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旅は道連れ
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天候は、くもり。太陽はきれいに隠れていて、調べたところ紫外線量も少ない。
(もしかして、そんなに肌を覆わなくても大丈夫なんじゃ……?)
高速のサービスエリアで休憩を挟んだのもあって、目的の温泉地に着いたのは午前10時すぎだった。
サービスエリアで外に出るときから、ティアは軽く武装していて(髪をまとめて帽子の中に、顔は色付きの眼鏡とマスクで)、私がマスクをして合わせていれば周りの目を集めることはなかった。ノーメイクを隠したい女性が二人、くらいにしか見えないと思う。(ティアは男性だけれど、スタイルと服の雰囲気が女性的なので)
温泉街の細道で車を慎重に進ませ、目的の旅館の駐車場に無事到着した。
荷物を預けるために車から降りる。
ティアを見ると、装備は一段グレードアップしていた。マスクは首まで覆えるものに変わり、手袋も追加。
「やっぱり日光がつらい?」
「ううん、そんなに。これくらいなら観光も余裕だけど……」
歩いていたため旅館に足が入り、ティアは言葉を濁した。
旅館のスタッフに挨拶を掛けられる。明るく柔らかな声が、徹夜の身体にほっこりと沁みた。
「——お部屋、ご案内できますよ」
「じゃあ、お願いします」
予約したのは私なので受付をしていると、館内を見ていたティアが「え?」と声をもらした。
部屋まで案内の道すがら、
「え? レイちゃん、チェックインの時間がおかしくない? 普通こんなに早く入れないよね?」
「……あぁ、まあ、うん。そうだね、普通は無理だね」
「えっ? なんで案内されてるの?」
「………………」
レトロな雰囲気の館内から、案内されたのは洋室。ベッドがあるけれど、室内のインテリアは和風。
説明をした仲居は、にこやかに去っていき……
残されたのは、はてなマークいっぱいのティア。でも、ほぼ顔は見えていない。装備を解きながら、彼は困惑の声で、
「どうなってるの?」
「……大抵のことはさ、お金で解決できるんだよね」
「なにその悪役みたいな発言!?」
笑ってみせると、ティアは察したようで、困ったように眉を下げた。
「もしかして、スタッフの人たちが僕を見ても反応が普通なのって……」
「病気の関係で肌をさらせないんです——って、連絡してある。可能なかぎり配慮してくれるって言ってたよ。……心付けのチップも渡したし、何か困ることあったらスタッフの人に頼もう?」
「……根回しがすごい……レイちゃんって、しごでき?」
「仕事は普通。でも昔から対応がイケメンって言われてはいるよね」
フッと格好つけて口角を上げる。ティアの困惑を軽くしてあげたかったのだけど、表情はまだ困ったまま。
「僕のことで余計に掛かった金額は、ちゃんと個別で請求してね?」
「え、しないよ? 割り勘って約束でしょ?」
「……それはダメだよ」
「だめじゃないよ。旅館のサービスは私も受けるんだから」
「………………」
「……ティアくんはさ、私に誤解があるんだよ」
「誤解……?」
「私は、ケチじゃないの。無駄遣いをしたくないだけ」
私が顎を上げて、
「必要なお金は、惜しまないんだよ」
偉そうに微笑むと、やっとティアはため息をつくように笑った。
「……ほんと、イケメンだ」
「でしょ? 惚れるでしょ?」
「うん、惚れる。あとは日焼け止め塗ってくれたら完璧」
「今から塗ろうと思ってたのに……やる気なくした……」
「がんばって。塗ったら美味しいもの食べに行けるから」
「……はーい」
宿題をこなす子供のような気分で、しぶしぶと日焼け止めを取り出す覚悟をした。
(もしかして、そんなに肌を覆わなくても大丈夫なんじゃ……?)
高速のサービスエリアで休憩を挟んだのもあって、目的の温泉地に着いたのは午前10時すぎだった。
サービスエリアで外に出るときから、ティアは軽く武装していて(髪をまとめて帽子の中に、顔は色付きの眼鏡とマスクで)、私がマスクをして合わせていれば周りの目を集めることはなかった。ノーメイクを隠したい女性が二人、くらいにしか見えないと思う。(ティアは男性だけれど、スタイルと服の雰囲気が女性的なので)
温泉街の細道で車を慎重に進ませ、目的の旅館の駐車場に無事到着した。
荷物を預けるために車から降りる。
ティアを見ると、装備は一段グレードアップしていた。マスクは首まで覆えるものに変わり、手袋も追加。
「やっぱり日光がつらい?」
「ううん、そんなに。これくらいなら観光も余裕だけど……」
歩いていたため旅館に足が入り、ティアは言葉を濁した。
旅館のスタッフに挨拶を掛けられる。明るく柔らかな声が、徹夜の身体にほっこりと沁みた。
「——お部屋、ご案内できますよ」
「じゃあ、お願いします」
予約したのは私なので受付をしていると、館内を見ていたティアが「え?」と声をもらした。
部屋まで案内の道すがら、
「え? レイちゃん、チェックインの時間がおかしくない? 普通こんなに早く入れないよね?」
「……あぁ、まあ、うん。そうだね、普通は無理だね」
「えっ? なんで案内されてるの?」
「………………」
レトロな雰囲気の館内から、案内されたのは洋室。ベッドがあるけれど、室内のインテリアは和風。
説明をした仲居は、にこやかに去っていき……
残されたのは、はてなマークいっぱいのティア。でも、ほぼ顔は見えていない。装備を解きながら、彼は困惑の声で、
「どうなってるの?」
「……大抵のことはさ、お金で解決できるんだよね」
「なにその悪役みたいな発言!?」
笑ってみせると、ティアは察したようで、困ったように眉を下げた。
「もしかして、スタッフの人たちが僕を見ても反応が普通なのって……」
「病気の関係で肌をさらせないんです——って、連絡してある。可能なかぎり配慮してくれるって言ってたよ。……心付けのチップも渡したし、何か困ることあったらスタッフの人に頼もう?」
「……根回しがすごい……レイちゃんって、しごでき?」
「仕事は普通。でも昔から対応がイケメンって言われてはいるよね」
フッと格好つけて口角を上げる。ティアの困惑を軽くしてあげたかったのだけど、表情はまだ困ったまま。
「僕のことで余計に掛かった金額は、ちゃんと個別で請求してね?」
「え、しないよ? 割り勘って約束でしょ?」
「……それはダメだよ」
「だめじゃないよ。旅館のサービスは私も受けるんだから」
「………………」
「……ティアくんはさ、私に誤解があるんだよ」
「誤解……?」
「私は、ケチじゃないの。無駄遣いをしたくないだけ」
私が顎を上げて、
「必要なお金は、惜しまないんだよ」
偉そうに微笑むと、やっとティアはため息をつくように笑った。
「……ほんと、イケメンだ」
「でしょ? 惚れるでしょ?」
「うん、惚れる。あとは日焼け止め塗ってくれたら完璧」
「今から塗ろうと思ってたのに……やる気なくした……」
「がんばって。塗ったら美味しいもの食べに行けるから」
「……はーい」
宿題をこなす子供のような気分で、しぶしぶと日焼け止めを取り出す覚悟をした。
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