【完結】美容講座は呑みながら

藤香いつき

文字の大きさ
上 下
26 / 31
旅は道連れ

25

しおりを挟む
「おはよぉう……」
 
 ゆるんっとした声で起きて来たティアは、首を回して明るい部屋を眺めた。
 先に起きていた私に向けて、
 
「あれ? レイちゃんひとり?」
「みのりちゃんならとっくに帰ったよ?」
「そうなんだ……」

 ティアはベッド横にあったペットボトルに手を伸ばし、常温のミネラルウォーターを口に含んだ。浴衣がすこし崩れていて、隙がある感じがめずらしい。
 コップに移すことなく、直接ボトルに口をつけて飲む姿を見ていると、飲み口から唇を離したティアは吐息をこぼした。
 
「僕、後半記憶ないんだけど……何もしてないよね?」
「ティアくんなら早い段階で寝てたよ」
「え? やっぱり?」
「前カノと現カノを残して眠れるあたり、すごい神経してるよね」

 あはは、っと軽く笑われる。

「酔ってたから話せたけど、シラフだったら修羅場だよ」
「そっかぁ……」
「安くておすすめのヘアサロン、教えてもらったけども」
「……そういうとこ、レイちゃん、したたかだよね?」

 帰る用意をしていた私の近くまでやってくると、ティアはそばのイスに腰掛けた。
 
「ほんと言うとね……元彼さんと一緒で、切り捨ててもよかったんだよ」
「(切り捨てるって表現えぐいな)」
「……でも、あのコはレイちゃんと職場も同じだし、ちょっと共感できるとこもあったし……なにより、僕の容姿について批判してこなかったから……」
「……批判っていうか、私やみのりちゃんからしたら、ティアくんめっちゃキレイだからね?」
「そう?」
「そう」
「…………じつはさ、」
「?」
「僕、美容系の情報をSNSで載せてるって言ったよね?」
「うん、知ってるよ? かたくなにアカウント教えてくれないやつでしょ?」
「…………あれね、僕が男性って言ってないんだよ」
「えっ、そうなの?」
 
 手が止まる。余っていたアメニティを、ちゃっかりポーチにしまっていたところ。
 ティアは困り顔の眉に、唇だけ笑っていた。
 
「昔から肌が弱くて、いろいろ試してきたから……その情報を少しでも誰かに届けようかなって、そう思ったのがきっかけでね? ……でも、男性からの情報だと……偏見もたれるかも……なんて、思っちゃって」
「………………」
「あのコも、あんまり気にしてなかったね。ふつうに美容のこといてきたから。……目的があるひとは、気にしないのかも。僕のSNSを見てくれてるフォロワーのひとたちも、僕の性別より、発信してきた情報が大事なのかな……って。肌が弱くて苦労した話とか、そっちに共感してくれてるのかもって……思ったよ」
「……うん、ティアくんは綺麗だよ。綺麗に性別は関係ないよ」
「そうだね」
 
 やわらかく微笑む彼の顔に、笑顔を返した。
 
「……というわけで、ティアくんも起きたし、最後の温泉に行きますか?」
「えっ、最後なの?」
「? ……朝食とったらチェックアウトだよ?」
「立ち寄り湯、もう一個くらい行こうよ。昨日パンフレット見てて、気になるとこ見つけたんだ」

 にこにことパンフレットを掲げてくるティアに、
 
「……今夜、私は徹夜で運転やねん」
「すごいね、イケメンだね」
ざついリアクション! 大変さ分かってないなっ!?」
「分かってる分かってる。お礼に、この貸切温泉は僕がおごろう」
「奢り……」
「湯あがりのカフェもおまけしてあげるよ」
「……帰りの道中、仮眠しますね」
「うん、どうぞ」
 
(遠慮がなくなってきたな……)
 
 そんなふうに思ったが、レイコもティアの家で遠慮なくやっているので……
 
(お互い様か)
 
 苦笑をこぼして、交渉を了承した。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

処理中です...