがワインをひとくち。
 
「一般的な答えは知らないよ? でも、カラーを足したりラメやパールを使えば……いいんじゃない?」
「ツヤメイクから更に足すの……?」
「や、濡れ感のツヤはあえて消そう。パウダー系で押さえて、目じりとチークだけ色みを乗せて……同色で。リップは色落ちしにくいものがいいね」
「私、リップモンスター、いつものとこで買いました」
「あぁ、落ちにくいらしいね? いいんじゃないかな? 日中と雰囲気を変えるなら……色っぽく?」
「難しいこと言うなぁ……」
「レイちゃんは本来そっちじゃない? 可愛いより得意だと思うよ?」
「……どうした? 褒めても何もあげないよ?」
「素直に喜んで」
 
 並んだチーズをクラッカーにのせて、ぱくり。
 デートが久しぶりすぎて、だんだんと緊張してきている。何を話そうか。
 
「……レイちゃん。そんな構えず、普段の感じでね?」
「……りょうかい」
「や、全然だめだよ。すでに緊張してるよね?」
「……だってさ、同期で、しかも同じグループってどうなのかと。やっぱ違うなってなったとき、やりづら……」
「失敗ばかり考えないで」
 
 深刻な空気をまといだした私に、ティアが立ち上がって洗面所から色々とアイテムを抱えてくる。
 
「携帯用のアイロンと、ゲランのハイライト貸してあげるから。ふんわりキラキラ仕上がるよ」
「いえ、ハイライトはお勧めしてくれたセザンヌがあります」
「それはコスパで勧めた物だから! こっち持っていって!」
「えー……」
「レイちゃん、失敗の言い訳を残そうとしてるでしょ?」
「………………」
 
 答えられず、繊細なグラスに口をつける。
 
「ハイライト入れるところ、教えるから。覚えてね?」

 メイク道具を用意し始めたティアに、言い訳の逃げ道を奪われていった。
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